小6国語科「私と本/星空を届けたい」全時間の板書&指導アイデア
文部科学省教科調査官の監修のもと、令和6年度からの新教材、小6国語科「私と本/星空を届けたい」(光村図書)の全時間の板書例、教師の発問、想定される児童の発言、1人1台端末活用のポイント等を示した授業実践例を紹介します。
監修/文部科学省教科調査官・大塚健太郎
編集委員/山梨大学大学院教授・茅野政徳
執筆/千葉大学教育学部附属小学校・青木大和
目次
1. 単元で身に付けたい資質・能力
本単元では、今まで自分が読んだ経験が少ないテーマの本を読み、より豊かな読書生活を送ることができるようにしていきます。
自分の好みのテーマやこれまで印象に残っている本を振り返り、自分の本との関わりを自覚しながら幅広いテーマの本に関心をもち、自分の考えを広げられるようにしていきます。
2. 単元の評価規準
3. 言語活動とその特徴
(1)言語活動について
本単元では、本を読んでまとめた感想を伝え合うことを言語活動として位置付けました。
自分の紹介したい本の特徴やテーマを基に、自分の経験や考えたことなどと関連付けながら紹介していきます。自分が紹介する本を選んだり、本の特徴や感想を伝え合ったりする活動を通して、自分の好みの本のジャンルやテーマなどを自覚していきます。
また、友達の紹介を聞くことで、他のテーマの良さや読書の役割に気付くことができ、幅広いジャンルの読書への関心が高まったり、自分の好みの本や、本との関わりを自覚できたりする第一歩になると考えました。
教科書では、ブックトークが記載されています。これまでに読んだ本を想起した上で、複数の本を読み、《共生社会》がテーマとなっている3冊の本を紹介しています。
これまでに児童が幅広いジャンルやテーマの本を読めるような学習をしている学級では、教科書が設定した5時間という授業時数でも実現可能でしょう。
しかし、私が実際に授業を行った学級の児童は読書経験が乏しかったため、5時間で「読書経験の想起」→「印象深い本についての話合い」→「テーマに着目した複数の本を読む」→「教材の読み」→「ブックトーク」という流れは、かなり負担が大きいと考えました。
そこで、本実践においては、児童が決めたテーマを基に選書し、本の内容や感想を伝える「本紹介」を行うことにしました。このことにより、限られた時間でも様々なテーマの本と出合うことができ、「次はこれを読んでみようかな。」「そういう捉え方もできるのか。」と読書が自分の考えを広げることに役立つと気付くことができます。
本実践を通して、学校図書館の一角に「テーマごとの本紹介コーナー」を設置し、学級の友達に紹介したことを学校の児童にも伝えていく発展的な活動を用意しました。
(2)教材について
教材文の「星空を届けたい」は、《共生社会》をテーマにした随筆文です。
文学作品や説明文を読んできた児童にとって、あまり馴染み深いテーマの文章ではないかもしれません。一方で、視覚障がい者にもプラネタリウムを体験してほしいという思いから試行錯誤していく過程が綴られた内容となっており、児童にとって共感や関心をもてる作品となっています。
児童にとってなかなか手を伸ばしづらい《共生社会》というテーマでも、内容を読んでみると「あれ、今まで読んだことがないテーマだったけど、共感できることがある」と思えるようになるはずです。様々な本を読んでみようとするきっかけを生み出すのに適した教材といえるでしょう。
4. 指導のアイデア
〈主体的な学び〉 印象に残った本を仲間分けし、テーマを設定する
児童にこれまで印象に残っている本とその理由を尋ねると、多くの場合「お話の展開が面白い」「登場人物が好き」などと物語の内容に関わることを話します。「この本は《自然》をテーマにしているから好き」などと、テーマを意識しながら読書をしている児童は少ないかもしれません。
そこで、新たにテーマを意識した選書ができるように、児童が話した印象に残っている本を仲間分けし、共通点からテーマを設定していきます。このとき、共通点を具体化しすぎるとテーマが細分化してしまい、新しいテーマを読もうとする児童の意識が薄れてしまうおそれがあります。
そこで、教科書で紹介されている本とそのテーマを確認し、適切なテーマ設定について考えるようにしていきます。
実際の授業では、「友情」「平和」「自然(動物・植物)」「国際理解」「スポーツ」「歴史」「職業紹介」「ジェンダー」などのテーマに仲間分けすることができました。
すると児童から、「『友情』のテーマの本を選んでいる人が多いね。」という発言があり、さらに「『平和』や『自然』がテーマの本を選んでいる人は少ないね。」と選んだテーマの人数を比較していました。そこで、「選んだ人数が少ないということは魅力も少ないってことなのかな。」と全体に問いかけました。児童は「自分たちが読んでいないだけで、読んでみたら面白いかもしれない!」などと発言していました。
このように児童が印象に残った本をテーマ別に分類することによって、自分たちの読書経験を振り返り、読んだ経験の少ないテーマを知ることができます。そのことで、今後の読書の見通しをもつことができ、主体的に学習に取り組む姿が期待できるようになります。
一方で、「今まで読んだ経験の少ないテーマの本を読んでみたい!」とはなったものの、どの本がどのテーマなのかわからずに選書をしてしまうと、かえって時間だけがかかるおそれがあります。
実際の授業では、日本十進分類法の学習を振り返り、どの場所にどのような本があるのか見通しをもてるようにしたり、各テーマに合った本を教師があらかじめ選書しておき、別のテーマの本を読むきっかけを与えたりして、児童が見通しをもてるようにしました。
また、テーマを先に決めて選書するパターンと、選書してからテーマを定めるパターンがあることを児童に伝え、児童の選書の視点を明確にしてもよいでしょう。
〈対話的な学び〉 4名程度で本紹介をする
この単元における対話的な学びには、大きく分けて二つの視点があります。
一つ目は「本との対話」です。
本単元では、2・3時間目に「星空を届けたい」について本紹介をし、本の魅力やテーマに迫りつつ、「星空を届けたい」が伝えようとしていることを捉えていきます。
今回の単元の主たる目的は、本紹介を上手にすることではなく、本紹介をしたことで、「幅広く読書をすることが自分の考えを広げていく」ことに児童が気付くことです。
3時間目に本紹介をする際には、自分の考えが更新されているかを整理する時間を設定するとともに、授業後半には改めて「星空を届けたい」を読み返す時間を設けます。
二つ目は、「友達との対話」です。
多様な考えをもった人同士が集まり、それぞれの考えを共有することで、児童は自分の考えを広げることができると考えます。
その際に重要なのは、明確な目的意識です。「星空を届けたい」の本紹介をすることだけが児童の中で目的とされていると、自分の紹介の出番が来るまで緊張し、終わったらひと安心、といったことが起こり、児童が考えを広げることができません。
そこで、3時間目の本紹介では、【自分が気付かなかった「星空を届けたい」の魅力を探ろう】という目的を児童と共有してから本紹介をします。
また、本紹介は4名で行うものとし、本を読んで自分が気付いたことや感じたことを紹介していきます。時間の許す限り、メンバーを変えながら本紹介をして、様々な児童と本紹介ができるようにします。この活動によって、「星空を届けたい」に対する多様な考えに触れることができ、自らの考えを広げることにつながるでしょう。
〈深い学び〉 自分が選んだ本で本紹介をする
5時間目には、相互に自分の紹介したい本を紹介します。
その際、選書の視点として、【自分が読んだ経験の少ないテーマの本】【紹介したいテーマの本】など、広く設定しておくことが望ましいです。
このことで、読書が苦手な児童にとっても選書のハードルが下がることが予想されます。
また、テーマは意識するものの、本のジャンルは、図鑑、伝記、小説、絵本など、制限することなく選べるようにすることが重要です。「それでは交流時に児童の視点が広がりすぎてしまうのでは……」と心配する声が挙がるかもしれませんが、本単元の目標は、児童が幅広いテーマやジャンルの本に興味をもち、考えを広げることです。児童の視点が広がるのは歓迎すべきことなのです。制限をかけてしまっては、児童の選書の視点は広がりません。
また、ここで重要なことは、先述の通り本紹介だけで終えないことです。知識を相互に関連付けるために、本紹介を経て幅広いテーマやジャンルに興味をもった状態で学校図書館に向かいましょう。
これまで《友情》がテーマの小説しか読んでいなかった児童が《自然》がテーマの図鑑に手を伸ばしたり、「星空を届けたい」の学習を通して《共生社会》がテーマの本を読もうとしたりする児童が現れるかもしれません。
興味や関心が、実際に読んでみるという行為につながり、児童の理解がより深くなることが予想されます。その児童の動機や感想を聞き、学級全体で共有したうえで振り返りの場面を設定することで、児童の読書への意識はより高まるのではないかと考えました。
5. 1人1台端末活用の位置付けと指導のポイント
(1)要旨を読み、見通しをもつ
児童が選書する場合、「この本はどんな本なのだろう。」と疑問をもって読むわけですが、選書した後で「自分が思っていたテーマと違う。」などと、本の題名から想定したテーマと違ったことに気付き、多くの時間を使ってしまうことがあります。
そこで、インターネットを活用したり、日本十進分類法などを基にしたりして、選ぼうとしている本がどのような内容の本なのかをあらかじめ調べるようにします。
オンラインショップでは、本の目次が紹介されており、要旨が記載されていることもあります。その情報によって、選んだ本が想定しているテーマと合っているのかを確認できるようにします。
一方で、要旨を読んで児童が【読んだ気になってしまう】ことには十分留意する必要があります。
そこで、要旨を読む際には、《どんなテーマなのか確認する》という目的を丁寧に確認します。
また、本紹介の際には、選んだ本がどんな内容かを説明するだけではなく、【自分は何を感じたのか】を伝えることが大切であることを確認し、選んだ本をしっかりと読むことが重要であることを全体で共有しましょう。
(2)アプリを活用し、選書した本を共有する
本単元の目標は、児童が幅広いジャンルの本に興味をもち、考えを広げることです。
そのため、できるだけたくさんの児童と交流できるようにすることが重要です。
しかし、人数が多い学級では、時間の関係上、全員と満足に交流することができないでしょう。
そこで、Google ClassroomやMicrosoft Teamsなどの共有アプリを活用し、誰が何を選書したのか分かるよう共有しておきます。
とは言え、そのアプリに紹介文まで載せてしまうと、記述に時間を要したり、全員分を読むことに負担がかかったりします。
そのため、投稿する際には本の表紙とテーマのみを投稿するなど、活動を簡単にします。その後、「興味がある本があったら、その友達にどんな本か聞いてみてください。」と声をかけるようにします。
実際の授業では、授業終了後に「○○さんが選んだ本ってどんな本なの?」と聞いたり、学校図書館に行った際に「これは、○○さんが紹介していた本だ! 読んでみようかな。」と本を探したりする姿が見られ、新たな読書の幅を広げようとする児童が多くいました。
6. 単元の展開(5時間扱い)
単元名: 本紹介をして考えを広げよう
【主な学習活動】
・第一次(1時)
① 印象に残った本について話し合い、単元の見通しをもつ。
・第二次(2時、3時)
②「星空を届けたい」を読む。
③「星空を届けたい」についての感想を伝え合う
・第三次(4時、5時)
④ 選書した本を読む〈 端末活用(1)(2)〉
⑤ 自分の紹介したい本について、本紹介の活動をする
全時間の板書例と指導アイデア
● 単元の見通しと教材との出合い
イラスト/横井智美