小6図画工作科 「和」の世界に入り込んだら?
今回のテーマは「鑑賞」です。ここでは、浮世絵を鑑賞し、言葉による表出とともに、「『和』の世界に入り込んだ」ところを想像し、写真を使って造形的に表現する活動を取り入れました。日本ならではの「和」の表現の造形的なよさや美しさ、表現の意図や特徴を感じ取ったり考えたりし、主体的に鑑賞することを目指します。
執筆/北海道公立小学校教諭・菊地惟史
監修/文部科学省教科調査官・小林恭代
北海道教育大学教授・花輪大輔
目次
本題材について
図画工作科の鑑賞の学習にあたっては、学習指導要領においても「2内容の取扱いと指導上の配慮事項」で、地域の美術館等の施設を利用することについて示されています。美術館での鑑賞の学習では、たくさんある作品を一人一人が感性や想像力を働かせながら鑑賞することができ、より主体的に作品と関わり、見方や考え方を広げたり深めたりすることができます。
本題材では日本に古くから伝わる我が国の親しみのある美術作品の鑑賞を通して、日本ならではの「和」の形や色などの造形的なよさや美しさ、表現の意図や特徴を感じ取ったり考えたりし、自分の見方や感じ方を深めることを目指しました。それに合わせて、近隣の美術館で行われた「【近美コレクション】浮世絵のヒロインたち 組物・続き絵から生まれるストーリー」展(北海道立近代美術館2024.07.09-09.26)を活用して鑑賞の学習を行いました。
本題材のような鑑賞の学習では、感じ取ったり考えたりしたことを話し合ったり、ワークシートに書いたりするなど、自分の思考を言葉で整理していく言語活動を充実させていくことも大切です。しかし、言葉で考えたことを十分に表出することができない場合も考えられます。また、子供たちが感じるそれぞれにとっての「和」を言葉だけで表現することは難しいと考えました。
そこで本題材では、言葉による表出とともに、「『和』の世界に入り込んだ」ところを想像し、写真に写す活動を取り入れました。浮世絵の作品に合わせて持ち物やポーズをまねすることで、感じた「和」の要素を身体的に表現し、体験的に理解する場面を取り入れることを手だてとしました。
題材の目標
日本に古くから伝わる浮世絵を鑑賞したり、浮世絵の世界に入り込んだ場面を想像したりする活動を通して、日本ならではの「和」の表現の造形的なよさや美しさ、表現の意図や特徴を感じ取ったり考えたりし、主体的に鑑賞する活動に取り組む。
題材の評価規準
●知識・技能
知 浮世絵を鑑賞するときの自分の感覚や行為を通して、動きなどを理解している。
●思考・判断・表現
発 浮世絵の造形的なよさや美しさ、表現の意図や特徴について感じ取ったり考えたりし、自分の見方や感じ方を深めている。
鑑 動きなどを基に自分のイメージをもっている。
●主体的に学習に取り組む態度
主 つくりだす喜びを味わい、主体的に日本に古くから伝わる浮世絵を鑑賞する学習活動に取り組もうとしている。
材料や用具
《子供》ICT端末
《教師》美術展で鑑賞した浮世絵作品の図版データ
※子供が編集できるような形式にしておく(本実践ではGoogleスライドを使用)
題材の計画
指導のポイント
美術館での鑑賞活動では、多くの作品に触れ、親しみ、一人一人が感性や想像力を働かせてお気に入りの作品を見付けたり、それぞれの見方や感じ方で鑑賞したりすることができるよう、鑑賞する作品を絞るなどすることなく、思い思いに見て回ることができるようにしました。その際に、感じ取ったり考えたりしたことを友達と自由に話すことができるよう、事前に美術館の担当者との打ち合わせを行いました。
「和」の世界に入り込んだところを画像にする際には、美術館での鑑賞の際に子供たちが興味をもった作品を10点ほど選び、事前に美術館から図版データを提供してもらいました。それらのデータをスライドアプリの背景に設定し、スライドの画像を子供たちが自由に編集することができるようにしました。
また、今回のスライドアプリでは写真の背景を透過することができませんでしたが、他のアプリの使用が可能な場合は背景を透過してから合成するほうが、より自由に「和」の世界に入り込むことができると考えます。
活動の流れと指導上の留意点
◎美術館での鑑賞活動
美術館でたくさんの浮世絵を鑑賞し、お気に入りの作品を見付け、その作品の造形的なよさや美しさ、表現の意図や特徴を感じ取ったり考えたりする。(45分以上)
展示室の中で、思い思いに浮世絵の鑑賞をします。1点ずつ順番に見ていく子や、気になった作品から見ていく子など、鑑賞の仕方はそれぞれでした。友達と話をしながら、「この色がかっこいいね」「この作品が好きだな」と、作品の造形的なよさや美しさを感じ取ったり、「こんな話をしているんじゃないかな」「題名が○○だから、この人は~~しているのか」と、想像を広げたりしていきました。
美術館には一般の方も来られていますので、美術館との事前の打ち合わせなどで、子供たちが自由に話しながら鑑賞できることを確認しておくとよいと思います。また、鑑賞に夢中になるとついつい作品との距離が近くなりすぎてしまう子も出てくるため、事前の指導や確認が必要です。
◎導入
浮世絵の造形的なよさや美しさ、表現の意図や特徴を話し合い、話し合ったことを基にどのように浮世絵の作品の世界に入るかを考える。(5分)
美術館での鑑賞から、浮世絵のどのようなところから「和」を感じたのかを話し合いました。子供たちからは、
顔の形に関すること…「目が細い」「鼻が長い」「顔が長い」
ポーズに関すること…「首が前に出ている」「足や腰を曲げている」
色に関すること…「肌が白い」「全体的にはっきりした色じゃない」
文化等に関すること…「服の模様が“昔風”」「髪型も昔の独特な形」
といった点が挙げられました。
これらの視点を参考にしつつ、「『和』の世界に入り込んだ自分を写真にしてみよう」と投げかけ、活動に入りました。
このとき、自分が入り込みたい作品を選ぶことができるよう、10点ほど作品画像を用意しました。
◎展開1
自分が選んだ浮世絵に合わせて持ち物やポーズを工夫して写真を撮影する。(20分)
自分が入り込む浮世絵を選んだ子供たちから、2・3人ずつのグループになり、お互いの写真をICT端末で撮影し合いました。
まずは交流で挙がったポーズの特徴を基に、少し膝や腰を曲げて、浮世絵の登場人物に近いポーズを取って撮影をしていきました。「足はもうちょっと外側かな」「もう少し首を曲げて」と、「和」のポーズに近付くためのアドバイスをし合いながら撮影していました。
次第に、浮世絵の登場人物たちが持っている持ち物にも注目し始め、扇子や傘を持って撮影をし始めました。
扇子を持った子供たちは、「口元を隠しているのがなんだか『和』の感じがするよ」などと言って、浮世絵から感じる「和」を自分の体でも表現していました。
このときに、十分に時間を確保することが可能であれば、傘や扇子以外の小道具や、着物の感じを出すことができるように大きな布などを用意することも考えられます。
◎展開2
撮影した写真を浮世絵と合成し、自分が浮世絵の世界に入り込んだところを表す。(10分)
撮影した写真をスライドに取り込み、余計な部分をトリミングして浮世絵の上に重ねていきます。自然に浮世絵の世界に馴染むように配置したり、浮世絵の登場人物と話すように配置したりしていきました。
中には、「思った感じと少し違った」「あっ、いいこと思い付いた」と、写真を撮影し直す子もいました。
傘を持ち、背中越しに顔を向けるポーズはなかなか難しい様子でしたが、この体をひねる感じが、「和」の感じに通じていることを見付けることができました。「なんだか野球のバッティングフォームに似ているかも」と言いながら撮影していました。
ある子供は、着物を押さえながら少しかがむポーズに、「和」の感じを見付けていました。「後ろの2人と一緒に、傘に入れてもらおうとしているところ」と、作品の場面についてのストーリーを想像していました。
◎振り返り
活動を通して感じ取ったり考えたりした浮世絵の造形的なよさや美しさ、表現の意図や特徴について話し合い、自分の見方や感じ方を深める。(10分)
最後に、互いの「和」の世界を見合う活動を設定しました。言葉だけでなく、合成したスライドを用いることによって、互いが感じ取った「和」の感じの違いや、浮世絵から想像したストーリーの違いなどを交流しました。
「実際にポーズをとってみると難しかった。普段とるポーズとは違うところが、浮世絵の面白さになっているんだと感じた」「ポーズをとって浮世絵の中に入ったことで、場面や気持ちを想像することができた」「人の顔のかき方が今と昔では全然違う」「着物の柄がとっても細かくてきれいだった。昔の人はオシャレだったんだと思った」「よく見てみると浮世絵って面白いものだと思った」など、浮世絵の様々な造形的なよさや美しさを味わい、「和」に対する見方や感じ方を深める姿が見られました。
構成/浅原孝子