実験方法を子ども自身が考えるための第一歩~「解決の方法を発想する」子どもの見取りと指導~【理科の壺】
「解決の方法を発想する」というのは、言い換えれば「子ども自身が実験方法を考えられるか」です。子ども一人一人に実験方法を考えさせたいのですが、「実験方法を考えて書いてね」と言っても、すんなり書けない場合が多いです。子どもが自分で書けるようになるには、指導が必要なのです。
そして、何ができていればいいのか、何を指導すればいいのかについては「積み重ね」です。時間をかけて少しずつ指導するわけです。子どもたちの実態をしっかりと見取って、的確な指導をしたいものですね。
優秀な先生たちの、ツボをおさえた指導法や指導アイデア。今回はどのような “ツボ” が見られるでしょうか?
執筆/神奈川県公立小学校教諭・武田陽
連載監修/國學院大學人間開発学部教授・寺本貴啓
はじめに
日々の暮らしの中で、どんな人も、些細なことから大きなことまで様々な問題に直面します。
そのようなとき、小学校理科における問題解決の学びは、大きな役割を担っていると考えます。
「直面する問題に対し、解決する方法を考えて、生活をより良くしていく力」こそ、理科で子どもたちに身に付けてほしい力だからです。
年度初めによく、「初めて理科を教えます」「今年から理科専科になりました」という方々から「解決の方法を発想する力はどのように育成していくの?」という声があがります。
そのような疑問を抱いたら、まずは、めざす資質・能力が育成された子どもの姿を想定します。
その上で「学年集団としてどのような学習経験を積んできたか」「一人一人の到達状況はどうなのか」を見取ります。見取りを基に指導の見通しをもち、「今」目の前にいる子どもにとって必要な指導を考えていくことを大切にしましょう。
1.「解決の方法を発想する」子どもの姿とは?
今回は、目指す子どもの姿として
「子ども自身が、問題に対する予想を解決するための方法を発想することができる」
について考えてみます。解決の方法を発想するというのは、「実験方法を計画する」とも言えます。
ここでは、理科における「解決の方法の発想」を次の2つに分けて考えてみます。
⑴「何を使うか」→実験器具等を考えること。
⑵「どのように使うか」→条件を整理して方法を考えること。
⑴「何を使うか」
教師の心持ちとして、指導をする時点で子どもたちにどこまで委ねることができるかを考えることが大切です。子どもたちに委ねる幅を広げていくことで、資質・能力は育成されていきます。
前提として子どもたちに、実験器具の存在・実験器具の使い方・実験器具の保管場所などの知識があることが必要ですので、以前使ったことがあるものだと子どもたちに委ねやすいと言えます。
「子どもが実験器具等を発想しやすく、安全を確保できる単元」では、「何を使って、どのように調べるか」までを子どもに委ねてみましょう。
⑵「どのように使うか」
子どもの学習経験や到達状況は様々ですし、子どもたちにとっては目新しい単元もあります。
そのため、いつも「何を使って、どのように調べるか」を子どもたち自身に考えさせることができるわけではありません。
はじめて理科を教える先生から、次のような声をよく耳にします。
どんな実験器具を使えばいいか、子どもたちに教えてしまっていいですか?
例えば、子どもが今まで見たこともない器具を使う場合や、教師が子どもたちに対して、意図的に使わせたい器具がある場合は、教師から実験器具の提示をしてもよいでしょう。しかし、これから行う実験での使用方法までを具体的に教える必要はありません。実験器具の名前や基本的な使用方法だけを教え、今回の実験でどのように使えるのかを考えさせるのがお勧めです。
教師から実験器具等提示する場合でも、提示した実験器具を使って、②「どのように使うか」は子どもに委ねることで「解決の方法の発想する力」の育成につながります。
2.学習経験の見取りと指導(5年「植物の発芽」)
どんな子どもたちにも同じように指導すれば、同じように資質・能力が育成される、ということはありません。目の前にいる子どもたちの学習経験や状況などの実態を見取り、そこから指導を考えていくことが大切です。次の図は、5年生の最初の段階で「植物の発芽」の授業をする場合を想定した「見取り」と「指導」のイメージです。
《見取りと指導のイメージ》
【見取り】
●教科書を見て実験してきていて、実験方法を考える経験が少ないようだ。
●4年生までは、一つの問題について、複数の条件を検証する経験していないな。
【指導】
「植物の発芽」の単元では、みんな初めて「水」「空気」「温度」など複数の条件について扱うから、第3次で実験方法を自分で考えられるような単元構成にしよう。
一つの問題に対して、複数の条件を検証するような単元では、
第1次:学級全体で、実験方法の考え方を指導する
第2次:1次での学習経験を生かしてグループで実験方法を考える
第3次:1次、2次での学習経験を生かして個人で実験方法を考える
のように段階的に「個人で実験方法を考えていく」単元構成にしていくのも、実験方法を子ども自身が考えるための手立てになります。
学級内で自分で考えられる子どもが増えてくれば、子どもたち同士で話し合ったり、考えたりすることでの解決を促すことができるため、グループや個人での学習形態を増やしていくといいです。
《5年「植物の発芽」の単元構成例》
5年生の「植物の発芽」では、発芽に必要な条件として子どもたちから複数の予想が出てきます。そこで、教師が意図をもって扱う条件の順番を決めて段階的に指導していくと、「実験方法を子ども自身が考える」手立てになります。
問題が「植物の発芽に必要な条件はなんだろう」であるのに対して、子どもたちの予想が「水、光、温度、空気」ではないかと考えている場面を例に見てみましょう。
問題:植物の発芽に必要な条件はなんだろう?
予想(必要な条件):水、光、温度、空気
まず最初の実験(実験①)として、植物の成長に「水が必要なのだろうか」ということを確認します。
最初に「水」を扱う意図として次の2点があります。
《「水」を最初に扱う意図》
●条件が整えやすく、目に見えるので、実験方法の考え方を指導するときに子どもたちがイメージをもちやすい
●「土」「栄養」なども子どもたちの予想に出やすい条件ですが、まず「水」の条件を解決することで、「土や栄養は必要な条件ではない」ということに子どもたちが気づきやすくなる
この最初の実験において、板書例1で示す
「調べたい条件だけを変える」
「条件を整理するために表を活用するという手段がある」
ということを身に付けさせておきたいです。
ただ、何も実験を行っていない段階から、
「実験方法が適切か」
「条件はしっかり整えられているか」
を考えることは子どもたちにとって難しいものです。そこで、実験後に子どもたちの困り感が出たときに指導することも想定しておきましょう。
指導しておきたい内容を板書例と合わせて「⑴ 実験前の指導」「⑵ 実験後の指導」に分けて詳しく示します。
⑴ 実験前の指導
板書例1の「調べたい条件だけ変える」ということは、初めて複数の条件を調べる経験をする子どもたちにとっては、教師の想定以上に難しいです。
例えば、条件を2つ変えてしまった場合を想定して「《水あり・空気あり》」と《水なし・空気なし》で比べて《水あり・空気あり》だけが発芽した場合、発芽に必要な条件は「水」なのか「空気なのか」分からないんじゃないかな?」などと支援して、丁寧に考えるよう指導する必要があります。
「②条件を整理するために「表」を活用する」については、すでに「表」を使っている子どもでも、ただ使っているだけで「条件が整理しやすい」などの良さを認識したり、実感できたりしていないこともあります。「表」の使い方の身に付けるだけでなく、「表」を使う良さを子どもたちに実感させておくとよいです。
<板書例1>
●「調べたい条件だけを変えること」を指導します。
●条件を整理するために「表」を活用するという手段を身に付けさせます。
⑵ 実験後の指導
板書例2のように、実験後に各グループの結果を表に整理してみると、バラつきが出ることがよくあります。子どもに困り感が出たタイミングで「条件を見直す」指導をすると条件を整える必要感をもって学ぶことができます。
<板書例2>
なんで結果が違う班があるんだろう。「条件」に違うところがあったのかな。
このようなとき、互いの班の状況を見合う時間を取ると「水の量が多すぎなんじゃない?(腐っている)」「水が乾いているので、水なしの条件になっているよね」などと、確認すべき条件に対する気づきを引き出すことができます。
●結果の見方と合わせて指導するとよいこと
子どもたちが思うような結果が出なかったときに困り感が生まれ、そこから「条件を整える必要性」が生まれます。そのタイミングで、結果のバラつきの原因となる「条件のバラつき」を考えることが第2次以降の「解決の方法の発想」に生かされます。
時数との兼ね合いもありますが、条件を整えて再実験をすることも考えられます。中には、再実験はしてはダメだと思っている子どもは意外と多いです。必要であれば再実験を行ってもよいことを伝えることで子どもたちに「繰り返し確かめようとする姿勢」が身に付いていきます。
また、すべての班の結果が一致しないと「どれが正しい結果なのか分からない」と子どもたちが困り授業が進まないことがあります。その際、すべての班の結果が一致しなくても、原因を追究することで、今回の実験から考えられる結論を導き出せることがあることも指導しておくといいです。
次に日光を扱う実験②です。「日光」を2番目に扱う意図として次の点があります。
《「日光」を2番目に扱う意図》
●「光はなくても発芽する」ということを第2次で確認しておくと、第3次の「温度」の検証で光のない冷蔵庫を使う場合、「光」の条件について考える必要がなくなります。
第2次では、第1次の経験を生かして少しずつ子どもたちに考えさせ、委ねる場面を増やしていけるといいですね。
例えばグループごとで実験計画を比較することが考えられます。
<計画例1>と<計画例2>を比べてみると、インゲン豆を置く場所について条件の違いが見られます。「条件の違いについてどう思う?」など発問をすることで「窓際だと直射日光が当たって暑いかも。4年で気温を測るときも直射日光を当てないようにしたし」「同じ場所の方が温度とかの条件も揃いそうだね」など、条件を吟味する姿を引き出すことができます。
<計画例1>
<計画例2>
グループごとの方法を比較して、似ているところや違うところに目を向けて話し合うと、「条件について大切な部分の確認」や「整えたほうが良い条件の見落としの発見」ができます。
ここまで実験が進むと、
「実験方法を自分で考えられるようになっている子ども」
「表は書けるが、実験器具をどのように使うかまでは考えられない子ども」
「条件を整えられない(条件を2つ変えるなど)子ども」
など、個々の状況が様々になってきます。
特に、「条件を整えられない(条件を2つ変えるなど)子ども」などへの支援は教師として苦労するものです。そんな子どもたちへの支援例を、次項で紹介していきます。
3.個の学習状況の見取りと指導 〜子どもが困ったときが、育成のチャンス!!〜
個々の子どもたちをつぶさに見ていくと、困り感が多岐にわたっていることが多いです。「今」子どもがどのような状況であるかを見取り、必要な支援や指導を行っていかなくてはいけません。
実験方法を子ども自身が考えるための第一歩を踏み出すための支援例を考えていきます。
《分からないとき、すぐにどうしたらいいかを聞いてくる子どもへの指導》
このような子どもたちは、「条件を整える」必要性を感じています。
先生、〇〇はどうしたらいいですか?
えっと、○○はね……だよ。
このように、先生がすぐに答えてしまったら、子どもは自分で考えなくなってしまいます。
では、どのように問い返すと「実験方法を子どもたち自身が考える第一歩」を踏み出せるでしょうか。
「第1次や2次を想起させる問い返し」や「単元での学習経験をもとに学級で考えるように促す発問をする」のような手立てを行い、子どもたちから考えを引き出して、少しでも「自分で考えられた」という達成感を味わわせてあげるとよいです。
事例:5年生「植物と発芽」
水はどのくらい入れたらいいですか。
どのくらい入れたらいいと思う?
水がなくならないように多めに入れたらいいかな。
みんなはどう思う?
種が水に沈むとおぼれちゃうから、少ない方がいいんじゃない。
半分くらい種が水から出る量くらいまでがいいんじゃないかな?
なるほど。種が沈むと空気が吸えないか。種は半分出すのが良さそう。
子どもがどうしたらいいか聞いてきたときには、「子ども自身で立ち止まって考えること」や「他者との対話を促す切り返し」をすることで「実験方法を子ども自身が考える第一歩の経験」を積み重ねていくことができます。
困り感が発信できない子どもにも、教師が個別に見取ったり、聞いてあげたりして同じように対応してあげることが有効なときもあります。
イラスト/難波孝
「このようなテーマで書いてほしい!」「こんなことに困っている。どうしたらいいの?」といった皆さんが書いてほしいテーマやお悩みを大募集。先生が楽しめる理科授業を一緒に作っていきましょう!!
※採用された方には、薄謝を進呈いたします。
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<執筆者プロフィール>
武田陽●たけだ・あきら 横浜市立二俣川小学校教諭/横浜市小学校理科研究会役員を務め、理科教育の推進に携わっている。
<著者プロフィール>
寺本貴啓●てらもと・たかひろ 國學院大學人間開発学部 教授 博士(教育学)。小学校、中学校教諭を経て、広島大学大学院で学び現職。小学校理科の全国学力・学習状況調査問題作成・分析委員、学習指導要領実施状況調査問題作成委員、教科書の編集委員、NHK理科番組委員などを経験し、小学校理科の教師の指導法と子どもの学習理解、学習評価、ICT端末を活用した指導など、授業者に寄与できるような研究を中心に進めている。