「イメージで作る道徳の授業」で教材研究を効率化する(前編)

様々な教科を教えなければならない小学校の先生にとって、教材研究のための時間の捻出は永遠の悩みのタネです。とりわけ、道徳や国語の教材分析をしっかりやろうとすると、時間がいくらあっても足りません。

道徳の教材分析から板書計画まで20分!という効率的な授業準備を実現している頃橋真也先生のアイデアを紹介します。

執筆/奈良県公立小学校教諭・頃橋真也

授業準備ができなくても授業は必ずやってくる!

みなさんは、道徳の授業を作るときに、教材文を読み、授業のねらい・中心発問・主題、そして発問…最後に板書…と教材分析をしたときに、「時間がかかるなぁ…」と感じたことはありませんか?

私は毎回感じています。なぜなら、道徳の授業以外にも、国語・算数などの授業準備をしないといけないからです。さらに、校務分掌の仕事や研修、保護者対応、会議などもあり、「道徳の教材研究をしたくても時間の確保が難しい!」とお悩みの方は多いはずです。

ただ、どれほど忙しくて、授業準備ができていなくても、道徳の授業は毎週1回必ずあります。大変ですよね。

実際私も、教務主任と学級担任を3年間兼務していたとき、どのように授業準備をすべきか悩みに悩みました。1回の道徳の授業のために、学習指導要領を読んで、教材文を読んで、主題名を考えて、中心発問を考えて、発問を考えて、板書を考えて……を毎回するのは持続可能な方法とは言えないと思います。

中には、そのような進め方でできている人もいるでしょう。しかし、それでは続かずに途中で挫折する人のほうが多いのではないでしょうか?

では、どうするのか?

それは、指導書を最大限に生かして、発問と板書計画を考えることだけに力を注ぐということです。時間にして、わずか20分です! 『ねらい』や『主題』にはさっと目を通すだけにし、「発問」と「板書」にこだわります。

私はいつも、「道徳の授業をするのは、空き時間や放課後の20分」と時間を決めています。そして、授業準備を始めるのは、道徳の授業をする2日前です。なぜ1日前ではないかというと、急な仕事が発生して授業準備ができないまま授業を迎えることが、これまで何度もあったからです。

今回紹介するのは、私が教務主任をしつつ学級担任を3年間していたときに導き出した教材分析の仕方です。言わば現場から生まれた教材分析の方法です。

この教材分析の良いところは、授業を考えるのが“ただただ楽しい”ということに尽きます。時短になるだけでなく、構造的な板書が誰でも作れてしまうという、とっておきのアイデアが満載です。

イメージでつくる道徳の板書って?

先生方は、教材文を読むときにどのようなことを意識していますか? 登場人物の心情変化を探したり、場面分けをしたりしながら読む先生は多いと思います。私は、このときに「教材文がどのようなタイプか?」を考えて読んでいます。なぜなら教材のタイプを考えることは、中心発問や板書に大きく影響するからです。

また、指導書の発問例は活用していますか? 私はものすごく活用しています。

もし、指導書の発問例が「自分のクラスでも深く学べそうだな!」と思った場合は、ぜひそのまま活用してください。指導書は、大学の先生や道徳を研究している現場の先生方が考え出した一つの授業デザインです。決して間違ってはいません。

大事なのは、発問例に対して、自分のクラスの子供たちの反応をイメージすることです。想像した結果、指導書の通りの授業の進め方で、深い学びに誘えそうだなと感じたら、活用するのが最も効率的です。

ただ、その際、板書の書き方はぜひ変えてみてください。板書を教材のタイプに合わせ、なおかつ、子供たちの思考の流れが表現された板書になれば、一気に構造的な板書となるはずです。

それでは、ここで下記の「イメージで作る道徳の板書」を見てください。

イメージで作る道徳の板書(下記のボタンからPDFをダウンロードできます)

この「イメージで作る道徳の板書」は、教材分析をするときに、教材文を読んでいるときの私の頭の中を表したものです。ちなみに登場人物がいる場合です。

登場人物がいる教材は、大きく分けて次の8つの板書の型があると私は考えています。

①心情曲線 ②葛藤 ③壁突破 ④対比 ⑤比較 ⑥三段階層 ⑦イメージマップ ⑧関係図

教材文を読んだ直後に、このチャート図を指でたどっていってみてください。板書を考える上で大きなヒントになると思います。

ちなみに、上の図の右側にある板書画像は、ここ3年間の私の道徳の授業から抜粋したものです。実際に、板書例があると、同じにする必要はなくても、イメージが湧いてきますよね。

ところで、先生方は、道徳の時間における板書の役割について、どのように考えていますか? 私が考える最大の役割は、子供たちの思考の補助と共有化です。

子供たちは、45分間の授業中に、「教材文」「黒板」「道徳ノート(ワークシート)」「教師」「友達」「大型テレビ(タブレット等)」のいずれかに目を向けて思考しています。そのうち、「黒板」をどれだけ見ているでしょうか? 40分?30分?20分?10分? 授業のデザインにもよりますが、黒板の方に目を向けている時間は多いはずです。だからこそ、道徳の時間の板書は、子供たちが考えやすいように、構造化する必要があるのです。

実践①3年『日曜日の公園で』(B相互理解、寛容)

教材分析

では、実際に、どのように教材分析をしていくのか、実例をもとに見ていきましょう。

今回は、光村図書(きみがいちばんひかるとき)の3年『日曜日の公園で』(B相互理解、寛容)の教材を使います。

あらすじ
「ぼく」は、4人でゲームをしている。そこへゲーム機のないヨシキが来て、「見ていてもいいかな?」と聞いてきたので、「いいよ」と言うと、ヨシキはそのまま見ていた。タクが飽きてきたから走って遊ぼうといったが、「ぼく」は反対する。ヨシキの存在も理由に出すタクに、「ぼく」はヨシキが「見ていてもいいかな?」と自分から言ったと反論する。そしてけんかになる。

道徳の教材文を読むときに、私は中心場面を最初に探します。中心場面とは、登場人物の心情が大きく変化するなど、道徳的価値が最も表れる場所のことです。

この教材文は、“けんか”という出来事が起きた直後に話が終わっており、解決したのかどうかは書かれておらず、「ぼく」が『どうしたらいいのだろう?』と困ってしまうところで終わっています。『相互理解、寛容』という内容項目を意識しつつ、けんか後の場面を中心として、授業をデザインすることにしました。

次に教材を、もう少し細かく見ていきます。ここで、活用するのが「イメージで作る道徳の板書」です。

今回の教材には、登場人物が「ぼく」を含む4人とヨシキ1人で、合計5人います。しかし、教材文では、ぼくとタクの会話で進行しているため、主に2人であると考えます。

次に、
・1人の心情を中心に深く考えるのか?
・2人の心情の両方を考えるのか?
について考えると思います。このときは、「どちらのほうがねらいに迫れるのか?」ということを意識しながら、授業をデザインします。

この教材は、『相互理解、寛容』の内容項目は、「Bの視点:主として人との関わりに関すること」です。1人の心情を中心に考えるより、2人の心情を考えて、共通点や相違点を考えることから授業を進めたほうが、ねらいに迫りやすいと考えました。

イメージで作る道徳の板書

そこで「イメージで作る道徳の板書」のチャートをたどると、対比・比較型の板書へと導かれました。「対比・比較型」からイメージを膨らませ、黒板の左右に登場人物2人を配置し、真ん中に共通点を書いて掘り下げていく感じで進めていこうと考えました。

発問の流れは

  1. 2人の心情を考える→共通の思いについて考える
  2. ぼくに足りない心について考える
  3. なぜその心が大切なのかについて考える

という授業のデザインにしました。

板書計画

板書のイメージは、対比・比較型の授業デザインにしようと思ったので、思考ツールのベン図を取り入れることにしました。そのときの板書イメージがこちらです。

ベン図から掘り下げるイメージ

私は、イメージした板書を教材分析シートの板書計画欄に書きます。ちなみに、私が使っている教材分析シートはA4のプリントです。授業では、そのシートと指導書を見ながら進めていきます。

授業後の板書については、以下の通りです。

授業後の板書

指導計画の段階では、板書の大枠を決めておいて、細かなところは決めていません。授業の中で、そのときの子供たちの反応などに合わせて、即興的に板書で表します。

よく私は、「この意見はどこに書いたらいいかな?」とか「だれの意見につながっていると思う?」などと子供たちに問い返しながら、子供と一緒に板書を作ります。

詳細に板書計画を作った上で授業に臨むと、我々教師は、「板書計画の通りに書きたい!」「板書計画の通りに授業を進めたい!」と半ば強引に進めていきたくなるものです。

しかし、それは大きな間違いです。その考えをもつと、教師の思いが先行した板書となり、決して子供たちの思考に役に立っているとは言えないものになります。

授業中の板書で大事なことは、柔軟さと即興さです。授業のねらいに到達さえすればいいのですから、教師の考えた板書案通りにする必要などありません。「子供たちの意見や反応に合わせて、柔軟に授業を再デザインし、ねらいに迫っていく」…それが道徳の授業の醍醐味です。

だからこそ、板書は大枠だけ決めておくのです。そこに、子供たちの意見や反応に合わせて、板書していくのがオススメです。

そのときに役に立つのが、冒頭の図の下段にある「イメージアイデア(記号やイラスト)」です。

イメージアイデア(記号やイラスト)

ハートや不等号、星形、天秤など、板書に活用できそうなパーツを知識として持っておくことは、とても大切です。これらを、子供の意見や反応に合わせて板書するときに、活用していきましょう。くわしい使い方は、後編の記事で解説いたします。

あなたも、道徳の授業準備が楽しくなる!

「イメージでつくる道徳の板書」はいかがでしたか?

まずは一度「イメージで作る道徳の板書」を使いながら、教材文を読んで、授業をデザインしてみてください。発問したときの子供の顔を想像したり、そのときの子供の思考をどのように板書で表現するかを考えたり…。間違いなく、授業準備は楽しいと感じると思います。

授業を考えるのが楽しくなるだけでなく、効率的に構造的な板書を構想できる「イメージでつくる道徳の板書」。どうぞ楽しんで授業に活かしてください。

頃橋真也(ころはし・しんや)
教員歴14年。県の道徳研究会に13年間所属し、道徳の授業作りについて研究を深める。2021年度「第27回日教弘教育賞奨励賞、2022年度「第21回ちゅうでん教育大賞」教育奨励賞、授賞

「イメージで作る道徳の授業」…次回は、イメージアイデア(記号やイラスト)を活用した板書作りについて紹介します。

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