小学校の年度初めの教材採択で後悔しないために
年度始まり直前の春休み中、漢字や算数などの副教材を選ぶ先生方が多いのではないかと思います。「始業式の翌日からの授業に間に合わせたい」「予算書の年間計画書を早く作らないといけない」などの理由から、急いで教材を決めることも多いでしょう。さらに春休みは、1週間ほどの短い期間の中で、教材採択の他にも山ほどの業務があります。とは言え教材選びは、1年間の授業を支える大切な選択です。今回は、19年間の教員生活で、教材採択のたくさんの失敗や後悔を経験してきたという松下先生が、いつも気をつけていることを紹介してくれました。
劇団俳優を経て、公立小学校の教壇へ。得意のダンス指導で日本一になったり、絵本作家にチャレンジしたりと、精力的な毎日を過ごす松下隼司先生。その教育観の底には、子どもも指導者も毎日楽しく、笑顔でありたいという願いがあるそうです。そんな松下先生から、笑顔のおすそわけをしてもらうコーナーです。
指導/大阪府公立小学校教諭・松下隼司
1.事前にサンプル段ボールの中身を確認
担任発表があったら、同じ学年の先生と教材選びをします。
教材屋さんから、サンプルの教材が入った段ボールが送られてきますよね。それを開けたところ、自分が採択したいと思っていた教材が入っていないことがありました。
そんなとき、学校に出入りする教材屋さんに電話すれば、すぐ学校に届けてくれるのが当たり前なのですが…。教材屋さんによっては、取り扱う商品の好き嫌いがある場合があります。「うちは、〇〇の教材が嫌いなんで入れてないんです」と実際に言われたことがあります。
初めの年は諦めてしまったのですが、次の年からは、教材を作っている会社に直接、電話するようにしました。すると、版元は直接、学校に届ける手はずを整えてくれました。
しかし、その場合は、教材が届くまでには時間がかかります。
教材採択の3日前には、サンプル箱の中身を確認しておくと安心かと思います。
2.漢字テストは勤務時間に作れなければ購入
新出漢字の教材(ドリルやスキル)は、漢字テストもセットで購入できます。
勤務時間内に、毎回の漢字テストを自作し、印刷する時間があれば、テストを購入する必要はありません。
でも、放課後に会議や研修、子どもや保護者への対応がたくさんあって、それが不可能な場合。教材といっしょにテストも購入することをおすすめします。
ご自分のお子さんの送り迎え、ご家族の介護などで、なかなか定時の時間外に仕事ができない先生は、特にそうした方がよいと思います。
私は以前、「少しでも保護者負担を減らしたい」と思い、漢字テストを購入しなかったことがありました。でも、漢字テストを作って、印刷する時間の余裕は一切、ありませんでした。他の学年の先生が、購入した漢字テストを使っているのを見て、後悔しました…。
3.漢字教材はテストの練習ページを見比べる
新出漢字の教材としては、漢字ドリルや漢字スキルなどがあります。どちらも、漢字の書き順や読みを覚えるページと、テストの練習ページがあります。
漢字教材はたくさんあって、迷われるかもしれません。
私のおすすめは、テストの練習ページを見比べることです。
その学年で習う漢字だけをテストで書けばいいタイプ【A】と、これまで習った漢字も書かないといけないタイプ【B】があります。
例えば、小学4年生で習う「試」の練習ページだと、次のようになります。
【A】明日のし合に負けたくない。
【B】あしたのしあいにまけたくない。
学力に不安のある子どもが多くいる場合は、【A】の教材をおすすめします。新出漢字だけを覚えればいいので、負担が少なくなります。テストの点数も良くなり、意欲も向上します。また、書く量が少ないので、テストが短時間で終わります。
これまで習った漢字の復習と、新出漢字の学習を分けた方が、子どもにとっても教師にとっても負担が少なくなります。
4.算数教材(ドリル・スキル)は教科書と見比べる
算数の副教材は、計算ドリルや計算スキルなどがあります。
計算関係の副教材も漢字教材と同じくらい段ボールにたくさん入っていて、迷われるかもしれません。
選ぶポイントはたくさんあるかと思いますが、私が一番、大切だと思うのは、教科書の順番と同じになっていることです。「教科書に載っている単元」の順番と、「副教材に載っている単元」の順番が同じになっているかどうかです。
どれだけいい教材でも、順番が違ったら、それだけで子どもにとっても教師にとっても使いづらくなります。
教科書の単元と違う順番で副教材に問題が載っている場合、ページ数をめくって、前後に移動しないといけなくなります。これが、結構しんどく感じる子どもがいるのです。
以前、「この教材、すごく分かりやすい!」と思って採択したのに、実際使ってみて、とても後悔したことがあります。算数の副教材は、学期ごとや上巻・下巻と分かれているものが多いのですが、私が採択した教材は、なんと1学期に学習する内容が下巻に載っていたのです。
算数の教材選びのときは、教科書を持っていくことをおすすめします。
5.テストは書き込めるものを選ぶ
「テストだから、書き込めるなんて当たり前」
「書き込めないテストなんてあるの!?」
と思われるかもしれません。でも、あるんです。書き込めないテストが……。
国語の場合、問題があって、解答欄があります。その解答欄が小さすぎて、解答欄に答えが収まらないテストがあるのです。
模範解答を見ると、大人でも書けないような小さな字で無理やり入れ込んでいます。これは子どもには酷です。
解答欄のスペースの広さから答えの長さを推測することもできません。記号を入れるのかな…と思えるようなスペースに文章で答えを書きます、となると、裏切られた気持ちになってしまうかと思います。
算数の場合は、特に回答欄の余白の量を確認してください。足し算や引き算、かけざん、わり算など筆算の単元のテストの場合、筆算を書くスペースがあるかの確認が絶対必要です。
なかには、筆算の学習の単元なのに、筆算を書くスペースがないテストがあります(文章問題で、「式」と「答え」しか書くスペースがない場合があります……)。
余白がないテストを採択してしまった年、「わり算の筆算」の単元テストで、子どもは下に割り進むほど字を小さく書いていました……。
テストを選ぶポイントは他にもあるかと思いますが、やはり『書き込むスペースがあるもの』というのが最優先だと思います。
6.理科・工作・家庭科の教材は「説明書」を見比べる
理科の実験道具や工作の作品、家庭科のナップザックやエプロンを選ぶときのポイントは、『子どもが説明書を読んで、子どもだけで作ることができる』です。
「先生、やり方が分かりません!」
「先生、次、どうするんですか?」
などと質問が出ない教材を選ぶようにしています。
まず、説明書を見比べます。文字が小さすぎたり、説明が多すぎたりすると、読む気を失ってしまう子どもがいます。作業工程が多すぎても、子どもがつまずきやすくなります。
例えば、高学年の家庭科でナップザックやエプロンを作りますが、折り目や裁断の線が最初から入っている方が、線を書かせるよりも作るのが簡単です。特に、家庭科は時数が多くありません。裁縫の他にも、授業する内容はもちろんあります。作るのが難しい教材を選ぶと、他の授業内容に支障をきたしてしまうかもしれません。
7.相方の先生とのコミュニケーションの機会
単学級の学年でなければ、相方の先生と一緒に教材選びをすることになります。私の経験だと、4月1日にすることが多いです。新しく赴任されてきたばかりの先生と学年を組むこともあります。
以前、我を張って、「この教材がいいです!」と推しすぎてしまったことがありました。子どものための教材選びなので、ついつい自分の経験や子どもへの思いを込めた意見を強く出しがちですが、相手の考えをしっかりと聞くことも大切です。忙しい時期だから、早く決めて他の仕事をしたいと焦る気持ちもあるでしょうが、ここはひとつ、余裕を持って…。
教材選びは、相方の先生との大切なコミュニケーションの機会でもあります。教材選びを通して、相手の考えや指導観、趣味や好みを知る機会にもなります。
以前は「キャラクターが好きとかかわいいとかで教材を選ぶんじゃなくて、内容で決めよう!」と強く思っていました。その思いは今も変わらないのですが、
「このキャラクターの方がかわいいと思います♪」
「え、ぼくも♪」
と、たわいもない会話を楽しめるようになりました。
教材選びの場で、教材選びに関することだけの会話をするのでなく、楽しい雑談もすることを心がけるようになりました。そういった余白の入れ方、楽しさは、年度はじめの教員間のコミュニケーションに大切なんだと思うようになったのです。
松下隼司(まつした じゅんじ)
大阪府公立小学校教諭。第4回全日本ダンス教育指導者指導技術コンクールで文部科学大臣賞、第69回(2020年度)読売教育賞 健康・体力づくり部門で優秀賞を受賞。さらに、日本最古の神社である大神神社短歌祭で額田王賞、プレゼンアワード2020で優秀賞を受賞するなど、様々なジャンルでの受賞歴がある。小劇場を中心に10年間の演劇活動をしていた経験も。著書に、『むずかしい学級の空気をかえる 楽級経営』(東洋館出版社)、絵本『ぼく、わたしのトリセツ』(アメージング出版)、絵本『せんせいって』(みらいパブリッシング)がある。
イラスト/したらみ