小6総合「リーダーシップ」がテーマ!主体的に学び合う時間の授業例
新学習指導要領には、「どのように学ぶか―主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニングの視点からの授業改善)―」について明記され、日本の小学校における教育のあり方が大きく変わろうとしています。教育現場では、「教師が一方的に話をし、子供たちが聞く」という受動的な学習ではなく、「子供たちが自ら考え、行動を起こす」という主体的な学習へのアプローチがより一層、重要視されます。
今回は、体験学習やグループ学習、カードゲームを取り入れた学習などを授業に取り入れ、積極的にアクティブ・ラーニングに取り組む、埼玉県坂戸市立入西小学校の6年生を取材。学年主任の山下揺介先生にお話をお聞きしました。
山下揺介(やました・ようすけ) 埼玉県坂戸市立入西小学校教諭。東京学芸大学教育学部障害児教育学科修了後、埼玉県の小学校教員として勤務。教員歴12年目。特別活動、体育、キャリア教育を中心に活動。 現在は、6年の学年主任として、各教科単元に企業や地域などの人材が関わることで『公立学校と社会がつながる授業』を実践中。 教師同士がつながり、自己実現できる場『みんなの職員室』発起人。常識・非常識というバイアスにとらわれない教育活動に価値を見出し、自分軸の教育を実現していく「未来の先生」になりたい人が集まる場所『UNPORTALISM Education』コアメンバー。
目次
「リーダーシップ」をテーマに、年間70時間を主体的に学び合う時間に
入西小学校6年生では、学年団で話し合い、総合的な学習の時間に「入西小リーダーの流儀」という授業をもうけ、年間70時間をあてています。この授業では、アクティブ・ラーニングでも重要視される「リーダーシップ」をテーマに、経験豊富な大人たちの話を聞いたり、地域と連携した活動に参加したりする中で、「自ら考え」「(グループごとに、クラス全体で)学び合い」「視野を広げ」、結果的に「自ら問いを立て、課題を解決すること」をねらいとしています。
「何を知っているか、何ができるか(個別の知識・技能)」「知っていること・できることをどう使うか(思考力・判断力・表現力等)」「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう力、人間性等)」といった、子供たちに必要な「育成すべき資質・能力の三つの柱」を伸ばすことにもつながる取り組みです。
魅力的な大人が参加する「リーダー講演会でのインプット」と「縦割り活動で実践するアウトプット」を繰り返し、最終的には周囲への感謝活動につなげていくものです。一年間、さまざまな活動を通して、子供自身が「自己の生き方」を真剣に考えてもらいたいと思い、計画しました。
取組1:実社会で働く身近な大人の話を聞くことで、子供たちの主体性を育む
これまで「入西小リーダーの流儀」では、さまざまな職種の方に学校に来てもらい、彼らが考える「リーダーシップ」について講演いただきました。本校の校長を筆頭に、家電製品や産業機器等のデザイナーの方、教育教材を開発するベンチャー企業の方など、17名になります。「角度を変えると物事は違って見えるので、いろんな考え方を知ろう」「頑張っている人を、素直に応援しよう」など、講演者ごとの考えを聞いた後に、講演者とやり取りしながら、グループで話し合ったり、クラス全体で話し合ったりしました。
この時期、子供たちにとって、社会で活躍する大人の話を聞くことは、視野を広げるという意味でも、とても大切です。授業で話し合うだけでなく、授業後に、講演者の職業について新たに自分で調べる子供もいました。また、リーダーについて、これまで抱いていたイメージに、変化が生じた子供もいたようです。
取組2:地域と関わることで、子供たち自らが地域に貢献できることを考える
学校は、社会と切り離された存在ではなく、社会の一部です。それを踏まえ、「入西小リーダーの流儀」では、地域で人気のパン屋さんや昔から続く材木店の方などに協力いただき、授業を行いました。自分たちが住む地域の商店や企業と積極的に関わることで、子供たち自らが「地域への貢献」について興味をもち、「今、または将来的に、地域にどんな貢献ができるか」について、主体的に考えるようになったのではないでしょうか。
また、4年生のときには、学校近くの農家の方に協力してもらい、田植えの体験学習も行いました。地域と連携しながら、自分たちが毎日食べているお米がどのように作られているのか、身をもって体験してもらう授業です。一年間かけてお米作りを体験した子供たちは、農家の方がみんなのために普段から一生懸命お米を作ってくれているということを知り、感謝の念を抱くとともに、この体験を生かし、自分たちも地域に貢献できることを考え、話し合うよいきっかけになったようです。
6年生になった今でも、登下校の際、見守りをしてくれている農家さんに会うと、子供たちから率先して、元気よくあいさつをする姿が見られます。地域と連携しつつ、社会性や感謝の気持ちを育むことができたのではないでしょうか。
取組3:授業のふり返りにカード教材を取り入れ、子供たちの意欲を高める
6年生では、社会科の授業で初めて歴史を学びますが、歴史上の出来事や年号など、情報量の多さに、興味をなくしてしまう子供もいます。そんな授業でも、子供たちの興味を引き付け、主体的に学んでもらうために、カード教材を取り入れました。この授業も、「入西小リーダーの流儀」の一環として行いました。
今回の授業では、4年生で田植えを経験した子供たちにぴったりの、田んぼつながりのカード教材を使いました。プレイする子供たちは、農民となって、所有する田んぼを増やしていく『田んぼウォーズ』というカード教材です。例えば、飛鳥時代では、「大豊作」と書かれたカードを引くと田んぼが増えたり、「干ばつ」と書かれたカードを引くと田んぼが没収されたりします。カードを引くごとに、これまで学んだ知識と照らし合わせ、個人で考えたり、班ごとに話し合ったりする姿が見られました。
黒板や教科書に向かい、ただ情報を詰め込むよりも、カードをめくったり、それについてみんなで話し合ったりするアウトプット型の授業のほうが、学びへの意欲も高まります。授業の最後には、講演者を交えクラス全体で昔の人の気持ちになって、「リーダーのあり方」について活発に話し合っていました。
取組4:一年間学んだことをもとに、子供たち自らが問いを立て課題を解決する
三学期に入ると、「入西小リーダーの流儀」で一年間通して学んできたことを活かし、「自ら問いを立て、課題を解決する」授業を行いました。今の入西小の実態から問題点を見付け、解決に向けて活動してもらうものです。その際、6年間過ごした入西小への「感謝の気持ちを表すこと」をキーワードとしました。
キーワードをもとに情報を収集するうちに、下級生から「ジャンピングボードが古くて、使いにくい」という声を聞いたといいます。そこで、6年生は、すぐさまジャンピングボードの状態を確認したり、休み時間にジャンピングボードを使っている下級生を観察したりしていました。
その結果をクラスに持ち寄り、みんなで話し合い、困っている下級生へ感謝の気持ちを込めて、木製のジャンピングボードを作り、贈ることになりました。
まず、ボード作りを教えてくれる材木屋さんから探すことになりました。保護者や教員に聞くうちに、PTAの副会長さんが木材屋さんであることが分かりました。入西小からも近いことから、本校の教頭にクラスみんなでお願いし、つないでもらいました。
その後、PTAの会費から木材を購入し、材木屋さんに学校まで来てもらって、作り方を教えていただきました。指導いただいた材木屋さんからは、「入西小の6年生が、下級生のためにジャンピングボードを作ろうと試みたことは、素晴らしいですね。みんな上手にできましたね」とうれしい言葉をかけてもらいました。
また、ジャンピングボードを贈られた下級生も、「新しいジャンピングボードになって、テンションが上がった!」「休み時間の楽しみが増えた」と言っていました。これに対し、6年生の子供たちも、下級生が実際にジャンピングボードを使って嬉しそうにしている姿を見て、とても喜んでいました。
入西小6年生では、一年間をかけて「入西小リーダーの流儀」で主体的に学んできました。ジャンピングボードの作成の他にも、「校内田んぼをつくろう」「水道や倉庫に絵を描こう」「地域の川をきれいにしよう」「ミニサッカーゴールをつくろう」などの体験学習を通して、「自ら問いを立て、解決する」 という課題に取り組み、たくさんのよい成果を残せたことは、小学校生活のよい締めくくりとなったのではないでしょうか。
取材・文/青木真理