小学校の「探究学習」授業づくりやテーマ例紹介<前編>
東京都・三鷹市教育委員会は、勉強を教えない興味開発型の塾として注目を集める「探究学舎」の協力を得て、「探究的な学び」の視点を取り入れた授業づくりに取り組んでいます。その成果発表の会「探究カンファレンス」の様子をレポート! 「探究的な授業づくりの具体例が知りたい」という声は、みん教のサイトアンケートでも多く寄せられてきました。このカンファレンスで発表された授業内容と課題を紹介しますので、ぜひ、授業づくりのヒントにしてください。
目次
全国から注目が集まる塾と教育委員会のコラボ
三鷹市に拠点を置く「探究学舎」は、受験も勉強も教えない、興味開発・探究型の塾。TBSの番組「情熱大陸」(2019年)で取り上げられるなど全国区で(海外からも!)注目を集めています。約1年前から三鷹市教育委員会はこの探究学舎と協同してプロジェクトを立ち上げ、子供たちが自ら学びたくなると評判の探究学舎のノウハウを三鷹市の小中学校の先生むけに伝授する研修をしてきました。
探究学舎が伝授した探究的授業づくり秘伝の3要素
約30人の三鷹市の先生が半年にわたって自主参加した研修では、探究学舎の授業づくりの核ともいえる3つの要素がシェアされました。
その要素が、「帰納的学習法」「ドラマツルギー」「ドライビングクエスチョン」。
それぞれ、簡単に紹介をします。
●帰納的学習法…「帰納」とは、個々の具体的な事柄から一般的な命題や法則を導き出す思考法。例えば、分数の割り算を学ぶ時、ピザやみかんを分けながらもやもやする気持ちの解決を目指すのが帰納的学習法。一方、計算のルールを教えられた上でそのルールを使って問題を解くのが演繹的学習法。人は情報よりも体験に感動する性質があるので、驚きと感動をもたらすのは前者のほう。そして、驚きと感動こそ「もっと知りたい!」という探究心に火をつける起爆剤。よって、帰納的学習法は探究的な学びを加速させると探究学舎は捉えています。
●ドラマツルギー…ドラマ脚本などで使われる、感動を引き出すための「劇的欲求」「葛藤」「解決」の3つの展開。帰納的学習法を成功させるテクニックのベースです。例えば、「弱いチームだけど甲子園に行きたい!」(劇的欲求)と思った主人公が、チームメイトが退部したりといった葛藤を乗り越えて出場を勝ち取る(解決)と感動が生まれます。さっさと甲子園出場が決まったら感動しません。探究学舎では、子供たちが主人公となって感動体験ができるよう授業を設計しています。
●ドライビングクエスチョン…疑問に思わずにいられない問いのこと。授業の中で劇的欲求をもたせるには、子供たちが疑問に思わずにはいられない「劇的な問い」が必要です。空気とは何かを調べるために真空実験を行ったロバート・ボイルの話をした後に「真空状態のビンの中にある時計はどうなったでしょう?」と問うのは、探究学舎におけるドライビングクエスチョンの代表例。(正解は、音が聞こえなくなる。ですが、子供たちはこう聞かれると、「停止?」「爆発?」などワクワクしてしまうのです)。劇的な問いを与えた上で「なぜだろう? どうしてだと思う?」とあおり、「葛藤」を与え、ドラマを加速させています。
これらの要素を学んだ上で、自分のやりたいテーマで授業をつくり、発表する晴れ舞台がこの探究カンファレンス。では、提案された授業をご紹介します。
提案授業 「コンピュータ開発の果てしない歴史」
授業者:三鷹市立大沢台小学校教諭 大久保秀晃
授業全体の概要(45分)
コンピュータとは何か? どのような歴史で今に至っているかをクイズ形式で紹介。性能は高めながら小型化が進んできたことを、コンピュータと計算で勝負したり、半導体やトランジスタなどの実物も実際に触りながら、実感させていく。
コンピュータの開発が急速に進んだ背景には、宇宙開発が大きく関係していたことを伝え、アメリカ対ロシアの宇宙開発対決の結果を予想させる。しかし実は、コンピュータを最初に作った目的は、戦争に使うためであったということを伝え、「みなさんはコンピュータをどんなことに使いますか?」という問いかけをして終わる。
クイズ形式の発問を駆使して、子供たちの興味を引き付けたが…
授業の導入では、
「コンピュータはどれでしょう?」(1カレーライス 2えんぴつ 3歯ブラシ 4iPad)
「コンピュータが入っている物はどれでしょう?」(1犬 2信号機 3ランドセル 4エレベーター)
「教室にあるコンピュータを探してみよう!」
などといった、簡単に答えられる質問を多用し、教室の空気をあたためていった大久保先生。
しかし、このパートがかなり長く、その後の展開を圧迫することになってしまいました。
大久保先生が通販で購入したという真空管やトランジスタの実物を子供たちに実際に触れてもらいながら、当時のコンピュータとの計算対決でその処理速度を体感させ、いかに小型で計算速度の速いコンピュータが作られてきたかが理解できるようにしていきます。さらに、現在もスマートフォンなどで使われている集積回路の発見によって開発は飛躍的に加速し、当時アメリカとソ連で加熱していた宇宙開発を支えたことなどをスライドやドラマのシーンを見せながら解説。授業終盤には、そもそもどうしてコンピュータは生まれたのか? その一番はじめのきっかけは、戦争のためだったという事実を明かします。暮らしを豊かにする面だけではないコンピュータの使い方について触れ、「みなさんはコンピュータをどんなことに使いますか?」という問いを投げかけて授業は終わりました。
子供たちの感想
楽しかったし、コンピュータの歴史がよく分かった。
アメリカ対ロシアの宇宙対決ははじめ、アメリカがぼろ負けしていたけど、最後の月面着陸はアメリカが勝利。あきらめなくてよかった。
コンピュータが宇宙にも関わっていることが知れてよかった。
コンピュータがこんなに歴史があったことを知らなかった。
探究的な授業づくりには、要素の絞りこみと時間配分が大切
授業後、大久保先生に感想を聞きました。
「私は教職につく前、コンピュータ関連の会社で営業職をしていました。自分自身、コンピュータの歴史に驚きを持っていたので、それを子供たちに味わってほしいと思い、このテーマにしました。
約一年をかけて準備してきました。でも、自分の思いが強すぎてしまって……伝えたい内容が多いあまり、結局は一方的な講義のようになってしまったのが反省点です。限られた時間で、子供たち自身が探究する時間をとるためにも、もっとこちらから伝える要素は削ったほうが良かったと思っています。
私が子供たちに探究してほしいと思ったのは、「みなさんはコンピュータをどんなことに使いますか?」なんです。コンピュータは生活を豊かにする面もあるけれど戦争で人を傷つける面もある、それを知った上で考え続けてほしい問いの種を、最後にはまけたのかなと思います。
今日の授業の課題を見直して、今後の学校の授業に活かしていきたいです。今年度四年生の担任をしているので、総合の授業ではより探究的な学びを増やせるよう引き続き考えてみたいと思っています」
■探究学舎では、この研修を様々な自治体へ広げていく予定です。
興味のある方は、こちらへお問い合わせください。
support@tanqgakusha.jp
■こちらの記事も併せてご覧ください。
小学校の「探究学習」授業づくりやテーマ例紹介<後編>
取材・文・構成・撮影/浅原孝子
いかがでしたか?
三鷹市の先生の探究的な授業づくりの探究は、まだまだ続きそうです。自分の好きなテーマで子供の探究心に火をつける授業をやってみたい!という先生は、ぜひ参考にしてみてくださいね。