小5小6音楽「楽しい鑑賞の授業」を作るポイントと実践例

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鑑賞を学ぶことは大切なこと。でも、そこに「楽しさ」があることが望ましい……。学びもある、楽しさもある、そんな音楽の授業の作り方をご紹介します。

執筆/筑波大学附属小学校教諭 ・髙倉弘光(「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説音楽編」作成協力者)
監修/文部科学省教科調査官 ・志民一成

鑑賞の学習で聴き取ったり感じ取ったりしたことを「体の動き」で表現する
鑑賞の学習で聴き取ったり感じ取ったりしたことを「体の動き」で表現

その音楽の「何を聴いて」「何を学ぶのか」

鑑賞の学習は、コロナ禍にあってもさまざまな制約をあまり受けません。しかし、そもそも、音楽を鑑賞させて、何を学ばせたらいいのでしょうか。音楽が苦手だと思っている子も楽しく学べるようにするためには、どうしたらよいのでしょうか。

学習指導要領の〈指導事項〉

 鑑賞についての知識を得たり生かしたりしながら、曲や演奏のよさなどを見いだし、曲全体を味わって聴くこと。(思考力、判断力、表現力等)
 曲想及びその変化と、音楽の構造との関わりについて理解すること。(知識)
小学校学習指導要領解説音楽編p.108)

楽しい鑑賞の授業にするために、これだけは知っておきたい!

聴き取る

音楽の中にある事実を聴き取る

〔共通事項〕に示されている
【音楽を形づくっている要素】
音色、リズム、速度、旋律、強弱、音の重なり、和音の響き、音階、調、拍、フレーズなど

【音楽の仕組み】
反復、呼びかけとこたえ、変化、音楽の縦と横との関係

効果的に「聴き取らせる」ために

◆聴き取るべき内容を明確に指示する

・カスタネットの音色が出てくるか、気を付けて聴こう。
・ 『合いの手』が聞こえたら、手をあげよう。
・ シンバルの音に合わせて、演奏する動作をしよう。

聴き取ったことを動作などで表すと、子供の見取りに役立ちます。つまずきにも対応しやすくなります。

あれれ~、何度もシンバルが出てきて面白いね。

(「聴き取る」ことから「感じ取る」へ)

『合いの手』が聞こえたら、手をあげよう。
『合いの手』が聞こえたら手をあげよう。

感じ取る

音楽から感じる印象

「面白いな」
「わくわくするな」
「ジェットコースターに乗っているみたい」
「雲の上を歩いている感じ」
「のそのそと歩いている感じ」
「弾む感じがするなぁ」

効果的に「感じ取らせる」ために

◆音楽に合わせて体を動かす方法も……

4拍子の指揮をしながら、この音楽を聴こう。

→(速度が変わって、うまく指揮が合わない)

あれれ~~、何だか変だぁ!

難しいよ、先生!

どうして変だと思ったの? どうして難しいの?

だって、速さが急に変わるんだもの。

(「感じ取る」から「聴き取る」べきことに、子供自らが気付いた瞬間)

高倉弘光
高倉弘光先生

「聴き取る」ことと「感じ取る」こととは、切っても切れない関係にあります。ある音楽を聴いて、「弾む感じがする」という発言は、「感じ取った」ことに当たります。その「弾む感じ」は、音楽のどのような事実から生まれたのでしょうか?

例えば、スキップの「リズム」が多く使われている音楽が、「弾む感じ」を生み出しているかもしれません。このように、鑑賞の授業では、「聴き取ること」と「感じ取ること」を行き来させながら進めることが大切です。

「聴き取る」べきことは、学習の内容になります。しかし、「聴き取る」ことさえできればよいのではなく、そこから「感じ取る」ことがあるからこそ、音楽のよさや面白さ、感動といったものを味わうことができるのですね。

しっかり「聴き取り」、豊かに「感じ取る」、そんな授業を目指したいものです。

実践例1 
ハンガリー舞曲第五番

(ブラームス作曲)

ハンガリー舞曲第五番構成

この音楽の面白いところはどこか!?

(髙倉先生による教材分析)

教科書では、「強弱」「速度」などの変化、「旋律の反復(繰り返し)」「長調と短調」などを学習内容として取り上げていますが、ここでは「速度の変化」に焦点を当てて授業を展開させる提案をします。

鑑賞させる音源(CDなど)を選ぶことも大切です。ここでは「速度の変化」がわかりやすい音源を選びました。
(CD)小澤征爾セレクション「音楽のおくりものfor Kids」に収録されている音源をお勧めします。

展開1 イントロダクション

(料理で言う「下ごしらえ」)

友達と手合わせ「トン・トン・パーーー」を覚える

4拍で一つの動き(はじめの2拍は「トン・トン」と自分の左手を右手でたたき、
あとの2拍は「パーーー」と、友達の手をたたくふりをします。(「おちゃらか」の動きのように)

ハンガリー1
トントン
緑矢印
ハンガリー2
パーー

展開2 A部(はじめの部分)を聴こう!

「トン・トン・パーーー」をやりながら……

ハンガリー3
楽譜
A部の音楽
速さの変化
速さの変化を感じ取っている瞬間!

展開3 A部~B部を聴こう!

トン・トン・パーーー」をやりながら…

B部の音楽
ハンガリー楽譜
B部の音楽
展開3の1
7月現在、クラスの2分の1が登校する分散型の授業。実際に触れ合う手合わせはできない。
何拍なら合うかな
緑矢印
「聴き取ったこと」を見える化
「聴き取ったこと」を見える化することも大切ですね!

展開4 A部~B部~C部を聴こう!

「トン・トン・パーーー」をやりながら…

C部の音楽
ハンガリー楽譜
C部の音楽
B部は「トン・トン・パー」が合わないので頭の横で手をキラキラポーズ(笑)
B部は「トン・トン・パー」が合わないので頭の横で手をキラキラポーズ(笑)
緑矢印
C部は再び「トン・トン・パー」で。
C部は再び「トン・トン・パー」で。

展開5 最後はどうなる

最後には、どんな音楽がくるか、みんなで想像します。「Aが戻ってくる!」「Bがまたくる!」など、いろんな考えが出されます。そのあと、またはじめから全曲を通して鑑賞します。すると、最後はA’ であることが分かります。

こうして、何度も繰り返し鑑賞し、この音楽の仕組み、特徴などを学んでいきます。授業の最後に、題名と作曲者を伝えました!

展開5
ハンガリー板書

実践例2 春の海

(宮城道雄作曲)

春の海
構成

この音楽の面白いところはどこか!?

(髙倉先生による教材分析)

教科書では、「音色」「旋律」などを学習内容として挙げています。ここでは、「箏や尺八の音色」「かけ合い(呼びかけとこたえ)」「速度(拍のゆれ)」などに焦点を当てた展開を提案します。

展開1 B部から聴く!

(A部から聴くと「お正月の音楽だ!」で盛り上がり、集中できなくなることも……)

これからある音楽を聴きます。さて、どこの国の音楽でしょう?

この発問一つで、子供たちの集中力が一気に上がります。楽器の音色や旋律の醸し出す雰囲気から、どこの国の音楽か想像を膨らませることでしょう。

どうして、その国を想像したのかな?

日本!韓国!中国!だって、お箏のような音とか、笛っぽい音が…。

なるほど、楽器の音色に注目したんだね。すばらしい! 答えは、「日本」です! 「箏」と「尺八」という日本の楽器の音色だったんだね。

展開2 B部の、箏と尺八のかけ合いを聴き取る

自分が担当する楽器の音色だけが聞こえるところで立ちましょう。

この指示一つで、子どもたちの集中力がまたまた一気に上がります。クラスを「箏役」と「尺八役」に分けて、B部全体を鑑賞します。自分の担当だけ」というのがみそです!

尺八こと1 春の海楽譜
尺八こと2 春の海
箏と尺八が交互にかけ合って演奏したり、同時に重なったりしています。ここが、「春の海」の面白いところの一つ!
尺八こと3 春の海
箏の音だけが聞こえるところで立ちあがる、箏役の子供たち。

展開3 4拍子の指揮をしながらA部を聴く!

A部の冒頭は、速さが変化(拍が一定間隔ではない)するのが特徴です。そのことに気付かせるために、指揮の動作をしながら鑑賞します。「あれれ~!?」となるはずです!

尺八こと3
春の海楽譜
尺八こと4 板書
尺八こと5

そうなんです! 実は、拍の感覚が定まらないのも、日本の音楽の特徴なんです! 実はこの音楽には続きがあります。どんな音楽がくるかな? 予想してみよう!

展開4 全曲通して鑑賞して、味わって聴く

A部からB部へ。そしてその次を予想した子供たち、さて、次はどんな音楽がくるかな?

あ~、やっぱりAが戻ってきたね。「ハンガリー舞曲」もAが戻ってきたよ
春の海板書

素晴らしい! AからBに変化して、またAに戻ったんだね。

発展 音楽を体の動きで表す

紹介した「ハンガリー舞曲 第5番」も「春の海」も、鑑賞学習の発展として、学んだことを基に音楽を体の動きで表現しました。表現をつくるために、何度も音楽を聴き、何度も仲間と語り合います。これも「深い学び」につながります!

発展1


「春の海」のB部。箏と尺八が交互に演奏される場面です。スカーフやポールなどを使って表現しています。

写真/北村瑞斗 構成/浅原孝子 イラスト/横井智美

『教育技術 小五小六』2020年10月号より

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