コロナ下での深い学びの育て方①「見方・考え方」のつぶやきを価値づける授業づくり
コロナ禍のために、学校現場では子供に対して一見十分な指導ができないように見えますが、一方で「今がチャンス!」という逆転の発想をもちつつ指導にあたる先生がいます。コロナ禍を逆手にとって、どのように子供を育んでいくのでしょうか。 尾形祐樹先生の「ことバンク」という、子供のつぶやきを価値づける授業を紹介します。
指導/東京都公立小学校指導教諭・尾形祐樹
目次
限られた授業時数内で資質・能力を育成するには
今年度全面実施になった学習指導要領は、各教科の「見方・考え方」を働かせることを通し、子供たちの資質・能力を育むことを求めています。授業時数が少なくなったことで今は、「教科書を全部終えられるのか」と考えている先生も少なくないでしょう。
しかし、「見方・考え方」を働かせる授業づくりを行うことは、資質・能力の育成を図ることはもちろん、限られた時間で子供たちに力を付けていくことにもつながります。今こそ、そのような授業づくりを身に付けていくチャンスだと思います。
昨年度末コロナ禍で一斉休校となり、今年度も休校からスタートしたとき、本校では学校が始まる前に新しい教科書を使って校内研修を行いました。
そこで行ったのは、教科書の枝葉を見るのではなく、「ここで身に付けたい力は何か」を考え、そのために「どのような見方・考え方を働かせるか」ということです。
子供たちが「見方・考え方」を働かせて学ぶ授業は時間がかかるが…
例えば、算数では、「筆算で正確に計算ができる」といった「知識・技能」に重点を置く先生がいるのではないでしょうか。
しかし新しい教科書を見ると、「見方・考え方」を重視し、授業や単元の最後に、「見方・考え方」をふり返ったりするようなページが設けられています。
まとめの場面も「知識・技能」だけでなく、「数学的な見方・考え方」に重点を置いて整理しています。
もちろん、めざす資質・能力を育むため、子供たちが「見方・考え方」を働かせて学ぶ授業を行うと、当初は時間がかかります。しかしそれを繰り返して行ううちに、子供たちに「見方・考え方」を働かせる習慣が付いてくると、授業時間は短縮されてきます。
また、資質・能力の育成という視点で単元を見られるようになると、限られた授業時数の中で、「どこに時間をかけて、どこを簡単に終えるか」という単元マネジメントができるようになっていきます。
時間数が限られた今年度だからこそ、そのような授業づくりに取り組むことが大切だと思いますし、それは必ず次年度以降の実践にもつながっていくものなのです。
子供の言葉を価値付けて評価する「ことバンク」
では、実際にどのようなことから取り組むかということで、本校で実践している「ことバンク」という取り組みをここで紹介しましょう。
本校では以前、算数の研究に取り組んでいました。そのため、5年以上前から算数の授業の中で、子供たちが数学的な「見方・考え方」を働かせてつぶやいたとき、その場でその言葉を価値付けて評価し、短冊に書いて貼るという取り組みを行ってきています(写真参照)。
例えば中学年なら、「[MATH]\(\frac{1}{10}\)[/MATH] をもとにすると」「0.1をもとにすると」といった、単位分数や単位小数を基にした「見方・考え方」を評価して貼り出したりしています。
もちろん取り組み始めた当初は、「それが本当にここで評価すべき見方・考え方なのだろうか?」と不安になるかもしれません。しかし、ほめること自体は悪いことではないので、そのような子供の視点をほめながら、先生自身が「あれは見方・考え方とは言えなかったな」「これは見方・考え方だな」と、自身をふり返りつつ目を育てるのです。
本校でもそのような取り組みをしているところです。ただしいずれは、「見方・考え方」にあたるつぶやきが出たとき、子供たち自身がその価値に気付き、価値付けるところまでいきたいと考えています。
実際に授業をしていると、子供が「これって『ことバンク』じゃない?」と言い出したりします。そんなとき、色違いのカードを使って、子供たちが評価した言葉を貼り出すことを通し、子供たちの目を育てたいと考えています。
ちなみにこうした取り組みを何年か続けると、本当に子供たちの目が育ってきます。現在、私は三〜六年生の算数を担当しているのですが、六年生のある子供から「〜を1とすると」という言葉が出たとき、別の子が「それって、四年のときにAさんも言っていたよね」と言っていました。
そのように、単元だけでなく学年をまたいで、子供たちが「見方・考え方」を働かせるようになります。そのようになれば、同じ内容を授業していても、短時間で進むようになってくるのです。
「見方・考え方」が明確になれば、教員も授業を楽しめる
さらに教員自身の中で育むべき力と働かせるべき「見方・考え方」が明確になってくると、子供の実態に即して、教科書の問題の数値を変えたり、教科の内容に軽重をつけたりして指導できるようになります。そうなると、授業をする教員自身も授業を楽しみながらできるようになります。
ちなみに教員にとって楽しめる授業とは、子供自身が広げていく授業だと私は思っています。学習して新たなことが分かったときや「だったら、こういう場合は…」と子供たちが自分ごととして考え方を拡張していったときに、授業の中で子供たちが学んだことを生かし、広げていると実感するのです。教員が問題を与えるのを待つのではなく、自ら次時の学びをつくっていく子供になってほしいと思っているのです。
その姿があれば、このコロナ禍で再び急な休校があったとしても、自分で問題を発見し、「見方・考え方」を働かせ、それを解決できる子供に育っていくだろうと思います。
取材・文/矢ノ浦勝之
『教育技術 小三小四』2021年2月号より