プログラミング:低学年でも取り組める「ロボットなりきりゲーム」
2020年度から全面実施の小学校プログラミング教育について、低学年向け授業状況を紹介します。今回は、「ロボットなりきりゲーム」でアルゴリズムを学ぶ授業について、日本女子大学附属豊明小学校教諭&日本私立小学校連合会メディア教育部会全国運営委員長・田中栄太郎先生に教えていただきます。
田中栄太郎●同校の情報研究部で情報科のカリキュラムの作成に携わり、プログラミング教育やICT教育などを担当。学校や教科の垣根を超えて「未来の学び」を考える私立小学校のコミュニティー「192Cafe」にて、ICTを活用した授業事例などを発信している。
目次
「情報科」を設けて一年生からプログラミング
今回は、日本女子大学附属豊明小学校による、私立小学校ならではの工夫をこらしたプログラミング教育を紹介します。
豊明小学校の取組は私立小学校の中でも早く、20年ほど前からパソコンルームのほかに、子どもが自由に使えるパソコンを教室の前に設置するなどしてICT環境を整えていました。
同校でICT教育のカリキュラムを作成している田中栄太郎教諭は、「現在140台の児童共用iPadのほか、教員に一人一台のiPadがあります。最大の特徴は『情報科』という教科を全学年に設けていることです。年間で一年生は10時間、二・三年生は15時間、四~六年生は12時間、iPadの操作方法からタイピング、プログラミング、プレゼンテーション、ネットリテラシーまでを6年間で段階的に学んでいきます」と、その取組を紹介します。
情報科を設けたことにより、以下のようなメリットがあったといいます。
- 専用の教科を作ったことで、時代に合わせた授業設計をフレキシブルに組むことができる。
- 習得した操作を他教科学習の中で活用できる。
- ほかの教科を調整することなく、プログラミング授業を展開しやすい。
- 一年生から、無理なく段階を追って、プログラミング的思考を学んでいくことができる。
さらに、田中教諭はプログラミング教育においての注意点を次のように指摘します。「もっとも大切なことは、アンプラグドといったジャンルに関わらず、指導する先生がまず一通りやって理解することです。自分が実際に体験することで、プログラミング的な考え方が身に付き、『子どもたちにこんなスキルを身に付けさせたい』というめあてが改めてわかります」
そのため、同校では数人の教員による「情報研究部」を設置し、校内研修会として授業を研究したり、アイディアを揉んだりしたうえで、学校のカリキュラムを組んでいるそうです。
ここで紹介する授業事例についても、まずは模擬授業を行って吟味したうえで、実践を行うことをおすすめします。
アンプラグド・プログラミング授業事例
第二学年 情報科 「ロボットになろう」
教科の目標
自分がロボットになり、ゲームを通してプログラムというものを知る。プログラミング用語を学ぶ。
プログラミング的思考の目標
いろいろなプログラムが考えられることを知る。トライ&エラーを繰り返すことで、論理的に考える力を養う。
楽しいゲームでアルゴリズムを実感する
第二学年の情報科(生活科等でも可)で行う、ロボットゲーム。数人でグループになり、一人がロボットになり、「前に○マスすすむ」「右をむく」といった6種類のカードを並べて、全員でロボットへの命令を考えます。マップの途中にある宝箱を拾い、ゴールまで持っていき、そこでガッツポーズをとるという要素があるため、子どもはとても楽しんで取り組んでいました。
実際に行ってみると、慣れないうちは簡単なマップでもなかなか正解にたどりつきません。失敗したらやり直す“トライ&エラー”の時間を設けるため、2時間連続での授業が望ましいでしょう。進み方は1種類ではないため、わざとまわり道をしたり、一歩進むごとにガッツポーズをするグループもありました。正解は一つではないということを知る機会にもなります。
情報科の授業ではiPadのアプリ『ロイロノート・スクール』を使って、画面上の命令カードを並べる方法をとりました。タブレットを使わなくても、紙の付箋やカードで命令カードを作って行うこともできます。
授業のまとめは、最後にアルゴリズムについてわかりやすく解説している絵本を読むことで、子どもは自分たちが考えたことが「アルゴリズム」であり、それをロボットに命令するための方法が「プログラミング」であることを改めて理解します。
授業の流れ
1.ゲームのルールを説明する
最初に数人のグループを作り、簡単なマップを例に、ロボットゲームのルールを解説する。
2.グループでプログラミングを考える
グループでロボットに出す命令を考え、命令カードを組み合わせてプログラミングを行う。考える時間は約5分、できたグループから提出する。マップは紙でも配付し、道筋を書きながら考えさせるのもよい。
3.プログラミングをデバッグする
できあがったプログラミングどおりに、マップを歩いてみる。失敗した場合は「バグ」として、「デバッグ」(やり直し)する。
4.絵本の読み聞かせで振り返りをする
『アルゴリズムえほん』の読み聞かせを行う。実際に体験したあとにやることが大切。
この経験がきっかけで、プログラミングを自主的に学び始めた子どももいたといいます。
用意するもの
『アルゴリズムえほん1』松田孝監修/フレーベル館
プログラミングやアルゴリズムについて、わかりやすく書かれた絵本。読み聞かせに最適。
命令カード
6種類のカードを、グループごとにそれぞれ複数枚用意する。付箋などを使ってもよい。
マップシート
最大3×3マスのマップを作成する。サンプル(●=ゴール、◆=宝箱)として、簡単なマップも用意しておくとよい。宝箱として空き箱も用意する。
【関連記事】低学年向けのプログラミング学習シリーズ
・低学年でも取り組める「アンプラグド・プログラミング」授業とは
・低学年でも取り組める国語「お話づくり」のプログラミング学習
取材・文/教育ライター&編集者・相川いずみ
相川いずみ●ICT教育、プログラミング教育をテーマに、全国の幼稚園から大学まで、教育現場の取材・執筆を行う。民間のプログラミング教室のマニュアルなども作成するほか、東京都内の学校でプログラミング教室の開催なども行っている。
『教育技術小一小二』2019年7/8月号より