小6算数「確率」指導アイデア
執筆/埼玉県公立小学校教諭・天野翔太
編集委員/国立教育政策研究所教育課程調査官・笠井健一、浦和大学教授・矢部一夫
目次
本時のねらいと評価規準(本時の位置 4/10)
ねらい
場合の数をもとにして得られる確率を基に、ジャンケンで勝つ確率について説明する。
評価規準
ジャンケンで勝つことの起こりうる程度を、ジャンケンの全部の出方をもとにしたグーで勝つ場合の割合に着目して考察し、説明することができる。(数学的な考え方)

問題場面
ゆうやさんとみあいさんが、2人で1回ジャンケンをします。
ゆうやさんがグーを出して勝つ可能性はどれくらいですか。
「勝つ可能性」ってどういうことでしょう。
だいたい何回に1回くらい勝てるか、ということだと思います。
そうですね。ジャンケンを何回もやった時、そのうち何回グーで勝てるかという割合を表す数で、「確率」とも言います。
ゆうやさんは「勝ち」「引き分け」「負け」のどれかだから、3回に1 回の割合じゃないかな。
では、どのようにしたら、勝つ可能性を求められるでしょう。
実際に何回もやってみて、グーで勝つ回数を数える。
順序よく調べる方法を習ったから、それを使ったらどうかな。
それでは、自分なりの方法で求めてみましょう。
本時の学習のねらい
ジャンケンで、一番勝つ可能性が高い(勝ちやすい)出し方を考えよう。
見通し
まず、「どのようにしたら勝つ可能性を求められるか?」と問うことで、「実際に何回もやってみる」、「(既習事項を基にした)順序よく調べる」という、2つの見通しが立つことが期待されます。前者に関しては「同じ出し方ばかりしてよいか?」と問い、「ジャンケンで、グー、チョキ、パーを偏りなく出すとすること」を押さえます。
その上で、子供自身が立てた見通しによって自力解決させるとともに、「もしもチョキで勝つ場合だったら……」「もしもパーで勝つ場合だったら……」と、考察の範囲を広げて考えさせていくとよいでしょう。
自力解決の様子
A つまずいている子
実際に何回もやってみて、グーで勝つ回数を数えるものの、どのように表してよいか分からない。
B 素朴に解いている子
樹形図を用いて順序よく調べて、全部の出方を1とみた時、グーで勝つ場合がそのどれだけの大きさにあたるかを求める。
C ねらい通りに解いている子
グー、チョキ、パーのそれぞれで勝つ場合の割合を求め、どれも[MATH]\(\frac{1}{9}\)[/MATH]で等しいので、何を出しても勝つ可能性は等しくなることに気付いている。
学び合いの計画
全体で学び合う場では、見通しで立てた2つの考え方を比較検討していきます。まず、グーで勝つ可能性を確認します。その際に、Aのような子供がいることも予想されます。その気持ちに共感させた上で、小集団で実際に何度も試させます。「試した全部の回数のうちのグーで勝った回数を割合で表す」「だいたいの勝つ可能性が分かる」という意見が引き出されるとともに、「何回も試すのが大変だ」と言う子供の素朴な思いが表出することが期待できます。
ここで、「順序よく樹形図で調べて、出した全部の出方9通りを1とみて、グーで勝つ場合の1通りがどれだけの大きさにあたるか」という考え方を取り上げ、2つを比較します。チョキで勝つ場合とパーで勝つ場合でも考えさせ、それぞれのよさを見いださせていきます。
ノート例

全体発表とそれぞれの考えの関連付け
グー、チョキ、パーの勝ちやすさを比べると、どうなりましたか。
グーもチョキもパーも勝ちやすさは[MATH]\(\frac{1}{9}\)[/MATH]になるはずで、どれも等しくなりました。
どの場合も割合が等しくなるはずなので、何を出しても勝つ可能性は等しくなります。
それを、どのようにして考えましたか。
実際にたくさん試して、割合で表しました。だいたいの勝つ可能性が分かりました。
全部の出方を順序よく調べて、割合で表しました。実感は湧かないけれど、勝つ可能性がはっきりしました。
問題解決の結果や過程を振り返らせる中で、「ある出し方でジャンケンに勝つという事柄の起こりやすさを割合で表したこと」を強調するとともに、「多数回試行だと傾向が捉えやすいこと」「理論上はどの場合も割合が等しくなるので、何を出しても勝つ可能性が等しくなること」を確認しましょう。
そのために、子供の呟きや素朴な問いを吹き出しで書き残したり、考え方を色チョーク等で強調したりと板書の工夫をすることが大切です。
学習のねらいに正対した学習のまとめ
どの場合も割合が等しくなるはずなので、何を出しても勝つ可能性は等しくなる。
なお、【評価問題】に関しては、例えば2人が引き分けになる可能性について説明する、問題の場面を変えて、くじの当たりやすさを説明するなどが考えられます。
中学校数学との接続
新『学習指導要領解説 数学編』では、中学校第一学年から確率が学習内容として位置付けられています。第一学年では、多数回試行による確率、第二学年では、場合の数をもとにして得られる確率、と分けて学習することになります。授業の終末に中学校数学との関連を伝えることで、学習への見通しと意欲を持たせるとよいでしょう。
感想例
グーは勝ちにくいと思っていたけれど、何を出しても勝つ可能性は等しくなるはずだと分かって驚きました。中学校数学の学習が楽しみになりました。
ワンポイント・アドバイス
浦和大学教授・矢部一夫
本単元でのこの事例は、小学校で学習したことを振り返るとともに、中学校での学習との接続をねらった内容となっています。
本事例の「確率」は、小学校の内容「全体を1とみた時のある事象の割合」や「起こりうる場合を落ちや重なりなく数える」の活用として扱っています。これは、中学校での「多数回試行の確率」や「場合の数をもとにした確率」の内容につながるものです。
小学校算数が中学校数学にスムーズに接続し、数理的に処理することの楽しさが味わえ、中学校に対する期待が持てる「算数のまとめ」の授業展開を大いに期待しています。
イラスト/横井智美
『小六教育技術』2019年2/3月号より