卒業式の練習では、指導したいことを「見える化」しよう
卒業式に向けて指導することはたくさんあります。例えば、座っているときの姿勢や、卒業証書授与での歩き方・受け取り方・礼の仕方などです。気をつけなければならないことがたくさんあると、子どもは覚えることに、教師は指導することに疲弊してしまうかもしれません。そこで今回は、指導事項を「見える化」して分かりやすくするアイデアを紹介します。
劇団俳優を経て、公立小学校の教壇へ。得意のダンス指導で日本一になったり、絵本作家にチャレンジしたりと、精力的な毎日を過ごす松下隼司先生。その教育観の底には、子どもも指導者も毎日楽しく、笑顔でありたいという願いがあるそうです。そんな松下先生から、笑顔のおすそわけをしてもらうコーナーです。
指導/大阪府公立小学校教諭・松下隼司
舞台上の演台に指導事項を掲示して、練習を効率化
卒業式における指導事項としては、次のようなものがあります。
座り方
- 背筋を伸ばして座る。
- 座っているときは、手はひざの上。
- 座っているときは、足を大きく開かない。
卒業証書授与
- 前を見て堂々と歩く。
- 礼は、腰から(頭だけペコリとしない)。
- 卒業証書を校長先生からもらう時は右手から。
- 卒業証書は左手で持つ。
などなど。これは主立ったものだけですが、細かい指導は他にもたくさんあると思います。
私がこれまで勤めた学校では、卒業証書授与のときに、舞台上で自分の将来の夢や目標を発表する「決意の言葉」もありました。担任の先生が子どもの名前を呼んだら、「はいっ! 私は将来、水泳選手になって、オリンピックで金メダルをとりたいです」など、将来の夢や中学校でがんばりたいことを発表します。この発表についても次のような指導があります。
決意の言葉
- 決意の言葉の最初の一音(語頭)と、最後の一音(語尾)を特にはっきりと言う。
- 一音一音、丁寧に言う(早口防止)。
- 一息で言わないで、息継ぎするところを入れる(早口防止)。
☆卒業式当日は極度に緊張するため、小声になったり、早口になったりする可能性があり、特に前もって気をつけたいところです。
指導することが多くなるほど、記憶から抜け落ちることが多くなってしまいます。あれもこれもと矢継ぎ早に言われて、いっぱいいっぱいになってしまう子どもがいるのです。
私も以前、
「さっきも言ったやろ!」
「何回、言わせるん!?」
「できていない人がいる!」
「できていない人が目立ってしまう!」
などと厳しい口調で言って、子どもを傷つけてしまったことがあります。
その反省から、私は 指導したいことを「見える化」するようにしました。
舞台の壇上の演台に、「座り方」「卒業証書授与」「決意の言葉」で指導したいことを、画用紙に書いて掲示しました。
ワーキングメモリが少ない子どもにとって、とても効果的でした。
また、他の友達ができているかも確認できます。卒業証書授与は、待ち時間が長いです。待ち時間、ぼーっと座って待つだけでなく、友達一人ひとりの動きや言葉のどこが良くて、どこが改善できるかなどを考えることができます。
注意や叱り言葉が減って、私自身も、とても気が楽になりました。
- 「座り方」(写真右)は、四つ切画用紙1枚に書いています。
- 「卒業証書授与」(写真中央)は、四つ切画用紙2枚に書いています。
- 「決意の言葉」(写真左)は、四つ切画用紙を縦にして書いています。
- まず、これらの紙を用意します。そして、教室での練習を行います。
- 一度に全ての画用紙を掲示するのではなく、少しずつ掲示物を増やすようにしました。一度に全て掲示すると、負担に感じる子どもがいるかもしれないからです。
- 小さな練習の機会を何度かもち、全体の流れを何となく把握して、ある程度できるようになっていると、子どもたちの負担感はだいぶ減ります。
- 子どもがある程度できるようになってきたら、少しずつ掲示物を外していきます。そして、掲示物に書かれたことを見なくてもできるようになったことをほめるようにしましょう。
松下隼司(まつした じゅんじ)
大阪府公立小学校教諭。第4回全日本ダンス教育指導者指導技術コンクールで文部科学大臣賞、第69回(2020年度)読売教育賞 健康・体力づくり部門で優秀賞を受賞。さらに、日本最古の神社である大神神社短歌祭で額田王賞、プレゼンアワード2020で優秀賞を受賞するなど、様々なジャンルでの受賞歴がある。小劇場を中心に10年間の演劇活動をしていた経験も。著書に、『むずかしい学級の空気をかえる 楽級経営』(東洋館出版社)、絵本『ぼく、わたしのトリセツ』(アメージング出版)、絵本『せんせいって』(みらいパブリッシング)がある。
イラスト/したらみ