小3体育「鉄棒【器械運動】」指導アイデア
文部科学省教科調査官の監修による、小3体育科の授業案です。1人1台端末を活用した活動のアイデアも紹介します。今回は「鉄棒【器械運動】」の単元を扱います。
執筆/東京都大田区公立小学校主幹教諭・鈴木啓史
監修/国立教育政策研究所教育課程調査官・塩見英樹
東京都大田区公立小学校校長・伊藤均
目次
単元名
「なりきって学んで、エンジョイ鉄棒」めざせ!クラスのオリンピアン!
年間計画表
単元目標
●知識及び技能
鉄棒運動の行い方を知るとともに、支持系の基本的な技をすることができるようにする。
●思考力、判断力、表現力等
自己の能力に適した課題を見付け、技ができるようになるための活動を工夫するとともに、考えたことを友達に伝えることができるようにする。
●学びに向かう力、人間性等
鉄棒運動に進んで取り組み、きまりを守り誰とでも仲よく運動をしたり、友達の考えを認めたり、場や器械・器具の安全に気を付けたりすることができるようにする。
授業づくりのポイント
鉄棒運動は、基本的な動きや技を身に付けたり、新しい技や発展技に取り組んだりして、技に挑戦し、その技ができる楽しさや喜びに触れることのできる運動です。一方で、地面から足を離すことや回転することなどへの恐怖感などから、消極的になってしまうことも考えられます。低学年の鉄棒を使った運動遊びから、中学年の鉄棒運動の学習につなげていくことができるように、補助具などを積極的に活用し、安全と安心の両面を確保します。さらに、子供たちが主体的に学習に取り組めるような学習の場の設定をすることも大切になります。
そこで本指導アイデアでは、誰もが取り組みやすい感覚つくりの運動「なりきりタイム」を単元全体を通して行うことや、鉄棒運動が苦手な子供も安心して取り組むことができるような場を設定することで、すべての子供が鉄棒運動に必要な感覚を身に付けられるようにするとともに、楽しみながら学べるようにしました。
また、基本的な動きや技に十分に取り組むことができるように、「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説体育編」に示された技を1つ1つ時間ごとに取り組んだり(2~4時間目)、「上がる→回る→下りる」の組み合わせ例に取り組んだり(5~7時間目)する「ベーシックタイム」を設定しました。さらに、ベーシックタイムで学んだ技のなかから自己の能力に適した技を自分で選んで取り組んだり(2~4時間目)、「上がる→回る→下りる」、または「上がる→下りる」技のなかから自己の能力に適した技を自分で選んで取り組んだり(5~7時間目)する「エンジョイタイム」も設定しました。
中学年の鉄棒運動で触れることができる楽しさや喜びとして、「技ができる」ことがあります。しかし、1人で行うことが多い鉄棒運動では、子供どうしが関わり合って学ぶことが少なくなります。そこで、教師が意図的にグループを工夫することで、友達と練習に励んで上達したり、補助やアドバイスをし合ったりすることが期待できます。その結果、「技ができる」楽しさとともに、友達と協力して得られる達成感や課題を解決した成就感などの喜びに触れることができるようにします。
単元計画(例)
単元の評価規準
●知識・技能
①鉄棒運動の行い方について、言ったり書いたりしている。
②自己の能力に適した支持系の基本的な技をすることができる。
●思考・判断・表現
①自己の能力に適した課題を見付け、その課題の解決のための活動を選んでいる。
②課題の解決のために考えたことを友達に伝えている。
●主体的に学習に取り組む態度
①鉄棒運動に進んで取り組もうとしている。
②きまりを守り、誰とでも仲よく励まし合おうとしている。
③器械・器具の準備や片付けを友達と一緒にしようとしている。
④友達の考えを認めようとしている。
⑤場や器械・器具の安全、試技の開始前の安全を確かめている。
本指導アイデアでは、3年生で取り組む鉄棒運動の技を3種類に分類しました。「上がる」「回る」「下りる」の3種類です。ベーシックタイムでは、この3種類を子供が学びやすい「下りる」→「上がる」→「回る」の順で指導計画を立てています。また、発展技もそれぞれの分類で整理しました。
なりきりタイム~感覚づくり~(第1時~第7時)
(1)はじめに「鉄棒運動」について
●安全第一で行いましょう
運動場に設置されている鉄棒の場合、下が地面であることが想定されます。そのような場合には、鉄棒の下にマットを敷いて一定の安全を確保する配慮が考えられます。ただし、マットがあれば安全という思い込みは禁物です。鉄棒運動の安全指導として、「技の終わりまで鉄棒から手を離さない」という約束の指導を行うことが大切です。
●鉄棒運動に適した補助具を使用しましょう
鉄棒に体重をかける部位(腹部・膝の裏側)によっては、痛みを感じやすい運動です。その痛みを軽減するために、鉄棒にスポンジ状の筒の補助具を巻くと痛みを軽減することができます。
●「怖い」「痛い」→「できる」「やってみたい」~ポジティブシンキングに変換を~
3年生の子供にとって、初めて知る技が多いことが考えられます。そこで、意識のもち方を変化させて、「見たこともやったこともないけど、できそう!」と思わせるしかけづくりが大切です。ここでは2つのしかけを紹介します。また、後述の「なりきりタイム」は、このポジティブシンキングを発展させた学習活動です。
しかけ① 低学年で学んだ運動遊びを使って、さらに発展させましょう
鉄棒にぶら下がる「サル」を手本で見せます。
次に、地面を蹴って体を前後に振ります。
さらに、体を振った勢いを使って、前や後ろに跳び下ります。
さらに、鉄棒の後ろからジャンプして、鉄棒を掴み、体を振って前へ跳び下ります。
しかけ② 簡単な技を組み合わせる
跳び上がりを手本で見せます。このとき、できるだけ肘を曲げずに跳び上がります。
次に、ツバメを見せます。
最後に、跳び下りを見せます。
技を見せた後に、「上がる技」と「下りる技」が隠れていたことを話して、組み合わせることで、連続した技になることを伝えます。
●握り方を確認しましょう
鉄棒運動は握り方が技によって違います。握り方は「順手」「逆手」「片逆手」があり、技に合わせて使い分けます。また、握り方のポイントとして、親指の使い方があります。落下防止のためにも、人差し指と親指で鉄棒を握る癖を身に付けさせることが大切です。
●学習に見通しをもてるようにしましょう
技の動画やオリンピアンの動画を第1時のオリエンテーションで活用しましょう。そうすることで、子供が鉄棒運動の完成したイメージを最初にもって単元を進めていくことができます。さらに、オリンピアンの演技から伝わる美しさなどを実感させることが意欲の向上にもつながります。
●子供どうしが関わり合えるようにグループを工夫しましょう
鉄棒は互いの動きを見合うことで学習効果が上がる運動です。そのため、子供どうしが関わり合えるようなグループを意図的に編成することで、グループ間の友達どうしで互いの動きを観察して、課題の解決のために考えたことを友達に伝える学習ができるようにすることが大切です。鉄棒の台数が多く、全員が同時に活動することができる場合でも、指導のねらいに応じてグループでの学習を意図的・計画的に行うようにします。
(2)なりきりタイム
・教師が、「全員、ツバメという技をしましょう」と主導するのではなく、子供の発達の段階に合わせて、「今日は、鉄棒に様々な動物がやってきたよ」「みんなも動物になりきってみよう!」など、子供たちが思わず鉄棒運動を行いたくなるような声かけを工夫します。
・ここでは、技の習得というイメージではなく、低学年の運動遊びのように、ねらいとする動きを遊びの要素を取り入れて行うことができるようにします。
動物編(ツバメからの発展を工夫して)
・跳び上がることが苦手な子供には、ポートボール台などを足がかりにするなどの支援をします。
ツバメの姿勢のまま、できるだけ地面と体を平行にします。
ツバメの姿勢は腕支持の感覚を身に付けさせるための基本姿勢です。それを応用し、動きを広げていきます。
右左交互に鉄棒を握っては離して、少しずつ横へ移動します。
動物編(ダンゴムシ、サル、コウモリ)
・ダンゴムシやサル、コウモリなど、動物の姿と鉄棒運動を上手に組み合わせて、楽しみながら、運動できるようにします。「ダンゴムシのがまん大会」などのゲーム要素を加えて安全面に配慮しつつ、楽しみながらぶら下がる感覚を身に付けられるようにします。
跳び上がり同様に、ポートボール台を準備しておきましょう。子供の気持ちに寄り添い「少しがんばればできそう」と思わせることが大切です。
〈見ている(待っている)子供のつぶやき〉
足抜き回りが上手な子供は、自然に両足を高く上げられるようになります。上げた両足を鉄棒に掛けるとコウモリの準備の姿勢になります。
〈見ている(待っている)子供のつぶやき〉
物編(ふとん)
・子供の実態に応じて、鉄棒に巻くスポンジ状の補助具を使いながら、腰骨のあたりで体を支えるようにし、ふとん干しの姿勢をさせます。
みぞおちの辺りで支えると痛みが強くなりますので、腰骨少し上の下腹部あたりで支えるとよいです。
頭を前後に振って体を揺らすことで、だるま回りなどの体を振る感覚づくりにつなげていきます。
〈見ている(待っている)子供のつぶやき〉
イラスト/高橋正輝