国語の教材分析④ ~分析の観点「冒頭」~
Instagramでは1万人超えのフォロワーに支持され、多くの女性教師のロールモデルにもなっている樋口綾香先生による人気連載! 国語の教材分析シリーズ第4回は、「冒頭」を切り口に教材を読み深めていくポイントについてお伝えします。
執筆/大阪府公立小学校教諭・樋口綾香
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目次
①昔話の冒頭と比較する
前回、物語の冒頭には、お話の設定である「時・場所・人物」が書いてあることが多いとお伝えしました。
この「時・場所・人物」の中で、「どれが最も多く説明されているか」や、「お話の設定以外の文は、何について詳しく書かれているか」と考えることがポイントです。
たとえば、『三年とうげ』の冒頭では、「時・場所・人物」の中で、「場所」である三年とうげのことが18行に渡って語られています。人物の紹介が書かれるのは19行目からです。
昔話のよくある冒頭である「むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。」と比べると、場所の説明が特に多いことが分かります。
このことから、このお話では、三年とうげという場所が大変重要(場所の言い伝えが変容する)であり、作者は、三年とうげがどんなところなのかを読者に印象付けたいのだと読み取ることができます。
児童と学習をするときには、冒頭を読み取る際、三年とうげがどのような場所であるか、それが事件や結末とどう結びつくかを考えていくとよいでしょう。
このように、昔話のよくある冒頭と比べることで、そのお話の何に着目して読めばよいかが分かります。
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②冒頭から語り手の視点や構造を読む
地の文を語っているのは「語り手」です。
冒頭を読むと、「語り手の視点」や、「構造」を読み取ることができます。
『ごんぎつね』の冒頭で考えてみましょう。
「これは、わたしが小さいとき、村の茂平というおじいさんから聞いた話です。」という一文から始まります。二文目からは、時、場所、人物について語られていきます。
冒頭の一文から分かることは、
- 語り手が「わたし」であること
- このお話は「茂平」から伝え聞いた話であること
- お話の中身は、二文目から始まること
です。
「わたし」は、物語の登場人物ではないため、二文目から語られるお話の語り手は三人称であるということになります。一文目のみ、一人称で語られているような形になっています。
そして、一文目の時は「今」、二文目からは「昔」になるため、この物語の構造は、額縁構造であることが分かります。
『やまなし』と同じ冒頭の形で、どちらも額縁構造になっていますね。
『やまなし』では、「小さな谷川の底を写した二枚の青い幻灯です。」という冒頭の一文があり、二文目からは、二匹のかにの兄弟の話になります。一文目の語り手の視点は、物語の外側にあり、限りなく作者に近い場所にいるように感じます。
ただし、『ごんぎつね』と『やまなし』は最後が異なっています。
『ごんぎつね』は、中心人物のごんが兵十に撃たれたところで物語が終わり、「今」に戻ってくることはありません。一方、『やまなし』は、「私の幻灯は、これでおしまいであります。」という一文で結ばれ、冒頭の一文と対になっています。
『ごんぎつね』では、冒頭の一文を活用して、「なぜ茂平はこの話を知っているのだろうか」と投げかけ、物語の続きを考える活動ができます。『やまなし』では、「なぜ冒頭と結末の一文を作者は入れたのだろうか」と問うことで、作者の意図や作品の主題に迫ることができます。
額縁構造になっていることで、作者が読者に伝えたいことは変わり、それに伴って読者の作品の受け取り方も変わってきます。
冒頭を分析することで分かる「語り手の視点」や「構造」を考えると、作者や作品の意図を感じながら授業づくりをすることができますね。
次回は、「事件と山場」についてお伝えします。
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樋口 綾香
ひぐち・あやか。Instagramでは、ayaya_tとして、♯折り紙で学級づくり、♯構造的板書、♯国語で学級経営などを発信。著書に、『3年目教師 勝負の国語授業づくり』(明治図書出版)ほか。編著・共著多数。
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