小4道徳「お母さんのせいきゅう書」指導アイデア
使用教材:「お母さんのせいきゅう書」(東京書籍)
執筆/千葉県公立小学校主幹教諭・小泉洋彦
監修/千葉県公立中学校校長・大舘昭彦、文部科学省教科調査官・浅見哲也
目次
授業を展開するにあたり
道徳が教科化された背景にはいじめ問題への対応、指導方法の形骸化、授業の量的確保、質的転換など、さまざまな教育課題が存在しました。
特に、これまでの「道徳の時間」に対しては、登場人物の心情理解のみに終始する、いわゆる「読み物道徳」や、望ましいと分かりきっていることを言わせたり書かせたりする「押し付け道徳」などの批判がありました。
道徳科となった今でも一般的な指導過程として、教師が一方的に学習問題や学習テーマを提示する授業は少なくありません。そのような指導過程すべてを否定するわけではありませんが、「子供たちは一体どのようなことを本気で考えたいと思っているのか」ということに、私自身、強い関心がありました。
そこで、主体的・対話的で深い学びの実現に向けて、前述のような指導過程にひと工夫を加え、子供自らの問いを生かした問題解決的な学習にチャレンジしました。教材を範読したうえで、「みんなと深く考え、話し合いたい」と思うことを「道徳ハテナ」として、授業の一週間前に考えさせます。
そして、それらを集約した「みんなの道徳ハテナ」を授業の導入で提示し、学習問題を学級全体でつくりました。
展開の概略
1 「みんなの道徳ハテナ」を知る
2 教材を読み、話し合う
①「みんなの道徳ハテナ」の中で、クラスみんなで考えたり、話し合ったりしたいと思うものはどれですか。
みんなでつくった学習問題
お母さんが0円のせいきゅう書をわたしたのに、なぜたかしはなみだが出たのか。
②たかしは、なぜお母さんにせいきゅう書を出したのでしょうか。
③なぜお母さんは、たかしへのせいきゅう書を全部0円にしたのでしょうか。
④お母さんのせいきゅう書を読んで、なみだがあふれたときのたかしは、どのような気持ちだったのでしょうか。
⑤ここまでみんなで話し合ってきて、「家族が助け合うため」には、どのようなことが大切だと思いますか。(価値理解の発問)
3 自己を見つめ、自己の生き方を考える
①授業中に学習したことをもとに、家族が助け合うために一番大切だと思うことについて、これまでの自分をふり返ってみましょう。
4 教師の説話を聞く
▼ワークシート(道徳ハテナ発見シート)
「道徳ハテナ発見シート」(自作)については、1週間前の朝読書の時間に教材を範読し、①と②を書かせました。学級全員の道徳ハテナを集約し、①の代表的なものを「みんなの道徳ハテナ」として授業の導入で提示し、学習問題設定の手がかりとしました。
③については、価値理解に焦点化した発問(授業中に学習したことをもとに、家族が助け合うために一番大切だと思うことについて、これまでの自分をふり返ってみましょう)をした後に、じっくり時間を確保して書かせました。
主題名の提示について
1週間前に教材を範読し、道徳ハテナを書かせるのですが、「何を書いてもいいです」と指示すると、授業のねらいを達成することが難しくなる可能性があります。
そこで、本時の場合は「家族の助け合い」という主題名についてもあらかじめ1週間前に提示し、それに関わることで「考えたり、話し合ったりしたいこと」を挙げさせました。
実際の授業展開
タイトル
「お母さんのせいきゅう書」~子供自らの問いを生かした問題解決的な学習~
指導目標
お母さんからの0円のせいきゅう書を受け取り、涙するたかしの心情の変化について考えることを通して、家族からの無償の愛に気付き、家族の一員として、協力し合って家庭をつくっていこうとする態度を養う。
内容項目
C 家族愛、家庭生活の充実
準備するもの
・教材「お母さんのせいきゅう書」
・道徳ハテナ発見シート(児童配付用)
・みんなの道徳ハテナ(拡大掲示用)
指導の概略(板書計画例)
導入
①「みんなの道徳ハテナ」の中で、クラスみんなで考えたり、話し合ったりしたいと思うものはどれですか。
- 主題名「家族の助け合い」を意識させる。
展開
②たかしは、なぜお母さんにせいきゅう書を出したのでしょうか。
- たかしの「お手伝いを頑張っているのに…」という気持ちに着目させる。
③なぜお母さんは、たかしへのせいきゅう書を全部0円にしたのでしょうか。
- 道徳ハテナの中にある「なぜお金をあげるのか」という疑問について考えさせる。
④お母さんのせいきゅう書を読んで、なみだがあふれた時のたかしは、どのような気持ちだったのでしょうか。
- たかしとお母さんの気持ちを比較することで、多面的・多角的に考えさせる。
- たかしが、家族に対する感謝の気持ちや協力することの大切さを忘れていたことに気付かせる。
⑤ここまでみんなで話し合ってきて、「家族が助け合うため」には、どのようなことが大切だと思いますか。
- 価値理解の発問をし、考え、議論する時間を十分に確保する。
ここがアクティブ!授業展開の補足説明
児童たちが自らつくる学習問題
児童自らの問いだけで、授業に深まりが生まれるわけではありません。しかし、教師がそれを軽んじていては、主体的・対話的で深い学びが実現することは難しいと考えます。
「授業は、みんなでつくるもの」という合言葉のもと、日々実践を重ねています。従って、教師が計画している学習問題に児童たちを無理に誘導することはしません。
本時での場合、「みんなの道徳ハテナ」の中でも、特に4番と5番について「考えたい、話し合いたい」という児童たちの思いが詰まっていました。学習問題をつくるための話合いの過程で、ある子供が「4番と5番を合わせてみる。合体させたい」と言いました。
それを聞いた他の児童たちも、「そうしたい!」と発言するようになり、学級全体で話し合ったうえで、学習問題の設定に至りました。まさに、深い学びに向けた、主体的・対話的な学びが生まれた瞬間でした。
ここまでに要した時間は、教材の範読を含めて8分間です。その後の展開・終末の時間を十分に確保することができました。
自己の課題と向き合う問題解決的な学習
価値理解の発問をした後にこそ、考え、議論させるようにします。本時では、「自分から手伝いをする」、「家族に対しての思いやり」、「やってもらったら返す」、「いつもやってもらって当ぜんと思わない」の4点が挙げられました。
それらの中から一番大切だと思うことに焦点化し、これまでの自分をふり返えるよう促します。このことが深い学びにつながると考えます。このように自己理解の時間を確保することで児童たちは自己を見つめ、自己の生き方についての考えを深めることができるでしょう。
この指導過程は、道徳科における問題解決的な学習の一つのあり方ではないかと捉えています。
教科調査官からアドバイス
文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・浅見哲也
道徳科の授業は、教材を理解させるために行っているのではなく、教材を通して児童一人ひとりが生き方を考えていく時間であるからこそ、問題意識をもって授業に臨むことが大切です。
道徳科の授業で扱う問題は、児童にとって身近で切実な問題もあれば、教材の中に描かれている問題を取り上げて考えていくことも少なくありません。
小泉先生は、「みんなの道徳ハテナ」というワークシートを活用し、教材から問題点を見付ける手立てを講じることによって、問題を自分事として受け止められるようにしたり、その問題を客観的に捉え、自分の考えがもてるようにしたりすることを可能にしています。
そして何よりも、教師の一方的なレールに乗せた授業ではなく、児童と共につくり上げる授業を展開されています。このような授業を行うには教師の力量が問われるところですが、是非、先生方にもチャレンジしていただきたい授業です。
『教育技術 小三小四』2020年6月号より