算数の協力ミッションとは【教科担任制 最前線!! 算数専科を楽しもう】④
今回は、協力ミッションの授業デザインを紹介します。協力ミッションは、インプットとアウトプットのバランスを考えた授業デザインです。基本的に15分インプット、30分アウトプットの考え方で授業をデザインすると協同的な学びとなり、子どもの主体性はさらに育まれていくという提案です。
執筆/奈良県公立小学校教諭・頃橋真也
目次
協力ミッションとは?
私は教科担任制の算数専科として、3~6年生のすべての算数の授業コマ(各学年週5コマ×4学年=全20コマ)を担当しています。
その算数の授業のデザインで、特に大切にしているのは次の4つです。
- 1時間内で成長を実感できる授業デザイン
- 自分でゴールを決められる授業デザイン
- 子どもたちの対話の時間を多くもつ授業デザイン
- 協働的に学べないと解けない(ジャンプの課題)授業デザイン
そして、私の教えている学級ではこれから紹介する授業のデザインを「協力ミッション」と呼んでいます。そのため、授業開始のチャイムがなる直前に子どもたちは、言います。
先生、今日、協力ミッションするの?
するよ~。
やった~‼︎
この協力ミッションは、算数でありながら、ときには、体育をしているときのような子どもの姿が見られます。いっしょに学んでいる仲間と、「やった~!! できた~!」と共に喜ぶ姿。そんな光景があちこちで見られます。
それでは、協力ミッションとはどのような授業か、いっしょに見ていきましょう。
協力ミッションの授業デザイン(実践編)
まず、私の授業は、教師が教えすぎないということがベースにあります。算数の多くの教科書は、1ページで1時間を目安に学習計画が組まれています。
そして、①例題 ②ポイント紹介(発見やまとめなど) ③練習問題のように構成されています。
最近、よく耳にする自己進度学習などでは、子どもたちが自分で学習計画を練って進めていきますが、今回の私が紹介する協力ミッションは、授業の序盤に一斉授業を10~15分間程度行い、その後、残りの30~35分間を友達との対話を通してミッション(練習問題)をクリアしていくという方法です。
では次に最初に挙げた1~4をどのように意識しているのかについて説明します。
1 45分内で成長を実感
「1時間内で成長を実感できる授業デザイン」を私が意識しているのは、自分の学びによる成長をメタ認知してほしいという思いからです。
子どもたちは、どの教科の学習でも、45分の学習で必ず学びがあります。しかし、それらは目に見えづらく実感しにくいこともあります。私は、スモールステップで課題を分割して提示します。階段状にしてステップが上がっていくことで、自分が着実に成長できていることを感じられるように黒板に表現しています。
このようにすることにより、子どもたちは、「今日はステップ3まで進んで、〇〇〇〇ができるようになった!」と自分のその日の学びを振り返ることができます。板書例は以下の通りです。
2 自分でゴールを決める
「自分でゴールを決められる授業デザイン」を私がなぜ大切にしているかというと、子どもたちの学びのスピードはそれぞれ違うからです。
一度の説明で、一気に問題をすらすらと解いていく子どももいれば、1問にものすごく時間がかかる子どももいます。それは至極当然のことです。そのため、私は、スモールステップ型で課題を提示してから、「友達と協力ミッションで、精一杯ステップを上りましょう!」と言います。
さらに、「今回全員に達成してほしいのは、ステップ2までです。ステップ2までは必ず全員が達成できるようにしましょう!」と言います。
このように伝えることで、「ステップ2までが必須課題」「ステップ3以降は選択課題」ということになります。そのため、ステップ2まで到達できていない友達がいると、子どもたちは困り感を聞いたり、ヒントを出したりしていっしょに考えて取り組んでいこうとします。
人によっては、「今日は、ステップ4まで解いてやろう!」と意気込む子どももいます。
しかし、その子たちももし、ステップ2までに到達していない友達が「ねぇねぇ、ヒントちょうだい」と言ってくると、必ずいっしょに課題解決に向けて取り組みます。
3 対話の時間を多くもつ
「子どもたちの対話の時間を多くもつ授業デザイン」を私が大切にする理由は、教師の一斉授業のときと、協力ミッションのときの子どもたちの対話量がまったく違うからです。
一斉授業では、子どもたちはインプットをしています。そして、協力ミッションでは徹底的にアウトプットをしています。私はこの時間配分が最も大切だと思っています。
『学びを結果に変えるアウトプット大全』(サンクチュアリ出版)の著者である樺沢紫苑さんは脳科学的に見て、「インプットとアウトプットの黄金比率は3:7」であると提唱しています。つまり、45分の授業で考えれば、30分程度はアウトプット(問題を自分で解くなどの活動)が必要であることになります。
しかし、1人で問題を解くのが難しい子どももいます。
だからこそ、早く解けた子どもは「友達に説明する」「自分の考えを伝える」というアウトプットをさらに行っていくことで、学びを加速していくことが大切になってきます。
このときに私が意識しているのは、徹底的に子どもたちに委ねるということです。
先生方は、子どもの学びの対話を聞いているとき、「もっとこう言ったら、伝わるのに!」とか「図に書いて、こう説明したらいいのに!」などと思わず口をはさみたくなることはありませんか?
私は、いつもこのようなときに、つい横やりを入れてしまいがちな教師でした。しかし、そこをぐっと我慢してこらえます。
算数以外の話になったり、対話ではなく一方通行の説明になったりするときは、声をかけることもありますが、基本的には口をはさまないことが鉄則だと思います。
教師が説明をして分からせることは短期的な目線で言えばいいのかもしれません。即効性もあると思います。しかし、長期的な目線で見れば、子どもたち同士で対話して学び合っている姿こそが、私たちが本来大事にしたい学びの姿だと思いませんか?
4 ジャンプの課題
「協同的に学べないと解けない授業デザイン(ジャンプの課題)」がなぜ大切かというと、佐藤学先生が著書『学び合う教室・育ち合う学校 ~学びの共同体の改革~』(小学館)で「日本の授業における課題のレベルが低すぎること」を指摘しているように、上位層の子どもにとって学校の算数の授業が退屈な場になってしまう可能性があるからです。
私は、協力ミッションにおける最後の課題として、プリントを提示するようにしています。
そして、そのプリントは、自分の学年より2~3学年上レベルの問題や中学入試に出てくる問題としています。ヴィゴツキーの「発達の最近接領域」理論で言えば、「仲間となら、または支援があればできる」レベルを想定しています。そのため、全員が解けることは一切目標にしていません。
探究することを楽しみ、質の高い学びを実現しようとするために課しているものだからです。そのため、以前の授業スタイルでは、チャイムが鳴る前に片付けをしているような子どもがクラスには2、3人いましたが、今年の算数の授業ではそのような姿は一切ありません。
むしろ、チャイムが鳴ってからも問題を解こうとしている姿がよく見られます。私がジャンプの課題作りで本年度よく使っているのは、『パーフェクトテスト算数』(文英堂編集部編、文英堂刊)です。
また、私は3年生から6年生の算数を教えているので、指導書と教科書をいつもカバンに入れて教室移動しています。そのため、3年生や4年生には、ジャンプの課題として、5年生や6年生の教科書の問題を出すこともあります。このとき、領域がつながっているかということを意識して、課題を設定しています。
頃橋真也(ころはし・しんや)
教員歴14年。県の道徳研究会に13年間所属し、道徳の授業作りについて研究を深める。2021年度「第27回日教弘教育賞奨励賞、2022年度「第21回ちゅうでん教育大賞」教育奨励賞、授賞。X(旧Twitter)でも、情報発信中(ro5ro5先生@小学校の先生 @ro5r_o5)。