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インタビュー/千葉県公立小学校教諭 松尾英明さん:「深い学び」を実現するために必要なのは余白。高学年を週25コマに【授業時数問題 解決へのヒント⑥】

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インタビュー連載:授業時数問題 解決へのヒント
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「授業時数が多すぎる」、そう感じている小学校の先生は、全国にたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。今までは学校や先生方の工夫で何とかこなしてきましたが、これから先もこのままでいいのでしょうか? 中教審で次期学習指導要領の議論が行われている今だからこそ、現場の声を上げ、具体的に何をどう変える必要があるのかについて考えてみませんか。連載の第6回は、現役の先生から学校の現状や理想とする授業時数、持ちコマ数について聞いてみたいと思い、3期の標準時数を経験してきた、千葉県公立小学校教諭の松尾英明先生に聞きました。

<プロフィール>
松尾英明(まつお・ひであき)千葉県公立小学校教諭

1979年宮崎県生まれ、神奈川県育ち。千葉大学教育学部附属小学校等を経て、現職。教職24年目。これまでに「クラス会議」を手法の中心とした「自治的学級づくり」について、千葉大附属小特活部で研究。またチーム担任制や教科担任制について千葉大学大学院教育学研究科でも研究。現場の経験や様々な場で学んだことを生かして、単行本や雑誌の執筆の他、全国で教員や保護者に向けたセミナーや研修会講師、講話等を行っている。著書『不親切教師のススメ』(さくら社 2022)では学校教育の当たり前を問い直し、大きな反響を呼んだ。近著に『不親切教師はかく語りき:主体性を伸ばすための47の対話』(さくら社 2025)、『学級経営がラクになる! 聞き上手なクラスのつくり方』(学陽書房 2023)がある。学級づくり修養会「HOPE」主宰。

3期の標準時数を振り返り、一番ハードなのは?

私がこれまでに経験してきた標準時数は、3期(1998、2008、2017)です。

初任のときは1998標準時数であり、すでに土曜日に授業はありませんでした。小規模校の単学級、5年生の担任として教員人生がスタートしたのですが、体育主任、情報主任、理科主任、算数主任などを掛け持ちしつつ、全教科の教材研究もしないといけないので、ほとんど毎日21時、22時まで残って働いていました。当時は「ゆとり」の時期と言われていましたが、1年目の頃は自分にゆとりなどありませんでした。

それでも、3期の標準時数を俯瞰して見てみると、1998標準時数が一番ゆとりがあったと思います。教員が放課後にみんなで飲みに行くゆとりがありましたし、地域と学校の関係性がよく、一緒にやっていこうというムードがありました。

ゆとり教育の1998標準時数の後、2008標準時数はその反動で学習内容も授業時数も増えました。しかし、それよりもハードなのは、現在の2017標準時数です。多くの学校では低学年でも毎日5時間目まで、高学年は6時間目まで授業があります。授業がぎっしり詰め込まれた状態になっています。

2017標準時数で疲弊しているのは若い教員たち

ベテラン教員たちにはこれまでの経験がありますから、毎日6時間の授業があったとしても全教科の教材研究をする必要はないですし、「ここが大事、ここは流してもよい」などと判断できます。

例えば、dL(デシリットル)という単位があります。これは2年生で出てきますが、その後は二度と出てきません。そういうものは授業の中で、それほどこだわらなくてもいいわけです。一方、5+7=12など、繰り上がりの足し算は、これができないと子供はその先もずっと苦しむことになりますので、こだわらなくてはいけない部分です。このようにどの教科にも押さえるべきポイントがあり、それは経験を通して見えてきます。

それに対し、若手教員は、毎日教材研究をしないと授業ができません。授業が毎日6時間目まで入っていると、教材研究が間に合わないのです。しかも、若い頃は「どこが流していい部分で、どこがこだわらなくてはいけない部分なのか」が分かりません。そこで、指導書に書いてあることをその通りに、全部教えようとします。若手教員を見ていると、「どんどん授業をこなさなきゃいけない」ということが目的になっていると感じます。若手教員は過去のどの標準時数でも残業不可避な状況ではありましたが、以前よりも学習内容が増え、授業時数も増え、一層きつくなっているように見えます。

また、若手教員の教室ほど問題が起きやすく、保護者からクレームが入れば、その対応に追われます。放課後の時間がそのために費やされることもしょっちゅうあります。毎日がギリギリで自転車操業のようになっていますから、授業をもっと工夫しようなどと考える暇はないでしょう。

だからこそ、若手教員には余白の時間が必要です。余白とは、物理的にも概念的にも「遊び」のことです。自動車のアクセルやブレーキに「遊び」がなかったら、あっという間に事故が頻発します。余白があれば授業の精選や重点化について考える時間ができます。もっと授業を工夫しようという気にもなります。先輩から話を聞いたり、本を読んで学んだりすることもできるからです。

ハードな生活の中で、考える時間がない子供たち

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