夏休み前に行いたい読書感想文の書き方指導 子供の文がぐんと上手になる!
夏休みの宿題に必ずと言ってよいほど出るのが読書感想文です。読書感想文の書き方指導を夏休み前に行っておきませんか。読書感想文は、本と出合って、何を学んで何を考えて自分がどういうふうに変わったのかということを書くことが大切です。読書感想文の本の選び方から書き方の指導の秘訣、ChatGPTなど生成系AIへの対策についてなど、長年にわたり読書感想文コンクールの選定委員を務める全国学校図書館協議会、山田万紀惠参事にうかがいました。
山田万紀惠
全国学校図書館協議会参事、東京学芸大学非常勤講師
埼玉県公立小学校にて38年間、教諭、司書教諭を経て2017年から現職。長年にわたり読書感想文コンクールの選定委員を務める。子供たちに読書のおもしろさを伝え、読書感想文の書き方の指導に当たるなど書籍に関わる仕事に情熱を注ぐ。
目次
その子の興味、関心がある本を選ぼう
――読書感想文の本の選び方を教えてください。
山田 一人一人、心に響く本は違います。その子が普段から疑問に思っていること、普段から考えていることとぴったり合う、または同じような体験があったなど、本人の興味、関心がある本を選ばないと、自分の言葉が出ません。
例えば、鉄道が好きな子は鉄道の本、昆虫の好きな子は昆虫の本、絵の好きな子は画家の伝記、音楽の好きな子はモーツァルトの本など、その子の好きな分野の本を選ぶとよいでしょう。
自分の体験を書ける本がよく、共感できたり、批判的に考えられたり、普段の生活に密着していたりする本が書きやすいのではないでしょうか。
例えば、『かあちゃん取扱説明書』(童心社)という本を読んで、お母さんに言われていやだなと思っていたことが、この本によって、こういうふうに言えばよかったんだと分かったなど、感想文の中に自分の発想や体験が出てくるような本を選ぶのが書きやすいと思います。
――読書感想文の本は、名作のほうがよいのでしょうか
山田 名作は、時代とともに変わるものと不変のものがあります。名作と言われているもののなかには、時代が変わってもよいものがありますが、現代とは時代背景が違うし、生活環境も違うので、一概に名作を選ぶのがよいとは限りません。
例えば、中高生などは、ヘルマン・ヘッセの『車輪の下』などの名作をよく選んでいますし、教師としては、骨太の小説も読んでほしいという願いもあります。名作も読んでほしいのですが、それでよい感想文が書けるかというとイコールではありません。時代が違い、子供たちが育つ環境が違えば考え方も違うので、昔からの名作が読書感想文に適しているとは限らないと思います。
――本を読むのが苦手な子に、おすすめの本はどのような本でしょうか。また、本を読むのが苦手な子にはどのように指導をすればよろしいでしょうか。
山田 字を読むのが苦手な子には、科学読み物などをすすめてはいかがでしょうか。字が多くなくても、自分でできる体験があれば書きやすいと思います。
例えば、『土の色って、どんな色?』(福音館書店)には様々な土の色が紹介されています。土の色は決まっている気がしますが、いろいろな色があるんですね。この本と出合ったことで、その子は土を集めたのです。校庭や家の周りの土、旅行に行ったときの土など様々な土を集めて、この本と同じだと発見しました。
読書感想文の書き方指導では、「難しい本を読まなくても、感想文は書けるよ」ということを子供たちに伝えます。本人の興味、関心の糸口から体験してみる、そして実感してみることが大切です。それが読書感想文につながります。
私が6年生を担任したときには、あなたはこの本、あなたはこの本と、本人の興味・関心のありそうな本を渡していたことがあります。学級担任は子供たちのことをよく知っていますので、その子の好きな分野の本をすすめるとよいのではないでしょうか。図書館にいっしょに行って、「これ読んでみたら」とすすめてもよいと思います。
本に出合って何を考えたのかを自分の言葉で書く
――感想文を書くときには基本形があるのでしょうか。何から書き始めればよいのでしょうか。
山田 低学年のときには、形が必要かもしれませんが、学年が上がっていくにしたがって、個性が出るようになります。「私が感動したのはここだ」と、言いたいことを最初に書いたり最後に書いたりする構成や、最初と最後がつながっている構成などがあります。例えば、最初にこういう疑問をもった、そして最後にその疑問はこう解決したといった構成です。一番考えさせられているところから書くと読み手にインパクトが与えられます。
文章構成は、言葉をたくさん出してから考えるとよいと思います。高学年や中学年になると構成力も必要になります。
それから、体験を入れてほしいですね。例えば、友達とけんかしたという本なら、自分だったらけんかしたときこうだったとか、きょうだい関係の本なら、自分にはお姉ちゃんがいてなどの体験を入れるようにします。
――文章が苦手な子供の感想文は、とかくあらすじが大半で、自分の感想は1行程度で終わるということがあると思います。そのような子にはどのように指導すればよいでしょうか。
山田 「楽しかった」で終わってしまう感想文が見られます。そのときには、なぜそう思ったのかを書くようにするとよいでしょう。そうすると否が応でも文字が増え、読み手に伝わりやすくなります。「おもしろかった」と言っても、なぜおもしろかったのかが分かりません。「よかった」だけなら、何がよかったのかを具体的に書くようにします。
例えば、「作者はこうなんだろうなと、ぼくは想像した」というように、本の世界に入って、共感したことをきちんと言葉で書いていくことが大切です。この本に出合ってどうなったのか、何を思ったのか、何を考えたのか、それをきちんと書いてほしいですね。考える読書をしてほしいと思います。
――文章が苦手な子には、何から始め、どのように指導すればよいのでしょうか。
山田 文章が苦手な子は、言葉が少ないように思います。普段から、友達といっぱいしゃべったり、家族といっぱいしゃべったりすることが大切です。また、日記を書くこともよいでしょう。長い文章を書かなくても、毎日、1行でも2行でも書く習慣を付けることが大切です。文章が苦手な子は、普段から書く習慣が少ないのだと思います。
例えば、本を読んだら、ノートに自分の気に入った言葉を書き写す習慣を付けてみてはいかがでしょう。言葉を拾って写すだけで、自分の血肉になります。血肉になった言葉によって、言葉があふれてきます。自分の気に入った言葉で救われたり、ほっとできたり、励まされたりします。子供たちにも、そういう言葉をもっとたくさんもってほしいと思います。
――よい読書感想文を書くコツを教えてください。
山田 端的に言うと、自分のことを書く、自分にしか書けないことを書くということです。その本を読んで、自分は何を得たか、やる気にさせてくれたところ、向上心をくすぐられたところなどを書きます。
例えば、「今までは一部しか見ていなかったが、この本を読んで俯瞰で見ることが大切だと分かった」など、自分に気付きを与えてくれた内容を書きます。
もちろん、体験ばかりだと生活文になるため、本のこういうところからこう思ったということを書きます。引用文を使ってもよいのです。本の大事な言葉をかぎかっこでくくり、引用することも子供たちに伝えるとよいでしょう。
それから、感想文自体が1つの作品なので、自分の好きな題名を付けてほしいですね。私が一番印象に残っているのは『僕は上手にしゃべれない』(ポプラ社)という吃音の悩みを抱えた子の葛藤と成長の物語を読んだ子供の感想文の「僕も上手にしゃべれない」という題名です。「だから僕も同じだよ」と共感が入っているような題名ですよね。こんなふうに一番伝えたいことを題名にするとよいですね。
――最近、ChatGPTなど生成系AIが話題になっています。例えば、生成系AIを使うと感想文がすぐにできあがってしまうということが言われていますが、それについてはどのように思われますか。
山田 生成系AIを使って、文章を作ることはできると思います。しかし、読書感想文は一般論を書くのではなく、自分のことを書くのです。なぜ、自分はそのことが好きなのかとか、自分はこうであるなどの自分の考えや体験を書きます。そのため、生成系AIを使って読書感想文を書くことは本来は難しいのではないかと思います。
先生方には、生成系AIで書いたものがその子の作品かどうか、その子の文章かどうかを見極める力が必要になってくるのではないでしょうか。
本と出合って「何を考えたか」が伝わる読書感想文を評価
――子供の読書感想文をどのように評価すればよいか、評価のポイントを教えてください。
山田 この本と出合って、その子がどのような影響を受けたか、どのようなことを考えたかということが伝わってくる読書感想文を評価します。本のことに触れることが少ないと、生活文になりますので、読書感想文としては評価できません。本の内容と自分の経験とのバランスが大切です。
また、主題とかけ離れている読書感想文はあまり評価できません。例えば、「ごんぎつね」の読書感想文で、「うなぎがかわいそう」という内容では主題と離れていますので、あまり評価できません。それから、学年に応じた発達段階に即しているかという視点も大事です。
――読書感想文の書き方を指導する小学校の先生へ、山田先生からメッセージをお願いします。
山田 読書感想文を書くためだけでなく、日頃から文章を書くこと、本を読むことの指導が大切です。個々の興味、関心に応じた本を幅広く紹介する機会を多くとるようにしてはいかがでしょう。例えば、ブックトークなどの活動を行う、掲示物で紹介する、学習のなかに本を取り入れていくなどが考えられます。
それから、友達との会話や感想を語り合う時間をつくることも必要なことです。そして、読書感想文は「自分のことを書くのだ」ということを子供たちに伝えてほしいと思います。そのためには、自分の言葉を安心して表現できる、ありのままの自分を認めてくれる環境が必要です。子供たちが安心して話せる学級をつくり、子供たちが自分を文章で表現できるようにしていただきたいと思います。
取材・文・構成・撮影/浅原孝子