「自学で授業開き」子供たちが前のめりになる学級経営&授業アイデア #1


学級経営と授業改善について、アナログとデジタル、それぞれのよさを融合しながら唯一無二の実践を続ける鈴木優太先生の連載です。子供たちが熱量高く、前のめりに学習したり活動したりする学級づくりや授業のアイデアを、毎月1本紹介します。第1回は、子供たちが自分の意思で学びを進める力を高める「自学で授業開き」と「ナンバリングメモ」を使った振り返りを取り上げます。
執筆/宮城県公立小学校教諭・鈴木優太
目次
目指すゴールを子供たちと共有する
先生方は、1年後の修了式の日に、どんな一人一人に育っていてほしいと願いますか?
私の願いは、一人一人が自学のできる人になることです。自分を伸ばすための学習が自学です。授業開きとは、ゴールの姿を子供たちと共有する時間です。
だからこそ、「自学で授業開き」にチャレンジします(おすすめは中学年以上ですが、低学年でも工夫しながら取り組めます)。
教師が与えてくれる授業に慣れきった子供たちに、「学びは自らつくるもの!」という意識を鮮烈に刻み込む絶好の機会になります。今取り入れなければ、子供たちは受け身のままで1年間を過ごすことになるかもしれません。それでいいのでしょうか?
自学チャレンジ
自分を伸ばすための学習が自学です。教科書やノート、端末、何を使ってもかまいません。自学だ! と思うことに25分間チャレンジです。その後、振り返りを書きます。それでは早速、やってみましょう!

※自学にチャレンジする時間は、学級の子供たちの実態に応じて調整しましょう。
子供たちが自ら学ぶ力を備えていることに、先生方は驚かされるはずです。子供たちは結構やるものです。迷いなく教科書やノートを開いてじっくり1つのことに取り組み続ける子もいれば、短い間隔で次々といろいろなことを試してみる子もいるでしょう。なかなか取りかかれずに戸惑う子も見られるかもしれません。確認しに来る子や成果物を見せに来る子もいるでしょう。
どんな学びの姿も、まずは温かく受け止めましょう。
子供たちが重ねてきた学びの経験を想像しながら、一人一人の様子をじっくりと観察します。できていることを大いに認めるように机間を巡ります。私は、控えめな声で実況しながら、学びの広がりを促します。
新出漢字は、あぁなるほど、こうやって練習して覚えるんだ。字も濃くて丁寧。
端末で調べて……へぇ~このアプリさばきはお見事。授業の可能性が広がるね。
教科書の計算問題、読んだだけでもうやり方が分かっているの? 予習ができるなんて、すごいなぁ。みんなにも紹介したいから、写真を撮るね。
写真や動画を撮影しておくと、子供たちと振り返るときに役立ちます。さらに、端末の画面を大型テレビにミラーリングできる環境があると「移動型実物投影機」になります。教師が移動しながら一人一人の机上をLIVE中継するイメージです。
机の上をテレビに映していきます。見たい人は見てください。
テレビに映るとどの子もうれしそうです。学びを中断しないように見たい人だけが見ます。すると、友達の真似をして取り組み始める子がいます。学ぶの語源は「まねぶ」であることも紹介すると、戸惑っていた子たちも、もう夢中で自己選択した学習に向かっています。立ち歩いて見せに来る子も、自席で取り組むようになります。戸惑っていたあの子の鉛筆も動き出します。集中している子は静かです。
自分を伸ばす方法を考え、取り組むことができたら、最強です。中学校も、その先の人生だって、たくましく歩んでいくことができるでしょう。そんな願いを伝えながら、「自学で授業開き」にチャレンジしましょう。
振り返りは宝の山
自学チャレンジをしてみた振り返りを書きます。A4サイズの真っ白な紙を使います。
振り返りと思うことを3分間書き続けます。「どうぞ!」と、ここも思い切って子供たちに委ねてみるのもよいでしょう。しかし、自学後の振り返りもそれぞれで……となると、学校で学び合うことの実感はやや薄口かもしれません。クラウド上で振り返りを全員分共有することも有効ですが、肉声を聴き合うことも大切にしていきたいというのが、私の考えです。
そこで、個別最適で協働的な学びを実感でき、振り返りと共有を子供たちの生の声で、しかも短い時間でできてしまう効果抜群の方法を紹介します。
文頭に番号を付けて書き出すメモの手法「ナンバリングメモ」です。ポイントは、大事じゃないことも鉛筆を止めずに書き続けること。はじめにペアで20秒ずつ気付きを聴き合うのも効果的です。意図的指名や、列指名をし、次のような数人の発言を番号付きで板書します。
1.学ぶことって楽しい。
2.静かだと集中できる。
3.予習ができちゃった。
4.給食の後や家でも続けたい。
まずは、子供たちは1~4を同じように書き写します。5~10の番号を板書したら、すかさず子供たちに投げかけます。
1、2、3、4まで書けたと思います。この後、2分間で、5まで書けそう? 6、7まで書けそう? おぉ! 8、9は? やるなぁ。10以上書けそうだ? すごいなぁ。
これから、自学チャレンジの気付きを書きます。とにかく数多く書きます。どんなささいな気付きでもOKです。鉛筆を止めないで書き続けられるとよいですね。スタート。
タイマーが鳴ったら何個書けたか、数を確認します。そして、全員が輪番で発表します。書いたものの中から1つ読み上げるだけです。1周目は、もう出てしまったものでもよしとします。挙手指名で一部の子だけが発言するのではありません。全員が発表していきます。
教師は番号を付けて板書します。子供たちは、自分の紙に書き足せるだけ書き足していきます。否定的な意見は受け止めつつも、黒板には書きません。肯定的な言葉の数が多くなると、達成感を感じます。全員発表後に、まだ出ていない意見が言える人は立ちます。立っている人だけで、2周目、3周目……と輪番発表を繰り返して意見を出し尽くします。脱・挙手指名発表で「全員発表があたりまえ」になると、授業は教師主体から子供たち主体に変わっていきます。詳しくは、「振り返りリレー」自治的な学級をつくる12か月のアイデア #1をご参照ください。
そして、特になるほどと思ったことを各自が3つだけ選びます。赤鉛筆で、番号のところを王冠マークで囲むようにしています。「なるほどベスト3」です。大事なことは後から選びます。
※ナンバリングメモ、なるほどベスト3について詳しく知りたい方は、「ナンバリングメモ&なるほどベスト3」自治的な学級をつくる12か月のアイデア #9をご参照ください。
悩んで決めかねている子には「〇時〇分時点でのベスト3です。10分後には変わっていても大丈夫」と助言します。こうして「自己選択」の感度を磨いていきます。AIと共生していく新時代の基礎基本は、「自己選択」だからです。「発散(できるだけ多くの考えを出す)→選択」のプロセスは、あらゆる場面で活躍する万能な学び方です。
こうして子供たちと紡いだ実感のこもった気付きが、子供たちにとって本当に必要感のある学習ルールになります。黒板に書いたものは写真撮影し、拡大印刷して掲示物にしましょう。模造紙に書いて、そのまま掲示物として使用するのもいいですね。
自学の習慣化が学級の安定につながる
集団生活では、どうしても空白の時間が生まれてしまいます。空白の時間とは、子供たちがやることが不明確な時間や待ち時間のことを指します。この空白の時間の過ごし方が、伸びる学級と荒れる学級の大きな分かれ目です。
自学を空白の時間の過ごし方の1つの手段としてルール化しましょう。
自学を習慣化することで、学級全体の雰囲気が落ち着き、子供たちが自ら学びに向かう姿勢があたりまえになります。教師がすべてを指示しなくても、子供たち自身が学びを進める環境が生まれるからです。
しかし、「学級を荒れさせないための対策」ではなく、「学びを深めるための仕組み」として自学を取り入れることが重要です。一生懸命取り組んだ自学の成果物を仲間同士で見合い、コメントを書き合う時間も、学び合いの文化を育む貴重な機会となります。
いつでも、何度でも
自学は、年度の最初に始めなければならないものではありません。学級の状況に応じて、いつでもスタートできるものです。学期途中や年度の後半、連休明けのタイミングなどであっても、この時間を確保することで、子供たちの学びの姿勢が大きく変わります。
年度最初には難しくても、低学年でも自学を取り入れることは可能です。子供たちが大好きな自由帳を「自由学習帳」と呼び方を変えて使用することも有効です。
「今だからこそ必要だ」と感じたときに導入することが、学びを深めるチャンスとなるのです。大切なのは、子供たちが「学びは主体的に取り組むものだ」と感じる経験を積み重ねることなのです。
「でも、うちの子たちにできるかな?」
そう思ったあなた、その考えこそが、子供たちの成長を止めている原因かもしれません。教師が「学ばせよう」とし続ける限り、子供たちは指示を待つだけの存在であり続けます。しかし、子供は本来、学びたがっているのです。
最初は戸惑っていた子も、時間を重ねるごとに自分の学び方を確立し、成長が目に見えて分かるようになります。だから、定期的に「自学チャレンジアワー」を設定したり、授業の始まりや終わりに短時間の「自学タイム」を設けたりすることで、自分で学ぶことが学級の文化として根付いていきます。「最初の自学では何をしていたか」「半年後の自学ではどんな工夫をしているか」を振り返ることで、子供たちは自分の成長に気付き、学びに対する意欲を高めていきます。
1年間を通じて自学を育み、子供たちの学びの芽を大きく伸ばしていきましょう。

鈴木優太(すずき・ゆうた)●宮城県公立小学校教諭。1985年宮城県生まれ。「縁太(えんた)会」を主宰する。『教室ギア56』『教室ギア55』(共に東洋館出版社)、『「日常アレンジ」大全』(明治図書出版)など、著書多数。
参照/鈴木優太『教室ギア56』(東洋館出版社)、鈴木優太『教室ギア55』(東洋館出版社)、鈴木優太『「日常アレンジ」大全』(明治図書出版)、多賀一郎監修、鈴木優太編、チーム・ロケットスタート著『学級づくり&授業づくりスキル レク&アイスブレイク』(明治図書出版)
イラスト/高橋正輝
【鈴木優太先生 連載】
・子供たちの可能性を引き出す!学級経営&授業アイデア(全12回)
・自治的な学級をつくる12か月のアイデア(全12回)
・子供同士をつなぐ1年生の特別活動(全12回)
・どの子も安心して学べる1年生の教室環境(全12回)
【鈴木優太先生 ご著書】
教室ギア56(東洋館出版社)
教室ギア55(東洋館出版社)
「日常アレンジ」大全(明治図書出版)
学級づくり&授業づくりスキル レク&アイスブレイク(明治図書出版)