小4道徳「『仕事』がもつ力」指導アイデア

大学教員

佐藤幸司

執筆/新潟県公立小学校教諭・小林隆史
監修/山形県公立小学校校長・佐藤幸司

はじめに

子供たちは学校や家庭でいろいろな仕事をしています。では、なんのために仕事をしているのでしょう。

「○○すると、先生にほめられるから」や「お母さんにほめてもらえるから」といったように、ほめてもらえるから仕事をしているという意識の子供たちも多いことでしょう。

また、子供たちとの会話のなかからは、「□□するとお母さんに100 円もらえるんだ」という声を聞くこともあります。称賛にせよ、お金にせよ、仕事をすることで自分が何かを得られるということが動機になっている構造がそこにはあります。

大人の世界でも、同じような動機で仕事をしていることは大いにありますし、そのような動機でも、きちんと仕事をしていれば素晴らしいことです。

しかし、仕事をする動機が、そういった金銭や称賛などだけではないことも経験があるでしょう。例えば、人知れず行った仕事で、誰かが笑顔になってくれたとすれば、きっとその仕事をやってよかったと感じることができるはずです。

子供たちも同様に、仕事の向こう側にその仕事で幸せになってくれる人がいると考えることで、より意欲的に仕事に向かうことができると考えます。このように、新たな面から仕事を考えさせることができる授業を紹介します。

小4道徳「『仕事』がもつ力」指導アイデアのイメージ画像
写真AC

教材への導入

①(  )のなかに何が入ると思いますか。

(      )太郎

のように板書して、子供たちに聞きます。

昔話には「太郎」が付くものが多く存在します。それを自由に考えてもらうことで、楽しい雰囲気で学習を始めることができます。その過程で必ず「桃太郎」が出てきます。

そうなれば、子供たちから出た意見から本時で扱うポスターに自然につなげることができます。それは意欲をより喚起した状態で教材に出合わせることにもなります。

②犬・猿・きじの仕事はなんだと思いますか。

桃太郎の登場人物と、その仕事を確認します。昔話や桃太郎を想起して授業を始めることで、昔話のなかにしっかり入り込みながら考えることができます。

また、授業序盤でどの子も答えられる発問を行うことで、楽しく安心して授業に取り組ませることができます。

▼教材ポスター

▼ワークシート

ワークシート

※(  )内の文字は授業のなかで子供たちに書かせます。

実際の授業展開

タイトル
きび団子のため、だけじゃない ~「仕事」がもつ力~

指導目標
仕事は自分だけでなく他者のためでもあることを知り、これからの自分の仕事の取り組み方について考え、進んで働こうとする態度を育てる。

内容項目
C 勤労、公共の精神

準備するもの
・「きび団子のため、だけじゃない」の広告(黒板掲示用)
→パソコンなどから、スクリーンやテレビに表示したりしてもよい
・ワークシート(児童配付用)

教材はこちらからダウンロードできます

指導の概略(板書計画例)

板書例

導入

①( )にはどんな言葉が入りますか。

  • 誰でも意見が言える発問から始めることで、安心した雰囲気で学習を始めることができる。その後、ポスターを提示する。

②犬・猿・雉の仕事はなんだと思いますか。

  • ここに挙げられたような考えが出されるだろう。そこで、「なぜその仕事をするようになったのかな」と問い返し、「きび団子」をもらい、仕事をすることになったことを押さえる。

展開

③なんのためにその仕事をしていると思いますか。

  • 伏せておいたキャッチコピー1を示し、子供たちの考えとのずれから課題意識を生む。その後、ワークシートを配り、自分の考えを書かせる。

④ここで「似ているところはどこかな?」と聞き、どの意見も「物」ではなく「人」のためであるところが共通していることを押さえる。子供たちの意見のなかで「人」にかかわる部分を○で囲むなどして、視覚的にも支援する。

⑤「きび団子」ではなく、「人」のためであることを押さえた後、キャッチコピー2を提示する。このキャッチコピーを基に、仕事は「人の幸せ」のためにしていることを押さえる。このことで、仕事の捉え方をさらに深めることができる。

終末

⑥自分の仕事はなんだと思いますか。

  • 子供たちはさまざまなことを「仕事」と感じている。出された考えは共感的に受け止め、板書する。

⑦その仕事は誰を「幸せ」にしているでしょうか。

  • それぞれの「仕事」が誰の幸せになっているかを考える。仕事をたくさん挙げた子には、一つを選んで考えてよいことも伝える。

ここがアクティブ!授業展開の補足説明

ポスターは構成要素をいくつかに分けることができます。今回の授業で使用したものならば、犬・猿・雉の「画像」、「キャッチコピー1・2」となります。ポスターはその役割から、一見してその内容が印象に残るよう工夫されています。

キャッチコピーも短い言葉で示され、見る側は「これはどういう意味なのだろう」という思考を促されます。だからこそ、授業でポスターを用いることで、子供たちに強い印象を残しながら思考を促すことができると考えます。

本時では、そのインパクトのあるキャッチコピー二つをより効果的に使うために、はじめはその部分を伏せてポスターを提示します。導入後半で、桃太郎のお供がなぜ鬼退治の「仕事」をすることになったか尋ねます。

桃太郎の内容をよく知っている子供たちはすぐに、「きび団子をもらったからだよ」と発表するでしょう。

ここで伏せておいたキャッチコピー1「きび団子のため、だけじゃない。」を示します。すると、きび団子をもらったからだと思っていた子供たちとの間にずれが生まれ、思考を促すことができます。

それに続く展開部では、子供たちに生まれた課題意識を基に、きび団子のためでないなら、なんのためなのかを考えさせます。子供たちは物語を想起し、桃太郎や村の人のためと発表します。

意見が出切った後、「似ているところはないかな」と補助発問をすれば、「人」が共通していることに気付くでしょう。ここで、キャッチコピー2「仕事には、誰かを幸せにする『力』がある。」を示します。

こうすることで、仕事は「人のため」というところで落ち着いていた子供たちの理解を、「人の『幸せ』のため」というところまで広げることができます。

授業をするうえでの注意点・ポイント解説

最後に、子供たちに、自分の仕事や、その仕事で誰を幸せにしているかについて尋ねます。ここでは勉強することや、自分の当番の仕事など、いろいろな仕事が挙げられるでしょう。

なかには仕事を広く捉える子もいて、「友達をつくること」なども出てくることがありますが、共感的に受け止めて板書しましょう。この部分で大切なのは、子供たちが何を仕事と捉えているかではありません。

子供たちの考えている仕事が、自分以外の人に何をもたらしているのかに思いを馳せ、仕事を進んで行う気持ちや動機を高めることです。

教科調査官からアドバイス

文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・浅見哲也

「視野を広げて客観的に見る」

道徳科の目標は、各内容項目を手がかりとしながら継続的に授業を行うことによって、よりよく生きるための基盤となる道徳性を養うことにあります。ですから本来、道徳科では、子供の道徳性がどのくらい育ったかを見とり、評価するのが適切なのかもしれません。

しかし、道徳科の授業をもって子供たちの道徳性を評価しようとすると、何を根拠とするのか、これは非常に難しい問題です。素晴らしい発言や立派な文章表現をもって道徳性が育ったと評価してしまったら、知的理解に偏った評価、発言が積極的で文章表現が得意な子供が優位な評価になってしまいます。それは道徳科が求めているものではありません。

道徳科では、子供たちの授業での学習状況を見とり、認め、励ます評価をしていきます。特に重視している学びの姿は、一面的な見方から多面的・多角的な見方へと発展させているか、道徳的価値の理解を自分自身とのかかわりのなかで深めているか、という点になります。

では、なぜこのような学びの姿を大切にしているのでしょうか。物事を多面的・多角的に見ることができれば、自ずと視野が広がって冷静に判断することができるでしょう。

自分自身とのかかわりのなかで深めることができれば、常に自分を客観視し、周囲に目を向けながら自分はどうあればよいかを考えることができるでしょう。これらは人間として生きていくためには大切なことであり、このような学びを道徳科の授業に求めているということなのです。

『教育技術 小三小四』2020年2月号より

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