【基本がわかる!音楽科の授業】高学年 『茶色の小びん』和音に合わせて旋律をつくろう
「子供の気付き」や「自分なりの考え」を最大限共有、共感してつくり上げた音楽づくりの授業を紹介しましょう。
執筆/筑波大学附属小学校教諭・平野次郎
監修/文部科学省教科調査官・志民一成
目次
授業のポイント
今回は、音楽づくりの活動の中で、「旋律づくり」の活動を中心に取り上げていきます。音楽づくりの活動は、「創造性を発揮しながら自分にとって価値のある音や音楽をつくること」が大切であると考えます。同じ表現領域の歌唱や器楽の活動とは異なり、楽譜に示された音や音楽を表現するのではなく、子供がゼロの状態から音や音楽をつくり上げていくことが音楽づくりの醍醐味です。音楽づくりの活動は、平成20年3月告示の学習指導要領から示されており、10年超の時を経て全国的に浸透していることを肌で感じています。しかし、「条件設定」「グループ編成」「思いや意図をもたせるためには」などの課題もあります。また、「音楽がつくれればいい」というような「技能」の資質・能力のみを育てるような授業の姿ではなく、3つの資質・能力ベースで改訂された現行の学習指導要領に即した授業の実現も求められています。
このコーナーでは、実際の活動の様子や板書、子供が記述したノートなどを示しながら、「『茶色の小びん』の和音に合わせて旋律をつくる」活動を、ひとつの題材を通してじっくりと紹介していきます。
なお、ウィズコロナの授業づくりのために、リコーダーを扱う時間を限定しながらの実践となりました。しかし、鑑賞の活動や「和音と低音、旋律との関係を考える」活動を取り入れたり、言語活動の場面を適切に組み込んだりしたことで、短時間でも音楽づくりの実践を行うことができました。
- 音で様々に試せる場面の設定
- 板書で子供の気付きや考えを共有
- 子供の記述を授業に生かす
読者の皆様へ
ウィズコロナの授業づくり--「学校の新しい生活様式」や本校の規定などをもとに、様々な感染症対策を講じた上で行っています。各自治体や学校の状況も異なるのが現状です。その点も踏まえてお読みください。
子供の記述について
誤字などはここでは修正せずに、子供が書き残したままの状態で掲載しています。
第0次 旋律をリコーダーで演奏する
器楽の活動
「題材の流れ」は子供たちに示さずに、第0次(常時活動としての位置付け)として、何気なく『茶色の小びん』を扱っておくことがポイントです。それは、第2次の活動がスムーズに進むようにするためです。くれぐれもこの時点で「この後、旋律づくりの活動をするからね」と伝えることはやめておきましょう。
リコーダーが苦手な子にとっては、短い小節を繰り返し練習する機会があることはプラスになります。ゲームをしているかのように、無言で、でも楽しく活動してみましょう。
第1次 ビッグバンドの演奏を聴く
鑑賞の活動
子供たちが、第0次で『茶色の小びん』を演奏しているときに、「これCMで聴いたことがある」と話していたので、急遽第1次に鑑賞の活動を設定しました。ここでは、1曲を深く丁寧に聴くのではなく、ビッグバンドの演奏のよさや面白さを味わうことをねらいにしていました。しかし、子供から様々な気付きが生まれ それが第3次で行う旋律づくりの手がかりにもつながることになりました。
授業冒頭に子供の気付きを板書で整理していきます。音楽科の場合は、音や音楽を聴いたり、表現したりすることに時間を使いたいので、なるべく子供の言葉を基に、短い言葉で整理していきます。ここで今後の活動のキーワードになる「循環(和音の繰り返し)」「調和」「自由」などが浮かび上がってきました。低音が聴き取りやすい音源を選択したので、「ベースが支えている」という気付きを得ていました。子供の気付きを基にして第2次に向かうことができました。
前時の子供の記述を基に「何が循環しているのか」について考えていきました。「循環」は飽きてしまう側面もありますが、聴いている人が飽きないような演奏の工夫や音楽の構造があることを共有しました。そして、ベースが循環していることを、実際に音を出しながら確認をして本時は終了。
第2次 和音と低音、旋律との関係を考える
〔共通事項〕アとしての活動
まずは、低音(授業ではベースと表記)と旋律との関係を考える活動を行いました。実際にはそれぞれの音を板書で示すだけでなく、バス木琴を使ってベースを奏で、旋律はリコーダーで演奏して、ベースと旋律とが調和していることを感じ取ったり、聴き取ったりする活動を行いました。これは和音と旋律との関係を考えるときにも言えることですが、「それらの音が合っている」ことを確認するだけでなく、あえて「合ってない状態」も試すことが大切です。
C、F、G(ド、ファ、ソ)の音を使って、ベースを奏でます。バス木琴は1音に対してひとり割り当てることができるので、このような活動に最適です。
和音と旋律との関係が「合っている状態」(C-F-G-C)だけではなく、ここでは、「合っていない状態」(F-G-C-F)のような和音の移り変わりも試しています。この楽譜を実際に演奏すると、子供たちから「え~!」「合っていない」「先生、止めて」という声が届くことでしょう。
「第2次の活動はどの分野の活動だろう」と思われる先生もいることでしょう。第2次の活動は、〔共通事項〕アの活動として位置付けています。〔共通事項〕は、表現及び鑑賞の指導と併せて、指導するものです。ここでは第3次の音楽づくりの活動において、子供が思いや意図をもって表現することができるようになることを目指して、第2次に組み込んでいます。
子供の記述
〔共通事項〕
ア 音楽を形づくっている要素を聴き取り、それらの働きが生み出すよさや面白さ、美しさを感じ取りながら、聴き取ったことと感じ取ったこととの関わりについて考えること。(思考力、判断力、表現力等)
第3次 和音に合わせて旋律をつくる
旋律づくり開始(自分に合った方法で)
子供が何もない状態から旋律づくりを行うことは難しいので、こちらから活動の条件を提示することが一般的です。しかし、子供たちは第1、2 次で様々な気付きやそれを基に自分なりの考えがもてるようになっているので、こちらから活動の条件をするのではなく、「旋律づくりの手がかり」と題して、子供たちが何を手がかりにして旋律をつくっていこうとしているのかを共有することから始めました。
子供の記述
前回の板書と比べると「旋律づくりの手がかり」が増えていることに気が付くでしょうか。ここに示されている「何が伝えたいか?」は、第1 次の鑑賞の活動からつながっているように思います。「どのような音楽をつくりたいか」については、こちらから促すこともひとつですが、今回の実践では子供たちからそのような考えを引き出せたことはひとつの成果と言っていいでしょう。
Garage Bandを活用
子供が旋律づくりを行う際は、和音の響きやその移り変わりを感じ取りながら活動することができるように、「GarageBand(iPhone/iPad/Mac用の音楽制作アプリ)」で音源を作成して使用していました。
授業の終わりに子供の気付きや自分なりの考えを共有するのではなく、ノートに書き残したことを基にして、次の時間の冒頭に共有する時間を確保しています。それを基にして、一人一人が旋律づくりの活動に主体的に取り組めるように働きかけていくことが大切です。
旋律づくりの続き
約1か月に渡る授業レポートをお届けしました。短い時間数で多くの教材を扱うよさもありますが、「深い学び」が求められている今、子供の気付きや自分なりの考えを最大限生かしながら、ひとつの題材をじっくりと行うこともカリキュラムづくりの視点から見ても、大切なのではないでしょうか。
構成/浅原孝子
『教育技術 小五小六』2021年10/11月号より