プロが教える低学年への硬筆指導とその効果
三学期のはじめに、中高学年が行う書き初め大会にあわせ、低学年では硬筆の書き初めを行っている学校もあります。姿勢を正し、きれいな字を書くよう心がけることは、日頃の学習規律にもよい効果をもたらします。また、書き初めは、日本の伝統的な文化に親しむことに繋がります。一年のはじめの硬筆書き初め大会で、書字の大切さを学ぶ指導をしていきましょう。
指導/一般社団法人日本書字文化協会代表・大平恵理
大平恵理●1965年、東京都生まれ。書写の実用性と書道の審美を併せ持つ平明で美しい書風は、専門家から「用美一体を究めた」文字と評価されている。全国書写書道大会の毛筆・硬筆のお手本や検定試験手本の揮毫を担ってきた。著書に、小・中学生向けの『ドラえもんの国語おもしろ攻略 きれいな字が書ける』(小学館)などがある。
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目次
ていねいな字で心も整う
学校生活にも慣れてきた二年生。中には手を抜くことを覚え始める子もいると思いますが、字をていねいに書くことで、ゆるんだ気持ちを引き締めるきっかけにもなります。
二年生は鉛筆を使うことには慣れてきていますが、無駄な力が入りすぎているような子もいます。まずは、書きやすい鉛筆の持ち方があることを教え、子供がストレスを感じない程度に、機会があるごとにアドバイスしていけるといいでしょう。
習う漢字の量も増えてくるので、正しい字を書くという意識をつけていくようにします。字形に気を付けて書くことが身に付いていると、三年生からの毛筆もスムースに進められます。
小中学校の書写は国語科の中に位置付けられており、「字の形を整えて正しく書く」ための指導が求められます。ただし、字として成り立っているのであれば間違っているわけではないので、細かすぎる部分でのダメ出しや否定の言葉は避けるようにしましょう。
書写、書き初めを通して子供たちには、技術的なことだけではなく、ていねいに字を書くことで心を整えられるということを経験してほしいと思います。
書く前の準備
道具
鉛筆
2Bか3Bが適しています。グリップをつけると安定します(写真のように2つ付けるのがおすすめです)。
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鉛筆削り
鉛筆は、削る角度が大事です。筆入れに入る小型の楽な力で削れるものを選びましょう。電動のものは尖りすぎるのでよくありません。
消しゴム
消しゴム軽い力で消せるものを選びます。
下敷き
ゴム製かビニール製の、柔らかいものを使います。
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用紙
子供が書くのに無理のないB5サイズが適当です。書き初め用としては、二年生には1マス24㎜の大きさが適しています。
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書く姿勢
椅子に座ったら、腰骨を立てて、お腹と背中にげんこつ1個分を空けます。
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そのまま少し倒れて、上の方から鉛筆の先を見るようにします。
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よい例
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よくない例
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鉛筆の持ち方
横から
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上から
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鉛筆の先から
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書き方の基本
三つの力
1の力:鉛筆の重みだけの力で軽く線を引く。
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2の力:少しだけ力を入れて線を引く。
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3の力:しっかりと終わりまで力を入れて線を引く。
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線の練習をしよう
・紙にしっかり力が伝わるようにして、最後まで「3の力」でなぞって練習します。
・芯の先から手首までを一緒に、紙の上を滑らせて書きます。
・始めから終わりまで、持ち方が変わらないように鉛筆を運びます。
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写真は、「ろ」のジグザグと右回りの練習です。単純な動きが字につながっていきます。
<ノートはフラットに>
練習帳やノートで練習する際は、背を割るくらいしっかりと、平らになるまで開くことが大切です。盛り上がっているところに手を置くと手の高さで書きづらく、しっかり力を加えることができません。手をどう置くかはとても大切です。
とめ・はね・はらい
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字の最後は、勢いに任せず、力の加減を最後まで意識して書き終えるようにします。はねとはらいは向きに気を付け、紙から鉛筆が離れた後も書いているようなつもりで、ていねいに。
<無理はさせない>
鉛筆の持ち方などについての説明はしますが、無理強いは禁物です。鉛筆の先から適度な力が紙に伝わり、だんだん力を抜いていくことを体験できれば、自然と持ち方・書き方も変化していきます。
ひらがなの結び
ひらがなは、結びの形が大き目に「三角のおにぎり」で書くと格好良くなるものと、小さめに「りぼん結び」にすると形よく、書きやすくなるものがあります。
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結びの形が違うだけで、間違ったことになるわけではありません。「な・ね・ほ・ま」をりぼん結びに書いても間違いではありません。
文字の大きさを意識
横線
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縦線
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手の置き方
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① 書こうとするマスの右下に手を置く。腕をしっかり机に付けて、5本の指が自由に動くように。
② 時計の短い針10時30分に鉛筆の先を向けて書く。
③ 一文字書くごとに腕を下に動かす。
書き初め大会の作例
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手本作成/大平恵理
名前の書き方
名前の欄はマスが無いので、上の方につまってしまいがちです。上と下の空きが同じになるよう、バランスよく字と字の間を空けて書くように気を付けます。あくまでも主役の本文よりも目立ちすぎないようにしますが、小さすぎると作品全体が貧弱に見えてしまいます。
よくない例をあらかじめ示しておくと、子供はわかりやすいでしょう。名前がていねいにしっかり書けていると、同じ作品でも格が一段上がったものに見えてきます。
書き初め大会を成功させるポイント
名前を書いた作品は、自分の分身です。掲示してあるだけで、自分を知ってもらえることになります。作品を通して、知らない人に出会うのです。そんな気持ちをもって、ていねいに書こう、ということを子供に伝えましょう。
注意するよう伝えること
・汚さないようにしよう
・緊張して字を飛ばさないようにしよう
・消しゴムを使った場合はよく確認しよう
見本と用紙
学年にあったちょうどいいものを、教科書や書道教室等の団体のホームページなどで調べてダウンロードしたり取り寄せたりしましょう。清書の用紙はコピー用紙だと薄すぎ適さないため、専用のものを用意します。
条件は決めておく
1枚10分程度で、2枚書くのがおすすめです。不公平感はトラブルのもととなるので、枚数や消しゴムの使用有無等、条件はしっかり決めておきます。
言葉に込められたメッセージも意識して
ていねいに字を書く経験だけでなく、言葉に触れる機会にもなります。言葉に込められたメッセージについて先生が解説したり、グループで話し合ったりするのもいいでしょう。
本番中は手本は見ない
手本通りに上手に書けるかどうかに意識がいきすぎると、自分らしい文字を書くことができません。見本ではなく、活字のプリントを配るようにしてもいいでしょう。
消しゴムはなるべく使わない
消しゴムの使用については、指導する先生の考え方ですが、清書では推奨はできません。使う場合は、「周囲が消えてしまっていないか、消し切れていないところがないか」を、よく確かめるように言います。何度も消したら汚れてしまうし、何度も消さなければ書けなかった文字は評価が下がるだけでなく、子供自身にとっても納得感のない作品になってしまうでしょう。
目安をつけてOK
名前欄の横に薄く丸を書いてガイドを付けたり、枠の外に軽く印を付けて真ん中を示したりといった目安をつけることは、悪いことではありません。むしろ、そうすることによって「よく考える」ことに繋がるからです。
選ぶ力をつける
2枚のどちらかを選ぶ際には、足を引っ張っているものを考えます。すると、ここが長すぎるだとか、この方向がおかしいとか、普段は意識していないことまで考えることができます。
掲示は台紙に貼って
掲示する際には台紙に貼るときれいです。終わった後はラミネート加工したり写真を貼るなどしたアルバムにすれば、子供も保護者も喜びます。
書き初め大会の経験を生かそう
普段の授業のノート記入などではスピード感が必要なので、ていねいに字を書くことを子供が意識し続けるというのは疲れてしまうでしょう。テストの名前をしっかり書こうとだけ決めておくなどすれば、ストレスなく取り組めます。
最後に ~子供たちに伝えたいこと~
書き初め大会は、「納得できる自分の字を書こう」という気持ちで取り組みます。真剣に書いていれば、自分では失敗したと思った字も、実はたいした問題ではありません。むしろ、気持ちが折れた次に書いた字が、いい加減なものになってしまうのです。手書きの文字は気持ちが表れるのですね。途中であきらめず、最後まで精いっぱい、子供たちが自分で納得できる字を書ききることがなにより大切なのです。
取材・構成/設楽由紀子 撮影/北村瑞斗
『小二教育技術』2019年1月号より