1回10分! 「話す・聞く」力を育む学習プログラム『トークタイム』のすすめ
他者の話を「どうきくか」。教職の傍ら国語科研究や執筆活動などで活躍する友永達也先生が、話すこと・聞くことの指導の難しさを克服するために考案したのが、学習プログラム『トークタイム』です。小学校低学年から高学年まで、そしてフィードバックする教師の「話す・聞く」力も着実に高まる1回10分のプログラムの具体的な実践方法について、実例とともに紹介していただきました。
執筆/神戸大学附属小学校教諭・友永達也
目次
1.教室での対話の質を高めるために
どの教室でも、そしてどの教科の学習でも、子供同士や子供と教師とのやり取りである対話は欠かせません。教室での対話の質は、子供の学びに大きく影響するでしょう。
教室での対話の質が高まると、例えばどんなよいことが起こるでしょうか。一つには、子供たちの学習内容への理解が深まります。自分一人で学習するよりも、クラスの友達や先生といっしょに学習することで、いろんな意見に触れることができます。いろんな意見に触れることで、自分の考えに自信がもてたり、気付かなかったことに気付くことができたりします。その結果、一人ひとりの学びを保障することにもつながるでしょう。
古くから日本の教室では、学習者同士で意見をぶつけ合いながらより質の高い理解に至ろうとする「創造的な一斉授業(練り上げ型授業)」(石井,2020)を「よい授業」として目指してきた伝統がありました。このよき伝統を継承していくためには、教室での対話の質を高めることが有効なのです。
もう一つには、協働的に学ぶ学級文化が作られていくというよさがあります。質の高い対話が起こっている学級では、「自分の考えを伝えることはよいことだ」「友達の考えを聞くともっと自分の学びが深まる」といった、協働的に学ぶことの価値を強く感じることができます。その結果、「みんなで学び合う」ことをよしとする学級文化が徐々に形づくられていきます。さらにそのような学級文化は、子供たち一人ひとりの学びへの意欲や主体性も高めていくでしょう。
では、どうすれば対話の質を高めることができるのでしょうか。その答えは多様にあります。例えば、どの子も安心して学べる学級の雰囲気も必要です。また、そもそもの学習に、子供たちにとって学ぶ必然性があることも大切です。
それらに加え筆者は、「適切に話し、適切に聞く力」も対話の質を高めるために重要だと考えています。雰囲気も、必然性も、間接的に対話を支える重要な要素ですが、豊かな対話の直接的な土台となっているのは子供たち一人ひとりの話すこと・聞くことの力ではないでしょうか。
2.話すこと・聞くこと指導の難しさ
しかしながら、教室での対話の質を高めるために話すこと・聞くことの力を高めようと思っても、この領域の指導には様々な壁が立ちはだかっています。
まず、話し言葉はすぐに消えてしまいます。機械を使ったり、メモをしたりして記録しない限り、記憶を頼りにした指導となってしまうのです。
つぎに、実際のやり取りは何が飛び出すかわかりません。話し合いたいテーマを事前に計画していたとしても、実際のやり取りでは全く別のテーマが展開されることも珍しくなく、話すこと・聞くことの指導を計画的に行うことが難しくなってしまいます。
最後に、具体的な指導方法が十分に確立されていないということです。話すこと・聞くことは人間が赤ちゃんの頃に獲得し始める力です。お腹がすいたと泣いて訴えたり、お母さんの声を聞いて安心したりするように、当たり前のように身に付けてきた(と思われている)力なので、極端に言えば「放っておいても身に付く力」と一般的に誤解されている場合もあります。教室でも、話すこと・聞くことの指導はそのときの担任教師の感覚に左右されやすいのが現状ではないでしょうか。
このような話すこと・聞くことの指導の難しさを克服するために、一つの解決策として筆者が考案したのが学習プログラム「トークタイム」です。その成果や具体的な方法は、『1回10分! トークタイムできく力を育てる ストラテジック・リスニング』(友永達也著、明治図書出版)として出版されています。この記事をお読みになって本実践に興味を持たれた方は、ぜひ書籍を手に取っていただき、土台となる理論や具体的な実践方法をご参照ください。
3.学習プログラム「トークタイム」について
学習プログラム「トークタイム」では、下に示すような形で机を並べて、リスナー役の子供同士がテーマに基づいた話し合いを行い、モニター役の子供がそのやり取りを観察します。書籍では低学年版、中学年版、高学年版と、学年に応じて段階を追って指導できるようにプログラムの内容を紹介していますが、本記事ではどの学年でも実践を始めてもらえるように、低学年の取り組み方をシンプルにお伝えします。
①テーマに基づいた話し合い
話し合いは教師が指定したテーマに基づいてリスナー同士が行います。指定するテーマは、例えば「落とし物をゼロにするためにどうするか」といった子供たちの生活を扱ったものや、「スイミーと自分の同じところや違うところ」といった国語などの教科と関連させたものが考えられます。いずれにしても、子供たちにとって考えたくなるテーマ設定が重要です。
そのうえでリスナーは、この学習プログラム最大のポイントである「引き出し言葉」を使用した話し合いを行っていきます。引き出し言葉は全部で6種類です。
これらの引き出し言葉は、対話を豊かにするキーワードです。そして一つひとつの引き出し言葉には、役割があります。引き出し言葉とその役割を表に整理してみましょう。
ここで示した役割を理解し、対話の中で使いこなすことが「適切に話し、適切に聞く力」を高めることにつながります。
例えば「なんで?」という引き出し言葉で考えてみましょう。相手の話を聞いていて、相手がなぜそう考えるのかその理由がわからないときがあります。根拠が不明瞭だったり、矛盾したりしていることに気付くこともあるでしょう。そういったときに「なんで?」という引き出し言葉を使うことで、相手から理由を引き出すことが可能となります。自分が普段している話を振り返っても、子供たちの日常会話を見ていても、この「なんで?」という言葉はよく使われています。
学習プログラム「トークタイム」の重要な点として、このような無意識に使われている言葉、対話を豊かにするうえでキーワードとなる言葉を、意識的に使えるようにするということが挙げられます。この引き出し言葉の一覧をプリントアウトし、机の上に置きながら話し合いをすることで、リスナーの子供たちは意識的に引き出し言葉をやり取りの中で使用することができます。
②やり取りをモニタリングする
モニター役の児童は、リスナー同士のやり取りをモニタリングしながら分析します。その際に活用するのが「トークタイムカード」です。実際のカード(筆者が担当する2年生の子供たちが初めてトークタイムに取り組んだときのもの)を以下に示します。
表題に「トークタイムカードA」とありますが、学年ごとやモニタリングの内容ごとに数種類のトークタイムカードを用意しています。本記事では低学年用の「トークタイムカードA」を用いて説明します。
まずモニター役の子供は、カードのテーマ欄に話し合いのテーマを書きます。少々読み取りにくいですが、このときのテーマは「1組のいいところ・なおしたほうががいいところ」でした。1学期が終わる間近でしたので、1学期の学級生活を振り返る視点をもたせるためにこのテーマを設定しました。
次にリスナーA、リスナーBの横に描かれているマス目と色丸にご注目ください。これは、どの引き出し言葉をそれぞれのリスナーが使用したのかを色で表しています(引き出し言葉を色別に提示しているのはこのためです)。例えばリスナーBは、黄色の色丸が最初についていますので、対話の中でまずはじめに「たとえば?」という引き出し言葉を使用したことがわかります。
このカードの記録を見ると、2人のリスナーが実に様々な引き出し言葉を使用していることがわかります。初めてのトークタイムにもかかわらず、やり取りの中で引き出し言葉を使用しながら相手の話を引き出すことにチャレンジしようとしています。
最後にカードの左半分です。ここにはトークタイムの感想を書きます。モニター役の子供が中心となって、「トークタイムのふりかえり」と「つぎのトークタイムでがんばりたいこと」をリスナー役の子供たちと話し合いながらまとめていきます。
ここでは、自分たちのやり取りをメタ認知することを大切にしています。私たち大人も含め、普段自分がどのように話したり聞いたりしているのかを知る機会はあまりありません。モニターという観察役を通して、あるいは自分と対話してくれた友達の感想を通して、自分の話す・聞く力をメタ認知することができるのです。
4.トークタイムの実施手順
トークタイムの実施手順は以下のとおりです。教師が隙間時間を活用して1回10分以内に実施することを大切にしています。年間を通して継続的に実施できるよう、お手軽に実施できるプログラムとなるように設計してあります。
①テーマを教師が確認する
↓
②リスナー同士で話し合う(5分間)
↓
③モニターも交えて振り返りをする(4分間)
↓
④教師からのフィードバックをうける(1分間)
① まずは事前に教師からトークタイムのテーマを確認します。いきなりテーマを伝えられて、それに基づいて話し合うのは、私たち大人でも難しいでしょう。可能な限り事前にテーマを伝え、自分なりの考えをもてるようにすることが大切です。自分なりに考えたテーマだからこそ、相手の考えを知りたい気持ち、相手に考えを伝えたい気持ちも生まれるのです。
② スタートしたらリスナー役の子供同士で引き出し言葉を駆使しながらテーマについて話し合います。教師は子供たちの活動の様子を観察しながら、このあとのフィードバックで伝えたい姿を探すようにしましょう。
③ 5分たったら、モニター役の子供からメタ認知を生かした振り返りを行います。ここで子供たちは、自分では気付かなかった、対話で大切にすべき視点が見つかるでしょう。あるいは、自分の意図が相手に伝わっているかどうかを確かめることもできるでしょう。いずれにしても、対話の質を高めることにつながる様々な気付きが、ここの分析でたくさん見いだされることになります。
④ 最後に教師からのフィードバックを行います。時間は1分です。教師はこの1分間にすべてをかけます。だらだらとコメントをするのではなく、子供たちの実際の姿をもとに、子供たちの適切に話し、適切に聞く力を育てるべく、的確なコメントを選択します。
ここでのコメント力は重要です。子供のやり取りを即座に解釈し、よさを見抜く力は一朝一夕には身に付かないものです。教師も子供に1分でフィードバックをする経験を重ねることで、話す・聞く力を着実に高められることでしょう。
さて、では実際にトークタイムを体験した子供たちからどのような感想が得られたか、イメージをつかんでいただくため、以下に事例をご紹介します。
5.トークタイムから子供たちが得られるもの
ここでは筆者が担当する2年生が、初めてトークタイムに取り組んだ際の感想をいくつかピックアップします。さらにその感想からどんなことが考えられるのか、筆者の解説も紹介します。
お読みいただければ、子供たちの多様な気付きに驚くでしょう。子供たちは、自分たちの話す・聞く力を高めるための視点をすでに獲得しています。まだ十分でない子供は、友達や教師とのやり取りを経て獲得していけばよいのです。
口もとで、ごにょごにょ言うんじゃなくて、大きくはっきり言うといいと思いました。
基本的なことですが、相手に伝わる声で話さなければ対話は成立しません。教師が「大きな声で話しなさい」と言わなくても、子供たちは自分たち自身でそのことに気付くことができるのです。実感を伴って声の大きさを意識することにつながるでしょう。トークタイム導入の初期段階では、このような対話への基本的な気付きに対するフィードバックを、意識的に行っていくことをお勧めします。
同じことばばっかり出しちゃった。
色丸を付けることで初めて、自分が同じ言葉を繰り返していることに気付けます。これも立派な自分のコミュニケーションのメタ認知です。友達の力を借りたからこそ、そのようなメタ認知が可能になるのです。きっとこの子供は次のトークタイムでは、「同じ言葉ばっかり出していないかな?」と考えながら話すことでしょう。モニター役の友達がいなくとも、自分の力でコミュニケーションをモニタリングできるようになる第一歩です。
質問すると色々なことを知れていいからもっと質問したいと思います。
質問をすることのよさを実感している振り返りです。質問ができるようになるには、そもそも質問するという行動が自分にとって役に立つと思えることが重要です。誰であっても、役に立たないと思っていることをわざわざコミュニケーションの場ではしないでしょう。可能であれば、「どんな質問をしたらどんなことが知れてよかった?」と、これを書いたグループの子供たちに問い返すのもよいでしょう。「よい質問とは何か」という究極の問いに対する答えを、子供たちの実際のやり取りから見付け出せるかもしれません。
しつもんをいっぱいして、相手も答えられるようにしたいです。
相手が答えられることの大切さに、このグループの子供たちは気付いていますね。質問は相手が答えられないと意味がないのです。鋭い質問で相手を論破しようとする人がいますが、それは豊かな対話を築くうえでは効果的ではありません。「どう質問すれば相手は答えやすいかな」と考えながら質問する子供は、対話の中で相手へのやさしさを発揮しているでしょう。そんな思いやりにあふれた対話を、どの子供にも経験させたいものです。
せんせいみたいに、「~ってこと?」をがんばりたい。なぜかというと、それをゆうと、しっかりかくにんできるから。
初めて学習プログラムを導入したとき、デモンストレーションとして、筆者は2年生の子供と即興でトークタイムをして見せました。そのときの教師の姿がモデルとして機能していることが、この振り返りからわかります。さらに驚くことに、「~ってこと?」の機能を「それをゆうと、しっかりかくにんできるから」と、このグループの子供たちが見抜いていることです。引き出し言葉とその機能を、自分たちの対話分析を通して関連付けていくことで、より効果的かつ意識的に引き出し言葉を使用できるようになるでしょう。
色々なトークをして、色々しつもんをするのもいいけど一つのしつもんをじっくりするのもいいと思ったので、してみたいです。
この振り返りからは、このグループの子供たちが対話を構造的に捉え始めていることがわかります。広げるのもいいけど、深めるようなやり取りも大切にしたいということでしょう。今自分たちの話し合いが広がっているのか、深まっているのかと気付くことは、大人でも難しいような、非常に高度なことです。しかし、この子供たちは、そこにつながっていくような気付きを得ています。このグループの振り返りを全体に紹介することで、話し合いの広がりや深まりに気付かせる視点を他の子供たちに与えることができるかもしれませんね。
はなしあいのながれにかんれんした、はなしを作って、スムーズにはなしあいをしたいです。
この振り返りには驚かされました。話し合いの流れの存在を、もうすでにこのグループの子供たちは気付き始めているということになります。話し合いの流れからそれていることに気付かず発言を続ける人は大人でも少なからずいますが、この子供たちのような気付きを蓄えていく経験を、十分に積んでこなかったのかもしれません。きっとこのグループの子供たちは、話し合いのスムーズさとは何かという答えを、自分たちのやり取りを通してこれからのトークタイムで見付けていくことでしょう。
以上、トークタイム実施後の子供たちの振り返りと、それに対する筆者の解釈をピックアップして見てきました。重要なことは、これらの振り返りを書いたのが小学校2年生の子供たちだということです。それも初めてトークタイムを体験した子供たちです。
学習プログラム「トークタイム」を通して、子供たちへのフィードバックを考えるときに、いかに「よりどりみどり」な状態であるかがわかるでしょう。あとは、教師が子供たちの気付きのよさを見抜けるかどうかです。しっかりと目をこらして、耳をかたむけて、全身全霊で子供たちの声に聴き浸る必要があります。
6.年間通して隙間時間にトークタイムを!
本記事では、子供たちの話す・聞く力を高めるための学習プログラム「トークタイム」を紹介しました。
タイトルにもありますように、このプログラムは1回実施しただけではもったいないほど、子供たちの素敵な姿が見出せます。年間を通してこまめに実施することをお勧めします。
そのために1回10分というお手軽さを追求しているのです。継続的な取り組みを通して、学級の対話の質がどのように向上するかを味わってみてください。
【参考・引用文献】
石井英真(2020)『授業づくりの深め方 『よい授業』をデザインするための5つのツボ』ミネルヴァ書房
友永達也(2020)『1回10分!トークタイムできく力を育てる ストラテジック・リスニング』明治図書
【執筆者紹介】
友永達也(ともなが たつや)
神戸大学附属小学校教諭。専門科目は国語科。特に話すこと・聞くことの指導に関心があり、現在、学習者が問う力を高めるカリキュラムの開発や、メタ認知に基づく判断を活かしたコミュニケーション教育、小学生を対象とした聞き書きプロジェクト等に取り組んでいる。また、国語科を中心として、問題解決的な単元デザインや、それを支えるノート指導にも日々取り組む。 全国大学国語教育学会、日本国語教育学会、日本教育方法学会、国語教育実践理論研究会(KZR)に所属するとともに、尼崎市の国語科授業サークルのアドバイザーを務めるなど複数の国語科研究会の運営にも携わる。
単著執筆として『1回10分!トークタイムできく力を育てる ストラテジック・リスニング』(明治図書・2020年)が、分担執筆として『対話的に学び「きく」力が育つ国語の授業』(明治図書・2018年)、『「感性的思考」と「論理的思考」を生かした「ことばを磨き考え合う」授業づくり』(明治図書・2020年)がある。
友永達也先生の『1回10分!トークタイムできく力を育てる ストラテジック・リスニング』(明治図書・2020年)
今回紹介した「トークタイム」の年間指導計画例や指導手順や実践例、さらに低・中・高学年用の座席の形カード、トークタイムカードなどの実物資料まで収録。
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