小3道徳「盲導犬サーブ」指導アイデア
執筆/山形県公立小学校校長・佐藤幸司
目次
はじめに
1982年1月25日の寒い朝、一頭の盲導犬が、主人を交通事故から救うために自動車に飛びかかり、自らの前足を失いました。盲導犬の名前は、サーブ。
サーブの愛と勇気が称えられ、名古屋市営地下鉄栄駅の出入り口のところに、サーブの銅像が建てられています。サーブの生き様を伝え、盲導犬を通じて福祉の心を育てる授業です。
サーブの生き方にふれる
昨今、福祉教育への関心の高まりもあり、盲導犬についてある程度の知識をもっている子が増えました。コンビニエンスストアやスーパー、レストランの入り口で、「盲導犬(補助犬)同伴可」のステッカーを目にすることもあります。
社会的に見ても、盲導犬が飲食店への入店を拒否されたり、バス・タクシーへの乗車を断られたりすることも少なくなってきたようです(けれども、そうした事例が皆無になったわけではありません)。
目が不自由な方にとって、盲導犬は自分の目そのものです。同時に、盲導犬にとっても、この世でたった一人の大切な人なのです。お互いにとってかけがえのない存在であることを、サーブの生き方にふれることで子供たちは学ぶことができます。
サーブの銅像の一部分がテカテカしている理由
サーブの銅像に会いに行ったとき、あることに気付きました。サーブの銅像のある部分がテカテカに光って、塗装が少しはげているのです。
それは、顔の部分(鼻、目)、そして、切断した左前足の付け根の部分でした。きっと、サーブの銅像を訪れた人たちが、サーブの顔やけがをした足をなでていったからなのでしょう。
「えらかったね、サーブ……」というたくさんの人の声が聞こえてくる気がします。
サーブの銅像
名古屋市中区、地下鉄栄駅の14番出入り口にサーブの銅像が立っています。サーブの像は最初、名古屋駅前に建てられました。けれども、JR名古屋駅の改築により、陸橋の階段の陰に隠れてしまいました。
市民からの要望により市議会で話題となり、2003年2月に現在地の栄・久屋大通公園へ移転されました。可能ならば、実際に栄に行き、自分の目で確かめながら授業をつくってください。
写真は、次のような、①遠景 ②近景 ③顔のアップ ④けがをした足の部分が分かるアングル、以上の4枚を準備します。
教材として使用する写真
①遠景
あえて別の情報(街並みなど)を入れる。
②近景
地下鉄の駅名、出入り口番号が分かるアングルで撮影。
③顔のアップ
目や鼻のあたりの塗装が少しはげ落ち、テカテカに光っているのが分かる。
④けがをした足の部分が分かるアングル
もう1か所、けが(切断)をした左前足の付け根の部分の塗装がはげ落ちて、テカテカ光っている。
実際の授業展開
タイトル
盲導犬サーブ
指導目標
盲導犬と主人は、お互いにとってかけがえのない存在であることを知り、障害のある人とともに支え合って生活していこうとする意欲をもつ。
内容項目
C 公正、公平、社会正義
準備するもの
・サーブの銅像の写真4枚
・絵本『えらいぞサーブ!』(手島悠介・文 徳田秀雄・絵 講談社)
指導の概略(板書計画例)
導入
写真(①遠景)を提示する。
①写真を見て気付いたことを発表しましょう。
- 街並み、「中日ビル」のほか、右下の銅像にも気付かせたい。
②どうして街中に犬の銅像が建てられているのでしょうか。
- 理由を想像させた後、写真(②近景)を提示する。盲導犬であること、前足を1本失っていることを確認し、名前(サーブ)を知らせる。
展開1
③盲導犬とは、どんな犬か知っていますか。
- 子供の発表を基に、どんな犬なのか、大まかに確認する。
④盲導犬サーブの絵本を読みます。
- 絵本が入手できない場合は、インターネット上から話の内容や写真を収集し、教師が語りで進めることもできる。
展開2
写真(③顔のアップ)を提示する。
⑤サーブの顔をよく見ると、何か気付くことはありませんか。
⑥どうして目や鼻のあたりが、色がはげたりテカテカになったりしているのでしょうか。
- サーブをなでていく行為に込められた人々の思いに気付かせる。
⑦ほかにもう1か所、たくさんの人がなでていくところがあります。どこでしょうか。
- けがをした足であることを子供から引き出す。その発言につなげて、写真④(足の部分)を提示する。
終末
⑧サーブの銅像に会いに行ったら、どんな言葉をかけたいですか。
- 自分の言葉で発表し、学習のまとめとする。
ここがアクティブ!授業展開の補足説明
写真は、①遠景→②近景→③顔のアップ→④けがをした足の部分の順で提示していきます。
最初に提示する①遠景には、さまざまな情報(いわば不要な情報)が含まれています。しかし、ここは、子供たちからの「不要な情報」に関する発言を大切に扱ってください。
「授業はみんなでつくるもの」「道徳では間違った答えはない」という意識をしっかりともたせます。その過程で、サーブの銅像に焦点化していきます。
読み聞かせの図書として、『えらいぞサーブ!』(手島悠介・文 徳田秀雄・絵 講談社)を可能な限り準備してください。教師による読み聞かせは、学級内に温かい雰囲気をつくります。また、挿絵による効果も大きいものがあります。
【展開2】発問⑥で、サーブ(銅像)をなでていく人たちの思いに気付かせます。行為と心は表裏一体です。その行為に至った人の心について、話し合ってください。
授業をするうえでの注意点・ポイント解説
盲導犬は、当然のことですが、自分から「盲導犬になりたい」と言ったわけではありません。また、道案内をするときも、盲導犬が「こっちへ行こう」などと自分の意思で判断するのではなく、主人の命令に従って歩きます。
この点だけから考えれば、盲導犬は、目が不自由な人が快適に生活するための「道具」の一つということになります。
けれども、盲導犬サーブの実話を読んだり、実際に盲導犬と一緒に生活している方の話を伺ったりすると、盲導犬は単なる「道具」のような存在ではないことを強く感じます。
ある視覚障害者の方は、盲導犬のことを「私の天使だ」とおっしゃっていました。盲導犬を含めて補助犬の捉え方には、さまざまな考え方があります。
小学三年生の子供たちに授業で取り上げる場合には、まず、盲導犬は決して他人に迷惑をかけたりしない賢い犬である(ペットとは異なる)ことを教えます。
同時に、盲導犬サーブの生き方から、主人とのかけがえのない人間的な関係性について感じ取らせていきたいと思います。
内容項目としては、「親切、思いやり」や「相互理解、寛容」が関連します。しかし、この授業の最終的な目的は共生社会の実現にあるので、「公正、公平、社会正義」を主たる内容項目に位置付けます。
教科調査官からアドバイス
文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・浅見哲也
「視野を広げて客観的に見る」
道徳科の目標は、各内容項目を手がかりとしながら継続的に授業を行うことによって、よりよく生きるための基盤となる道徳性を養うことにあります。ですから本来、道徳科では、子供の道徳性がどのくらい育ったかを見とり、評価するのが適切なのかもしれません。
しかし、道徳科の授業をもって子供たちの道徳性を評価しようとすると、何を根拠とするのか、これは非常に難しい問題です。素晴らしい発言や立派な文章表現をもって道徳性が育ったと評価してしまったら、知的理解に偏った評価、発言が積極的で文章表現が得意な子供が優位な評価になってしまいます。それは道徳科が求めているものではありません。
道徳科では、子供たちの授業での学習状況を見とり、認め、励ます評価をしていきます。特に重視している学びの姿は、一面的な見方から多面的・多角的な見方へと発展させているか、道徳的価値の理解を自分自身とのかかわりのなかで深めているか、という点になります。
では、なぜこのような学びの姿を大切にしているのでしょうか。物事を多面的・多角的に見ることができれば、自ずと視野が広がって冷静に判断することができるでしょう。
自分自身とのかかわりのなかで深めることができれば、常に自分を客観視し、周囲に目を向けながら自分はどうあればよいかを考えることができるでしょう。これらは人間として生きていくためには大切なことであり、このような学びを道徳科の授業に求めているということなのです。
『教育技術 小三小四』2020年2月号より