小5・小6「ブランコ乗りとピエロ」道徳授業の組み立て方
「考え、議論する道徳」の実現に向けた学習のポイントについて、文部科学省教科調査官の浅見哲也先生が教えてくださいました。 実際の教材をモデルに、授業の組み立てについて学びましょう。
監修/文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官・浅見哲也
浅見調査官のインタビューはこちら!→浅見哲也教科調査官に聞く! 道徳授業の組み立て方のポイント
目次
教材名・内容項目
教材
「ブランコ乗りとピエロ」
内容項目
相互理解、寛容
導入
身近なところから本時の道徳的価値を考える
今回ご紹介するのは、内容項目「相互理解、寛容」を学ぶ「ブランコ乗りとピエロ」という定番教材を使った実践例です。
一般的に授業は、「導入・展開・終末」の各段階を設定して行うことが多く、導入は動機付けを図る段階です。教材やねらいに問題意識をもって授業に臨めるよう意識してみてください。
その日学ぶ道徳的価値について、身近なところから考えるきっかけがつくれるとよいでしょう。
導入では、目の前にいる子供たちの実態を探ることを心がけましょう。例えば、生活環境が異なれば、好みや考え方・性格は当然違います。そんな子供たちが一つのクラスに集まっていれば、自分の考えを押し通してしまう子、自分はひたすら我慢をしている子、けんかをしてしまう子、関わらないようにしている子など、様々な姿が見られるはずです。
このような状況の中で、「相互理解、寛容」を考え、お互いに分かり合うためにはどのようなことを考えさせたらよいのかということを想像しながら、子供たちとの会話を通して実態を把握します。
また、教材を読み始める前に、簡単に内容や登場人物を紹介すると、子供はストーリーを追うのではなく、学ぶべき問題に意識を傾けて教師の読み聞かせを聞くことができます。
展開
主人公の気持ちを考えるのではなく自分との関わりで考える
展開は授業時間の多くを占め、ねらいを達成するための中心となる時間です。子供一人ひとりが、ねらいの根底にある道徳的価値の理解をもとに自己を見つめることが大切であり、登場人物の気持ちを考えることが目的ではないことを意識しましょう。
自分との関わりで捉えて考えさせるための発問として、「サムの気持ちは?」「ピエロの気持ちは?」ではなく、時には「今から教科書を読みます。みんなだったらサムをどう思いますか。サムのことをどう思うか考えながら聞いていてください。」と伝えてから教材を読むことで、子供たちは登場人物を自分の視点で考えながら話を聞くことができるようになります。
登場人物やストーリーを理解しやすいように登場人物の顔の絵や板書用のツールなどを用意すると、子供たちの興味もアップします。
時間を守らず一人でショーの時間を使ったサムと、リーダーのピエロによる役割演技の体験的な学習です。「サムが悪い」「思いやりがない」といった声が多い中、ある女の子はサムの演技をほめ、認めたうえで、自分の考えも伝えました。子供それぞれ反応の違いが出る役割演技の学習は、その違いを知り、様々な視点を生むきっかけになります。
板書の工夫が新たな視点や気付きを誘う
板書は、子供たちの意見を整理し、分かりやすくまとめるために非常に重要です。今回は、天秤のような図を考えました。低い=悪いサム、高い=よいピエロというように、教材を読んだ後の感想の傾向を示しています。サムとピエロが分かり合う(=天秤が釣り合う)ためには、どのように考えていくかを気付かせる目的です。
「サムがどう考えれば、天秤が釣り合うかな?」と問うと、「もっと人のことを考えられたらよい」「時間を守るべきだ」などと考える子供が出てきます。「では、ピエロはどうだろう?」と問うと、「リーダーでも、いつも上から目線はよくない」と考える子も出てきます。
立場を視覚化することで新たな視点や考え方に気付きやすくなります。
終末
今日の授業を、日常や自分との関わりで考える
終末は、授業の学びを子供たちの今後の発展につなぐ時間です。ねらいの根底にある道徳的価値に対する思いや考えをまとめたり、道徳的価値を実現することのよさや難しさを、身の周りの状況などと照らし合わせて確認して、学びを定着させます。
そのためには、授業で学んだことや感じたことを印象的に心に残す工夫が必要です。
例えば、最後に教師の体験談や道徳的価値を含む格言や詩などを紹介して、本時のねらいとする道徳的価値を印象付ける終わり方もあります。また、自分の生活をふり返り、結び付きを考えるためにワークシートなどに思いを書くことでまとめとする場合もあります。
後半なので、十分な時間が確保できなくなることがありますが、授業で子供たちが感じたことを自分と結び付ける大切な時間ですので、しっかりと時間を取るよう心掛けましょう。
この「相互理解、寛容」の授業では、相田みつをさんの詩を紹介して終末としました。歌を聞かせたこともあります。子供たちが次の学習にも意欲をもてるよう、様々に工夫してみてください。
評価
理解力や文章力は、道徳の評価とは別物。学びの姿を評価する視点を
道徳科で育てるのは、子供たちの道徳性です。では、その道徳性を授業のみで評価できるものなのでしょうか。答えはNOです。発言や記述の内容がよければ道徳性が育ったと判断できるわけではなく、文章表現が苦手=道徳性が低いということにはなりません。
道徳科で評価するのは、「学習状況や成長の様子」です。道徳的諸価値の理解を基に、自己の生き方に結び付いていくことが重要であり、その学びの姿を評価しようとしています。道徳性そのものではないので注意しましょう。継続的に行った道徳科の評価で重視するポイントは、次の通りです。
評価のポイント
- 個々の内容項目ごとではなく、大くくりなまとまりで評価する。項目ごとの評価ではなく、年間や学期の流れのなかで成長や学びの様子を評価する。
- 個人内評価とし、他の人と比べない。理解や成長を他者と比較せず、個人の中で評価する。
- 多面的・多角的な見方へと発展しているか、道徳的価値の理解を自分自身との関わりの中で深めているか“一定の基準に達したか?”や、“道徳的諸価値の理解度”では、評価はしないこと。
ワークシート評価例
道徳的価値について今一度、自分も考えてみよう
例えば、道徳科の授業では「多面的・多角的」という言葉がよく使われますね。では、どんな見方が多面的・多角的なのか?など、学ぶべき道徳的価値について、先生も今一度、考えてみましょう。
「多面的・多角的」ならば、「道徳的価値を支える様々な根拠を考えている」「様々な登場人物の立場で考えている」など、その見方はいろいろ考えられます。
また、「自分との関わりで考える」ということは、どうでしょう?「登場人物に自分を置き換えて考える」「教材の問題点を、自分事として受け止めて考えている」等といった状況が考えられます。
これらを考えることは、子供たちを評価するためではありません。教師が、〝この内容項目を手掛かりとして子供たちの道徳性を育てるために、どんな見方をさせることが重要か〟と、授業の意図を考えることに生かすためです。
上のワークシートを見てください。「今まで自分の意見だけを通そうとして、人の意見を取り入れなくて衝突したことがある。自分とサムは似ているところがあった。」というように、自分自身との関わりで捉えている例です。
このシートは2行しか書かれていませんし、道徳科の学びをふり返る自己評価も低いです。しかし、文章量は、道徳科の評価の軸になりません。「こんな勇気がもてたらよいね、よく考えましたね。」とコメントを入れたり、言葉を寄せたりしましょう。子供は認められてうれしいですし、それが子供にとって一生心に残る言葉になるかもしれません。
まとめ
指導案をしっかり作成することは有意義なことですが、実際の授業はその通りになるとは限りません。道徳科の授業は、毎時間がメイク・ドラマです。そして、深い学びにたどり着くための答えは、目の前にいる子供たちの中にあります。
ぜひ、楽しい道徳科としての授業をスタートしてください!
文部科学省初等中等教育局教育課程課 教科調査官。1967年埼玉県生まれ。1990年より教諭、指導主事、教頭、校長、園長を務め、2017年より現職。どの立場でも道徳の授業をやり続け、今なお子供との対話を楽しむ道徳授業を追求中。
構成・文/ルル
『教育技術 小五小六』2019年4月号より