【授業実践】子どもを育てる「授業のワザ」小三算数 ~□を使った式~

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学習指導がさらに難しくなる中学年。新学習指導要領に則った授業づくりについて、全国学力テストで好成績を誇る新潟市の取り組みを例に、「教材提示」「問い返し」「ふり返り」などの「授業のワザ」を紹介します。

今回は、新潟市立新潟小学校の佐藤諒子教諭による、算数「□を使った式」の授業実践をくわしくレポートします。

新潟市立新潟小学校
佐藤諒子教諭

新潟市立新潟小学校
佐藤諒子教諭

授業実践1:〝先生が勝ちか、負けか〞というオリジナルの課題で、子供に関心をもたせる

「みなさんイチゴは好きですか?」と子供たちに投げかける佐藤教諭。全員が笑顔で「ハイ!」と答えます。先週末、友達とイチゴ摘みに出かけた時の写真を見せ、子供たちを引きつけながら、今日の問題を提示し板書します。

『諒子先生は友だちとイチゴつみに行きました。友だちとどっちが多くつめるか競争しました。どっちが勝ったでしょうか?』

先生自身の体験を教材の入り口にする。
先生自身の体験を教材の入り口にする。

重さの勝負だと話すと、「〝多く〞ではおかしい」とAさんが指摘。すぐに「多く」の文字を二重線で消し、「重く」に書き直す佐藤教諭。 ※ 1

そこで友達と諒子先生のイチゴが量りの上に載っている絵を貼り、それぞれの重さが280gと400gだったため、諒子先生のほうが勝ったと話します。

すると子供たちは口々に、「ずるい」「カゴがある」と指摘。子供たちは意見をつなぎながら、「友達のイチゴにはカゴがないけれど、諒子先生のほうはイチゴの重さプラスカゴの重さになっている」とBさん。「もし、カゴの重さがなかったら、諒子先生のほうが軽いかもしれない」とCさんが付け足し、「軽いかもしれないし、重いかもしれない」とさらに補足するDさ ん。 ※ 2

※1.自らも修正の跡を残すことで、子供たちにも修正の過程を残すことの見本としています。
※2.身近な先生の話でまず興味を引き、間違った方法を示すことで、 思わず 「ずるい」と問題点を指摘し、問題点について真剣に考え始める子供たち

問題が提示されると、一気に手が挙がる。

そこで「どうしたら先生のイチゴと友達のイチゴと、どちらが重いか分かる?」と佐藤教諭。

「カゴの重さが分かればいい」とEさん。「カゴの重さが分かったら、みんなはどうするのかな?」とさらに問い返します。そして今の状態は、「イチゴの重さ+カゴの重さ=合わせた重さ」だと言葉を式にさせたうえで、カゴの重さを引くことを再確認します。

「じゃあ、カゴがもし何gだったらって考えて、計算をしてみようか」と投げかけます。そこで「みんな、どうやって計算する?」と見通しを問う佐藤教諭。どの子も「合わせた重さ-カゴの重さ=イチゴの重さ」だと話します。

ここから、カゴの重さを好きな重さに設定して計算してみようと投げかけながら、イチゴの絵を描いて言葉の式を記していた佐藤教諭が、「いちいちイチゴの絵を描くのは大変だよね?」と話し、「算数らしく、イチゴの重さを□にしようよ」と提案。子供たちも納得します。

そこで「□の中は、どうやって計算すればよいかな」と今日の学習課題を板書しま す。 ※ 3

そこから一つの事例として、「カゴの重さが30g」とした場合の式を確認。
□+30=400 □=400-30 □=370 になることを確認します。その他、異なるカゴの重さを設定した3人の子供たちに計算を発表させていきます

※ 3 .「通常の授業では既習や友達とのズレを基に、子供たちから学習課題を出させる」という佐藤教諭。今日の内容はそれが難しいため、学習の流れに沿って、佐藤教諭が提案しています。

主体的に学び始め、言葉の式と数式等で説明。

授業実践2:悩んでいる子がいる場合、隣同士でノートを見せ合う

ここで佐藤教諭がこう投げかけます。「みんな、3人の友達の式を見て気付くことない? □の中はどうやって求めているかな ?」 ※ 4

「ひき算で計算している!」「たし算だったから、ひき算で計算している」とつぶやく子供たち。

「おもしろい意見だね。全部ひき算で計算しているね。じゃあ、今日の課題は『□はどうやって求めたらよいのかな?』だったけれど、まとめは『ひき算で計算する』でよいのかな」と佐藤教諭。 ※ 5

「いい」と言いたそうな子や、まだ整理できてい ない子がいる一方で、「使い分けないと」「時と場 合による」と複数の子供たちがつぶやきます。

ここで実際にはカゴの重さは150gで、諒子先生が負けたことを確認してから、□を求める式はすべてひき算でよいのか、次の問題をやってみようと話す佐藤教諭。

※4.学習課題に正対するまとめに向かうため、前半の学習を言葉にして整理。これによって、後半との違いがより際立ってきます。
※5.佐藤教諭が意図的に間違えることで、子供たちが口々に正しい考え方をつぶやきます。

異なるカゴの重さを設定し、交流する子供たち。

そこで新たな問題は、言葉の式でどうなるかを問いかける佐藤教諭。

「払った金額を□とする」「680円のイチゴパックの値段が引かれる」「おつりが320円」という言葉の式が出され、□-680=320という数式を子供たちが出していきます。

そこから再び自力解決。悩んでいる子がいると言うので、「隣同士でノートを見せ合ったりして話してごらん」と声をかける佐藤教諭。 ※ 6

「たし算って言っている人がいっぱいいるんだけど、みんなどうかな?」とみんなに尋ねると、「0K」と大半の子供たち。その中からFさんを指名すると、「680+320=1000 というたし算で計算し、1000円」と説明します

※6.「問題や課題に対して言いたいことがたくさんある時や、逆に不安を感じ
ていることがある時などに、話し合う時間をとっています」と佐藤教諭。

必ずひき算になるのか考えていく

その式になる理由を他の子に問うと、「もし□の計算がひき算だと、680-320=360で、680円の物を買えるわけがないから」と説明するGさん。

他にも挙手する子が多く、「買った物が680円で、余ったお金がおつりで320円だから、それをたすと元の金額が分かる」とHさんが説明します。

それを受け、学習課題に対するまとめに入り、「ひき算とたし算があったのだけれど、どんな時にたし算で、どんな時にひき算になるのかな?」と問う佐藤教諭。元の式の形に着目させ、「元の式がたし算の時はひき算、ひき算の時はたし算で求める」ことを確認していきます。「このように逆の計算をしていくことを逆算と言います」と佐藤教諭。 ※ 7

最後に一人を指名し、まとめを求めると、「□は逆算して求めればよい」とIさん。ちょうど45分で授業を終えました。

※7.今日の学習のまとめに合わせ、押さえたい事項を入れています

しっかり自分の考えも記されたノート。

授業者による解説:「おもしろい授業だ」と子供に思わせたい

授業後、今日の授業づくりや日々の授業で大切にしていることについて、佐藤教諭は次のように話してくれました。

「私は算数が苦手な子にも『算数が好き』『楽しい』と言わせたい、と思っています。そこで今日は、〝先生が勝ちか、負けか〞というオリジナルの課題でまず関心をもたせました。

いつもならば、そこから学習課題までに既習とのズレや友達とのズレ、誤概念等を引き出しながら『どれが正しいのかな』と考えさせ、子供から課題が出るように工夫しています。しかし今日の学習は、□を使って一般化していくもので、子供に出させるのは難しいものです。

具体的には『いつもたし算、いつもひき算ではなく、□+ならひき算で求め、□-ならたし算で逆算する』という、まとめから逆に考え、『□はどのように求めたらよいのかな』という学習課題になるわけですが、それを子供たちが出すのは難しいのです。そのため、イチゴを□に置き換えた段階で必ず戸惑う子が出ると考え、そのタイミングで学習課題を出すことにしました。

本当はイチゴの絵をもっと描いて、『いちいち描くのは大変だね』と子供たちが言い出した頃に、その意見を拾い上げて□を出したかったのですが、時間的に難しく、私が出しました。

内容的には時間いっぱいになってしまい、逆算をするということが、まだ十分に納得できていない子供もいます。しかし、それは想定内で、次時にテープ図を使って、全体と部分の関係について目で見て分かるようにしていくことで、今日学んだことがしっかり理解できるようにしたいと考えています。

今回に限らず、新学習指導要領が求める資質・能力は単元単位で育むことが重要で、子供の状況を見極めながら、単元構成をしっかり考えていきたいと思っているところです」

授業後、ノートを集め、子供の理解の状況を確認。

最後に佐藤教諭が日々の授業づくりで大切にしていることについて聞きました。

「一つには、最初に言った通り、子供たちが『楽しそうだ』『やってみたい』と思い、主体的に学びに向かっていけるようにすることです。それは理想的には内容が理解できて、おもしろいと思うことですが、そうでなくても、まずおもしろいと思わせたいのです。

もう一つは、対話を通して深い学びになっていく場面、思考する場面を大切にしたいと思っています。対話と言うと、ペアやグループをイメージする先生もいますが、全体交流で人の意見を聞いて考えることや、自分自身との対話も含め、とにかく子供たちが対話しながら、思考する時間をしっかりとりたいと思っています。その時、誤答や誤概念が出たときに、その考えも大切に扱いたいと考えています。

そのため、子供たちにもよく『間違いは宝物だよ。どうして間違えたのか考えるチャンスがあるんだからね』と話しています。

もちろん私自身も意図的に間違えて、『違うよ!』と言わせ、思考させるような場面も多くつくるようにしています」

この日の佐藤教諭の授業の板書。

取材・撮影・文/矢ノ浦勝之
『教育技術 小三小四』2019年5月号より

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