小5社会科「青森↔沖縄」のオンライン交流で互いの風土を教え合う ― 教員コミュニティから生まれた連携授業の実践
地理も歴史も広域にわたり、実感を伴わない学習になりがちな小学校高学年の社会科。遠く離れた沖縄県と青森県の小学生がオンラインでつながり、共感しやすい「同世代の仲間」として互いの土地を紹介し合う「当事者性が感じられる生きた授業」を、教員コミュニティの活用で実現させた、青森県公立小学校教諭の三浦健太朗先生の実践を紹介します。
執筆/青森県公立小学校教諭・三浦健太朗
目次
その土地の風土を現地の子供から学ぶ——当事者性を感じさせる、「人」が見える社会科の授業をオンラインで実践
青森県の公立小学校で教師をしている三浦健太朗(みうら・けんたろう)と申します。教員向けオンライン研修プラットフォーム『授業てらす』には立ち上げから参加しています。今回は、『授業てらす』のユーザーという立場から、教員コミュニティの交流を活かした私の授業実践について紹介したいと思います。
『授業てらす』についての記事はこちら
・教員研修プラットフォーム「授業てらす」が生まれたワケ~創業者・星野達郎が目指す学校教育のHAPPYな未来とは~
・教員研修プラットフォーム「授業てらす」が提供する教師のための学びの仕組みとは?
『授業てらす』代表の星野達郎氏とは、かつて一緒の学校で働いており、当時から教育論議をする仲間でした。そうした縁もあって『授業てらす』には立ち上げから参加しました。
その後、間もなくコミュニティ内で教科に特化したグループを作ろうということになり、社会科チームのリーダーをさせてもらうことになりました。社会科チームでは、筑波大学附属小学校の由井薗健(ゆいぞの・けん)先生にセミナーの企画を提案し、その運営をしたり、明日から使える教材を届ける「社会科教材おとどけセミナー」を計画したりと、社会科の魅力を広げる活動をさせてもらっています。
現在、『授業てらす』には、約500人ほどの教師が所属しています。オンラインのコミュニティを通じて全国の教師とつながれるので、各地区の教育実践や働き方についての情報交換ができます。
社会科について言えば、それぞれの土地の気候や風土、街の特徴を活かした教材を互いに見合うこともできて非常に有意義です。また、各自のアイデア次第で、様々な企画が自主的に生み出されてもいます。
私はかねてより、社会科では、できるだけ「人」を中心に据えた授業を行っていきたいと考えていました。
特に高学年の社会科は、子供たちにとって当事者性を感じにくいことがあります。行ったことのない場所や見たこともない歴史、なかなか実感しにくい政治の働きや、国際協力を学ぶことになりますので、どうしても実感を伴わない学習になってしまいがちです。
そこで、「人」を中心に据えることによって、他者への共感を活かしたり、その人のためを思って実際に考えたりしながら、授業をしていきたいと考えているのです。
今回は、私が実際に行った「人」が見える社会科の授業実践についてご紹介します。
このときは、遠隔地の学校にいる『授業てらす』メンバーの先生に協力してもらい、共同でオンライン授業を実施しました。まさに、コミュニティで得られたつながりを活かした実践となりました。
1.小5社会科「あたたかい土地のくらし・寒い土地のくらし」青森・沖縄をむすぶ発表交流会
5年生には日本各地の気候や土地の特色を学ぶ単元があります。私はずっと前から、5年生社会科の学習で沖縄の小学生とオンラインでつながり、共感しやすい「同世代の仲間」として互いのことを紹介し合う、という授業がしたいと考えていました。
沖縄の子供たちから沖縄の暮らしについて直接学ぶことができたら、青森の子供たちにとって距離的に遠く実感しにくいことも、「その土地に住む沖縄の子供たち」という「人」を中心にイメージしながら学ぶことができます。そして、青森に住む子供たちも、沖縄の子供たちに寒い地方の暮らしを伝えようと一生懸命になるのではないか、と考えたのです。
『授業てらす』のコミュニティを通じて仲良くなった沖縄の先生に、この共同で行うオンライン学習の構想を提案してみると、すぐに了承をもらうことができました。(『授業てらす』の参加者には意欲のある先生方が多いので、お願いごともしやすいと感じています。一緒にやって楽しもうという前向きな空気感があります。)
2.発表会をより有意義にする「課題の設定」と「事前の交流会」
沖縄の先生と一緒にオンライン授業をやろうということになり、私はまず、自分自身の管理職に話をして許可を取りました。それから沖縄の先生のほうでも管理職の許可を取ってもらい、具体的な日程を調整していきました。発表会の内容やねらいなども、沖縄の先生とZoomでオンライン会議を行い、共有していきました。
ねらいについては、
オンラインで沖縄と青森の学習をつなぎ、相手意識をもって「あたたかい土地のくらし」「寒い土地のくらし」を調べ、まとめて伝え合うことで、学習の内容を価値あるものにする。
とし、子供たちへの課題については、
「もし、青森↔沖縄に移住するとなったら、こういうことを知っておいたらよい」ということについて、自分たちでポイントを考え、まとめる。
としました。
日程とプログラムについては、以下のように決めていきました。
〇月〇日 10:50~11:10 お互いの自己紹介
◇月◇日 10:35~11:10 青森からの発表・意見交流
11:15~11:50 沖縄からの発表・意見交流
この計画のなかで大切なことは、発表会の1週間ほど前に簡単な自己紹介などの交流会を行うことです。青森と沖縄は遠く離れていますが、同じ年の子供同士です。あっという間に仲良くなっていきました。
こうして、事前にお互いの関係をあたためておくことで、子供たちにとって相手意識が生まれ、授業当日に「よりお互いに伝えよう」という思いを深めていけたと思います。
3.発表準備:子供たちを主体的にする「伝えたい思い」
私のクラスでは、沖縄の子供たちに伝えたい青森県のことを事前に話し合って決め、8つほどのチームを作っておきました。子供たちが沖縄の子供たちに伝えたいことは、やはり寒さのことや雪のことなど、気候についてのことでした。あたたかい地方に住む子供たちに、いかに青森が寒いのかということを自慢したいような雰囲気を感じました。
他にも、お祭りや食べ物のことなどが決まっていきました。教科書でも取り扱われているような気候のこと、それにかかわる農業や観光業、産業についても自然と盛り込まれていきます。
子供たちから挙がってきた「伝えたいこと」は、Google Slides(Googleスライド)を使用し、2時間ほど授業時間を使って準備しました。自主的に、休み時間を使って発表の練習をしている子供たちの姿もありました。
これも、あたたかい地方にいる同世代の子供たちに「伝えたい」という思いがあるからこそだと思います。
4.青森からの発表
授業当日、沖縄の子供たちとZoomでつながった青森の子供たちは、画面共有機能を使いながら、Google Slidesで説明していきました。
これまで青森のことを調べ、まとめてきた成果を、どの班も発揮していました。沖縄の子供たちも反応してくれるので、喜んで発表していました。雪が多いことを説明すると、
「いいなー!」
という反応。沖縄の子供たちにとって、雪遊びは夢の一つなのかもしれません。すかさず、青森の子供たちも、
「いいでしょ!」
と返します。すでに子供たち同士、仲良くなっているので、非常に温かい雰囲気のなか発表会は進んでいきました。
なかでも印象的だった場面は、沖縄の子供たちにクイズを出していたときのことです。
「雪が降る時間が一番多い都道府県はどこでしょうか?」
という質問でした。沖縄の子供たちは、自然に、
「青森県。」
と答えます。しかし、クイズを出している子供以外の青森の子供たちは、北海道が一番だと思っているのです。
「正解は、青森県です。」
というと、
「えーーーーーっ?」
と驚いたのは、青森県の子供たち。知っているようで知らない青森県のことを知る良い機会になりました。
5.沖縄からの発表
沖縄の子供たちからも、沖縄の気候のことや、家の作り方、お祭りのことや食事のことなど、教科書で学ぶことについてたくさん教えてもらいました。
もちろん、この交流会の後に教科書の内容で授業をすることになるのですが、もう予備知識は十分となっていました。私は沖縄の家や農業、観光業について授業したのですが、子供たちはよく発表会のことを覚えていました。実際に、沖縄に住む子供たちから実感を伴った発表を聞いたのです。だからこそ、知識が新鮮に保たれたのだと思います。オンライン授業で学ぶことで、沖縄の子供たちと生まれた絆が、学習をより深めたと感じています。
6.青森・沖縄、自他ともに深く知ることとなった連携授業
子供たちの振り返りを読むと、もちろん沖縄のことについて学んだことがあるけれど、それ以上に自分たちが住んでいる青森のことをよく知ることになったと書いている子が多くいました。
《子供の感想》
「初めて知る沖縄のこともあったけど、青森のことも初めて知ることがありました。北海道よりも青森の方が長く雪が降ることなどです。沖縄の祭りでは、30万人が参加したり、90トンの縄を使う祭りがあることがわかりました。沖縄の気候では、30度が平均で、青森の平均は20度で、10度の差があることがわかりました。(沖縄には)沖縄の魅力があるし、青森には青森にしかない魅力があるとよくわかりました。」
「青森県より北海道の方が雪の降る時間が短かったことがびっくりしました。自分が住んでいる県にも知らないことがあることに気付きました。青森県のことも、もっと勉強しようと思いました。」
「今日は沖縄の小学校と一緒に、自分の県の魅力を発表しあいました。私のチームでは、方言について話しました。青森県には、南部弁、下北弁、津軽弁の3種類があるとわかりました。雪の降る時間が長いことは、北海道だとみんなが思っていたけど、青森だとわかってびっくりしました。」
他者を知れば知るほど、自分たちについても深く知ることができるのだと感じました。これも、あたたかい地方の沖縄に住んでいる子供たちという「人」に、寒い地方の暮らしについて伝えたい、という思いがあったからこそだと思います。「人」を中心に据えて学習を進めてよかったと感じています。
また、この交流会をすることによって、この後の社会科授業で「あたたかい土地のくらし」についての学びを深めることができたと感じています。
写真(上)は発表会を終えたあとの授業板書の一例です。沖縄の家にはタンクがあることを発表会で学ぶことができました。そこで、「新しい家はどんどんタンクがなくなっていっていること」について提示すると、子供たちにとっては大きな驚きになりました。
沖縄の子供たちから聞いたことによって「生きた知識」になっていたわけです。
そしてこの驚きをもとに、地下ダムや浄水処理の技術などが高まっていることをあわせて学ぶことができました。これも、沖縄の子供たちという「人」から聞いたことや、暮らし方をイメージできるからこそ知識が定着しており、実際にイメージをもって学習できたのだと感じています。
ただ、今回のオンラインでの交流会は、結果的にお互いに一方的な発表になってしまいました。もっとお互いに意見交流しながら深め合えたら……という反省が残りました。
そこで、次はZoomのブレイクアウトルームを活かした小グループでのオンライン授業を行うことにしました。その実践については、次回お伝えしようと思います。
執筆者:三浦健太朗(みうら・けんたろう)
青森県公立小学校教師。1981年生まれ、北海道出身。「授業てらす」1期生/社会科リーダー。社会科東北大会の授業者を経験。自治体を代表して中国交流事業に参加。教育センターの研究員として2年間従事。