小6国語科「ぼくのブック・ウーマン」板書例と全時間の指導アイデア
文部科学省教科調査官の監修のもと、令和6年度からの新教材、小6国語科「ぼくのブック・ウーマン」(光村図書)の板書例、教師の発問、想定される子供の発言、1人1台端末活用のポイント等を示した全時間の授業実践例を紹介します。
監修/文部科学省教科調査官・大塚健太郎
編集委員/山梨大学大学院教授・茅野政徳
執筆/神奈川県川崎市立はるひ野小学校・田中真琴
目次
1. 単元で身に付けたい資質・能力
本単元では、外国の文化を感じられる物語を読んで、物語に出てくる時代や文化、登場人物の心情やその変化など物語の全体像に着目することで、自分の生活やこれまでの読書経験を振り返り、自分の考えをまとめる力の育成を目指します。
2. 単元の評価規準
3. 言語活動とその特徴
本単元で扱う「ぼくのブック・ウーマン」は、1930年代のアメリカが舞台となっており、現代に住む多くの日本の小学生にとっては、驚くことが多い内容でしょう。時代背景や登場人物のカルの置かれている状況を丁寧に読み取っていく時間を確保する必要があります。
かつての日本がそうであったように、教育が当たり前ではなかった時代があったこと、それでも本という人類の知識や文化を届けようとした人がいること、本とはそれほどまでに大切なものであることを感じられる物語です。
しかし一方で、読書という子供たちにとっては身近な行為がテーマとなっている物語でもあります。子供たちの日常と離れている設定だからこそ得られる知識や生み出される考えがあるでしょう。身近なテーマだからこそ、自らの読書生活を見直す契機となるでしょう。異国の文化を知ることの面白さ、自分の生活を振り返り見つめ直すことの価値に気付き、読書へ向かう態度の醸成につながる学習が展開されることを願っています。
4. 指導のアイデア
〈対話的な学び〉 自分との対話、他者(友達)との対話から
翻訳作品に限らず、物語を読むときには、押さえておきたい視点がいくつかあります。①登場人物の設定、②時代背景、③中心人物と対人物、④中心人物の変容とそのきっかけとなる出来事、などです。
特に本教材のような異国の文化や時代が反映され、自分の日常とは距離がある作品においては、①と②の視点をしっかりと押さえておきたいところです。異文化への理解を深め、寛容な態度の育成にも結び付くでしょう。
そこで本単元では、上記で挙げたような観点をもとに、個々の読みを深めていく学習活動を計画しました。毎時間の学習で考えたことや気付いたことを書き溜められるようなワークシートを用意し、観点を意識した読み取りができるようにします。観点が明確であれば、友達との考えの相違点に気付きやすくなります。自然と対話が生まれる学習活動となるでしょう。学習を重ねるごとに、意識していなかった叙述に気付いたり、友達の発言から考えを深めるきっかけを得たりする経験は、読書の楽しさを感じるきっかけになるはずです。
〈深い学び〉 活用する場を設定する
他の物語を読んだときにも「ぼくのブック・ウーマン」で用いた観点を活用し、自らの読みを深めることが理想です。そのため、本単元では「ぼくのブック・ウーマン」で学習したことを活用できる単元構成にしてみました。時数的に難しければ、モジュールの時間や朝読書などを活用する方法もあります。
単元の次のページには「この本、読もう」として、6冊の本が紹介されています。その他にも学校司書に協力を仰ぐなどして、いくつか異文化に触れられる翻訳作品を集めておくのもよいでしょう。
身に付けた資質・能力を活用する場を設定することで、日常的に読書に親しんだり、読書の幅を広げたりすることができるはずです。
5. 1人1台端末活用の位置付けと指導のポイント
(1)学習を積み重ねていけるように
読みを深める学習を展開していく上では、新たな気付きをどんどん書き込んでいくことができるワークシートが有効です。枠を広げたり、書き込んだ内容を移動させたりすることが容易なアプリの機能を用いるとよいでしょう。学習日ごとに枠を増やしてもよいし、新たに書き加えたものは文字の色を変えることもできます。子供たち自身も、自分の考えの変容を把握することができます。書き込んだ内容が増えていくことで、自分の読み取った事柄が増えていること、考えが広がったり深まったりしたことが視覚的にもわかり、充実感を得られるはずです。
またアプリでの管理であれば、子供たち同士が互いの書いた内容を伝え合いやすく、考えを比較することが容易でしょう。
他の本を読んで実施する場合は、枠をコピー&ペーストするだけで、ページ数を増やすことができるので、子供自身で自分の読書量に合わせて作成していけるのが利点です。子供の学びを止めず、読書記録の蓄積にもつながる手立てとして有効に活用したいですね。
6. 単元の展開(5時間扱い)
単元名: 物語を読んで考えたことを、伝え合おう「ぼくのブック・ウーマン」
【主な学習活動】
・第一次(1時、2時)
①「ぼくのブック・ウーマン」を読み、初発の感想を書く。
② 初発の感想を話し合う中で、物語を読む観点をつかみ、学習計画を立てる。
・第二次(3時、4時)
① 物語全体を読んで考えたことを観点に沿って話し合う。
② 学習したことを振り返りながら、自分の生活や読書経験とつなげて、自分の考えをまとめる。
・第三次(5時)
① 考えをまとめたものを読み合い、気付いたことを話し合う。
全時間の板書例・端末活用例と指導アイデア
●指導のポイント
本時は子供の初発の感想を集め、子供の内容理解や注目している場面などを把握するようにします。
「3.言語活動とその特徴」でも触れましたが、この物語は時代背景や異文化など、現代の子供を取り巻く環境とは大きく異なります。それが伝わる場面の様子や登場人物の設定などに注目できるように導入を展開し、初読へ向かうようにしましょう。
時代の違いや登場人物を簡単に確認し、感想を書くようにします。6年生ともなれば、これまでに学んだことを生かしながら、感想を書くことが予想されます。書く量も多くなるでしょうから、授業後にノートを集め、どのような視点で感想を書いているか、分析しておく必要があります。
考えられる視点としては、①登場人物の人物像や思いについて。②中心人物カルの変容について。③自分や現代の生活と比べて気付いた点について。このような視点で書かれた感想があれば、物語の読みを深めるポイントとなりますので、授業でその子供の発言を促したり、感想を紹介して全体で話し合うきっかけとしたりして、生かせるようにしていきましょう。
また、子供たちの発言や初発の感想から、登場人物の人物像や時代背景などを適切につかんでいるか把握するようにしましょう。読み取りがまだまだ浅い子供が多いようなら、次時からの学習で、カルやブック・ウーマンの行動の理由やその時々の心情を全体で確認していく時間を十分に確保する必要があります。
カルが本を好ましく思っていないこと、それがカルの置かれている状況や時代によるものであることを、クラスのどの程度の子供が認識できているか、つかんでおく必要があります。
また、ブック・ウーマンの行動が本を読んでほしい、親しんでほしいという図書館員としての思いからであること、その思いからくる行為がカルの心情を変化させたことは、次時以降の学習の中心となる内容なので、座席表や名簿などに子供一人一人の理解の状況を簡単に記録しておくとよいでしょう。
【 導入 】
イラスト/横井智美