歴史カードゲームを使って主体的・対話的に学ぶ! 東京学芸大学附属竹早小4年授業レポ

2020年度から全面実施された新学習指導要には、「主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善」について規定され、アクティブ・ラーニングの重要性がさらに高まっています。

今回は、ユニークな歴史カードゲームを用いたアクティブ・ラーニングを実践する、東京学芸大学附属竹早小学校・上野敬弘先生の4年生授業を紹介します。

「田んぼウォーズ」というカードゲームを使った授業
「田んぼウォーズ」というカードゲームを使ったゲーミフィケーション型授業

ゲームを取り入れ、楽しく学ぶ

ゲーミフィケーションという単語を聞いたことがありますか? ゲーム化を意味する「ゲーミファイ」という単語が語源となり生まれた言葉です。「身の回りのことにゲームの要素を取り入れ,人を楽しく、やる気にさせること」を言います。

概念自体は新しいものではありませんが、ゲームの要素を活かすことで多くのメリットがあることから、数年前からさまざまな分野で使われるようになりました。また、インターネットとの相性がよいので、ICT化が進む教育現場でも、少しずつ学習に取り入れられています。学習に取り入れることで、「楽しみながら目標達成へのモチベーションを高められる!」と、今注目を集めています。

東京学芸大学附属竹早小学校・上野敬弘先生の4年生の学級では、「自己実現活動」の授業に歴史をテーマにしたカードゲームを取り入れ、ゲーミフィケーションを実践。子供たちが主体的で対話的に学ぶ様子が見られました。その実践例を見てみましょう。

上野敬弘教諭

上野敬弘(うえの・たかひろ) 東京学芸大学附属竹早小学校教諭。東京学芸大学教育学部中等教育教員養成課程社会専攻(社会科教育学)、東京学芸大学大学院教育学研究科社会科教育専攻社会科教育コース修了(修士・教育学)。都内の公立小学校教諭などを経て、2019年より現職(2020年4月より研究主任)。教員歴14年目。日本社会科教育学会・幹事(国際交流委員会委員)。分担執筆に『70の事例でわかる・できる!小学校オンライン授業ガイド』(明治図書出版)等多数。

子供たちの興味を引きつけるゲームで学びを促進

今回、4年1組では「自己実現活動」の授業で、遊びながら歴史と農業の関わりについて学べる「田んぼウォーズ」というカードゲームを使った授業を行いました。以前、社会科の授業で「東京都の歴史」について学んだことを思い出しながら、その中の「昔の人々の暮らし」について、カードゲームを使ってふり返りました。

上野先生 ゲーミフィケーションは、ゲームの要素を授業に活かすことで、「特定の学習に対して苦手を感じる子供たちの、心理的不安要素を軽減する」とともに、「物事の本質に疑似的に体験することができる可能性を秘めている」と考え、今回は、その実証を行うために「田んぼウォーズ」を活用します。

子供たちに、関連のないゲームを取り入れても、興味をひかないこともあります。まずは、「これまで学んだこと」「今、子供たちの間で話題になっているもの」などをテーマに、ゲームを選ぶといいですね。そうすることで、「主体的・対話的な学びを促進」することができるのではないでしょうか。

また、「田んぼウォーズ」には、子供たちの興味を引きつけるイラストが数多く使われているので、飽きずに取り組め(「学習意欲を維持」)、かつ、これらのキャラクターを介することで、複雑な歴史上の出来事も楽しく学ぶことができる(「複雑な概念も理解しやすくなる」)と思います。

自己実現活動とは……子供自ら課題や問題を見つけ、それを解決していく過程を重視した、教科横断的・総合的で探求的な学習活動のことを指します。その目標は、「①課題や問題を解決していく過程において、主体的で協同的な姿勢や態度を育成すること」「②幼児期から児童期の子どもの発達や学びの連続性を踏まえ、幼稚園教育における遊びを中心とした学習の芽生えから、活動に自己を関与させながら活動を内容的に発展させると同時に、学び方や活動への取り組み方を自覚的に深化させること」とし、文部科学省の教育課程特例校制度を活用して「自己実現活動」という教科を設置しています。

田んぼウォーズ

田んぼウォーズとは……古代日本を舞台としたカードゲーム。プレイヤーは農民となって、たった一つの田んぼからスタートし、アイディアと戦略で、どんどん田んぼを増やします。「イナゴの大群」「税の取り立て」など、プレイ中にはさまざまな試練が待ち受けます。飛鳥時代、奈良時代、平安時代と経て、最終的に田んぼを何反まで増やせるかを競います。「大化の改新」「墾田永年私財法」など実際の歴史に即したイベントも発生し、ゲームを楽しみながら歴史や昔の人の暮らしを学べます。(発売:tanQ株式会社

学習の流れ

① 「めあて」を掲示する

まずは、授業の「めあて」を伝えます。

上野先生 「田んぼウォーズ」を使って、昔の農民たちが天災や政治などに左右されながら生きてきた様子を、男女ペアとなり追体験してもらいます。その中で、農民たちの課題を自分に起きたこととして捉え、「解決するには、どうしたらよいか」を考えましょう。そして、その考えから、「よりよい社会を築くことができる」ということを、クラスみんなで考えていきたいと思います。楽しみながら、「自ら課題に向き合い、解決するために行動する力」を育みます。

②ゲームの進め方を説明する

子供たちに、実例を交え、ゲームの進め方を紹介します。

上野先生 今は「お金」を使って、みんなはいろんなものを買っているね。お金を持っていると豊かな感じがすると思うけれど、「東京都の歴史」を学んだ際、豊かさの象徴として、どんなものをたくさんもっている人が、豊かだったか覚えているかな? 

子供たち 「田畑が学習の中で出てきたから、お米とかの食べ物じゃないかな!?」「あっ、そうだ、食べ物だ。『なんごく』とか出てきた!」「なんごく……『何石』って、お米、お米の単位だったような気がする」……。

上野先生 みんなよく覚えてたね。そうだね、昔の人の豊かさの象徴には、お米が関係していたね。今日は、そのつながりで、「田んぼウォーズ」というカードゲームをプレイしてみるよ。

「田んぼウォーズ」は、田んぼ札と時代札に分かれています。田んぼ札はいま持っている田んぼの枚数を表します。時代札は「飛鳥時代」「奈良時代」「平安時代」にわかれ、それぞれ発生する出来事が表示されています。まず、田んぼ札を専用シートに順番に置きます。次に時代札の中から飛鳥時代だけを選んでシャッフルし、専用シートの山札の位置に置いて、そこから5枚引いて手札にします。この手札を使って、田んぼを増やしていくよ。どれから使うかが、田んぼを増やすコツだね。

 男女ペアとなり、「田んぼウォーズ」の説明書を読む子供たち。田んぼを増やす方法について、仲良く話し合う。
男女ペアとなり、「田んぼウォーズ」の説明書を読む子供たち。田んぼを増やす方法について、仲良く話し合う。

実際にゲームをプレイする

実際に、田んぼウォーズを使って学習していきます。

上野先生  田んぼ札は、みんな1反からスタートするよ。「たん」は、田んぼを数える単位だね。「反」は、もともとは米1石の収穫が上げられる田の面積として定義されたものだったんだよ。

子供たち 5枚引いた手札の中に、「5反もらえる」って書いてある札があるよ。「牛馬を買う」とも書いてある。まずはこれを使って、田んぼを6反にしよう! 一枚札を使ったから、一枚手札を補充して。

↓

手札に、「大豊作」と書かれた札がある。田んぼが2倍になるんだって。これを次に使おう。12反になったよ。また、一枚札を補充して。

↓

「班田収受の法」って書かれている手札があるけど、「班田収受」ってなに? 田んぼ10反増えるってことは、22反になった!

↓

「イナゴだ!」と書かれた札が残っているけど、これ、いつ使おう!? 田んぼ5反没収されちゃうから、使いたくないな……。

上野先生 飛鳥時代の山札をすべて引き、使い終わったら、一度、田んぼが何反になったか、数えてみましょう。 田んぼが0反になってしまうとゲームオーバーです。平安時代までゲームを進めて、ゴールすることができるかな?

 「最後に何反になったかな?」17班それぞれの結果を大型スクリーンに映して共有。3000反を超えたチームがいる一方、残念ながら0反で終えることになったチームもいた。
「最後に何反になったかな?」17班それぞれの結果を大型スクリーンに映して共有。3000反を超えたチームがいる一方、残念ながら0反で終えることになったチームもいた。

④ゲーム結果を、みんなで考える

ゲームを終えた後は、クラスみんなの情報を共有し、それぞれの結果について考えます。

上野先生 では、まずは、どうして0反になってしまったかを考えてみようか。

子供たち 「『大豊作』『新田開発』『牛馬』など、田んぼを増やせるカードを先に使ってしまった」「『悪い国司があらわれた』『年貢を納める』など、せっかく増やした田んぼを悪い人たちに持っていかれてしまった」「『干ばつ』『イナゴの大発生』など、天災にも見舞われてしまった」……。

上野先生 いろんな意見が上がったね。

 子供たちが考えた、田んぼが増やせなかった理由。
子供たちが考えた、田んぼが増やせなかった理由。

課題の解決策を、みんなで話し合う

なぜ、0反になってしまったのかを考え、見えてきた課題の解決方法を、クラスみんなで話し合います。

上野先生  じゃあ、どうすればそれを解決できると思う? 安心して田んぼを耕し、増やす方法は?

子供たち 「悪い人に、田んぼを奪われないように『治安をよくする』」「政治的な背景として『年貢をたくさん納めなくてもよくする』」「自然災害に負けないように対策をする」……。

どうしたら安心して耕せるのか、みんなで考えて上がった意見。

上野先生 なるほど、では「治安をよくする」には?

子供たち 強い人を雇う!

上野先生 そんなに財力があったっけ? 「他の人の力」を借りなくても田んぼを増やす方法はあるかな?

子供たち 「自分の力」でできることって、何があるかな……。悪い人が入ってこないように、「罠を仕掛ける!」「田んぼの周りに柵を作る」「引っ越す」「反撃する」「悪い人から米を取り戻す」……。

上野先生 今、みんなが考えたことを分けて考えてみようと思います。強い人を雇うってさっきあったけれど、これは自分が新しく田んぼを耕したものを守るために何かを自分でするってことなのかな?

子供たち 違うと思う。これは、人任せって感じになってしまうと思う。

上野先生 なるほど。そうすると、こっちの「みんなで考えたことを、自分たちでする」っていうのはどうかな?

子供たち 「先生、こっちだと自分たちで問題を解決しようとしていると思う!」「これができたら、悪いことを断ち切れると思う!」……。

上野先生 どういうこと?

子供たち 「田んぼをたくさん持っている」ところから、国司が来て「1反だけ残されて」、ギリギリのところからまた作って増やして、たくさん田んぼを持てるようになるけれど、そうするとまた国司が来て少なくなる。でも、みんなで考えたことを自分たちがすれば、悪い状況を断ち切れると思う。

上野先生 そうすると、こういうことかな? つまり、1反だけ残すということがなくなるから、作って増やすというサイクルになって、たくさん田んぼを持てるようになると。そうすると、みんな豊かになれると。

子供たち うん、そういうこと。でも、運もあると思う。

上野先生 どういうこと?

子供たち 札を引くまで、何が出るか分からない。それは、今も同じで先のことは分からないから、悪いこと全部が防げるということでもない。

上野先生 なるほどね。未来は分からないということかな。今のコロナみたいな。

子供たち うん、そう思う。

田んぼを増やせなかった理由をもとに、クラスみんなで「どうしたら増やせるか」を話し合う。
田んぼを増やせなかった理由をもとに、クラスみんなで「どうしたら増やせるか」を話し合う。

ワークシートでふり返る

最後に、「カードゲームをしてみてどうだったか」を論理的にふり返ります。

上野先生 ゲームをしてみてどうだった?

子供たち 楽しかった! またやりたい!

上野先生 特に、どんなところが楽しかった?

子供たち 「飛鳥時代の人々の暮らしが体験できた」「どうしたら田んぼが増やせるか、考えるのが楽しかった」「『班田収受の法』『大化の改新』など、知らなかった歴史上の出来事を学べた」 「2人で話し合ったり、協力したりしながら、楽しくゲームができた!」「歴史ばかりでなく、算数や国語の勉強にもなった」「治安をよくするという課題に向けて、みんなで解決策を話し合えた」 ……。

上野先生 みんなたくさんのことを学べたね。今日のゲームをきっかけに、歴史についてもっと学びたいと思いましたか?

子供たち はい、新しく知った歴史上の出来事について、調べてみたくなりました。

上野先生 今日の活動から、大切に思ったことや新しく気付いたことを、ワークシートに書いてみましょう。

活動のまとめ

今日の活動から子供たちが「大切に思ったことや新しく気付いたこと」

  • いろいろなことがあっても、「何ができるか、どんな対策をできるか」ということを、日ごろから考えることが大切だと思った。
  • やはり、今も昔も運や自然などで理不尽なこともあるけれど、「自分でよく考え、対策をしていって、幸福を手に入れることが大切」と今回の勉強で知りました。また、遊んでみたいです。
  • 今も昔も自然による悪いことや、人物による悪いことはあって、それを防ぐ対策を考えて行うことが大切だと考えることができた。
  • 昔は、苦労して育てたお米を、簡単に国司に取られることがあった。そのことを知って、今いっぱいお米を食べられる嬉しさに気付きました。
  • よいことや悪いことが立て続けに起きても、めげずに頑張っていくことが大切なんだと思いました。ゲームの結果は0反でしたが、いろいろなことに興味をもてました。特に、今回使ったカードゲームに出てきた、紫式部と清少納言に興味をもちました。
  • やっぱり昔から悪い人はいたんだなと思いました。今は高価なものが増えて狙う人も多いけれど、昔はそういうものがあまりなかったから、悪い人はお米を狙ったのだと思いました。
  • 昔の人のつらさが分かった。歴史について知ることは大切だと思った。

    ※子供たちがワークシートに記入した一例です。

子どもたちは、「田んぼウォーズ」をプレイすることで、たくさんのことを楽しく学び、新たな知識を増やすこと(「知識の定着」)ができました。また、ゲームの後で、みんなで話し合うことで、フィードバックとなり、さらなる目標も生まれたようです。


「自己実現活動」にカードゲームを使ったゲーミフィケーションを取り入れる、東京学芸大学附属竹早小学校・上野敬弘教諭の授業をご紹介しました。ゲーミフィケーションを取り入れた活動、あなたのクラスでも取り組んでみてはいかがでしょうか。

取材・文/青木真理

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