連載マンガ「いじめと戦う!プロの対応術」第1話 いじめと戦うのは誰?
時として子供たちの命を奪ってしまう「いじめ」。日々の学級経営によって予防すべきですが、それでも起きてしまった場合、一刻も早く事実確認をし、適切に対応、解決しなければなりません。そこには、プロとしての具体的でリアルな対応術が求められます。
いじめ対応実践の第一人者、千葉孝司先生(北海道公立中学校)の監修のもと、『江戸城再建』等の作品があるビッグコミック連載作家・黒川清作先生が描き下ろした新連載をお届けします。
この物語の全話は、絶賛発売中の単行本「いじめと戦う!プロの対応術」(←書名をクリックすると販売サイトに移行します)に収録されています。ご購読ください。
監修・千葉孝司先生によるポイント解説 #1
いじめ指導の基本的な流れは、事実の確認 → 加害者への指導 → 被害者への謝罪 → 傍観者への指導 です。
- ①事実の確認
最初にするのは事実の確認です。
事実には客観的事実と心理的事実の2種類があります。
客観的事実とは、誰の目から見ても一致する事実や行為ですが、子供たちの心理的事実を無視してそこに到達することも難しいものです。
「遊んでいただけです」と言う加害者に対し「それはいじめだろう」と言っても平行線をたどることがあります。まずは否定せず行為の際にどんな気持ちであったかを聞き出した上で、改めて振り返らせると、「悪かった」「やりすぎだと思います」という言葉を口にします。
Aさんが「ちらっと見た」(客観的事実)ことを「にらまれた」(心理的事実)と捉えている被害者もいます。まずはどう感じているのかという心理的事実を語らせたうえで、客観的事実に迫っていきます。
被害者からのヒアリング中には、先週されたことを聴いているのに、もっとさかのぼった過去の出来事が混在してしまうことがあります。被害意識が強い場合もありますが、そこに過去の経験が影響を与えていることもあります。被害者の心理的事実を受け止めることは、心のケアそのものにもなっていきます。
被害者と加害者の心理的事実同士をぶつけ合っても、全体像がぼやけてしまい、指導が中途半端になります。「わざとぶつかった」という心理的事実を引き出したとしたら、そこにとどまらず、「ちらっと目があってからぶつかった」というような、「誰が見ても一致する客観的事実」に到達し、置き換えておく必要があります。
- ②加害者への指導
先の見通しを持つのが苦手、人の気持ちを想像し理解するのが苦手、つい衝動的に動いてしまい考えてから行動するのが苦手……。加害者の中にはそういった特性を持つ子も多いものです。自分の行為で相手や周囲がどんな気持ちになるか、その行為が続いていくと最悪どんなことが待っているのか、一緒に考えていく必要があります。
いじめはされた側よりもした側にとって「黒歴史」となるのだ、ということも伝えます。「あ、これはまずい」と納得させたうえで、自分の行為の悪い点、どうすればしなくてすむのか、そのために必要な考えや行為、これから相手にどうしたらよいかなどを考えさせます。
そして二度とその行為をしないことを約束させます。するとそれ以降、「先生との約束をきちんと守っているね」というポジティブな声かけが出来るようになります。
- ③被害者への謝罪
加害者に「先生に言われたから仕方なく謝っているだけだ」と思わせてはいけません。謝罪内容を一緒に考え、実際に言わせてみることが大切です。そしてその言葉を聞いた相手がどう思うかを想像させます。加害者が「謝ってもらったけど不安だと思う」と言った場合は、不安を取り除く態度や方法についても考えさせます。
〈謝罪の言葉の例〉
「自分が人の気持ちをきちんと考えなかったせいで、すごく嫌な思いをさせてしまいました。今はとても悪いことをしたと反省しています。これから二度と同じことをしないことを約束します。どうもすみませんでした」
- ④傍観者への指導
いじめの場面をただ傍観していたことがいかに悪いことであるかを伝え、そうした場面を目撃した際の具体的な行動の方法と、教師の決意を伝えます。
以下は、傍観していた学級の子どもたちに対して教師がどう話すかの一例です。
「例えば幼児がよちよち歩きをしながら崖へと向かっていたら、どんな悪人でも駆け寄って止めるはずです。『自分は突き落としてはいない、見ていただけだ』と言っても、そうした場面で何もしないことは許されることではありません。いじめはする側もされた側も見ている側も、全ての人を傷つけます。
クラスでつらい思いをしている人がいたら、先生に伝えてください。直接言うのが難しければ、「〇〇さんが嫌な思いをしています」という紙を先生の下駄箱に入れてください。
先生はあなたたち一人ひとりを大切にしたいと思っています。でも全てを見ているわけではありません。どうか協力してください。必ず一人ひとりを守ります」
執筆/千葉孝司(北海道公立中学校教諭)