小5社会「勝手に観光大使」【ぬまっち流】
高学年になったら、自ら学ぶ子どもになってほしいと期待しますが、子どもは興味がないことはやりたがりません。子どもたちが学ぶようになる仕掛け「アナザーゴール」を編み出した沼田晶弘先生(ぬまっち先生)に、社会科の地理の授業で実践している「勝手に観光大使」プロジェクトを教えてもらいました。
目次
子どもが意欲的になるゴール設定にすり替える
「勉強しよう」「調べよう」と言われると、子どもはその言葉の意味から「めんどくさい」と感じ、やる気をなくしてしまいます。だから、本来のゴールをそのまま伝えず、子どもが興味を持つような別のゴール設定にすり替えるのがアナザーゴールです。
例えば、5年生の社会科(地理)の「日本について学ぼう」という単元。「各都道府県について調べ発表しよう」とそのまま伝えるだけでは、最初のうちはなんとか調べても、次第に意欲が下がってしまいます。そこで僕が提案したのは、「勝手に観光大使」というプロジェクト。自分で好きな都道府県を選び、「勝手」にそこの「観光大使」に就任し、その土地の良さをPRするというものです。
勝手に観光大使に任命!
「今日から、君たちを各都道府県の観光大使に、勝手に任命します」いきなりそう伝えます。子どもたちはポカンとしますが、すかさず、「今度、学習発表会があるから、その時にそれぞれ観光大使として自分の選んだ都道府県をプレゼンしよう。それを見たお母さんやお父さんを“行ってみたい”と思わせたら君たちの勝ちだ」と伝えます。
さらに、まだちょっと戸惑っている子どもたちに「今からコンピュータールームへ行こう。プレゼン資料は、ネットを使ってパワポで作るぞ!」と畳みかけます。提案からここまで5分くらい。子どもたちに深く考えさせず、気持ちを乗せてしまうのがコツ。子どもたちは「コンピュータールーム」「ネット」「パワポ」というワードに反応し、大盛り上がりとなります。
教師は子どものやる気を引き出すサポートをするだけ
コンピュータールームでは、インターネットのリテラシーについてしっかりと伝えた後、ネット検索も使わせます。地域を調べるのにネット検索は欠かせないですし、危ないからと禁止するのではなく、なぜ危ないのか理由を理解させた上でやらせることが大事だと思うからです。
パワポに慣れていない子どもも多いのですが、クラスの中にはセンスのある子がいるものです。上手な子のプレゼン資料をプロジェクタで写すと、「それどうやるの?」とお互い聞き合い、教え合うようになります。
結果、子どもたちは各地の観光地や特産物から方言に至るまで掘り下げた、渾身の資料を見事に作り上げ、保護者へのプレゼンも大成功でした。
本来の「日本を学ぼう」というゴールに対し、「勝手に観光大使になる」「パワポでプレゼン資料を作る」「保護者にPRする」という別のゴールを提示したことで、やる気も学びの効果も何倍にも上がったのです。
「結果を優先するなら、教科書的ゴールを、子供が意欲的になるゴール設定にすり替えてみよう」
取材・文/出浦文絵
沼田晶弘:1975年東京都生まれ。国立大学法人東京学芸大学付属世田谷小学校教諭。東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院にて修士課程を修了。2006年から現職。著書に『「変」なクラスが世界を変える』(中央公論新社)他。
『小五教育技術』2018年7/8月号より