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「学校現場のAI活用実践コンテスト2025」最終選考会レポート

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2025年11月16日(日)、学校現場におけるAI活用実践の最前線を示す「学校現場のAI活用実践コンテスト2025最終選考会」がオンラインで行われました。本コンテストは、小学館「みんなの教育技術編集部」と「教育AI活用協会」の共催により開催され、生成AIの活用事例を社会に発信し、これからのより良い教育のあり方を共に考えることを目的としています。初めての開催、かつ動画応募という高いハードルにもかかわらず、全国から46件の素晴らしい実践応募が寄せられました。最終選考会には、その中から選ばれた9組の発表が行われました。

本記事では、この最終選考会の模様をお伝えします。

最終選考会の概要

最終選考会は全体で約3時間半を予定し、「授業実践」「児童生徒支援」「校務改善」の三部門で、各3名、計9名のファイナリストがピッチを行いました。

  • 発表と公評: 各組 発表5分、公表3分、交代2分で進行。
  • 審査会: 審査員による非公開の審査会を実施。
  • 表彰式と総評: 表彰式を行い、各部門のベストプラクティスを発表。
  • 同時配信: ピッチと選考会の模様はZoomウェビナーと、東京大学会場での「教育AIサミット」会場にてライブ上映されました。

本コンテストの審査は、教育でのAI利用に造詣の深い以下の5名の専門家が務めました。

  • 京都橘大学教授:池田 修 氏
  • 北海道公立小学校教諭:藤原友和 氏
  • Ddrive株式会社/一般社団法人教育AI活用協会:古田裕子 氏
  • 札幌国際大学准教授:安井政樹 氏
  • 早稲田大学教職大学院教授:田中博之 氏(審査会からの参加)

【授業実践部門】最終発表

この部門では、教科授業や探究活動、特別活動など、主に授業時間内での生成AI活用実践が発表されました。

1. 高畠町立和田小学校:近野洋平 氏

実践テーマ:生成AIを活用した 「情報モラル」授業の開発

近野氏は、学校現場で生成AIを学ぶ機会が少ないこと、児童がAIの出力に対して受け身になりがちなこと、そして生成AIを取り入れた情報モラル実践が少ないという課題意識から、この授業を開発しました。

授業実践の概要

授業では、まず児童に芸術作品(実はAI生成作品)を提示して感想を聞き、絵による表現について考えさせました。その後、AI生成画像と人間が描いた絵を提示し、どちらがAIかを推測させました。核心は、「人間がAIを使って何かを表現するのはありか、なしか」という発問です。児童はスケールバーで立場を明確にし、理由を考えました。

授業の終末では、最初に提示した芸術作品が、実はコンテストで1位になり、大きな議論を呼んだ生成AIを使用した作品であったことを明かしました。この事実を受けて再度同じ発問をすることで、児童は自分なりの判断軸を持ち、考えを深めました。テキスト分析の結果、児童の考えは「どちらとも言えない」から「あり」へ、または立場は変わらずとも「なぜ自分は使いたくないのか」という柔軟かつ深い判断へと変化しました。

近野氏は、AI活用そのものに関する指導を前提として位置づけることが、結果的に良いAI活用につながると強調しました。

審査員コメント(藤原友和 氏)

藤原氏は、この実践のポイントは「判断軸が鍛えられる」点にあると評価しました。授業の構造が秀逸で、冒頭で良いと思っていた絵が実はAI作品だったという終末の展開により、児童は「自分の判断軸は本当にこれでよかったのか」と問い直される機会を得ました。

また、道徳教育としての側面に加え、この授業が図画工作科の鑑賞との関連で、さらに螺旋的に発展する可能性を指摘しました。「なぜどのように良いのか」を学ぶモチベーション向上にもつながる実践であり、従来、危機感を刺激しがちだった情報モラル教育を、「これからの学習に接続し、両方よくなっていく」可能性を持つものだと高く評価しました。

2. 広島市立古市小学校:岡本卓憲 氏

実践テーマ:運動会表現運動における、音楽生成AI「SUNO.AI」の活用

岡本氏は、従来の運動会表現において、使える音源が限られ、子どもたちの思いが反映されにくく、結果として「やらされている」と感じる児童が少なくないという課題に直面していました。

授業実践の概要

この実践では、オリジナル楽曲を生成できるAIツール「SunoAI」を活用し、子どもたちが自分の言葉や運動会への想いを音楽に反映させ、主体的に表現活動に関わることを目的にしました。

実践では、まずCanvaで生成した親しみやすいAIキャラクター「エイアイ太郎君」を導入し、AIで音楽を作る活動のイメージを共有しました。次に、児童が学校や運動会、家族への感謝の気持ちなど、歌詞に使いたいキーワードを収集。その後、Googleフォームで採用したい言葉や曲調を投票で決定しました。

プロンプト入力の段階で、イメージ通りの曲が作れないという課題に直面しましたが、ChatGPTに曲のイメージを伝えて、Suno用のプロンプトを生成してもらうという「AIの壁打ち相談」を繰り返すことで解決しました。特に、英語で韻や構成要素(サビから始めるなど)を具体的に指示することが効果的でした。

完成した候補曲はYouTubeにアップされ、子どもたちはいつでも聴けるようにしました。曲が決定した後、表現運動の練習に入ると、子どもたちは歌詞を口ずさみ、曲への強い愛着を持って主体的に取り組む姿が見られました。投票率が2回とも100%だったことが、その夢中度を裏付けています。

審査員コメント(古田裕子 氏)

古田氏は、この実践を「最新のテクノロジーを、温かく、創造的な形で取り入れた素晴らしい実践」だと称賛。特に、音楽生成AI(Suno)と対話AI(ChatGPT)を組み合わせた点が高く評価されました。

従来の教育では難しかった「子どもたちの抽象的な思い(表現したい感情やイメージ)」を、ChatGPTを使って具体的なプロンプトへと磨き上げ、それをSunoが即座にメロディーに変えることで、創作体験のハードルを大きく下げた点を強調しました。

古田氏は、プロンプトを調整する過程にこそ、「AIにすべてを委ねるのではなく、子どもたちの思いがどう反映されたかを徹底的に追及する教師の確かな教育観」があると指摘。この主体性こそが、表現運動での身体表現に深みを生んだとしています。AIが表現の機会を奪うのではなく、むしろ広げることを証明し、一斉指導の機会を個性を発揮できる「創作の表現の場」へと見事に変貌させたと締めくくりました。

3. 戸田市立戸田第一小学校:佐藤陽介 氏

実践テーマ:4年生 体育科「キャッチバレーボール」での生成AIの活用実践 ~Geminiは教師と児童の伴走者~

佐藤氏は、小学四年生のキャッチバレーボールの授業において、知識・技能に課題を持つ児童が多く作戦を考える際に支援が必要なこと、全チームへの個別フィードバック時間が不足していること、そして自身の指導経験が浅いことという、三つの大きな壁に直面していました。

授業実践の概要

この実践では、生成AIの「Gemini」を教師と児童の良き伴奏者として以下のように活用しました。

  1. 授業の振り返り分析と次の目当て設定: 児童が入力した振り返りカード(PDF)をGeminiに読み込ませ、「クラス全体の成長と課題を整理して」と指示しました。Geminiは技能面の向上や具体的な課題を瞬時に可視化し、教師はこれをもとに次の時間の目当てを明確に設定できました。
  2. 課題解決のための練習メニュー作成: 分析で出てきた課題に対し、「四年生が5分でできる練習」といった具体的な条件をつけてGeminiに相談(壁打ち)を行いました。これにより、教師一人では思いつかなかったような多様なパス練習やアタック練習のメニューが提案され、児童のスキルアップにつながりました。
  3. 作戦への個別フィードバック: 児童が考えた作戦カードを、佐藤氏が独自に作成した「作戦フィードバック用AIアシスタントチーム」に読み込ませました。Geminiは、作戦に対し具体的かつ肯定的なアドバイスを瞬時に生成。教師が確認後に児童の端末に送信し、子どもたちはこのフィードバックをもとに主体的に作戦を練り直しました。

さらに、ルール理解が難しい児童のためにGeminiのストーリーブック機能でルールを絵本化したり、動き方が苦手な児童のためにポイントをまとめた啓発物を作成したりと、多様な児童支援にも力を発揮しました。

この実践は、教師のみがAIを活用しているため、児童の端末でAIが活用できない環境でも取り組める汎用性の高さが特徴であり、指導や評価の時間が足りないという教師の構造的な課題に対しても、AIが個別最適な指導を効率的に生み出す解決策となり得ると述べています。

審査員コメント(藤原友和 氏)

藤原氏は、体育授業で課題となりがちな「作戦が練習やゲームに反映されない、実効性が検証されない」という難しさを、AIが解決した点に注目しました。

AIが「子どもの言葉から拡張され、より実効的な練習メニューとして生成」し、その通りに練習することで「ラリーが続くね」といった上達の実感を子どもたちが持てたことが非常に大きいと評価しました。特に、教師からすべてを提示するのではなく、子どもの言葉を出発点としている点が効果的であると述べました。

一方で、今後は「知識・技能」だけでなく、「思考・判断・表現」の領域、特に「オフザボール(ボールを持っていない時)に何をどう判断して動くか」といったゲームの強度を上げる部分にもAI活用を広げる可能性を指摘しました。また、ラリーの持続回数やゲームの拮抗性といったデータをAIに読み込ませて、客観的なデータで上達を即時フィードバックできれば、さらに面白い実践になるとの展望を示しました。

【児童生徒支援部門】最終発表

この部門では、キャリア指導、学級経営、個別支援、相談対応など、主に授業外における生成AI活用実践が発表されました。

1. 那覇市立真嘉比小学校:野村 伸 氏

実践テーマ:自己調整 × AIフィードバック―児童の成長と教師の見取りをつなぐ学びのデザイン―

野村氏は、子どもたちの振り返りの質を高める仕組みの欠如、教師からの個別フィードバックにおける量と時間の限界、そして子どもたちが自ら学ぶ楽しさを見つけにくいという三つの大きな壁を乗り越えるため、生成AIを活用したシステムを構築しました。

実践の概要

野村氏は、GoogleスプレッドシートとGoogle Apps Script(GAS)を活用して、自動化された「計画・振り返りシート」システムを作成しました(GASコードの作成にも生成AIを活用)。

  1. 「学びの羅針盤」の作成: 児童一人ひとりに「計画・振り返りシート」を配布。単元の目標や見通しを立て、学習内容と方法を自己決定する「学びの主人公」となるためのツールとして機能します。
  2. AIによる個別フィードバック: 児童が入力した自己評価や振り返り(文字数や達成度に応じてポイント化)を基に、生成AIが情報を分析します。このAIは、教育心理学、認知科学、脳科学に基づいたプロンプトが組み込まれており、その子に合わせた効果的なフィードバックを生成します。
  3. 教師の見取りのサポート: 40人分の分析結果が教師視点のシートに集約されるため、教師は学習がはかどっている児童や困っている児童を瞬時に把握でき、限られた時間内でより的確な個別指導やカウンセリングが可能になりました。

成果として、振り返りが苦手な児童も含め、振り返りの質が大幅に向上し、メタ認知能力が向上しました。児童の73%がAI分析を「次の単元もやってほしい」と肯定的な意見を示しました。この実践は、AIが子どもに寄り添い、同時に教師の見取りを支えるという両軸での支援を実現しました。

審査員コメント(池田 修 氏)

池田氏は、この実践を「AI活用の一つのスタンダードになっていくだろう」と高く評価しました。特に、教師の長年の夢である「一人ひとりを大切にする授業・学級経営」が、GASとAIによって現実のものになった点を強調しました。

さらに、児童が自分で学習を決めていく際、AIによる客観的なデータという情報を提供することで、「単なる思い込み」ではない、自己調整するための土台が作られていると指摘しました。AIが基本的に否定的なコメントをしないため、子どもたちは前向きに学習を進めやすい点も評価されました。

また、算数選科である野村氏のプログラミングスキルが活かされている一方で、一般の教員には「私にはできない」と感じられる可能性を指摘し、GASの敷居の高さを解消するための工夫の必要性を示唆しました。

AIのフィードバックが心理学的な知見に基づいていることが子どもたちにどう伝わっているかという点については、AIを「先生の考えを活かしてくれる分身」と位置づけ、その結果「私(子ども)を助けてくれるものになっている」というメッセージを伝えることが、AIをブラックボックス化させないために重要だと提言しました。

2. 相模原市立小山小学校:水戸一平 氏

実践テーマ:AIと創るその個だけのバースデーソング

水戸一平氏は、道徳の授業で友達のいいところを見つける活動(心のサーブ)を行った際、Canvaに集まった温かい言葉をその時間だけで終わらせるのはもったいないという想いから、生成AIを活用して「世界に一つだけのバースデーソング」を制作するアイデアを考案しました。

実践の概要

この実践は、道徳的価値の理解を深め、温かい人間関係を育むためのものです。

  1. 道徳的価値の収集: 子どもたちからCanvaで集めた、誕生日を迎える子の「いつも優しい」「本を読むのが早い」といったその子らしさが現れた言葉(道徳的価値)を素材として使用します。
  2. 歌詞の昇華: これらの言葉のデータを生成AIの「Gemini」に読み込ませ、「〇〇さんのためのバースデーソングの歌詞を作って」と依頼し、詩的な歌詞へと昇華させます。
  3. 作曲と命の吹き込み: 完成した歌詞を音楽生成AIの「Suno」に貼り付けるだけで、AIが自動でメロディーと伴奏を生成し、曲調(ポップスやロックなど)も選択可能です。
  4. 感動の共有: 完成した曲を誕生日の子にプレゼントし、クラスみんなで歌ったり、動画にして送ったりします。これにより、贈られた子だけでなく、作ったクラス全員にとって忘れられない特別な思い出となりました。

水戸氏は、AIが効率化のツールに留まらず、子どもたちの想像力を拡張し、表現の可能性を大きく広げるツールとして機能したことを示しました。

審査員コメント(古田裕子 氏)

古田氏は、この実践を「生成AIの力を人間的な価値の創造に結びつけた、独創的で感動的な実践」だと称賛しました。

従来の道徳の授業では「言葉だけ」で終わりがちだった友情や優しさが、AIによって「永遠に残る贈り物」(音楽)として結実したことを高く評価しました。子どもたちは、友達のために心を尽くし、表現するという具体的な行動を通じて、友情を深いレベルで体得したと指摘しました。

またGeminiが「素直な言葉を詩的な歌詞へ昇華させる」、Sunoが「その歌詞に情感豊かなメロディーという命を吹き込む」という役割分担が非常に優れており、子どもたちが技術的な壁を感じることなく、アイデアと感情の表現に集中できるようになった点を強調しました。

そして、AIは効率化だけでなく、「子どもたちの心と心をつなぐ媒体」となり、温かい人間関係を築く力を持っていることを証明した、心の教育におけるAI活用の最も理想的な形の一つであると評価しました。

3. 成城学園中学校高等学校:都築則幸 氏

実践テーマ:進路指導における個別最適化を 実現する「AI講師」「AI助手」の活用

成城学園中学校高等学校の都築則幸氏は、進路に対する生徒の意識の低さ、教員側の書類作成などの業務負担の大きさ、指導の質が先生ごとにばらつく(属人化)という課題を解決するため、株式会社DOUが提供する「AI講師」「AI助手」を導入しました。

実践の概要

この実践は、「AI講師」(生徒向け)と「AI助手」(教員向け)の両軸で進路指導の課題を解決することを目指しています。

学生データの蓄積: 生徒の日々の学びや経験(定期テストの振り返り、進路希望調査など)をGoogleフォームで回答するだけで、キャリアパスポートとして自動的にデータベース化されます。

AI講師(生徒向け)の活用: キャリアパスポートに蓄積された生徒一人ひとりのデータが専用のChatGPTに接続されます。

  • オープンキャンパス選びのサポート: 好きな教科や科目を深掘りし、その興味に合わせた大学・学部のオープンキャンパスを紹介します。
  • 自己分析の深化: 部活動や委員会活動などの情報をもとに、自身の強みや合う進路のヒントを対話を通じて得ることができます。

AI助手(教員向け)の活用(今後の展望): 教員はAI助手を活用し、推薦文や指導要録の作成をより効率的に行い、生徒一人ひとりへの指導のサポートを受けられるようにします。

今後の展望として、現在高校二年生を対象に実施しているこの取り組みを継続することで、学校ごとの特色に合わせた独自の進路指導が可能になると考えており、AI講師が生徒の面接練習や志望理由書の準備をサポートし、AI助手が教員の業務効率化を担うという体制を目指しています。

審査員コメント(池田 修 氏)

池田氏は、進路指導が持つ「いつまでに何をするのかは揃えなければならないこと」と「どのようにやるのか、ゴールはバラバラでなければならないこと」という矛盾した二つの問題を、このAI活用が見事に解決していると絶賛しました。

AIを活用することで、先生方は業務負担を破壊することなく、「足並みを揃えること」(進路指導の時期や最低限のプロセス)を担保できます。その上で、生徒自身がAI講師を使って「自分に特化していく」という「バラバラでなければならないこと」を主体的に追求できるようになります。

このように高校生という発達段階において、AIが足並みを揃えるサポートをしてくれた後は、「自分の人生だから、自分でAIを活用してやりなさい」と言える体制が構築された点が非常に優れていると評価しました。

ただ、進路指導においては、生徒の個人情報保護が極めて重要かつナーバスな問題であるため、個人情報の取り扱い(生徒の理解や公開範囲)について、プレゼン内に具体的な説明があれば、より安定した実践内容になっていただろうと指摘しました。しかし、全体としては「AIのスタンダードになる」素晴らしい実践であると評価しました。

【校務改善部門】最終発表

この部門では、業務改善、情報共有、会議・資料作成など、教職員の業務に関する生成AI活用実践が発表されました。AIを活用して教員の負担を軽減し、教育の質を高めることに焦点が当てられています。

1. 江南市立布袋北小学校:秋吉那由多 氏

実践テーマ:AIで実現する「P-D-C-A教育DX」~教師がAIを育て、児童の学びを駆動させる実践~

江南市立布袋北小学校の秋吉那由多氏は、教員が日々の授業準備に追われ、本来注力すべき単元計画の構想に余裕がないという課題を解決するため、生成AIを活用したPDCAサイクル支援システムを導入しました。このシステムは、AIとの対話を通じて研究の質を向上させることを目指しています。

実践の概要

秋吉氏の実践は、以下の3ステップでPDCAサイクルを循環させます。

【Plan】単元計画作成支援(Gemini):

  • 学習指導要領や本校の研究資料をAIに取り込み、学校の実態に即した質の高い単元計画を作成できるようにカスタマイズしました。
  • AI依存を防ぐ工夫として、「この単元で身につけたい力は何ですか?」など、教師自身の言語化力を問うプロンプトを組み込み、教師の専門性を引き出すことを狙っています。

【Check】振り返りシステム(Google Workspace):

  • 児童がスプレッドシートに振り返りを入力すると、それが教師用のスプレッドシートにリアルタイムで集約されるシステムを開発しました(Google Workspace内だけで完結)。
  • これにより、印刷・配布・回収にかかる時間を大幅に削減し、研究授業では事前に他の教員が児童の振り返りを読むことが可能になりました。

【Action】システムの進化:

  • 振り返りや学習アンケートの結果、また研究授業で生まれた優れた実践(アクション)(例:貫く課題)を、Geminiのプロンプトに見本の例として組み込み、システムを修正・変化させます。
  • この循環により、個人の実践がAIを通じて学校全体の指導力向上につながる仕組みを構築しました。

💬 審査員コメント(安井政樹 氏)

安井氏は、AIを使って教育の質を上げていくという試みに感銘を受け、特に持続可能な設計に高い評価を与えました。

「一回やったことが次につながるよ。それが財産になってくんだよ」という持続可能な設計に「先生の愛を感じる」と述べ、未来の子どもたちにつながる素敵な示唆だと評価しました。

そして、学校だけでなく、学年や学級、そして教師の個性(キャラ)といった変数をこれからシステムにどのように取り込んでいくのかに期待を寄せました。これにより、教育が「誰でもできる」という標準化を目指しつつも、「この学級だからこそできる」という特色や持ち味を出すことが可能になると述べました。

さらには、学習指導要領や校内資料に加え、教科書会社の年間指導計画例など、公開されている質の高い情報をさらにAIに取り込ませることで、多忙な教員が要点を掴みやすくし、「育てたい力」を明確にする支援が可能になるという具体的な改善点を提案しました。

2. 町田市立つくし野中学校:中尾昌貴 氏・中西銀河 氏

実践テーマ:“ゆとり”を生むためのAI活用報告

つくし野中学校の中尾氏と中西氏は、「素人こそAIを活用すべし」を結論とし、専門知識を必要としないAI活用によって教員の業務にゆとりを生み出し、その時間を「人間にしかできない教育活動」に再投資することを目指しました。

実践の概要

同校では、専門知識がなくても誰でも始められる「小さな改善を数多く積み上げる」ことを重視し、以下の取り組みを推進しました。

AI採点システムの導入: 教育ソフトウェア社の「採点ナビ」を使用し、採点時間を約20%削減する定量的な成果を上げました。全教科でシステムを導入し、業務効率化の基盤としました。

生成AIによるコア業務支援:

  • 所見作成サポート: Geminiを活用し、委員会や部活、生活態度などの情報を入力することで、AIが所見のゼロから一を作成。教員はチェックと修正に注力することで、従来時間を3分の1から半分に削減しました。
  • 進路指導サポート: ノートブックLMを活用し、入試要項や過去の指導データをアップロードすることで、要点解説や動画を作成しました。
  • これらのAI活用により、経験の浅い教員とベテラン教員との間の指導の平準化を実現しました。

自動化ツールの素人開発: Excelマクロ作成の経験がない教員が、ChatGPTを使用して席替え自動化ツールのコードを生成しました。エラーが出ても、スクリーンショットを貼り付けて修正したい条件(例:視力配慮生徒は前から3列目まで)を入力するだけで改善を実現。「AIを使用することで素人でも専門家になれる」ことを証明しました。

削減された時間とゆとりは、生徒一人ひとりに向き合う時間、個別の進路サポート、教材研究といった教員本来のコア業務に注力するために再投資されました。

💬 審査員コメント(古田裕子 氏)

古田氏は、「専門知識不要でAI活用できる環境作り」という目標を見事に達成し、AIがすべての教員の負担を軽減する道具になりうることを証明した画期的な実践だと評価しました。

まずAI採点による20%の時間削減という定量的な成果を評価し、その時間を「所見作成や入試基準分析といった教師の専門性が生きるコア業務に再投資できている点」こそが、この実践の最も優れている点だと述べました。

所見作成や入試分析といった時間がかかり、ミスが許されない業務にAIを適用することで、教員の精神的な負担と業務の精度の両方が改善されており、「まさに働き方改革の理想系」であると強調しました。

また、ルーティンワークにはAI採点、創造性の高い業務にはGemini、大量データ分析にはノートブックLMと、それぞれのAIの特性を見極めて業務プロセスに組み込んでいる点が戦略的であると評価。

難しい説明ではなく「まずやってみせる」を重視し、学校全体でAIを使いこなす文化を根付かせようとする強い意志を感じ、この成功が多くの学校のAI導入への障壁を取り除く大きな一歩になると期待を寄せました。

3. 横浜市立金沢小学校:鬼澤大地氏

実践テーマ:教職員の自己有用感を高める「AI副主任」の導入~「個別最適化」と「協働的」の視点から行った生成AIの活用~

横浜市立金沢小学校の鬼澤大地氏は、児童の「指導の個別化」や「学習の個性化」を準備する教員側の精神的・物理的な負担が大きいという課題に注目しました。そこで、児童だけでなく教職員の働き方にも「個別最適化と共同的な学び」の視点を適用することを目指し、公務分担を支援する「AI副主任」を試行的に導入しました。

実践の概要

鬼澤氏の目標は、多業種で行われている「能力を鑑みた仕事分担」を学校現場で実現し、教職員の自己有用感を高めることでした。

AI副主任のプロンプト設計: ChatGPTなどの生成AIを使用し、以下の条件をプロンプトに組み込みました。

  • 教員の個性情報: 対話形式で、経験年数、得意なこと、苦手なこと、忙しさ、挑戦したい希望を抽出。
  • プロジェクトとタスクの提示: プロジェクト(例:宿泊体験学習)と必要なタスクを提示し、AIに不足しているタスクの提案を求めます。
  • 仕事の割り振り: 個性情報とタスクを照らし合わせ、誰がどのタスクに向いているのかを丁寧に理由付けとともに出力させます。

チームらしさの醸成: AIが出力したタスクの割り振り理由とスケジュール表(締め切り日含む)を共有することで、「誰がどの仕事をどんな理由で行っているのか」が明確になり、チームらしさが向上しました。

自己有用感の向上:

  • 実践した鬼澤氏個人としては、仕事の割り振りを悩む時間心労が軽減しました。
  • 一緒に仕事をした教員からは、「この仕事を任された理由が分かって納得感があった」「自分の能力を評価されているようで嬉しさがあった」という声が聞かれました。

この実践は、AIが客観的な根拠を示すことで、仕事が任された意図が明確になり、結果的に教職員の自己有用感の高まりへと繋がったことを示しました。

審査員コメント(安井政樹 氏)

安井氏は、この実践を「個別最適を先生たちにも」という視点からの、まさにこれからに必要となるヒントだと高く評価しました。

まず、教員一人ひとりの「どう伸びていくのか」という学習者としての視点と、共同チームとしてどう働くかという視点が融合していると評価しました。

ただし、今後の発展として、AIに任せきりにするのではなく、「担任が『この子はこういうところを伸ばしたいんだよね』というメッセージ」や、「同僚や主任の願い(この人にはこういう部分も頑張ってほしいんだよな)」といった、教育的な願い(愛)の要素をインプット変数として加えることで、より個に合ったマネジメントが可能になると提案しました。

また、これは他の応募者にも共通する点ということで、「こういうところが課題で、今後こんなことをさらに考えていきたい」という伸びしろ(課題)を教員間で共有することこそが、「できない理由にするんじゃなくて、できる方法を考える次の一手だ」と強調しました。

最後に、この実践が、今後の日本の職場がもっと働きやすくなり、先生たちが伸びていく可能性を感じさせるものだと述べ、「とても本当にワクワクする」と締めくくりました。

審査結果発表と表彰式

各部門の発表終了後、審査会での厳正な審査の結果、3部門におけるベストプラクティスが発表され、表彰式が行われました。審査員一同が「大接戦」と述べる中、AIを教師と児童生徒の「伴奏者」として明確な役割を持たせて活用した実践が高く評価されました。

各部門のベストプラクティスについてはこちらをご覧ください
>>学校現場のAI活用実践コンテスト2025|各部門のベスト・プラクティスが決定!

1. 授業実践部門:ベストプラクティス

受賞者: 埼玉県 戸田市立戸田第一小学校 佐藤陽介

実践テーマ: 4年生体育科「キャッチバレーボールでの生成AIの活用実践 ~Geminiは教師と児童の伴奏者~」

審査員・受賞者コメント

安井氏は、審査員一同が悩み抜いた末の選定であることを強調し、佐藤氏の実践の素晴らしさを称えました。特に、生成AI(Gemini)を教師と子ども、双方の「伴奏者(ティーチングパートナー)」として活用し、種目を超えた汎用性可能性を感じた点を評価しました。

しかし、安井氏は今後の注意点として、AIを伴走させる際に、児童の特性や個性を無視して「もっと頑張った方がいい」と一方的に伝えてしまう危険性があると指摘しました。「AI任せにはしない」「あくまでも寄り添うのは私たち人間だ」という教師の愛と姿勢を忘れないよう、審査員の総意としてメッセージを送りました。

佐藤氏は受賞に感謝を述べ、AI活用が目的にならず、「子どもたちのためを」という点に今後も注意していくと決意を表明しました。キャッチバレーボールの実践を通して、子どもたちの技能面や思考面が授業ごとに高まっていくことを実感しており、AI活用が確かに効果があったと感じていると語りました。

2. 児童生徒支援部門:ベストプラクティス

受賞者: 東京都 成城学園中学高等学校 都築則幸 氏

実践テーマ: 進路指導における個別最適化を実現するAI講師・AI助手の活用

審査員・受賞者コメント

池田氏は、都築先生の実践を「とても素晴らしいご実践というか開発だった」と評価しました。特に、高校の進路指導が抱える「全員を揃えなければならないこと」と「全員がバラバラであること」という二律背反の矛盾をAIによって解決した点を高く評価。AIが個別最適化の土台を一定のレベルで構築し、そこから先は生徒が主体的に自分の進路を切り開いていくための基盤を作ったことは、AI活用のスタンダードになる可能性を秘めていると述べました。

都築氏は、新任教員が大量に入ってきた中で指導の質の担保が難しくなっていた状況を説明し、AIが経験不足を大きくカバーしてくれるアイテムだと感じていたと語りました。この取り組みを高く評価されたことに感謝を示し、今後は審査会で指摘された個人情報に関する説明不足の点に注意し、より丁寧に情報発信していきたいと述べました。

3. 校務改善部門:ベストプラクティス

受賞者: 神奈川県 横浜市立金沢小学校 鬼澤大地 氏

実践テーマ: 教職員の自己有用感を高めるAI副主任の導入

審査員・受賞者コメント

田中氏が選評を担当し、鬼澤氏の実践を「校務を共同的に支援していくシステムの構築に大変有効である」と高く評価しました。多忙な教師が共同的に校務を実践しなければならない現状において、AIを「AI副主任」というコンセプトで導入し、仕事のプロンプトを公開することで、教職員の共同・協業を促進した点を称賛しました。この実践は、AIを使った共同ワークスペースが公開されたばかりの時期に、それを先取りするほどの先進性があったと述べました。今後はプロンプトなどを公開し、校務支援をリードしていくことに期待を寄せました。

鬼澤氏は、身に余るお言葉だと感謝を伝え、教員を十数年務める中で、若い先生たちが「先生になりたい」と思えるように、AI活用によってこの仕事が「もっと魅力的にならないかな」と考えて実践に取り組んだと語りました。「AIで愛のある部分なのかな」と述べ、AIが教師同士、子どもと先生、子ども同士を愛を持って繋いでくれるような素敵な学びの場、公務の場になっていくことを願い、情報共有を進めていきたいと決意を表明しました。

審査員による総括コメント

審査員からは、AI活用が教育現場にもたらす変化と、人間が果たすべき役割について、総括的なメッセージが送られました。

池田 修

現場が「働きやすくなってくる」「楽しくなってくる」変化を実感し、大学での教育にも活かしたいと述べました。AIをサポートにしながら、「子どもたちが幸せになる」「先生たちが働きやすくなる」方向に進むことを期待しました。

藤原友和

応募された実践には、従来の取り組みを「加速する使い方」と、従来の取り組みを「見直さざるを得ない使い方(怖い使い方)」の二つがあると分析しました。その上で、学校が幸せな場所になるためには、後者の「怖い使い方」をきっかけとして対話を始めていく必要性があると強調。AI副主任の実践は、AIを噛ませることで人事というブラックボックスに光を当て、そこから「この部分どうしていく」という対話が始まる仕組みを持っていると評価しました。

安井政樹

先生方の「子どもたちのために何かしたい」という情熱がAIによって大きくなったことを感じたと述べました。しかし、AIに任せるのではなく、「私たち人間だからこそ育てられるところ」の議論を加速すべきだと強調。AIを使った結果、提供できるようになった「教師の愛」を、次年度以降の実践でより前面に出してほしいと期待を寄せました。

古田裕子

生成AIは単なる「効率化の道具」ではなく、「教育と創造性のための心強い伴奏者」であると総括。AIが提示する答えを人間教師が吟味し、判断し、修正する必要があるとし、AIを使いこなしてより質の高い教育を作り出すことが大切だと述べました。

田中博之

ベストプラクティスになれなかった実践も含め、すべてが学校で共有されれば学習と指導の質が高まると激励しました。選ばれた実践は、AIの「役割が明確だった」ことが共通点であるとし、AIが優秀なだけに、「なんとなく出た」ものではなく、人間とAIとの共同的な働き方、指導のあり方を追求する実践が重要だと結びました。


以上、「学校現場のAI活用実践コンテスト2025」最終選考会の模様をお伝えしました。

授業実践、児童生徒支援、校務改善の三部門で選ばれたベストプラクティスは、いずれもAIに明確な役割を与え、教師の「愛」や「専門性」を最大化する戦略的な活用を実践していました。特に、進路指導の矛盾を解決したAI講師・助手、公務分担の公平性を高めるAI副主任、そして子どもの上達の実感を支える体育科のAI活用は、教育界が長年抱えてきた構造的課題に対し、具体的な解決策を提示しました。

審査員からは、AIの活用が「働き方改革の理想系」を現実のものにし、「人間だからこそ育てられるところ」の議論を加速させるべきだという総括がなされました。このコンテストは、生成AIが単なる効率化ツールではなく、教師と生徒の心と心をつなぐ媒体として、教育の質と可能性を広げる未来図を示しています。

ご応募いただいたすべての先生方の情熱と先進性に心より敬意を表します。この貴重な知見を明日からの教育実践につなげ、共にAI時代の新しい学びの場を創造していきましょう。

(編集部)

次回「学校現場のAI活用実践コンテスト2026(仮)」は2026年秋に開催予定です。準備が整い次第、本サイトにて概要をお知らせいたします。

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