小6理科「生物と環境」指導アイデア
執筆/大阪府公立小学校教諭・岩本哲也
編集委員/国立教育政策研究所教育課程調査官・鳴川哲也、大阪府公立小学校校長・民辻善昭、大阪府公立小学校校長・細川克寿
目次
主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善
令和2年度から全面実施される学習指導要領には、
単元など内容や時間のまとまりを見通して、その中で育む資質・能力の育成に向けて、児童の主体的・対話的で深い学びの実現を図るようにすること。
と記されています。「主体的・対話的で深い学び」の視点から授業改善を行い、資質・能力を育成することが大切になります。では、これらの視点でどのように授業を改善すればよいのでしょうか。
はじめに、「主体的な学び」については、自然の事物・現象から問題を見いだし、見通しをもって観察、実験などを行い、自らの学習活動を振り返って意味付けたり、得られた知識や技能を基に次の問題を発見したり、新たな視点で自然の事物・現象を捉えることができるようにすることなどが大切です。
例えば、既習内容である動物の呼吸を基に、植物と空気との関わりについて問題を見いだす場面を設定することが考えられます。また、陸上の生物で見られる食う・食われるの関係を基に、水中や土中の生物においても同様の関係が見られるのではないか、あるいは異なる関係が見られるのではないかといった、新たな視点で自然を捉えようとする場面を設定することが考えられます。
このような場面を通して、「主体的な学び」の実現を図り、資質・能力を育成することが大切です。
次に、「対話的な学び」については、問題の設定や検証計画の立案、観察や実験の結果処理、考察などの場面において、根拠を基にあらかじめ個人で考えた後、意見交換したり、議論したりして、自分の考えをより妥当なものにできるようにすることが大切です。実証性、再現性、客観性といった視点を基に対話を進めるようにしましょう。
また、問題解決の段階によって対話の目的が異なることに注意する必要があります。例えば、植物と空気との関わりについて気体検知管を用いて調べた場合、各班の実験結果を表にして数値で示すようにしましょう(活動アイディア②参照)。そして考察の場面において、できるだけ複数の事実を基に対話を図ることで、より妥当な考えをつくりだすことができると考えられます。
最後に、「深い学び」については、「理科の見方・考え方」を働かせながら問題解決を図ることにより、資質・能力を育成していくことが大切です。様々な知識をつないで、より科学的な概念を形成することも大切です。
例えば、本単元の学習を通して身に付けていく様々な知識について、「共通性・多様性」「全体と部分」などという見方を働かせることによって、相互を関係付けて考えることができるようになったり、生物と環境の関わりが見えてくるようになったりします。
また、「人と環境」という視点で、既習の内容を関係付けながら日常生活に当てはめて考察することで、持続可能な環境との関わりについてより深く理解することができると考えられます。
以上の視点から授業改善を行い、次ページにあげる単元のねらいに迫ることが大切です。
授業づくりのポイント
①得られた知識や技能を基に問題を発見したり、新たな視点で自然の事物・現象を捉えようとしたりする場面の設定。
②観察、実験結果を基に議論して、考えを広げたり深めたりする場面の設定。
③学びを振り返り、様々な知識をつなげて、より科学的な概念を形成することに向かう場面の設定。
単元のねらい
生物と水、空気及び食べ物との関わりに着目して、それらを多面的に調べる活動を通して、生物と持続可能な環境との関わりについて理解を図り、観察、実験などに関する技能を身に付けるとともに、主により妥当な考えをつくりだす力や生命を尊重する態度、主体的に問題解決しようとする態度を育成する。
単元計画(三次 全13時間)
一次
1時
●生物が生命を維持するために必要な食べ物、空気、水を基にして話し合い、生物と環境との関わりについて問題を見いだす。
二次
2・3・4・5時
生物は食べ物を通して、どのように関わっているのだろうか?
●人や他の動物の食べ物を調べて、その元をたどる。
●魚の食べ物を調べる。水中の小さな生物を観察し、それらが魚の食べ物になっていることを調べる。(活動アイディア①)
●容器に枯れ葉とダンゴムシを入れて飼育するなどして、土中の生物について調べる。
考 生物は、食う・食われるの関係で互いに関わっている。
6・7・8時
生物は空気を通して、環境とどのように関わっているのだろうか?
●動物は酸素を取り入れて二酸化炭素を出して生きていることなど、これまでの学習を振り返る。日光が当たった植物と空気との関わりについて調べる。
●日光を当てない場合の植物と空気との関わりについて調べる。(活動アイディア②)
考 生物は、酸素と二酸化炭素のやりとりを通して互いに関わっている。
9・10時
生物は水を通して、どのように関わっているのだろうか?
●生物は水がないと生きていくことができないことや、水の循環について調べる。
考 生物は、水の循環の中で互いに関わっている。
三次
11・12・13時
人の生活は環境とどのように関わっているのだろうか?
●人の生活が環境に及ぼす影響や、環境から人の生活へ及ぼす影響について調べる。
●人が自然に働きかけることで、よりよい関係をつくりだす工夫について考える。
単元デザインのポイント
単元構想
単元を見通して、主体的・対話的で深い学びの実現を図ります。一次では問題を見いだし、自らの学びの見通しをもつ場とします。二次では、観察、実験を通して、実証性、再現性、客観性などといった視点を基に問題を解決していきます。三次では単元の学習を振り返り、「人と環境」という視点で、再度、自然の事物・現象や日常生活を見直し、学習内容を深く理解したり、新しい問題を見いだしたりする場となるように単元を構想します。
一次
一次では、既習の内容(生物の生命を維持する働き)を振り返りながら、生物と食べ物、空気、水との関わりに着目できるようにします。
食べ物、空気、水について、どの順で学習を進めていくか、二次の学習計画を子供同士で話し合い、主体的に問題解決しようとする態度を養う場とします。
二次
二次では、「共通性・多様性」「全体と部分」などという見方や、「比較」「関係付け」「条件制御」「多面的」といった考え方を働かせながら問題解決するようにします。人の食べ物として学校給食を教材として扱い、食育と連携し学習を進めることで、食生活が自然の恩恵の上に成り立つものであることについての理解を図り、生命及び自然を尊重する態度や環境の保全に寄与する態度を養う場とします。顕微鏡や気体検知管などの器具を適切に操作したり、条件を制御しながら植物と空気との関わりについて調べたりするなど、観察・実験に関する技能を身に付ける場とします。
三次
三次では、人の生活について環境との関わり方に着目して、持続可能な環境との関わり方を多面的に調べます。そして、これまでの理科の学習を踏まえて、自分が環境とよりよく関わっていくためにはどのようにすればよいか、日常生活に当てはめて考察するなど、人と環境との関わりについて、より妥当な考えをつくりだし、表現する場とします。
活動アイディア①
(二次 3・4時)
陸上の生物については分かったけれど、水中の生物はどうだろう?
問題
水中の生物は、食べ物を通して、どのように関わっているのだろうか?
予想
水族館やテレビで、大きな魚が小さな魚を食べているところを見たことがあるから、陸上と同じで、食う・食われるの関係だと思うよ。
では、その小さな魚は何を食べているのかな? 池や川で見られる小さい魚を代表して、モツゴで調べましょう。
池や川の中のモツゴより小さな生物を食べていると思うので、水中の小さな生物を探してみよう。
方法
目の細かい網で、池や川の水を何回もすくい、網に付いたものをビーカーの水の中で洗い出します。ビーカーの水をスポイトで1滴取り、プレパラートを作って、顕微鏡で観察します。見られた生物をモツゴに与えてみます。
結果
池や川の中には、モツゴより小さな生物がいた。
ミジンコやケンミジンコをメダカに与えると食べた。モツゴ以外の魚についても調べてみたい。
本やインターネットで調べてみると、モツゴ以外の魚も、水中の小さな生物を食べていることが分かったよ。
考察
陸上の生物での関係が、水中の生物にも当てはまるね。
結論
水中の生物も、食う・食われる関係で互いに関わっている。
陸上、水中以外で生きている生物はいない?
土の中にも生物がいる。
新たな問題
土中の生物は、食べ物を通して、どのように関わっているのだろうか?
指導におけるポイント
得られた知識を基に、次の問題を発見したり、新たな視点で自然の事物・現象を捉えようとしたりする。
- 陸上の生物で見られる食う・食われるの関係を基に、水中・土中の生物について「共通性・多様性」の見方を働かせて新たな問題を見いだし、主体的に問題解決を行います。
本年度の六年生は、第五学年「動物の誕生」の「水中の小さな生物」でのメダカの飼育を通して、「魚は、水中の生物を食べ物にして生きていること」について学習しています。そのため、本アイディアでは飼育しやすく都心部の公園や池などにも多く見られるモツゴを取り扱いました。第五学年での学習内容との関連を図ることが大切です。
新学習指導要領では「水中の小さな生物」は第六学年に移行します。移行後は、メダカでの観察・実験が考えられます。
根拠を基に議論して、考えを広げたり深めたりする。
- この場面での対話の目的は、調べた結果を基に考察し、より妥当な考えをつくりだし、結論を導き出すことが大切です。調べた結果を基にした合意形成の話合いになるようにします。
学びを振り返り、様々な知識をつなげて、より科学的な概念を形成する。
- 陸上・水中・土中の生物について「共通性・多様性」の見方を働かせて捉えるようにします。「全体と部分」という見方を働かせることも大切です。陸上、水中、土中の生態系をそれぞれ「部分」、地球の生態系を「全体」といった見方を働かせることによって、相互を関係付けて考えることができるようになり、生物と環境の相互の関わりが見えてくるようになります。
活動アイディア② (二次 7時)
調査官からのワンポイント・アドバイス
国立教育政策研究所教育課程調査官・鳴川哲也
「理科の見方・考え方」を働かせ、深い学びを実現する
新学習指導要領における本単元「生物と環境」には、「(ウ)人は、環境と関わり、工夫して生活していること。」という新しい内容が追加されました。また、これまでは、第五学年「動物の誕生」で扱っていた「水中の小さな生物」が、本単元で触れることとされました。
本単元の内容を学習する際のキーワードの1つに「関わり」が挙げられると思います。生物と水及び空気との関わり、生物同士の関わり、人の生活と環境との関わりを多面的に調べていくことになります。
これらの関わりは複雑です。そこで、重要になってくるのが、「理科の見方・考え方」です。「部分と全体」、「多面的に考えること」などといった見方・考え方を働かせながら学習していくことで、本単元のねらいにせまることができると思われます。活動アイディア①にあるように、「陸上の生物で見られた食う食われるの関係は、水の中でも見られるのか」という問題は、部分と全体といった視点で関わりを捉えようとしているということです。目の前で観察できる「食う・食われる」という部分を、地球全体にまで広げて考えることができるようになれば、より深い学びが期待できますね。
イラスト/山本郁子 横井智美
『小六教育技術』2018年7/8月号より