小4音楽  主体的で、心を豊かに育てる「考える音楽」とは

単に歌うこと、単に楽器を演奏することに陥った音楽の授業になっていませんか。音楽を教え込むのではなく、子供たちの気持ちや思いを表出させる「考える音楽」を提唱する東海大学付属静岡翔洋小学校・塚本伸一先生の音楽の授業実践を紹介します。

授業者/東海大学付属静岡翔洋小学校 音楽専科教諭・塚本伸一

音楽授業トップ画像子供たちと塚本先生

【表現領域、音楽づくり領域】

教材名 『ソーラン節』

単元計画(全2時間)

1 『ソーラン節』にふさわしい「合いの手」を考え、音楽創作アプリ「GarageBand」で自分が考えた「合いの手」を録音する。
2 「合いの手」の作品提出後、「誰の合いの手でしょうかクイズ!」を実施して、楽しいアウトプットを実施する。

使用ソフト

・ロイロノート・スクール(以下、ロイロノート):思考過程の可視化や視認性を高めるために使用。
・ガレージバンド(GarageBand。以下、GB):音楽表現の手段として使用。
使用端末 iPad

考える音楽とは

「考える音楽」とはどういうことかを塚本先生に話してもらいました。

「考える音楽」を実践したのは、学校教育下における教科音楽が学校行事での成果発表至上主義になりかねないことに対し、このままでよいのかという危機感をもったことがきっかけです。単に歌うこと、単に楽器を演奏することに陥ってしまうと、技能訓練となり、学習指導要領の目標すら達成することができません。
気持ちや思いをもって表現活動に取り組むことの大切さを教師も子供も分かっているはずですが、結果的には技能訓練の反復によって音楽好きと音楽嫌いの両極をつくっていることが、かつての私も含め、多くの学校で行われている現状であるように思います。
この反省を踏まえ、「考える音楽」を実践するようになりました。「考える音楽」とは、技術指導ばかりではなく「どうしてそんなふうに歌うのだろうか」「その部分をクレシェンドにする理由はなんだろうか」など、楽譜に示されていることなどを当たり前に表現するのではなく、その理由や根拠を子供同士で考え、意見を交流して全体感へ昇華していくことを目指したものです。教え込むのではなく子供たちの気持ちや思いを表出させるうえで主体的な活動にならざるを得ない仕掛けを施しているのです。

『ソーラン節』の「合いの手」を考え、録音する(第1時)

本時のねらい:合いの手について考える。GBを使ってぴったりの合いの手をつくろう 。

1 ロイロノートを子供たちに配る

ロイロノートの思考ツール、GBを使って、合いの手をつくることを子供たちに伝えます。
まずは、「合いの手」とは何かを子供たちと考えていきます。

音楽 塚本先生と子供たちの写真
何が始まるか、子供たちは興味津々。

塚本先生の指導ポイント

本日の授業のめあて「合いの手ってなんだろう?」という流れは絶対につくりません。いきなりのネタバレなんて悲しいですよね。授業は常にワクワクドキドキの連続でなければつまらないと思っています。
ここではソーラン節以外の曲(器楽領域『剣の舞』や歌唱領域『炭坑節』、歌謡曲から『きよしのズンドコ節』)をYouTubeで視聴させ、「3曲に共通する特徴ってなんだろう」という発問をしました。3曲目は特に盛り上がりましたね。当然ながら様々な意見が出てきて、子供同士の意見交流は非常に活発になります。これもポイントの1つです。
敢えて教師は答えを言わないようにしました。なぜならば、次の発問への足かけとしての意味合いをもたせているからです。そうなると、子供は「早く答えを知りたい!」という好奇心が高まり、授業への姿勢が積極的になりますよね。

2 『ソーラン節』を聴く

合いの手の音を消した『ソーラン節』を聴いて、『ソーラン節』に合う合いの手は、どのようなものがよいのかを考えていきます。

塚本先生の指導ポイント

「どんな言葉が入っているのだろう?」という「一質問一解答」では正解を求めるためだけの授業になりがちです。そこで、「みんなが考えた合いの手を共有して、どんな言葉の特徴があるのかをまとめてみよう」という指示に変え、ロイロノートの回答共有機能を使って子供同士で意見交流をしてもらいます。
時間はかかりますが(といっても3分程度)、このやり方のほうが様々な意見を拾い上げることができます。友達がどのような思いで考えたのかを知ることは、たとえ正解でなくても重要だと思います。

3 自分が考える合いの手をつくる

「自分の思いを整理し」「具体的にどんな声ならよいのか」を思考ツール(ピラミッドチャート)で可視化します。そして、可視化した合いの手をグループで共有します。共有後、自分の合いの手を再考します。

自分の思いをピラミッドチャートで可視化している写真
自分が考える合いの手をつくっている。

塚本先生が示したピラミッドチャート:発問が書かれている。

塚本先生が配った思考ツール

子供たちが書き込んだピラミッドチャート

児童Aの思考ツール
児童Bの思考ツール

塚本先生の指導ポイント

自分の思いや気持ちが、グループの友達に伝えることができて、理解してもらえるのかを確認し、相互往還することでさらなる思考の深まりを促しました。「書くこと」を「伝える」ことで、ミニプレゼンテーションとしての位置付けを考えました(全員の前で発表する前の準備段階)。

4 自分の声を録音する

自分の考えた合いの手をGBに録音します。自分の思いにふさわしい声にするために、Vocal Transformerを使ってオリジナルの合いの手をつくります。

子供たちが教え合っている写真
各自で録音した後、友達同士で共有している。分からないところは教え合う。

塚本先生の指導ポイント

機器操作の手引きをロイロノートのカードでまとめ、子供たちに配りました。子供自身のペースで確認することができるからです。一種の個別最適な学びと言えるでしょう。
また、画面を2分割して、GBを操作しながら手引きを見るという技を、教師が指示しなくても行っている子供が多くいました。この手法を友達同士で教え合う姿が見受けられました。協働的な学びの1つでもあります。自分が知り得た有益な情報を、惜しげもなく友達にシェアする姿は、小学生のよさでしょう。

塚本先生の授業の振り返り
1回目の授業では、ソーラン節にふさわしい「合いの手」について考えていきました。知識技能としての「合いの手の役割」を知るときでも、教師による一方的な知識注入型授業を避け、多くの類型から自分たちが気付くことを言語化することに重きを置きました。
それは、時間がかかる活動ではありますが、子供の知識定着の観点において重要であると考えています。また、自分が知り得た情報を友達に教え合う活動は、ラーニングピラミッドの最下層である「他の人に教える」ことにつながり、学習定着率は90%という数字が示されています。
このような経験を音楽の見方・考え方のもとで実践することは、教師が1から10まで教えていた時代と異なり、子供が主体的に活動することでもあります。私の授業では、友達が発見した技術や手法を「徹底的にまねてシェアする」ことを推奨しています。新しい学びのスタイルが日常の授業の中で垣間見られることが多くなりました。

作った「合いの手」が誰の作品かを当てる(第2時)

本時のねらい:「誰の合いの手でしょうかクイズ!」を実施し、楽しいアウトプットをする。

1 つくった「合いの手」を先生に送る

子供たちがつくった「合いの手」を各自、先生に送信します。

2 「誰の合いの手でしょうかクイズ!」を実施

GBの「Vocal Transformer」機能で、声質などを変えているので、誰の声なのか判別することが難しい。そこにクイズの楽しさを盛り込んでいます。時間の都合上、「くじ引きアプリ」を使って3名程度を指名します。

塚本先生の指導ポイント

子供には「誰の声なのか」という単純なクイズ形式を導入部として、授業の本質には「どのような声質にすれば、【ソーラン節の合いの手にふさわしいか?】」という発問につなげたいという意図があります。

3 「合いの手」づくりの振り返り

子供の回答には、思考ツールの「PMIシート」を利用します。「P:よかった点」「M:改善点」「I:面白かった点」にまとめさせて提出。

塚本先生の指導ポイント

「合いの手」づくりの活動を通して、子供たちが主体的(自発的)に「どんな合いの手で、どんな声質ならば、ソーラン節の合いの手にふさわしいのか」という発問に対する解を導き出すことを目指しました。

最後に、「他の曲にも【合いの手】があるはず。探してみよう!」という発展的課題につなげました。題材として、教科書掲載曲、ヒット曲、その他にもあるかもしれないことを指示しました。

塚本先生の授業の振り返り
声の編集で、極端にレベルを振り切った子供の声は「おなら」のような声になっていました。授業内は大変盛り上がりを見せ、誰もが楽しそうに取り組む様子が見られました。声を編集することで、誰の声なのか分からないことを実感できたようでした。
「高い声」を選んだ子供が全体の9割になりました。それは、NHK番組の「チコちゃんに叱られる!」のように変わることに興味をもっている様子だったためだと考えられます。一方、「低い声」を選んだ子供は1割弱となりました。「魚を獲るためには『力強さ』が必要だから」と言った意見が見られました。
どのような「合いの手」がよいのかという発問に対して
・大漁を期待するための声だから、はっきりとした声で言いたい。
・短い言葉で、はっきりと言いたい。
・盛り上げるような声がいい。
・大きな声で力強く。
という意見が多かったことで、実際の合いの手に近いものを、子供が実体験を通して知覚感受することができたことは、授業者のねらい通りでした。

塚本先生インタビュー

塚本先生の写真
塚本先生

一般的には、「ソーラン節には『合いの手』というのがあって、○○という理由で言われているんだよ」という、知識注入型の授業が展開されることが多いようです。そのような授業は成立するし、指導案どおりの展開が可能だと思われますが、子供にとっては数日すれば忘れるようなことになりかねません。
それならば、子供の実体験を多く採用して、録音実験で試行錯誤しながら自分なりの解を導き出すやり方が、印象に残りやすくなるうえ、最終的にクラス全員でまとめる「合いの手があることで何がどう変わるのか」という課題に対して理解が深まると考えました。
これこそ「考える音楽科」が目指している授業方法の1つです。
発展課題として、他の曲(教科書掲載の民謡のみならず、ヒット曲なども)にも注目する「動機付け」が成されたことは、本授業での成果の1つだと言えます。

取材・文・写真・構成/浅原孝子

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