英語<ここからはじめる 学びの環境・クラスの雰囲気づくり> 〜4月の教室におススメ! 回転英単語カードで読み書きの基礎力アップ
いよいよ新学期。学級経営も授業も、新しいスタートを切る時期ですね。英語の指導をしているみなさんは、目の前の児童生徒たちの学習状況を把握しながら、みんなで楽しく英語の力を伸ばしていきたいと思われているのではないでしょうか。そんなときに最適な実践を一つご紹介したいと思います。
本記事では、公立中学校、フリースクールなどで小学生から高校生までの「苦手!」に寄り添い続けてきたオノム(小野村哲先生)が、耳にした声や目にしたケース、それぞれの場面での支援のアイディアを紹介していきます。

執筆/リヴォルヴ学校教育研究所・小野村 哲
目次
1.はじめに
「英語が苦手!」という子が増えていませんか? 苦手なことは楽しくないもの。楽しくないのに無理してがんばっても、なかなか頭には入らない。そんなときに試してほしいのが、この『回転英単語カード』です。
4月からの教室の、掲示物としてもおススメ。苦手をふせいで、単語を学び取る力、語彙獲得ストラテジーそのものを伸長します。
2.何? なぜ? 回転英単語カード
多くの英単語は「音の足し算」で成り立っています。音をたしたり、引いたり、入れかえたりになれれば、それだけでたくさんの英単語をかんたんに読み書きできるようになります。
「フォニックス」として知られるこの方法、とても有効であることは確かなのですが、「練習時間が取れなくて」という声も耳にします。「英語で u は『ア』が基本」と繰り返しても、but などは「ブット」と読み間違える子はとても多いと思います。
b +ut = but:しかし
c + ut = cut:切る
sh + ut = shut:閉じる
そんなときに生かしてほしいのが、くるくる回しながら「音の足し算」になれる「回転英単語カード」です。教室や廊下に掲示して常に子どもたちの目にふれるようにするもよし。授業中、課題を早めに終えた生徒には動画を視聴させたりするもよし。
LDやその傾向にある子には「何度も書いて覚えましょう!」と言う代わりに、まずはこのカードで「読みの基礎」を固めることを目標としてはどうでしょう? 抵抗感が少ないこのカードは、校内フリースクールなどで、「やり残したことはたくさんあるけど、どこから手をつけたらよいかわからない」という子にもおススメです。
3.英単語の読み書き:なぜ、苦手としがちなのか?
そもそも私たちはなぜ、英語を苦手としがちなのでしょう? 漢字の「林」は一文字で「はやし」、ひらがなの「は」も一文字で「ハ」ですから、これを読むときには母音 a に子音 h をプラスする「 h + a =ハ」のような「音の足し算」は必要とされません。
ここから推測されるのは、日本語を母語とする子どもたちはここで上げたような「音の操作」に不慣れであるということです。「音韻認識:phonological awareness)」に乏しい私たちは
th + at = that:あれ
wh + at = what:何
ch + at = chat:おしゃべりする
などの語がよく似ていることに気がつかないまま、英単語の練習に必要以上の時間を費やしています。
4.アクティブに学び取る力を高める指導のポイント
「敵を知り、己を知れば…」と言いますが、苦手の原因がわかれば対処はずっと簡単になります。あとは単調になりがちな練習をいかに楽しく、繰り返し練習できるようにするかです。
そこでのおススメは、練習をよりアクティブなものとすることです。子どもたち自身にカードを回してもらうのはもちろんですが、そこで発音を教えてしまうのでは、発音も子どもたち自身に考えてもらうようにします。以下に、具体的なシーンを再現してみます。
◆ ◆ ◆
これ、どんなふうに使うの?
とりあえずはクルクル回してみて! 読めそうな単語はあるかな?

読めないよ。全部、習った?
習っていない単語の方が多いかもしれないけど、たとえばこれ( rice )はどうかな? お米、ご飯のことだよ。
そうか、ライスだ。
よくわかったね! そしたら、ここから r を取ったら何て読む?
?
rice、ゥル_アイス から r を取ると…氷になるよ。
わかった! アイス!
そうだね。それじゃ ice に pr を加えたらどうだろう? プゥル_アイス! どこかで聞いたことないかな? スーパーとかで、「値下げしました! 何とかダウン」って書いてあるのを見たことない?
?
それじゃ、これは後回しにしてわかりそうなやつから考えてみよう。次はどうかな?
スパイス?
そのとおり! 習っていないはずだけど、よくわかったね!?
コショーとかのことでしょ。知ってるよ。
ここにある単語は、難しそうに見えても、読めさえすれば、どこかで聞いたことがあるような単語ばかりだよね。最初は読めなくたって、まちがえたっていいんだ。できるだけ自分で考えて読んでみてね。
なんか、クイズみたい。
そう、クイズは間違うこともあるから楽しいんだよね。
◆ ◆ ◆
ここでは、「ライス」というカタカナ語としてはなじみ深い語を最初に持ってきて、英単語としても多くの子が見知っているであろうiceにつなげて気づきを促しています。自分で考えて読めるように、ヒントは出しても教えてしまうことは避けています。もちろん、最初からriceを読めるようであればヒントは不要ですし、
「どこかで見たことがある」という子がいれば、しばらく待って
「レストランとかかな?」とするのも良いと思います。
わからない単語は飛ばしていることにも注目してください。priceは「どこかで見かけたら教えてね」とすれば、暮らしの中で学ぶ姿勢も養えます。
「後回しにしたくない」という子にはpを隠して「こうしたら、お米とおなじだよ」とするのも方法ですが、長文読解などの際には
「わからない単語はひとまずおいて、先に読み進めたらわかるっていうこともあるよ」と話したうえで、わかること、既知の事がらを整理統合して答えを導き出せるようにすることの大切さを伝えたいものです。
5.おわりに
『回転英単語カード』は5枚1セットで計12セット、一年分を想定していますが、学校では夏休みなどもあります。掲示する場合、中学校なら1年生はグループ1から11まで、2年生はグループ2から12、3年生はグループ3からスタートすると2月にグループ12までたどり着けると思います。
掲示しておいても、子どもたちはあまり手をふれないかもしれません。先生や友だちが見ている前では…ということもあるかと思いますが、毎日ちらっとでも目に入ればそれなりの効果は期待できます。教室に貼り出した際には「今月はこれ! なんて読むでしょう?」などと軽くふれておけば一層効果的ですし、授業の中に該当の単語が出てくれば
「今月の回転英単語カードにも載っているよ」と伝えてみてください。
外国語として英語を学ぶ子どもたちは、当然のことながら英語にふれる機会が限られます。英語圏で効果を上げているフォニックスが、日本ではそこまで効果を上げられずにいる理由がそこにあります。いずれにしても、何年か繰り返し掲示しておくなどするうちに、少しずつ確実に基礎がためをしたいものです。


<プロフィール>
小野村 哲(おのむら・さとし)1960年生まれ。NPO法人リヴォルヴ学校教育研究所理事長・元つくば市教育委員。公立中学校に英語教諭として勤務、茨城県教育研修センターで講師を務めるなどしたのち39歳で退職。ライズ学園を立ち上げ、不登校やLD(Learning Disabilities/Differences)などとされる子どもたちの支援にあたる他、講演活動など行っています。著書に『イラストと音で覚える読み書きが苦手な子のためのアルファベットワーク』(明治図書)2020他。
「もじのかたちをとらえるためのひらがなれんしゅうちょう」「よめるかけるABC英語れんしゅうちょう」などのオリジナル教材は、NHKや専門誌、独立行政法人 国立特別支援教育総合研究所のWebサイト等でも紹介されています。