はじめに【「算数つまずき防止」ここがポイント!#1】


算数は一つつまずくとその後の学習が進みにくくなる教科ですが、どのような授業づくりをすれば、つまずきを防止できるのでしょうか。今回は全学年共通の内容を中野博之・弘前大学教授に伺いました。

執筆・監修
中野博之(なかのひろゆき)
弘前大学教授。1960年東京都生まれ。83年東京学芸大学卒業、東京都公立小学校教諭。93年、兵庫教育大学大学院修士課程修了。99年、東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。2007年、弘前大学教育学部助教授。11年、同学部教授。同学部附属教員養成学研究開発センター長、同大学院教育学研究科教職実践専攻長などを経て、22年より同大学教育学部副学部長・同学部附属学校園統括校長。
目次
原理に関わる大事なことは繰り返し確認し、印象付ける
日本のカリキュラムはとてもよくできており、特に算数は系統的に非常に整理をされています。内容についても、「こういうことを理解するためには、先にこういうことを理解しておかなければいけない」という順番をきちんと踏まえています。それだけに、子供たちが学習する内容を順に理解して身に付けていかないと、その後の学びがうまく進まなくなってしまうのです。子供たちが算数嫌いになってしまう大きなきっかけの一つには、そうしたつまずきがあります。
ただし、算数の原理に関わるような重要な内容は繰り返し出てきますから、1時間あるいは1単元で無理に理解を図ろうとするのではなく、繰り返し確認することで、より確かな理解を図っていくことが必要なのです。
例えば、1年生で学習するたし算、ひき算で学ぶ「10の塊をつくる」ということは、十進位取り記数法の原理であり、その後の算数の学びの基盤でもあります。このような「10の塊をつくる」とか、「10の塊といくつ」という考え方は、何度も出てきます。例えば、繰り上がりのあるたし算で、3+9を計算するならば、「3を1と2に分けて、9と1をたして10の塊と残りの2で…」となります。繰り下がりのあるひき算ならば、13ー6を計算するときに、「13を10の塊と3に分けて10から6をひき…」となるわけです。そのたびに「ほら、以前も10の塊といくつ、ってやったよね」と、繰り返し示してあげることがとても大切なのです。
そうではなく、単元ごとに別のものとしてしまって、「はい、繰り上がりのあるたし算のやり方を覚えましょう」、「はい、今度は繰り下がりのあるひき算のやり方を覚えましょう」というように、別のものとしてしまっては学びが深まっていきません。子供は繰り返し学習しないと忘れてしまうから確認が必要ということはもちろん、数学的な原理の部分は理解することが難しいので、1回、2回教えたらすぐに定着すると考えずに、繰り返し「ほら、今回も出てきたね」と印象付けていくことが大切なのです。
1時間、1単元の中で見方・考え方を働かせるための方法
こうした指導上の配慮は、現行の学習指導要領でのキーワードの一つである「数学的な見方・考え方」ということにもつながります。数学的な見方と考え方を明確に区別することは難しいと思いますが、学習指導要領の解説を参考にすれば、「発展的に考察する」「統合的に考察する」ということがポイントになると思います。これらを合わせて、ごく簡単に言い換えれば、考え方を広げ「同じものと見る」と言えるでしょう。
先に説明をした「10の塊をつくって考える」ということは、繰り上がりのあるたし算でも、繰り下がりのあるひき算でも同様に出てきましたよね。そのように「あそこで使ったことが、ここでも使えるね」というのが、まさに「同じものと見る」ということです。そう考えると、見方・考え方を働かせるということについての、先生方の指導も少し楽になるのではないでしょうか。
見方・考え方を1時間の授業内で働かせるためには、一つの問題の解決方法を子供たちが三つくらい出してきたときに、「その三つの方法に共通することは何かな」と考えさせてみることが大切です。すると、先の1年生の学習ならば、「10の塊をつくるときのやり方は違うけど、みんな10の塊をつくっている」ということが出てくるでしょう。そのように、1時間の中で同じものと見ることも大事な見方・考え方です。
さらにそこから単元の中で、「じゃあ、今までこんなやり方はしてこなかったっけ?」と問い返してみるのです。すると、子供たちから「前の~のときにも10の塊をつくったよ」と返ってくれば、「ああ、あのときにも使ったことが、ここでも使えるんだね」というようになり、次の学習にも生きてくるでしょう。それこそが深い学びにもつながっていくものだと考えています。
それは、分数や小数の学習ならば単位の見方・考え方というものが繰り返し出てきます。「[MATH]\(\frac{1}{3}\)[/MATH]を単位と見たらどうなるか」とか、「0.1を単位と見たら、整数と同様に考えられる」というようなものです。そのように、「今日、この問題が解けた原理は何だろうか」ということを見せていくことが大事なのだと思います。それが子供の中に根付いて、「この問題も同じような方法でできないかな?」と考えられるようになることが大切だと思います。
加えて、そのような見方・考え方を根付かせていくためには、やはりノート指導が大切です。「前にも似たようなことをやらなかったかな?」「あのときはどう考えたかな?」と、子供たちが自らふり返ることができるようなノートを作っておくことが必ず役立つのです。