小4道徳「ぼくらだってオーケストラ」指導アイデア
使用教材:「ぼくらだってオーケストラ」(東京書籍)
執筆/千葉県公立小学校教諭・東滝敦志
監修/千葉県公立中学校校長・大舘昭彦、文部科学省教科調査官・浅見哲也
目次
はじめに
「特別の教科 道徳」が全面実施され、「主体的・対話的で深い学び」の視点に立った授業改善が求められています。そのためには、登場人物の気持ちをただ追うだけの授業や決まりきった(当たり前の)答えを言わせたり書かせたりする授業でなく、教材に出てくる事象や、それに伴って行った行為を自分事として捉えることが求められています。
そもそも児童自身が自ら問題意識をもたなければ、「主体的な学び」に向かう姿は期待できません。そこで、児童が常にねらいとする道徳的価値を自分事として考えることができるようなテーマを設定することが大切である、と考えました。
そのため、「ねらいとする道徳的価値」についての詳細な分析を行い、授業のねらいを明確化することから授業づくりを始めました。また、「対話的な学び」(協働的な話合いや議論)を促す工夫として、心情図により登場人物の心の葛藤や変化を視覚化したり、色チョークや矢印などを使い板書を構造的に示したりすることにより、「深い学び」につなげられるようにしようと考えました。
本稿では、『新訂 新しいどうとく 4』(東京書籍)の「ぼくらだってオーケストラ」の授業実践について紹介します。
授業までの流れ
1「ねらいとする道徳的価値の分析」・授業のねらい
・「友情、信頼」とは? 教材理解を深める。
2学習テーマの設定
・「やさしさ」に気付くために大切なことってどんなことだろう。
3授業教具の準備(心情図)
・やさしさに気付くてつおの心情を視覚化
4板書計画
5授業展開
▼心情図
「なつみ」のやさしさに「てつお」がどれだけ気付いたかを可視化することによって、気持ちの変化や友達のよさについて気付くことができるようにする。
▼ねらいとする価値の分析
【ポイント1】
「小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編」を読み、内容項目について、発達の段階ごとの指導の観点を理解する。
【ポイント2】
辞典などから、言葉の意味について調べ、理解を深める。
【ポイント3】
ねらいとする道徳的価値について整理し、指導者の考え、教材との向き合い方を明確にする。
【ポイント4】
本時における中心発問や議論する場面を設定する。
▼ワークシート
指導の概略(板書計画例)
導入
「友達にしてもらってうれしかったことはありますか」
- 教師の範読後、話の概要をつかみ、学習のテーマにつなげる。
展開1
「『なつみ』が教えてくれたのに、『てつお』が知らんぷりしたのは、どんな気持ちからでしょうか」
- 『なつみ』のやさしさに気付けない、『てつお』の気持ちに着目させる。(心情図①)
展開2
「『なつみ』が言ったことを思い出しながらリコーダーを吹いている『てつお』は、どんなことを考えているでしょうか」
- 『てつお』の気持ちの変化に着目させる。(心情図②)
展開3
「『なつみ』が自分のことのように喜んでいるのを見た『てつお』は、どんな気持ちだったでしょうか」
- どうして、『なつみ』がよろこんだのかを考え、『てつお』の気持ちの変化に着目させる。(心情図③)
展開4
授業をふり返り、テーマに迫る。「『やさしさ』に気付くために大切なことはどんなことだと思いますか」
- 友達のよさに気付かせる。
- 考えを発表し、議論をする時間を十分に確保する。
問い続ける学習テーマの設定
授業案作成に当たり、「ねらいとする道徳的価値」について分析を行い、指導者自身が、授業のねらいを明確化する作業から始めました。
- 「小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編」にある指導内容項目を明確にする。
- 辞典から、言葉の意味を理解する。
- ねらいに迫るため、指導者の価値理解や解釈を整理する。
- 本時における学習のテーマや中心発問を設定する。
道徳的価値の分析から見えてきたこと
「友達」とは、どういう存在なのか、その捉え方によって、友達の行為をおせっかいと感じるか、やさしさと感じるか、違いが生じてきます。友達とは、どういう存在なのかについて考えること、また、どうして、「てつお」が「なつみ」のやさしさに気付いたのかを考えさせることが、この教材を扱うときのポイントになってきます。
そこで、「てつお」が「なつみ」のやさしさに次第に気付いていく場面を通して、友達のやさしさに気付くためにどんなことが大切なのかを、学習テーマとして設定しました。
板書の工夫(心情の視覚化)
教材によって、考えの対比を分かりやすくするために、テーマを黒板の中央に記し、そこから左右に展開する場合や、右から左へ時間の経過とともに考えの変化を見やすくする板書構成を基本としてきました。
この教材に関しては、話の流れとともに、「てつお」の心情が変化していくため、時系列で示していくこと(児童にとっては時間の流れは、右から左へ書かれていることに慣れている)が児童にとって分かりやすく、ふり返って考えられます。
さらに心情の変化を視覚化するため、矢印を使ったり、「なつみ」が「てつお」のために働きかける部分を色チョークで囲ったりすることで、「てつお」の心情の変化を明確化しました。
心の葛藤や少しずつ友達のよさに気付く様子を目に見える形で表す心情図は、一時間の授業における心情の移り変わりを視覚的に捉えることができるため、効果的であると考えました。
実際に行った授業でも、0(ゼロ)だったメーターが満タンにまでなる、「てつお」の気持ちに話合いを焦点化することができたため、児童の考えを深めることができました。
教科調査官からアドバイス
文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・浅見哲也
中学年の「友情、信頼」という内容項目は「互いに理解し、信頼し、助け合う」と示されており、一方的な親切ではなく、相手との関わりにおいて、親切にするほうもされるほうもどのような気持ちになるのかをていねいに扱いながら考えることが大切です。結果的には「友情、信頼」にたどり着くことができます。
「教えるのは好きでも、教わるのは嫌い」という児童の実態があっても、このような気持ちを確認する機会はなかなかありません。こうした人間理解ができるのが道徳科のよさとも言え、東滝先生は、教材の特徴を生かしながら、親切にされても素直に喜べない気持ちがあることを共有しています。
しかし、親切にしようとした側にも思いがあります。「てつお」を通してその気持ちを確かめながら、ハート型の心を表すメーターを使ったり、色チョークや矢印などで板書を工夫して可視化したりすることで、児童自らが相手の気持ちを受け止めようとする気持ちの変化に気付くことができたと言えます。
『教育技術 小三小四』2021年3月号より