小5理科「電磁石の性質」指導アイデア
執筆/福岡県那珂川市立岩戸小学校指導教諭・濵本めぐみ
監修/文部科学省教科調査官・有本淳
福岡県那珂川市立安徳北小学校校長・白水隆暢
福岡県那珂川市立南畑小学校教頭・大園亨
目次
単元目標
電流の大きさや向き、コイルの巻き数などに着目して、これらの条件を制御しながら、電流がつくる磁力を調べる活動を通して、それらについての理解を図り、観察、実験などに関する技能を身に付けるとともに、主に予想や仮説を基に、解決の方法を発想する力や主体的に問題解決しようとする態度を育成することがねらいである。
「エネルギー」を柱とする領域である本単元は、主として「量的・関係的」な見方で捉えることが特徴的な学習です。電流の大きさやコイルの巻き数を変えることで、電磁石の鉄を引き付ける強さが変化することを比較しながら調べていきます。調べる際には、条件を制御して、予想や仮説を基に、解決の方法を発想する力がとても重要になります。本単元では、実験に用いる道具や材(導線の長さや電池の種類など)など、さまざまな条件のうち、変えたい条件以外の条件が同じになるよう解決の方法を発想する必要があります。解決の方法を発想するために大切なこととして、条件を制御することの意義をしっかりと確認しましょう。
評価規準
知識・技能
①電流の流れているコイルは、鉄心を磁化する働きがあり、電流の向きが変わると、電磁石の極も変わることを理解している。
②電磁石の強さは、電流の大きさや導線の巻き数によって変わることを理解している。
③電流がつくる磁力について、観察、実験などの目的に応じて、器具や機器などを選択して、正しく扱いながら調べ、それらの過程や得られた結果を適切に記録している。
思考・判断・表現
①電流がつくる磁力について、予想や仮説を基に、解決の方法を発想し、表現するなどして問題解決している。
②電流がつくる磁力について、実験などを行い、得られた結果を基に考察し、表現するなどして問題解決している。
主体的に学習に取り組む態度
①電流がつくる磁力についての事物・現象に進んで関わり、粘り強く、他者と関わりながら問題解決しようとしている。
②電流がつくる磁力について学んだことを学習や生活に生かそうとしている。
評価計画
総時数 11時間
第1次 電磁石の極
1~2 電磁石を作って気付いたことを話し合い、問題を見いだす。(安全指導)
思考・判断・表現①
電流がつくる磁力について、予想や仮説を基に、解決の方法を発想し、表現するなどして問題解決している。〈発言分析・記述分析〉
電磁石は生活のさまざまな場面で活躍しています。しかし、そのことを生活のなかで意識することはほとんどなく、初めての出合いになる子どもが多いでしょう。そこで、単元導入時に教師が自作した電磁石を用いて、電気が磁力をつくる様子(クリップなどを引き付ける様子など)を提示すると、電磁石への興味・関心が高まります。第5学年までの学習では、磁力をもつ物として「磁石」について学習してきました。これまで学習してきた「磁石」を想起できるようにすることで、電流がつくる磁力の追究に見通しをもつことができるようになります。
単元導入時に教師が提示する電磁石は、乾電池1個・200回巻(何回巻きかは子どもに伝えない)程度にしておくと、子どもが自作したもの(50回巻き)と比べ、引き付けるクリップの数が明らかに変わるため、「自分たちの作った電磁石をもっと強くするにはどうしたらよいだろうか」という問いをもつことにつながります。また、キットなど既に巻いてあるものではなく、コイルを巻く活動をしておくと、巻き数にも目が向きやすくなります。
3 電磁石と磁石を比べながら電磁石の性質を調べる。
知識・技能①
電流の流れているコイルは、鉄心を磁化する働きがあり、電流の向きが変わると、電磁石の極も変わることを理解している。〈発言分析・記述分析〉
4~5 電流の向きと電磁石の極のでき方の関係を調べる。
知識・技能②
電磁石の強さは、電流の大きさや導線の巻き数によって変わることを理解している。〈発言分析・記述分析〉
知識・技能③
電流がつくる磁力について、実験などの目的に応じて、器具や機器などを選択して、正しく扱いながら調べ、それらの過程や得られた結果を適切に記録している。〈行動観察・記録分析〉
思考・判断・表現①
電流がつくる磁力について、予想や仮説を基に、解決の方法を発想し、表現するなどして問題解決している。〈発言分析・記述分析〉
第2次 電磁石の強さ
6~7 電流の大きさと電磁石の強さの関係を、条件を整えて調べる。(安全指導)
知識・技能②
電磁石の強さは、電流の大きさによって変わることを理解している。〈発言分析・記述分析〉
知識・技能③
電流がつくる磁力について、実験などの目的に応じて、器具や機器などを選択して、正しく扱いながら調べ、それらの過程や得られた結果を適切に記録している。〈行動観察・記録分析〉
思考・判断・表現②
電流がつくる磁力について、実験などを行い、得られた結果を基に考察し、表現するなどして問題解決している。〈発言分析・記述分析〉
8~9 コイルの巻き数と電磁石の強さの関係を、条件を整えて調べる。(授業の詳細①)(授業の詳細②)
知識・技能②
電磁石の強さは、電流の大きさによって変わることを理解している。〈発言分析・記述分析〉
思考・判断・表現①
電流がつくる磁力について、予想や仮説を基に、解決の方法を発想し、表現するなどして問題解決している。〈発言分析・記述分析〉
10~11 学習をふり返り、電磁石を利用したおもちゃ作りに取り組む。
主体的に学習に取り組む態度②
電流がつくる磁力について学んだことを学習や生活に生かそうとしている。〈行動観察・発言分析・記述分析〉
授業の詳細①
第2次 電磁石の強さ
8 コイルの巻き数と電磁石の強さの関係を、条件を整えて調べる。
電流がつくる磁力について、予想や仮説を基に、解決の方法を発想し、表現できる。
①問題を見いだす【自然事象との出合い】
前回の学習では、電磁石の力を強くするためには、乾電池の数を増やす、つまり電流の強さを強くするとよい、ということがわかりましたね。
今回の評価計画では、「電流の強さ」→「コイルの巻き数」の順序で学習を進めていますが、問題を「電磁石の鉄を引きつける力をもっと強くするには、どのようにすればよいだろうか」と設定し、電流の大きさとコイルの巻き数について同時に調べたり、子どもが選択できるようにしたりする展開も考えられます。しかし、複数の実験を同時に行うことで結果の整理や考察も複雑になるため、学級の実態に応じて、一つ一つ順に行うなど、展開の仕方を工夫しましょう。
コイルの巻き数を変えると、電磁石が強くなるのか調べたいな。
それでは、どのような問題が見いだせますか。
コイルの巻き数を増やすと、電磁石の鉄を引き付ける力はどのように変わるのだろうか。
②予想する
導線を巻く回数を増やすと、電磁石の力は強くなると思う。乾電池の数を増やして電流を大きくしたら電磁石の強さが強くなったから、巻く回数を増やしても同じようになるんじゃないかな。
なるほど。では、実験するときの条件から解決の方法を考えてみましょう。
③解決方法を考える
変える条件はコイルの巻き数だから、電池の数は1個にするといいね。
電流の大きさが電池1個分となっているか確認できるように、検流計を回路に入れよう。
コイルに50回巻いた物を使ったから、100回巻いたコイルを用意して実験したいな。だから、導線を余らせていたんだね。
では、50回巻きのコイルを作ったときに、余った導線を画用紙に巻き付けていましたね。それを使って、100回巻きコイルに変身させましょう。導線を巻きつける向きをそろえて、導線が絡まないように丁寧に巻いていきましょうね。
余らせておいた導線を50回巻いたときと同じ向きに巻いて巻き数を増やします。すき間ができないように、上から重ねて巻くことを指導しましょう。また、導線を切ってしまうなどして導線の長さが変わると条件がかわってしまうことも押さえておくことで、変える条件と変えない条件について、子どもが意識できるようにしましょう。
授業の詳細②
9 コイルの巻き数と電磁石の強さの関係について条件を整えて実験し、きまりを捉える。
電磁石の強さは、導線の巻き数によって変わることを理解することができる。
④観察・実験をする
今回の変える条件は、コイルの巻き数だね。クリップの引き付け方についてはどうですか。
乾電池の数を変えて実験したときのように、クリップの引き付け方もそろえて実験します。
そうですね。釘のとがっていない方を使って、クリップをかき混ぜたりせず、そっと3秒間つけるだけにしましょうね。
鉄心は、鉄くぎのほかにもボルトを使うこともできます。
クリップの引き付け方についても共通の方法を確認しておきましょう。子どもによっては、電流を流しているときにクリップを上からかけたり、電磁石でクリップを混ぜるようにして付けたりすることがあります。この実験は、単に「多くのクリップが付けばよい」ではなく、「コイルの巻き数と電磁石の強さの関係を調べる」という目的意識をしっかりともつことができるようにしましょう。
①回路に簡易検流計をつなぎ、回路に流れる電流の大きさをはかる。
②50回巻きの電磁石をクリップに近付け、引き付けたクリップの数を調べる。
③100回巻きの電磁石をクリップに近づけ、引き付けたクリップの数を調べる。
〈事実を捉える〉
複数回行う実験結果を表に記入したりグラフにしたりしましょう。結果の傾向が視覚的に捉えやすくなります。
やっぱり、50回巻きのコイルよりも100回巻きのコイルのほうがクリップをたくさん引き付けているね。
電流の大きさは同じなのに、引き付けられるクリップの数は増えているね。
⑤結果の処理
コイルの巻き数を100回にすると、引き付けるクリップの数も増えました。
〈結果を共有する〉
タブレットに記録した表やグラフを学級で交流することで、結果の傾向や共通点を見つけることが容易になります。
各班の結果を全体で共有することによって、他の班の結果と比べたり、全体的な傾向をつかんだりし、客観性の高い考察に繋げることができます。また、結果の表示方法を工夫することで、視覚的にも捉えやすくなります。実験結果を共有することで結果にずれが生じた場合には、再検証の実験を行うことも大切です。その際には、実験を失敗したからやり直すのではなく、実験方法や条件を確認しながら再実験を行い、条件制御の重要性に目を向けられるようにしましょう。
⑥結果を基に考察する
コイルの巻き数を増やすと、鉄を引き付けるクリップの数が増えたので、力が強くなることがわかった。
コイルの巻き数を増やすと、電流の大きさは変わらないのに、鉄を引き付けるクリップの数が増えたので、鉄を引き付ける力が強くなることがわかった。
⑦結論を出す
コイルの巻き数を増やすと、電磁石が鉄を引き付ける力は強くなる。
⑧振り返る
前回と今回の学習から、電磁石の力をもっと強くするには、どうするとよいでしょうか。
今日の学習で、コイルの巻き数を増やすと電磁石の力が強くなったから、電流を大きくして、コイルの巻き数も増やしたらもっと電磁石の力が強くなると思うな。
深く理解できているのかを見取るために、知識を活用して答えることができるような問いを設定するとよいでしょう。その際には、「引き付ける」など、科学的な言葉が使えているのかも確かめましょう。
安全指導
実験にあたっては、次のことを確実に指導するようにしましょう。
【単元全体を通した注意点】
●乾電池をコイルに繋いだままにすると、コイルが発熱し、熱くなります。火傷の原因になるので、コイルや電磁石を扱う際は、回路の中にスイッチを組み込むなどして、実験をするときのみ回路を繋ぐようにしてください。
【回路の中で乾電池を複数扱う際の注意】
●乾電池を導線で繋ぐ際、+極と+極、-極と-極同士で繋ぐと、電流がうまく流れず、電池が発熱したり破裂したりして大変危険です。直列回路を作る際には、極の向きに注意してください。
その他のポイント
【鉄心の熱し方】
鉄は磁石になりやすい性質であるため、購入した鉄くぎなどがすでに磁石の性質をもっていたり、いったん磁石の性質をもつとそれが抜けきれず、電流を切っても磁石の性質が残ってしまったりする場合があります。
そこで、鉄が真っ赤になるまで熱し、その後ゆっくり冷やす「焼きなまし」を事前に行うことで、それまであった磁力を消し、実験に適した状態にしておきましょう。
加熱には、ガスバーナーやアルコールランプ、安全装置のついていないガスコンロなどが使えますが、高火力の維持が難しいため、鉄くぎをアルミホイルで包み、炭の中で熱することでも焼きなましは可能です。必要に応じて火ばさみや耐火皿などを準備し、火傷や火事には十分注意しましょう。
イラスト/難波孝