小1道徳「うんどうぐつ」指導アイデア

執筆/埼玉県公立小学校教諭・渡邉純子
監修/前・埼玉県公立小学校校長・藤澤由紀夫、文部科学省教科調査官・浅見哲也

授業を展開するにあたり

使用教材:「うんどうぐつ」(学研教育みらい)

教材「うんどうぐつ」の話は、いじめの構図を示しています。誰もがしてはいけないことと判断できる「くつかくし」の話です。してはいけないと思っていても言えないという人間の弱さ(人間理解)も描写されています。

一年生の子供たちは、善悪の判断能力がまだ乏しく、周囲の状況に流されたり、自分の利害や欲求を優先して行動してしまったりすることが少なくありません。また、集団生活に慣れていないために、引っ込み思案になったり物おじしたりすることもあります。

しかし、子供たちは、正義の味方であり、どんな相手と戦っても勝つことができる存在である「ヒーロー」になりたいと願っています。そして、その「ヒーロー」は、悪役がいるからこそ生まれると考える子供もいるでしょう。つまり、善には悪も伴っているということを、子供たちは、ヒーローの存在によって理解しているとも言えます。

そこで、教科書教材「うんどうぐつ」と資料「『BE A HERO』プロジェクト」を活用して、「自分にとってのヒーロー」をテーマに考え、人としてやってよいことと、してはならないことをしっかりと区別したり判断したりする力を身に付けるとともに、勇気をもって主体的に取り組めるようにしたいと考え、授業プランを立てました。

小1道徳「うんどうぐつ」指導アイデアのイメージイラスト
イラストAC

学習指導過程の概略

【導入】
・「ヒーロー」とはどのような人なのか、自分の思うヒーロー像を発表する。
子供たちの思い描くヒーロー像を否定しない。ただ、それだけで、「ヒーロー」と言えるのかと問い、本時の学習テーマにつなげる。

【展開】
・教科書教材「うんどうぐつ」で考える。

①いつもいばっているしげたさんに「だまっていろ」と言われたときのぼくについて考える。自分にとって立場が上となる相手であるほど、間違っていることを伝えにくくなる人間の弱さを引き出す。

②くつを探しているはやのさんの気持ちを考える。目の前に困っている友達がいることを意識させ、自分の弱い心に打ち勝つ原動力となるようにする。

③しげたさんの前に立ったぼくの葛藤する気持ちとその根拠を考えさせる。自己を見つめ、これまでの経験を想起しながら、これからの自己像を形成していく。

④学習を通して、自分の思うヒーロー像をグループで出し合い、話し合う。

【終末】
・資料「『BE A HERO』 プロジェクト」を読み、行動することの大切さを考える。

▼ワークシート

ワークシート

ワークシートのPDFはこちらよりダウンロードできます

▼資料

資料

「いじめ撲滅『BE A HERO』プロジェクト」が提唱する、世界中のいじめ研究から導き出された科学的根拠のある、いじめの起こりにくい空間をつくるための行動指針です。⇒BE A HEROプロジェクトホームページ

実際の授業展開

教材名
うんどうぐつ ~自分にとっての「ヒーロー」を考える~

ねらい
悪いことと分かっていても言えない主人公の気持ちを考えるとともに、「ヒーロー」とはどんな人かを考えることを通して、よく考えて行動することが、自分にとっても相手にとっても気持ちのよい生活につながることに気付き、正しいと思ったことを進んで行おうとする態度を育てる。

内容項目
A 善悪の判断、自律、自由と責任

準備するもの
・教材「うんどうぐつ」
・ワークシート(児童配付用)
・資料「『BE A HERO』プロジェクト」 
・場面絵

ワークシートのPDFはこちらよりダウンロードできます

指導の概略(板書計画例)

板書計画例

導入

①自分にとっての「ヒーロー」ってどんな人ですか。

  • 「ヒーロー」のイメージをみんなで共有し、学習への興味をもたせる。
  • 本時の学習テーマを設定する。

展開1

②しげたさんに「だまっていろ」と言われたとき、ぼくはどんなことを考えたのでしょう。

  • いつもいばっているしげたさんだからこそ、すぐに言い返すことができない主人公の気持ちに共感させる。誰にでもある人間の弱さを受け止める。

展開2

③くつを探しているはやのさんは、どんな気持ちでしょう。

  • 相手の気持ちを考えることの大切さに気付かせる。

展開3

④しげたさんの前でどんなことを考えたのでしょう。

  • ワークシートに自分の考えを書く。
  • 葛藤する気持ちを問いながら、その根拠を明確にさせて話し合わせる。

展開4

⑤本当の「ヒーロー」ってどんな人でしょうか。

  • ワークシートに書く。授業前のイメージと比較できるようにする。
  • グループで話し合わせ、多面的・多角的に考えられるようにする。グループで出された考えをホワイトボードに書かせ、黒板に提示して全体に広める。

終末

⑥資料「『BE A HERO』プロジェクト」を読んで、みんなの考えた「ヒーロー」と比べてみましょう。

  • 身近な生活のなかで、よいと思ったことを進んで行った経験を紹介し、資料や子供たちの考えた「ヒーロー」に当てはまることを確認し、実践意欲を高める。

ここがアクティブ!授業展開の補足説明

自分事として捉えさせる

道徳科の授業は、「自分も友達も周りのみんなも幸せになる考えや方法を探す時間」であると、道徳オリエンテーションで伝えています。自分だけでなく、友達や周りの人たちへの思いを問うことで、よりよい生き方を考えることができるのではないでしょうか。

今回は子供の発言が自分本位な考えなのか、相手を意識しての考えなのか、考えの根拠を明確にし、みんなが幸せになる考えや方法を考えました。「なんとかしないといけない。でも自分もされるかもしれないし、怖いから先生に伝える」と、自分本位に考える子供や、「はやのさんのために注意する」「しげたさんが間違っていることをきちんと言いたい。

しげたさんが悪い子になってしまうから」と、相手のために自分にできることを述べる子供がいました。自分の立場をはっきりとさせ、自分がなぜそう考えたのか、理由をワークシートに書いておくことで、子供の思考は深まりを増し、他者との議論が活発になりました。

話合いの後、どの考えも自分でよく考えて行動していることに気付かせ、ねらいとする価値に迫るようにしました。

授業前と授業後の理想像を比較させる

導入と展開の後半で同じ発問をしました。子供たちは、これまでの経験や体験から「ヒーロー」をイメージしていましたが、展開の後半では、対話を通して「ヒーロー」をイメージすることができました。

子供が自分の学びを把握し、自分の心の成長や変化に気付くことができます。また、教師も子供たちの道徳的価値についての考え方がどのように変容したのかについて見とることができます。

授業をするうえでの注意点 ・ ポイント解説

いじめの観点の配慮

本教材は、日常生活で起こり得る話です。してはいけないと分かっていても言えない、断れないことは誰もが経験することでしょう。しかし、いじめは絶対にあってはなりません。学級や子供の実態に十分配慮して授業を進めることが必要です。

また、いじめの内容となる話では、役割演技による疑似体験はさせないようにします。攻撃心や恐怖感をもたせてしまう場合があるからです。役割演技は、自己の生き方についての考えを深め、行為として表出するための工夫であることを理解し、指導に生かしていきたいものです。

教科調査官からアドバイス

文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・浅見哲也

低学年の子供たちはまだまだヒーローに憧れる存在で、そんなヒーローになりたいと心を輝かせていることでしょう。子供たちにとってのヒーロー像は、テレビや漫画などの影響で「悪を倒す正義の味方」が多いと思われますが、渡邉先生は子供の発達の段階をうまく捉え、子供のよさを生かしてさらに正しい方向へ導こうと授業を構想しています。

導入では、子供たちが思い描いている「ヒーロー」の姿を確認し、教材を活用して、子供たちに、これから大きくふくらませてもらいたい心を考えて授業のねらいに迫っています。正義を貫く勇気や困っている人の心を感じ取る思いやりなどに気付き、これらの心をパワーに変えるとヒーローになれることを考えられるようにしています。

その過程はすんなりいくものではありません。必ず迷いが生じます。そこで大切なのはよりよい判断をするための根拠です。一年生でも少しずつ気持ちや考えの根拠を聞いていくことが、他律から自律へと向かう発達の段階で、とても大切なことになっていきます。

『教育技術 小一小二』2020年9月号より

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