「異なり力」を引き出す ~ デザイン思考~

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坂本良晶の「学校ゲームチェンジ論」
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元京都府公立小学校教諭、Canvaエデュケーション アジア太平洋地域マーケティング統括マネージャー

坂本良晶

ビジネス界のマインドや手法を教師の仕事に落としこむエッジの効いた発信で多くの若手教師に支持される、”さる先生”こと坂本良晶先生の連載。子供の創造力が爆発する、「デザイン思考」を重要視した授業とは、どんなものなのでしょうか。

執筆/京都府公立小学校教諭・坂本良晶

「異なり力」を引き出す ~ デザイン思考~
Pixabay

子どもの創造力を刺激する

先日、4年生の算数科『調べ方と整理の仕方』という単元の授業で、面白いシーンがありました。「デザイン思考」という見方を伝えた途端、子どもたちの創造力が一気に爆発したのです。

今回は、デザイン思考という見方・考え方を生かした授業の在り方へのゲームチェンジについてお話しします。

ロジカル思考 × 学校

学校現場では、多くの場合において、「ロジカル思考」に価値づけがされます。要するに「論理的な答え」が良しとされます。しかしそれは、言うなれば「ありがちな優等生的答え」とも捉えることができます。

例えば、算数の授業における課題『自分の学校の保健室の来室状況のデータを整理し、問題を見つけて、その解決策を考える』において、ロジカル思考に基づく答えを例示するなら、

「低学年の廊下での怪我が多いから、高学年が委員会で廊下は歩こうと注意喚起する」「体育館でのねんざの怪我が多いから、準備体操をしっかりとする」

といったものが考えられます。

これらの答えは、複数のデータを整理・分析した上で論理的に答えを導き出すことができているので、評価されるべきだと思います。また、指導と評価の一体化という面から考えても、こういった答えを出す子どもをゴール像として授業を考えることが一般的だとも思われます。

デザイン思考 × 学校

ただ、個人的な本音を言うと、「こんな授業、何も面白くない……」。

授業の計画をしている時、そんな事を考えていました。そして今回、一つの仕掛けとして、「デザイン思考」という視点を取り入れました。

子どもたちに一枚の写真を見せました。床がグニャリと歪んでいるように見える廊下の写真です。これは、実際に歪んでいるわけではなく、いわゆるトリックアートと呼ばれるものが廊下に描かれています。

人間の心理に自然に訴えかけて、行動を変えようとする仕掛けなのです。

他にも、トイレの小便器に印をつけて飛び跳ねを防ぐ仕掛けは、デザイン思考における最も有名なものの一つです。また最近では、高速道路での渋滞防止のため、上り坂等により速度が落ちがちなポイントの壁に流れるライトを設置して、適切な速度で走れるよう促す、といった仕掛けもあります。

こういった工夫は、キカイによって生み出されることはなかなか難しく、ヒトの経験や直感から導き出されるものです。

「デザイン思考」は、これからの社会において、ヒトのみが持ち得る武器となるはずです。

算数『調べ方と整理の仕方』の授業例

4年生の算数科の単元『調べ方と整理の仕方』では、「複数のデータを必要に応じて適切に整理する」という知識・技能、「自分の見方を働かせ問題を特定し、その対策を考える」という思考・判断・表現を評価規準に設定して授業を進めました。

そして単元の最後の課題が、『自分の学校の保健室の来室状況のデータを整理し、問題を見つけて、その解決策を考える』というものでした。

デザイン思考という概念に触れて刺激された子どもたちは、実にさまざまな面白いアイデアを出してきました。

分かった事実
「運動場での擦り傷が多い」
考えた対策
「VRゴーグルをつけVR体育をする」

分かった事実
「廊下での打撲が多い」
考えた対策
「廊下にセンサーをつけて走っていたらブザーが鳴る」

分かった事実
「教室での打撲が多い」
考えた対策
「顔認証のカメラをつけ、暴れている人がいたら教室に設置されたスマートスピーカーが注意する。そしてお母さんのスマホに通知が行く」

このように、実現の可能性はともかくとして、ありがちな答えから脱却し、創造性を豊かに働かせる子どもたちが多く出てきました。

これらの答えはデザイン思考とは言えないものかもしれませんが、少なくとも、「優等生的な答えを言えば正解」といった呪縛から解き放たれた子どもたちの顔は、非常に生き生きしていました。

起業家教育

日本ではユニコーン企業(※)が少ないことがよく指摘されます。その理由の一つとして、 学校教育が、子どもたちの自由闊達な思考力を停止させてしまっていることがあるのではないでしょうか。

※ユニコーン企業……評価額10億ドル以上、設立10年以内で非上場のベンチャー企業。

日本の学校教育は、「決められた答えを早く正確に弾き出し、既存の価値を拡大すること(優れ力)」を伸ばすことに関しては大きな優位性を持っているものの、「自分だけの見方を生かして、新たな価値を創出すること(異なり力)」を引き出すのには全く適していないということは、これまでにも主張してきた通りです。

こういった問題を解決する一つの糸口が「デザイン思考」だと考えます。

また、デザイン思考を育むことは、いわゆるアントレプレナーシップ教育(※)という視点にも繋がります。

※アントレプレナーシップ教育……起業家的な精神と資質・能力を育む教育。

もちろん誰もが起業家になるわけではありません。

しかし、これからの未来の雇用の在り方の変化を考えると、誰にでもできる仕事はキカイに代替され、ヒトのみに出来うる活動がヒトの仕事として残っていくという潮流は、ある程度既定路線に乗っていると言えるでしょう。そう考えると、誰もが一定の「創造的な思考」を持つことが、仕事を勝ち取るためには必要となっていくはずです。

ありがちな答えを並べる力よりも、自分だけの見方を働かせた答えを紡ぎ出す力を価値づけることが、これからの時代を生き抜いていかねばならない子どもたちにとってのプラスとなっていくのではないでしょうか。

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坂本良晶先生
坂本良晶先生

1983年生まれ。京都府公立小学校教諭。前職では大手回転寿司チェーンで店長として全国売り上げ1位を記録するという異色の経歴をもつ教師。「教育の生産性を上げ、子どもも教師もハッピーに。」を合い言葉に日々発信するTwitter「さる@小学校教師」のフォロワー17000人以上。著書に『全部やろうはバカやろう』(学陽書房)、『MISSION DRIVEN』(主婦と生活社)などがある。

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