小一道徳授業ルポ「あなたなら、 どうする?」善悪の判断を育む
道徳の研究に力を入れている小学校へ文部科学省の浅見哲也教科調査官にご同行いただき、その授業実践をご紹介するルポ。今回は東京都台東区立蔵前小学校です。
目次
教材
教材名: 「あなたなら、どうする? 」(学校図書)
主題: よく かんがえよう 〈 A善悪の判断、 自律、 自由と責任 〉
導入
本時のねらい
運動会のリレーで転んだきつねくんに対して、 パンダくんが怒ってしまう場合と、 慰める場合の二つの言葉がけを考えることを通して、 よいと思ったことは進んで行おうとする心情を育てる。
1 道徳科の授業の学び方を確認する
「じぶん」の考えをもち、「ともだち」の考えを聞いて「くらべ」、感じたり、考えたりしたことを「はつげん」することをみんなで確認する。
展開
2 教材「あなたなら、どうする?」を視聴して話し合う
アニメーションとBGMを用いて教材提示をすることで、登場人物の気持ちや様子を感じながら、想像をふくらませ、子供たちが教材への関心を高められるようにする。
発問
きつねくんが転んだとき、紅組のみんなはどんな気持ちになったでしょうか。
早く立ち上がって。
勝ってね。
がんばって(立ってね)。
中心発問
パンダくんは、転んだきつねくんになんと言うでしょうか。
パンダくんがきつねくんを怒って責める場面とパンダくんがきつねくんを慰める場面の場面絵を提示し、役割演技をさせる。疑似体験を通し、パンダくんの気持ちを考えやすくする。
一年生のうちは道徳科の学び方を確認してから授業に入ることにしています。本時では主題の「 善悪の判断 」の価値がブレないように、発問や補助発問を精査しました。さらに、全員に笑うと怒るという両方の気持ちを考える工夫をしました。怒ったパンダくんの気持ちを考えることで、パンダくんのいろいろな気持ちが分かったと思います。
浅見先生の花まるポイント
中心発問で、怒っているパンダくんと慰めているパンダくんの絵を見せながら両方の気持ちを考えたところです。誰しももっている相手を非難するような感情を確認し、慰めているパンダくんの言葉を考えた後に「自分だったらなんて言いますか?」と子供たちに発問しているので、子供たちは、怒っているパンダくん、慰めているパンダくんのどちらが自分の心に近いのかを感じながら、自分をしっかりと見つめることができました。
3 自己を見つめる
自己を見つめるときに、まだ自分の考えを文字で書けない子が多いことから、教師が日常生活の中から、「友達が水筒の水をこぼした場面」「うまく話せなくなった場面」などの具体例を提示し、どのような声かけをしたいかを考えられるようにする。
ハンドサインで自分の気持ちを伝える
グー → 前の人の発言と同じ
チョキ → 付け足し
パー → 違う意見がある
発問
失敗したお友達に、どんな言葉をかけてあげたいですか?
子供たちの発言
だいじょうぶだよ。
思い出したら言ってね。
終末
4 教師の説話を聞く
学級の子供のエピソードを話し、よいことを進んで行おうとする考えが高まるようにする。
子供たちのふりかえり
友達がまちがえたときは、にこにこパンダくんが言っていた言葉を言ってあげたい。
みんなが仲よく、にこにこになれるといいな。
文部科学省教科調査官 浅見哲也先生からのアドバイス
「自分でふさわしいと思う言葉を選ぶ」ことで「善悪の判断」に焦点を当てる
授業のはじめに道徳科の学び方を確認することはとても大切なことで、1年間通して行うことはその後の学年でも大いに役立ちます。この授業で道徳的心情を育てるために手がかりとしている道徳的価値は「善悪の判断」です。教材の内容からして相手への「思いやり」が関わってきますが、中田先生は、授業のねらいを意図して「自分でふさわしいと思う言葉を選ぶ」ということを強調していました。こうすることで「善悪の判断」に焦点を当てて考えることができていました。
取材・文・構成/浅原孝子 撮影/北村瑞斗
『教育技術 小一小二』 2021年8/9月号より