秋の七草の一つ、クズで遊んでみよう!

秋の七草といえば、萩(ハギ)、尾花(オバナ=ススキ)、葛(クズ)、撫子(ナデシコ)、女郎花(オミナエシ)、藤袴(フジバカマ)、桔梗(キキョウ)ですね。今回はその中でも葛(以下クズとカタカナ表記にします)についてご紹介します。クズは貴重な栄養源(デンプン)になったり、薬になったり、繊維素材になったりと、昔から人間に活用されてきました。しかし、繁殖力がすさまじいため、近年では農地を侵食する厄介者として敬遠されています。
今回は、そんなかわいそうなクズにスポットを当ててみたいと思います。
【連載】モンタ先生の自然はともだち #24
執筆/森田弘文
目次
秋の名物のひとつ、クズの花

クズの花は、夏の終わり頃から初秋にかけて、20cmくらいの花茎を伸ばします。写真(1)のような紫色のチョウのような形をした、美しい花をたくさんつけて咲く集合花です。
クズは、お菓子のような甘い香りを四辺に放ち、秋の訪れを感じさせてくれる花でもあります。では、このクズの花をもう少し丁寧に観察してみましょう。

写真(2)は、クズの花をズームインしたものです。何か気がつきませんか。花のまん中が黄色いですね。これはなぜでしょう。結論から言うと、これは「蜜標」(みっぴょう)というもので、そこだけが周りと違っていて、虫媒花として蜜のありかを示す目印となっています。ツツジ・シャクナゲ類の花の一部に斑点模様が散りばめられていたり、オオイヌノフグリの花に青い筋が見えたり、ヤマユリの花にイエローバンドがあるのも、みんな「蜜標」というものです。
クズは昔からの詩歌などにもよく詠まれていますが、花を観賞するというよりは、根や茎、葉などが人間に有用だという観点から秋の七草に選ばれたと考えられます。
クズって、どんな植物なの?
クズの根からは、良質のデンプン(葛粉)を採ったり、根を乾燥させて風邪薬(葛根湯)として利用したり、また、茎の皮からは織物(葛布)を作ったり、葉は家畜の飼料にするなど、無駄なところが一つもないほど、日本人の暮らしにはなくてはならないパートナーとして存在していました。
しかし、現在では農地を脅かす厄介者として、「グリーンモンスター」の二つ名で嫌われていたりもします。すさまじいほどの生命力と繁殖力を持っているためです。
クズは、ピーク時には1日に50センチ以上成長することがあります。農地に生えてしまうと、あっという間に一面を覆ってしまうほど繁殖します。地をはうだけでなく、ツルを伸ばしてものにからみつき、3次元的に繁殖していくのです。またこのツルが異様に丈夫なのです。
この生命力の源は、そのしっかりした根にあると言えます。筆者は太さ10センチ、長さ1メートルにも及ぶ根を掘り出し、驚いたことがあります。「これは一度生えたら根絶できない!」と。
そんな嫌われ者のクズですが、可愛らしい一面もあります。クズの葉は葉枕という部位が発達しており、葉を動かすことができます。(葉枕については「ネムノキ」の回で解説しています)
クズは、夏の日の盛りには葉を上へ立てて閉じ、「お昼寝」をしますし、夜になると逆に葉を垂らし、葉の裏面を合わせて、「お休み」状態になります。夏の光は強すぎて光合成能力を超えてしまうと共に、強すぎる光は葉にとって害にもなってしまうので、葉を閉じます。また、夜は光合成ができず、葉から水分が逃げ出すのを防ぐために、葉を垂らしているという訳です。