特別支援学級の「自立活動」とは? 子どもの実態を把握して、しっかり助けの手を伸ばそう

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「はじめに子どもありき」の特別支援学級 〜自立活動編〜
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特別支援学級には、通常学級のように指導書がありません。子どもたち一人一人に合った、オーダーメイドの教材を用意して、授業を実践する必要があります。
本連載では、特別支援学級の指導を現在進行形で頑張っている奥山先生の知見を共有し、ぜひ皆さんの指導の参考にしていただきたいと思います。

【連載】「はじめに子どもありき」の特別支援学級 〜自立活動編〜 #01

執筆/埼玉県公立小学校教諭・奥山 俊志哉

皆さんは、特別支援学級の授業を考える上で、一番大切にしなければならないことは何だと思いますか? 私は、クラスの子どもたちの姿を具体的にイメージしたり、考えたりすることだと思います。「こんなことを子どもたちにできるようになってほしい」
「この活動を取り入れると、子どもたちのやる気が倍増するかもしれない」
などと考えながら、授業を組み立てるようにしています。子どもたちの成長した姿を想像し、授業を計画することを楽しんでいます。
今回は、そんな授業づくりを行う前段階として、特別支援教育の中心的要素である「教育的ニーズ」と、自立活動の位置づけを考えていきたいと思います。

特別支援学級における授業づくりについて

まずは、子どもの実態を正確に把握することから始めましょう。

特別支援学級には、学年がばらばらな子どもたちが在籍していることが多く、特性や発達段階もそれぞれ大きく異なります。

知的学級を例に挙げると、IQ70程度で、文字や数字が読めたり、簡単な計算ができたりする子もいれば、学習よりも生活に重きを置いて指導をしていかなければならない子もいます。自閉・情緒学級の場合には、自閉症と診断されている子もいれば、診断はされていないが自閉傾向にあり、知的が重複している子もいます。ADHDの子が在籍していることも多いです。

このように、特別支援学級に在籍する子どもたちは多種多様であるため、授業を始める前に、子どもの実態を正確に把握しなければなりません。実態把握を誤って授業を行うと、子どもたちに過度な負担がかかってしまったり、教師の期待にうまく答えられず自己肯定感が下がってしまったりして、学習に苦手意識や拒絶感を持ってしまいます。特に自閉が強い子は、失敗体験を思い出してしまい、パニックを起こすことも少なくありません。

文部科学省は、子どもの実態のことを「教育的ニーズ」と呼んでいます。教育的ニーズとは、「一人ひとりが持つ課題であり、環境適応への難しさ」とも定義されており、これらによって生じる困難を改善又は克服するため、適切な指導及び必要な支援を行う教育が、特別支援教育だと定めています。

*「教育的ニーズ」の例
読むことが苦手
書くことが苦手
計算が苦手
話すことが苦手
話を聞くことが苦手
作文や言葉での説明が苦手
座っていることが苦手
場の空気を読むことが苦手
会話が苦手
運動が苦手
細かい作業が苦手
集中を持続させることが苦手
人とうまくコミュニケーションをとることが苦手

教育的ニーズは、子どもたちによってさまざまです。例えば、読むことが苦手な子と関わったとき、どうしてその子は読むことに苦手意識があるのか、考えたことはありますか。

文字が理解できていないのかもしれない。
文字は読めるが、まとまりで読むことが難しいのかもしれない。
注意散漫のため、視点を定めて見ることができず、瞳が左右に動いてしまうのかもしれない。
読んでいたときにつまずいてしまって、友達に馬鹿にされて恥ずかしい思いをしたことを思い出しているのかもしれない。

具体例をもう一つ上げて、考えてみましょう。コミュニケーションをとることが苦手な子がいたとします。その原因は何でしょうか。

はっきりと聞こえていない。
会話の内容が頭に残らない。
思ったことをすぐに口にしてしまう。
人に対して興味がない。
相手のことを良く思っていない。会話をしようと思っていない。

など、どんな場合においても原因は一つではないことが、考えてみると分かります。教育的ニーズを正確に把握することは、簡単なようでとても奥が深く、難しいことです。

これらの教育的ニーズを改善・克服する、主となる教科が自立活動です。(もちろん、他教科でも多少はできます)文部科学省は、自立活動の目標を、「個々の児童又は生徒が自立を目指し、障害による学習上又は生活上の困難を主体的に改善・克服するために必要な知識、技能、態度及び習慣を養い、もって心身の調和的発達の基礎を培う」と定義しています。また、指導内容を以下の6区分27項目にまとめています。


1 健康の保持
⑴ 生活のリズムや生活習慣の形成に関すること
⑵ 病気の状態の理解と生活管理に関すること
⑶ 身体各部の状態の理解と養護に関すること
⑷ 障害の特性の理解と生活環境の調整に関すること
⑸ 健康状態の維持・改善に関すること


2 心理的な安定
⑴ 情緒の安定に関すること
⑵ 状況の理解と変化への対応に関すること
⑶ 障害による学習上又は生活上の困難を改善・克服する意欲に関すること


3 人間関係の形成
⑴ 他者とのかかわりの基礎に関すること
⑵ 他者との意図や感情の理解に関すること
⑶ 自己の理解と行動の調整に関すること
⑷ 集団への参加の基礎に関すること


4 環境の把握
⑴ 保有する感覚の活用に関すること
⑵ 感覚や認知の特性についての理解と対応に関すること
⑶ 感覚の補助および代行手段の活用に関すること
⑷ 感覚を総合的に活用した周囲の状況についての把握と状況に応じた行動に関すること
⑸ 認知や行動の手掛かりとなる概念の形成に関すること


5 身体の動き
⑴ 姿勢と運動・動作の基本的技能に関すること
⑵ 姿勢保持と運動・動作の補助的手段の活用に関すること
⑶ 日常生活に必要な基本動作に関すること
⑷ 身体の移動能力に関すること
⑸ 作業に必要な動作と円滑な遂行に関すること


6 コミュニケーション
⑴ コミュニケーションの基礎的能力に関すること
⑵ 言語の受容と表出に関すること
⑶ 言語の形成と活用に関すること
⑷ コミュニケーション手段の選択と活用に関すること
⑸ 状況に応じたコミュニケーションに関すること


この27項目を全て網羅する必要はなく、子どもたちの教育的ニーズに適した内容を選択して取り組むように示されています。

また文部科学省は、自立活動を「学習の土台」としています。健康の保持、心理的な安定、人間関係の形成、環境の把握、身体の動き、コミュニケーションの力を自立活動の時間にしっかりと養われてこそ、はじめて教科学習が満足にできるということです。これは、感覚統合の考え方に基づいています。分かりやすい例でいうと、基本的生活習慣が整っていなければ、また、情緒の安定が図られなければ、教科の学習どころではないということです。また、教科の学習の前に、自立活動の時間に姿勢保持の方法を学習することが大切であるということも言えるのではないかと思います。

このようなことを踏まえて、次回からは、文部科学省が定めている6区分に基づいて、子どもたちの教育的ニーズを改善・克服するための自立活動の授業実践を連載していきたいと考えています。授業前後の子どもたちの変容についても触れ、どのような効果が見られたのか、紹介していければと思っています。

【参考文献】
文部科学省「小学校学習指導要領解説」(平成29年告示)

イラスト/難波孝
バナーイラスト/イラストAC



奥山 俊志哉(おくやま としや)
1990年福井県生まれ
京都教育大学卒業
京都教育大学連合教職大学院修了 教職修士(専門職)
2024年8月現在、埼玉県公立小学校教諭 
小学校教諭11年目 (通常学級5年 特別支援学級6年)
自閉症・情緒障害学級担任、特別支援学級主任、特別支援教育主任 児童発達支援士
非営利活動任意団体空に架かる橋メンバー
「自閉・情緒学級における授業づくり検討会」代表
「実践みんなの特別支援教育」(Gakken)


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