小3道徳「お母さんのせいきゅう書」指導アイデア

執筆/鹿児島県公立小学校教諭・竹﨑千紗
監修/鹿児島県公立小学校校長・橋口俊一、文部科学省教科調査官・浅見哲也

授業を展開するにあたり

道徳が教科化となり、従来の「読み物道徳」「押し付け道徳」から「考え、議論する道徳」への転換が求められています。考えることで自分の感じ方や考え方を明確にし、議論することで多様な感じ方や考え方と出合い、考えをより明確にすることが大切です。

教材「お母さんのせいきゅう書」は、道徳が教科化される前から副読本に取り上げられており、家族みんなで協力し合って楽しい家庭をつくろうとする心情を育てることをねらいとしています。

今回は、「書く活動」に重点を置いて指導しました。「書く活動」を効果的に取り入れることで、自分の考えを明確にし、納得できる考えが導き出せるようにしました。納得できる考えを導き出すことができると、授業の中で自信をもって意見を述べることができます。

また、道徳の授業で学んだことが日常生活に生かせるように家庭と連携して授業を行いました。児童が、父母や祖父母にどのような敬愛の念を抱き、家族の一員として、家庭生活により積極的に関わっているのか、教師の側からなかなか把握しにくいものです。

だからこそ、家庭と連携した授業を行うことは、とても効果的だと考えます。今回は、今までしてきたお手伝いが、家族の役に立っている内容の手紙を、保護者に事前に書いてもらい、授業の終末で児童に渡しました。

小3道徳「お母さんのせいきゅう書」指導アイデアのイメージ画像
写真AC

教材のあらすじ

だいすけは、お手伝いをした報酬として400円を請求する。お母さんはその請求書を見て、無言で400円と一枚の紙切れを渡す。その紙切れには、「病気をしたときの看病0円」「食事を作ってあげた0円」などと書かれてあった。それを見ただいすけは目に涙を浮かべた。

学習指導過程

1 自分にとっての「家族」について考える。

2 めあてを立てる。

家族みんなで楽しく過ごすためには、どうすればよいのだろう。

3 お母さんに請求書を書いているときのだいすけの気持ちを考える。

4 だいすけの請求書とお母さんの請求書の違いを考える。

5 だいすけの目はどうして涙でいっぱいになったのかを考え、ワークシートに記入する。

6 家族みんなが楽しく過ごすためにはどうすればよいのか、自分の考えをワークシートに記入する。

7 今までの自分の家庭での行為をふり返る。

8 家族からの感謝の手紙を読む。

ワークシート作成に当たって

道徳の授業において、「書く活動」を充実させることは大切ですが、それが目的とならないように留意します。発問のたびに書かせていたのでは、議論する時間が十分に取れず、多面的・多角的に考えさせることができません。

ですので、書かせる場面は、自己の生活をふり返らせたり、中心発問に対する考えをまとめさせたり、これからのよりよい生き方に対する思いや願いを書かせたりする場面など、限定することが望ましいと考えています。

今回は、中心発問とねらいとする道徳的価値についてまとめるところの2点に絞り、ワークシートを作成しました。

▼ワークシート

A 請求書を読んだだいすけは,どうして涙でいっぱいになったのでしょう」という中心発問に対して、自分の考えを書いていきます。「なぜ、お母さんはお金を渡し,請求書に0円と書いたのだろう」と発問し、多面的・多角的に思考させ、母親の行動は、家族への深い愛情と家族のためを考えたものであることを理解できるようにします。

B 本時で学習した内容を基に、家族みんなが楽しく過ごすために、どのような行動をすればよいのか、これまでの自分の家庭生活での取組をふり返らせながら、今後のあり方をまとめていきます。

C 児童が自己理解を深めたり、自信をもったり、新たな課題や目標を見付けたりできるように自己評価をします。

実際の授業展開

主題名
家族で協力し合うこと

教材名
お母さんのせいきゅう書(日本文教出版)

指導目標
家族から無償の愛を受けていることを実感するとともに、家族に対して感謝の気持ちをもち、家族の一員として進んで楽しい家庭をつくろうとする意欲を高める。

内容項目
C 家族愛、家庭生活の充実

▼ワークシートのPDFはこちらよりダウンロードできます
小三道徳学習プリント「お母さんのせいきゅう書」

指導の概略(板書計画例)

板書計画例

導入

①家族がいてよかったと思うのはどんなときですか。

  • 今までの家庭生活をふり返らせ、教材への関心を高めます。受け身的な内容が多く出ると思われますが、展開後半における発問の際に、ここでの発言と対比させ、生かしていくようにします。

展開1

②お母さんに請求書を書いているとき、だいすけはどんな気持ちだったでしょう。

  • お小遣いが欲しいだいすけに共感して、気持ちを考えることが大切です。その後の補助発問で「このときは、お母さんの気持ちを考えていたでしょうか」と問うことで、だいすけが自分のことしか考えていないということを全体で確かめます。

展開2

③お母さんとだいすけの請求書の違うところはどこでしょう。

  • 「0円」の意味についても考えることで、「家族だからできること(愛情)」「お金では代えられないもの」という視点に気付けるようにします。

展開3

④どうしてだいすけは涙がいっぱいになったのでしょう。

  • だいすけが気付いたと思われることを、お母さんに語りかけるようにしてワークシートに書かせます。書く時間を十分に確保することで、児童は自分の考えを明確にします。

展開4

⑤家族みんなが楽しく過ごすためには、どうすればよいでしょう。

  • 導入での発表を想起させ、受け身でいては家族の一員として申し訳ないことにも気付かせます(ワークシート)。

展開5

⑥事前に本時の趣旨を説明し、保護者の理解と協力を得て、保護者からの手紙を準備しておきます。児童が読んでいる間にBGMを流すことで、雰囲気をつくります。

ここがアクティブ!授業展開の補足説明

展開の前半では、お母さんとだいすけの請求書の違いを考えさせました。児童の反応に応じて効果的な補助発問をしていくことが大切です。例えば児童が、金額の部分にばかり目がいくことがあります。

その際には、「お母さんの請求書はどうしてただなのかな」「お母さんはだいすけからお金をもらいたくないのかな」と発問をすることで、議論が活発になります。展開の後半では、「家族みんなが楽しく過ごすためにはどうすればよいでしょう」と発問しました。

ここで、「では、これから実際に家でどんなお手伝いをしていけばいいですか」と聞くと、児童は「結局お手伝いをしなさいということか」と感じ取り、実践の意欲は半減してしまいます。

これまで行ってきた家庭生活での手伝いをふり返らせ、自分の行動が具体的に家族のために役立っていることや家族に喜ばれ感謝されていることを実感させることが大切だ、と考えています。

今回の授業では、終末に家族からの感謝の手紙を読ませました。しかし、家庭状況によっては、手紙を書いてもらえない児童もいます。一人ひとりの家庭状況を確実に把握したうえで授業を行うことに留意することが大切です。

授業をするうえでの注意点・ポイント解説

道徳の授業において、「書く活動」はとても重要な役割を果たしています。その利点として、児童にとっては、自分の考えを整理し明確にすること、他者の意見を考え合わせながら自己を深く見つめることなどがあげられます。

また、発言が苦手だったり、聞き手になりやすかったりする児童にも、自分の考えを客観的に捉えて自由に表現することができるということ、考えの変化や成長の跡をふり返ることができるよさもあります。

教師にとっては、児童一人ひとりの感じ方を把握し、評価や道徳教育の指導につなげたり、教師自身の指導の評価に活用したりすることができます。大切なことは、1単位時間のどの場面において、どのような発問から「書く活動」を取り入れるのか十分に検討し計画することです。

展開の段階では、自分なりの道徳的価値観を深めるなど多様な価値観を引き出すことができるように、終末の段階では、ねらいとする道徳的価値について一人ひとりがまとめたり、授業をふり返って学んだことや授業で自覚した自己の生き方を考えたりすることができるように「書く活動」を取り入れるとよいのではないかと考えます。

教科調査官からアドバイス

文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・浅見哲也

道徳が特別の教科となり、「考え、議論する道徳」をキーワードとして、これまで以上に充実した授業への質的転換を図ろうとしています。

竹﨑先生は、まず展開1と2で、自分のことしか考えていない視野の狭さや私欲に共感させ、請求書を比較することによって自分の考えをもてるようにしています。また、児童が互いに伝え合う、つまり、話し合うことによって自分の考えを確かめられるようにしています。「考え、議論する道徳」とはここで終わりではありません。

自分の考えをより確かなものにしていくために、さまざまな感じ方や考え方に触れた後、児童一人ひとりが自問自答しながら大切なものを見いだしていくわけです。ここでじっくりと考えるために生かされるのが書く活動になります。

どこで取り入れるのか、明確な意図をもった授業と言えるでしょう。また、[家族愛、家庭生活の充実]という内容だからこそ、家庭と連携し、手紙を用意したことも大変効果的であると言えます。

『教育技術 小三小四』2020年7/8月号より

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