小1道徳「ジャングルジム」指導アイデア
執筆・イラスト/北海道公立小学校教諭・稲葉朋子
監修/北海道公立小学校校長・荒井亮子、文部科学省教科調査官・浅見哲也
使用教材:「ジャングルジム」(光村図書)
目次
授業を展開するにあたり
一年生の子供たちは、仲間外れにすることはよくないことと分かっていても、自己中心的な考え方をしたり、自分本位な言動をとったりすることも見受けられます。
「ジャングルジム」は、6枚の場面絵といくつかの台詞で構成されています。扱う内容項目は【公正、公平、社会正義】です。自分の好き嫌いにとらわれず、誰とでも仲よくすることのよさについて考えることがねらいです。
一年生は、「やってはいけないこと」「悪いと思うこと」に対して素直に表現することができます。実際に教材を読み聞かせると「くまくんが悪いことをしている」「ねこちゃんがかわいそう」という発言が飛び出します。
ここで注意したいのは、「みんなで遊ぶよさ」よりも「仲間外れは悪いことだ」という意識が強くなってしまうことです。そこで、この授業では、「みんなで遊ぶよさ」に焦点を当てるために、三つの視点を大切にしながら授業づくりをしました。
1 自分の生活経験を想起する
授業のはじめに、行事や休み時間に子供たちが遊んでいる写真(下図、休み時間の様子①②参照)をテレビに映し提示します。子供たちは「このときはみんなで○○した」「○○をして楽しかった」とみんなで遊んだ経験を想起することができます。
また、この写真を授業の終わりまで映したままにして授業を進めます。みんなで遊ぶよさについて自分の生活経験と関連付けて考えられるようにする工夫の一つです。
▼写真 休み時間の様子①
▼写真 休み時間の様子②
2 絵を提示する順番を変え、問いを生む
子供たちの「考えてみたいな」という気持ちを高めるために、教材の提示順を変えました。くまくんがねこちゃんを仲間外れにしてけんかになる場面絵①~④を提示した後、場面絵⑤を抜かして、3匹で仲よく遊んでいる場面絵⑥を先に提示します。
そうすることで、子供たちは「あれ? けんかをしていた3匹が、どうやって仲よく遊べるようになったのかな。考えてみたいな」と問いをもつことができます。
▼場面絵①~⑥
3 役割演技を取り入れる
問いが生まれたところで、3匹が仲よく遊ぶきっかけとなった場面絵⑤を提示します。場面絵⑤の吹き出しには文字が書かれていません。ここで3匹それぞれの台詞を考え、役割演技をしてみます。
子供たちは、自分の生活経験を思い起こしながら、「仲間外れにしてごめんね」「みんなで一緒に遊ぼう」「悲しいからもうしないでね」「みんなで遊んだほうが楽しいね」と3匹の台詞を考え、仲直りする様子を役割演技することで「みんなで仲よく遊ぶよさ」を実感していきます。
実際の授業展開
タイトル
「ジャングルジム」
ねらい
仲間外れをやめて仲よく遊ぶ3匹の姿を通して、自分の好き嫌いにとらわれず、周りの人に接しようとする実践意欲と態度を育てる。
内容項目
C 公正、公平、社会正義
準備するもの
ワークシート、場面絵①④⑤⑥(板書用)場面絵②③(読み聞かせ後、黒板から外す)
指導の概略(板書計画例)
導入
- 休み時間や行事など、集団で遊んだときの写真をテレビに映し、みんなで遊んだときの気持ちを聞く。
展開1
- 教材を範読する。
- 場面絵①~④を読む。3匹の関係を整理する。
展開2
- 場面絵④の3匹の表情に注目し、3匹の心情を整理する。くまくんの、さるくんと遊びたい気持ちを両手で表現する。
展開3
- 場面絵⑥(仲よく遊んでいる場面)を提示する。
- 「けんかをした3匹がなぜ仲よく遊んでいるのか」という問いを生ませる。
展開4
- 場面絵⑤を提示する。
- 中心発問「どんなおはなしをしてなかなおりしたのかな」
- 小グループで台詞を考えた後、役割演技をする。
展開5
- いくつかのグループに発表してもらう。
- 3匹の台詞を板書する。
- 「みんなで遊ぶことはいいことだ」という意見を取り上げたところで、「仲のよい友達と遊んだほうが楽しいのではないか」と問い返す。
- みんなで遊ぶと、どんなよいことがあるのかを深く考える。
終末
- 導入の写真をもう一度見て、今までの自分をふり返りながら、学びのふり返りをワークシートに書く。
ここがアクティブ! 授業展開の補足説明
3匹の心情に目を向けさせる
仲間外れはよくないことだと分かっていても、自分本位の気持ちを優先してしまった経験をもつ子供も少なくありません。そこで、自分の経験と重ねて仲間外れをしてしまったくまくんの気持ちを考えることができるように、手を広げて表現させてみます。
「くまくんが、さるくんと遊びたい気持ちはどれくらいかな」と聞くと子供は大きく両手を広げます。今度は、「では、ねこちゃんと遊びたい気持ちはどれくらいかな」と聞くと、両手の幅は狭くなります。
このように、よくないことと分かっていても自分の好き嫌いで仲間外れにしてしまうことを自分事として考えることができます。
国語の学習の中でも、登場人物の台詞を想像する学習があると思います。そのようなときに「思い付かない」と言う子供がいます。気持ちを想像して考えることが苦手と感じている子供もいます。そこで、道徳では、登場人物の表情に注目するようにしています。
ねこちゃんの泣き顔から、「がまんできないくらいに、悲しかったのではないか」と仲間外れにされたときの悲しさを話す子がいました。さるくんの表情からは、「ねこちゃんがかわいそう」「くまくんに怒っている」とみんなで仲よく遊びたいさるくんの心情を捉えることができます。
また、2匹を見つめるくまくんの表情から、「やっちゃった」「悪いことをしたな」と仲間外れにしてしまったときの罪悪感や反省の気持ちを想像することができます。
登場人物の心情を想像して理解したところで、役割演技を行います。3匹それぞれの心情を捉えたことで、自分と重ねてそれぞれが話した言葉を考え、みんなで遊ぶことのよさについて考えを深めることができます。
授業をするうえでの注意点 ・ ポイント解説
役割演技の方法は子供の実態に合わせて工夫する
一年生では、役割を決めるだけでも時間がかかってしまうことがあります。そのため、小グループや役割をあらかじめ決めておくことも考えられます。また、台詞を考えたり演じたりすることに自信がない子もいます。
そのようなときは、まずは、近くの友達と一緒に台詞を考えてみます。友達との会話の中で、自分の考えを整理することができ、自信をもってスムーズに役割演技をすることができるでしょう。
教科調査官からアドバイス
文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・浅見哲也
人間は生まれながらにして、よりよく生きようとするよさを志向する働きをもっているからこそ、小学一年生の発達の段階を踏まえれば、マイナス面を指摘するよりもプラス面を伸ばすことを中心に指導することが適切かと考えます。
稲葉先生は、そのような意図をもって、「みんなで遊ぶことのよさ」を考えることを中心に授業を構想されています。
教科書の場面絵を生かして展開し、その場面絵の提示のしかたを工夫して問題意識をもちやすくしたことや、実際に仲直りの疑似体験を役割演技を通して行ったことは、大変効果的な指導方法の工夫となっています。
特に役割演技では、仲直りをすることは頭で考えるよりも大変なことであり、その分、心が通い合える喜びも実感できるものとなります。
登場人物への自我関与が中心の学習であり、問題解決的な学習でもあり、道徳的行為に関する体験的な学習とも言えるバリエーションのある授業となっています。
『教育技術 小一小二』2020年6月号より