小4道徳「10分18秒の平和への祈り」指導アイデア
執筆/山形県公立小学校校長・佐藤幸司
目次
教材と資料
教材1 CD「さとうきび畑」作詞・作曲/寺島尚彦
森山良子さんが歌う「さとうきび畑」には、「ざわわ」という言葉が66回出てきます。曲を最初から最後まで聴くと10分18秒かかります。「ざわわ」は、さとうきびが風にゆれる音を表しています。そして、この風の音には、戦争で命を落としたたくさんの方々の怒りや悲しみが込められています。
作詞・作曲の寺島尚彦さんは、次のように書いています。
轟然と吹き抜ける風の音だけが耳を圧倒し、その中に戦没者たちの怒号と嗚咽を私は確かに聴いた。
『さとうきび畑 ざわわ、通りぬける風』寺島尚彦(小学館)
森山さんは、何度も繰り返される「ざわわ」をどう表現したらよいか、いつも自問自答しながらこの曲を歌っていたそうです。
教材2 沖縄県条例「慰霊の日」
6月23日は、「慰霊の日」です。沖縄県では、誰もが平和を願う日ですが、ほかの都道府県では、この日の存在すら知らない子供たちも少なくありません。
1945年6月23日に沖縄戦の組織的戦闘が終結したことにちなんで、この日を「慰霊の日」と定めています。琉球政府時代に制定された「慰霊の日」は、沖縄独自の休日でした。日本に復帰すると「国民の祝日に関する法律」が適用となり、「慰霊の日」は休日から除外されました。
その後、沖縄県は「慰霊の日を定める条例」を上記の通り公布しました。以後、「慰霊の日」は、戦没者追悼と平和を祈る日として県民に浸透していきます。
「さとうきび畑」の作者である寺島さんは、2004年3月23日に逝去されました。2003年に沖縄を訪れたとき、こんなことを語っていたということです。
「ほんとに平和なら、平和を願う歌などいらない」
ぜひ、子供たちに伝えたい言葉です。
教材3 刻銘者数(沖縄県公式ホームページより)
資料1 沖縄県平和祈念資料館
資料2 平和の礎
資料3 平和の礎・刻銘碑
平和祈念資料館、平和の礎は、沖縄県糸満市
実際の授業展開
タイトル
平和の大切さ 命の尊さ
指導目標
平和を祈る人々の願いにふれ、戦争の悲惨さ・命の尊さを考え、命を大切にしようとする心情を育てる。
内容項目
D 生命の尊さ
準備するもの
・楽曲「さとうきび畑」
・沖縄平和祈念公園の写真
・「平和の礎」刻銘者数の表
指導の概略
板書計画例
授業の流れ
【導入】
「さとうきび畑」の曲を聴く。途中でフェードアウトして問う。
①どんな感じがしましたか。
・「ざわわ」が繰り返されていることを確認する。
【展開1】
「ざわわ」に注目し、次の発問②をする。
②「ざわわ」は何回出てくるでしょうか。
・66回であることを伝える。全曲で10分18秒であることも併せて伝える。
③ 66回繰り返される「ざわわ」は、何を表しているのでしょうか。
・さとうきび畑は、沖縄県にあることなど補足説明をする。
④作者の寺島さんは、ある場所を歩いているときにこの歌を作ろうと考えました。それは、どこでしょうか。
・沖縄戦だけが地上戦となり、一般市民を巻き込んだ戦争となった。まだ遺骨の収集ができていないことを伝える。
【展開2】
平和の礎を提示。
⑤この写真に写っているのはなんですか。
・戦没者の名前が刻まれた「平和の礎」であることを伝える。実態に応じて、地図帳で糸満市の場所を確認する。
⑥現在、どれくらいの人の名前が刻まれているでしょうか。
・問いかけるだけにして、実際の数を提示する(表または板書で)。
【終末】
6月23日は「慰霊の日」であることを伝え、寺島さんの言葉を提示。
⑦寺島さんの言葉の意味を考えましょう。
・最後に「さとうきび畑」を聴いて授業を閉じる。
ここがアクティブ!授業展開の補足説明
8月6日(広島に原爆投下)、8月9日(長崎に原爆投下)、8月15日(終戦)を知らない人はいないでしょう。沖縄県では、6月23日を「慰霊の日」として恒久の平和を願います。昭和・平成の時代を終えた今でも、沖縄から軍事基地はなくなっていません。金網一つ隔てたところから戦闘機が飛び立つ現状が今もなお続いています。
沖縄県以外に住む子供たち(4年生)は、「慰霊の日」の存在すら知らない子供たちが少なくありません。6月23日前後には、必ず新聞などで沖縄県の「慰霊の日」に関する報道があります。本稿で紹介した教材・資料(写真)をベースにしながら、実際に今、世の中で起きている出来事を授業者が教材開発をして、子供たちが本気になって考える授業を実施してください。
この授業は、楽曲「さとうきび畑」の最初の数分を聴く活動から始まります。そして、曲の意味や曲に込められた願いを知った後で、最後に全曲(10分18秒)を聴いて授業を閉じる構成になっています。途中、歌詞を教師が範読したり、または、全員で音読したりする活動を入れるのもよいでしょう。
「鉄の雨」と言われた沖縄戦の悲惨さ、そして平和の大切さ、命の尊さをしっかりと子供たちに考えさせましょう。
授業をするうえでの注意点・ポイント解説
本稿のサブタイトルにもあるように、教材として使う「さとうきび畑」は、全曲で10分18秒、歌詞は11番まであります。曲の途中で授業終了のチャイムが鳴ったり、ほかの学級の子供たちが廊下を移動したりしてしまうと、せっかくの授業の余韻が壊れてしまいます。思わず教師も引き込まれてしまうような内容ですが、そこはある部分、冷静に授業の全体像を意識しながら進めてください。
具体的には、【終末】の発問⑦「寺島さんの言葉の意味を考えましょう」を行うのが、授業終了の15~20分前くらいがちょうどよいでしょう。また、できれば、曲を聴き終えた後、この授業での学びをふり返って文章に表す(ノートに書く)時間をとってください。
命の尊厳をテーマにした学習では、子供一人ひとりが学んだことを言語化することで、平和な社会を築く当事者としての心構えをもたせたいものです。
※ 参考 『とっておきの道徳授業4』(日本標準)吉濱徳子先生の実践
教科調査官からアドバイス
文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・浅見哲也
「発問の工夫は授業のカギ」
道徳科の授業で「考え、議論する道徳」の実現を図るためには、さまざまな学習指導過程や指導方法の工夫が大切ですが、なんといってもその活動のきっかけをつくるのは教師の発問です。何を問えば積極的な話合いが始まるのかという考え方も悪くはないですが、話合い活動自体は目的ではなく手段なので、何を問えば、そのねらいとする道徳的価値について深く考えることができるかを踏まえて発問することが大切です。
また、そこにたどり着くためには、子供が自分とのかかわりで考えられるような発問や、物事を多面的・多角的に考えられるような発問も頭のなかに用意しておきたいところです。
発問のしかたとしては、一般的には、読み物教材の登場人物に共感させながら、「○○(登場人物)はどんな気持ちでしょうか」と問うことが多いと思いますが、これは登場人物の気持ちを考えるのではなく、教材のなかの登場人物が立たされた状況を踏まえ、共感できるような自分の体験を想起して、そのときの自分の気持ちを考えるということです。
しかし、発問のしかたはその形にとらわれることなく、「そのとき、自分だったらどんな気持ちですか」と問うことも考えられます。この二つの発問の違いは、登場人物と子供の距離にあります。前者は登場人物と子供が重なり、後者は登場人物を客観視して、子供が自分を見つめることになります。
ぜひ、決め手となるような発問を考えて授業に臨み、その発問に時間をかけて話合いができるようにしてみてください。
『教育技術 小三小四』2019年6月号より