小学生の家庭学習アイデア!学びが定着する指導法
コロナの影響で授業時間が不足しがちになる中、「家庭学習」をもっと活用したいと考えている先生方も多いことでしょう。子供の学習意欲を高め、授業で学んだことを定着させる「家庭学習」のアイディアを紹介します。
関西学院初等部教諭・森川正樹
もりかわ・まさき●兵庫教育大学大学院言語系教育分野(国語)修了。教師塾「あまから」、読書会「月の道」を主宰。国語科の実践に力を注ぐ。令和2年版学校図書国語教科書編集委員。著者に『小学生の究極の自学ノート図鑑』(小学館)など
目次
1 家庭学習(宿題)のスタンス
最初に本特集と相反することを書くようですが、学年に関係なく、基本的に学校が「宿題」として出す「家庭学習」は「おまけ」です。つまり、「宿題をやってきた、やってきていないで学びの内容に差がつくようなものは出さない」というのが基本的なスタンスです(家で保護者が子供と行う意味での家庭学習は別)。
本記事の読者は教師ですから、本特集は「宿題」と同義として受け止めて執筆します。
学びは「学校」で、「授業」で一旦完結。宿題として出す家庭学習は、「やってこないかもしれない」ことを前提に課します。
例えば、「音読」。よく家庭学習として「音読(本読み)」を課し、「音読カード」を持たせることがありますね。そして、項目にほぼ必ず入っている「保護者のチェック欄」。しかし、これが問題です。「保護者にきちんとチェックしてもらえない子」が必ずクラスの中には何割かいるのです。チェックが入っていない子に「なぜ今日もチェックしてきてもらっていないの!」などと指摘しようものなら最悪です。これは、「チェックしてもらえる、してもらって当然」という教師側のエゴです。
私は、保護者の方が夜遅くや明け方に帰ってくるため、とても音読を聞いてもらえるような状態ではない子を何人も担任してきました。その子に、「なんでチェックしてもらってこなかったの」とは言えません。そんなことを言えば、その子は自分が親のふりをしてチェックしてくるようになります。それに対してさらに、「これ、自分でチェックしたよね」とやってしまったら……。この流れは「家庭学習」ではありません。「音読」は授業で指導するものです。
そのうえで、「やってこられないことを前提」に課すなら、家庭学習として出してもよいと思います。それから、一年生は比較的保護者にチェックしてもらいやすいので、全員がチェックしてもらえるなら「保護者のチェック欄ありの音読カード」も有効かもしれません。それ以上の学年では、「セルフチェック」させるのが無難です。自分で読んだら、チェック欄や教科書の題名のところに印を付けるなどの工夫をします。
2 学びを活かす家庭学習を
家庭学習は「学びを生かすことができるもの」がおすすめです(計算ドリルや漢字ドリルのような日常的にシステムの中で回っていく宿題はここでは扱わないものとします)。
アイディア1(全教科)「ノート」を読んでくる
子供たちに「今日書いた部分のノート」を家で読んでこさせます。もちろん最初は授業でどのようにやるのかを全員で体感させます。「〇月〇日、国語。今日は『たぬきの糸車』のお話を勉強しました。『たぬきの糸車』は物語文です。主人公はおかみさんか、たぬきか、という勉強をしました。題名が『たぬきの糸車』なので主人公はたぬき、というお友達がいましたが……」という具合です。
これをするためには、当然ノートにこれらの要所要所のポイントが書かれていなければなりません。それには「ノートが再現性のあるものになっている」こと、そして「再現するとはどういうことか」を子供たちが分かっていることが大切になります。
一見、難しく見えるかもしれませんが、これがいわゆる「学びを定着させる行為」で、学びを一過性のものにしない大切な工夫なのです。「ノートを読んでくる」、この繰り返しが、後の「ふり返りを書く」という学びにつながっていきます。
アイディア2(国語科)「作文レシピ」で楽しく書く
「作文レシピ」とは、森川の教室用語で、楽しく書きながら、書き慣れる、ということを目的に書かせる短作文です。
※作文レシピは、自著『小1〜小6年〝書く活動〞が10倍になる 楽しい作文レシピ100例』(明治図書出版)に詳しく書かれています。
例えば以下のような設定で書いてこさせます。
- 「みんな〜」で始まる文を書く
- 文の中に「どうなってんの!?」を入れて書く
- 100文字ピッタリで書く
- 『大好きな〇〇』というお題で書く
- 自分とは違うものに「なりきって」書く
- 言葉の意味を考えて書く
これらはとにかく、楽しく何度も書くことで「書くって楽しい」とか、「書いているときは楽しい」と書き慣れるためのものです。ですから、仮にやってこなかったとしても、学習進度に差は出ません。
下の写真は、「言葉の意味を考えて書く」の際のワークシート(二年生のもの)です。
書かせる媒体はノートでもよいのですが、回収、評価、返却の際にかさばるので、簡単な罫線の入ったワークシートを配付するようにすると、スキャンやコピーを取る際にも便利でおすすめです。
アイディア3(全教科)授業の「ふり返り」を書く
あらゆる教科に応用できる「学びを生かす家庭学習」として、家庭で行う「ふり返り」を国語科を例に紹介します。意味のある「ふり返り」を書かせて、家庭学習の時間を、学びを補完する時間としたいものです。
1 「ふり返り」の内容
まずどのようなことが「ふり返り」なのか、ということです。混同してはいけないのが、「授業のまとめ」と「ふり返り」は違うということです。私は、次のようにまとめています。
- 授業のまとめ…授業で学んだ内容を端的にまとめたもの。
- ふり返り…「授業のまとめ」を内包する、多観点による授業の流れをまとめたもの。
このように考えると、「授業のまとめ」は全員同じものになるのに対し、「ふり返り」はそれぞれ少しずつ違うものになります。書かせる時間も、「授業のまとめ」は授業が終わる寸前に書かせることができる一方、「ふり返り」は寸前の1、2分では書けません。十分に時間を取ってあげる必要があります。
「ふり返り」には以下のような観点を設け、さまざまな角度から授業をフィードバックさせます。
【観点】
- 自分の成長(変わったところ)、反省、次への意気込み
- 友達の発言、友達の名前
- 今回の授業で学んだこと
- これまでの学習と比べたこと
- 授業で言えなかったことや、自分なりの発見や、オリジナル意見
- クラスとしての様子など(話合いのしかた、発表、聞き方など)
これらの観点は、学年の発達段階に合わせた文言に変えて一覧表にして、子供たちに配り、ノートに貼らせておくとよいです。または、「ふり返り専用ワークシート」を作成し、そのワークシートの最初に観点欄を設けておくのもよいでしょう。
下の写真は一年生のものですが、学年やクラスの様子、学びの内容に応じてその都度観点を調整して提示してあげましょう
2 「ふり返り」指導の流れ
- 授業をする
- 終業時に「構え」をつくらせる
- 教師が指定した授業の「ふり返り」を書かせる
- 「評価」する
- 「ふり返り」を共有させる
順を追って見ていきましょう。
① 授業をする
家庭学習を「学びを生かす」ものにするためには、教師自身が授業のときから取り組ませる「ふり返り」を意識した進め方をしていることが大切です。
例えば、二年生くらいなら、「今のお話だよね、『ふり返り』に書くといいのは」とか、「今、先生が板書したことを『ふり返り』に書こうと思っていた人?」というふうに子供たちに投げかけて、常に子供たちにも「ふり返り」を意識させるようにします。
② 終業時に「構え」をつくらせる
ここが、中学年以上と違うところです。一年生、二年生で「ふり返り」を行うときは何度も意識させる場面をつくり出すことが大切です。その最終場面が、終業時。このとき、連絡帳の宿題欄に次のように書かせます。
『ふりかえり「スイミー」「気持ちの道」「下がったり上がったり」』
これは国語の『スイミー』の授業のふり返りです。この日の授業では、スイミーの心情の読み取りを行いました。その際に「気持ちの道」という呼び名で心情のアップダウンを動作化し、板書しました。「下がったり上がったり」はそのときの動作化です。
このように軽く子供たちと問答しながらキーワードを連絡帳に書かせます。そうすれば少し時間が経過し、子供たちが家庭学習するときにも思い出しやすくなるのです。
③ 教師が指定した授業の「ふり返り」を書かせる
家庭学習として取り組ませる授業は、はじめは教師が指定します。書かせる授業はオープンエンドで終わったものや、特に話合いが盛り上がった授業などです。「ふり返り」は必ず毎時間書かせるというものではありません。単元の盛り上がりによっては連続で書かせる場合も出てきます。
④「評価」する
「ふり返り」が提出されたら必ず評価して返却します。A(合格)やS(スペシャル)、K(キング)などと短く評定します。
評定の基準は「観点をいくつ書けていたか」で設定しておくことや、担任だけが感じることのできる〈その子の伸び〉に応じて付けるうにします。
A :観点6つ中4つ
S :観点6つ中5つ
K :観点6つ中6つ
といった具合です。ただし、基準を厳密に付けすぎると教師が続かないので、サッと決定できる基準とします。
⑤「ふり返り」を共有させる
クラス全員の「ふり返り」の質を向上させていくために、「見本となるふり返り」は、教師が全体の前で読んだり、黒板に貼り出したり、全員に印刷して配付したりします。
これらのバックヤードを整えて初めて、「ふり返り」を家庭学習で行うことができるのです。
アイディア4(全教科)自学
家庭学習に一番おすすめなのが「自学」です。本記事に掲載している自学ノートの写真は、現在担任している二年生の子のものです(ともに今年7月作成)。
自学は「学び」を「遊び」のように行える魔法のツールです。子供たちにきちんと「イメージ」を与え、「書き方」を教えて、楽しく熱中する自学体験をさせてあげてください。
1 イメージをもたせる
一番効果的なのは子供たちが「イメージできること」です。そのために実際の「自学」を見せます。自著『小学生の究極の自学ノート図鑑』(小学館)には、全学年の「究極の自学」がカラーで掲載されています。まずは見せるだけ。そして、「すごい」とか、「きれい」といった感想をもたせ、「書きたい」と思わせてあげてください。先生自身が書いて提示するのも有効です。
2 書き方を教える
低学年の自学の書き方ポイント(観点)は以下のようなものがあります。
- 題名が大きくて分かりやすい
- ていねいな字
- いくつの部屋にわかれているかが分かりやすい(分かりやすい分割)
- 見出し・小見出しが付いている
- 自分の感想・考えがある
- キャラクター・セリフなどが使われている
- 色塗りがていねい
- 模様を付けている
- 写真・イラストを入れている
- 白い部分がない
3 評価する
先の「観点」を基に、「今回はこれとこれができていたらAです」と子供たちに告げて、それ以上の観点が入っていれば「S」→「K」などと評価を上げていきます。
自学は返却する前に、「仲間の自学」としてクラス全体に紹介します。
このときがまた楽しい。
子供は仲間のよいところを吸収し、次の自学に生かします。学びの「正のスパイラル」に入るわけです。「家庭学習」は、それまでの学びが生かされるもの、学びそのものが「遊び」のように前のめりになれるものでありたいものです。
イラスト/宇和島太郎
『教育技術 小一小二』2020年11月号より
『小学生の究極の自学ノート図鑑』
著・ 森川正樹
定価: 本体1600円+税/小学館
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