小2道徳「おれたものさし」指導アイデア
執筆/千葉県公立小学校教諭・関根咲妃
監修/千葉県公立中学校校長・大舘昭彦、文部科学省教科調査官・浅見哲也
目次
授業を展開するにあたり
使用教材:「おれたものさし」(東京書籍)
これから世界に羽ばたいていく子供たちが、目まぐるしく変化する社会に対応していくためには、義務教育下の発達の段階のなかでしっかりとした自分の考えをもち、それを基にしながら、他者の意見も取り入れ、さまざまな課題を乗り越えていかなければいけないと考え、日々の教育活動に取り組んでいます。
道徳科の授業は他教科と違い、成績のよしあしや得手不得手に関係なく、自分の意見を自由に発言したり、他者の意見を聞いたりできる時間です。そのため、少しでも子供たちが自分なりの道徳的価値について知り、考え議論し、深めることができるような授業づくりに取り組んできました。
二年生の子供たちは、正しい行動をしたときはたくさんほめ、いけない行動をしたときは注意することが必要です。それは、言われたことをしっかり守ろうとする特性がある発達の段階だからです。
しかし、子供は、いけない行動をしている友達に対して注意しようと思っても、本人を目の前にすると心に葛藤が生じてしまい、必ずしも全員が注意できるわけではないという実態があります。
そこで、今回の授業では、「注意する」=「勇気を出して注意すること」だけが正しいことではなく、いけないことは注意しなければいけないと思う(判断する力)気持ちを育みたいと思い、授業づくりに取り組みました。
本稿では、『新しいどうとく2』(東京書籍)の「おれたものさし」の授業実践について紹介します。
①今日の課題について知る
これまでの経験を想起することで価値へ方向付けをする。
②教材を読み、話し合う
- のぼるがひろしのせいにしているときに「ぼく」はどんなことを思ったのでしょう。
- なぜ、「ぼく」は胸がどきっとしたのでしょう。
- みんなが「ぼく」だったらどうしますか。
- なぜ「ぼく」はものさしを渡せたのでしょうか。(価値理解の発問)
③自己を見つめ、自己の生き方を考える
- 「ぼく」にどんな言葉をかけてあげたいですか。
④教師の説話を聞く
勇気を出して注意することはよいことだが、必ずしも、注意することだけが正しいことではなく、注意しなければいけないと思う(判断する)ことも大切であることを知らせる。
▼アンケート
▼イラスト
▼ワークシート
実際の授業展開
教材名
おれたものさし ~思考の可視化による「考え、議論する道徳」の実現~
ねらい
「ぼく」の葛藤する気持ちについて考えることを通して、正しいと思ったことは勇気をもって行動に移していこうとする判断力を育てる。
内容項目
A 善悪の判断、自律、自由と責任
準備するもの
・教材「おれたものさし」
・ワークシート(児童配付用)
・イラスト(拡大掲示用)
ワークシートやイラストのPDFはこちらよりダウンロードできます
指導の概略(板書計画例)
導入
①「友達が悪いことをしていたら、みんなはどうしますか?」
- 経験を想起し、教材への興味をもたせることで、価値への方向付けをする。
展開1
②のぼるがひろしのせいにしているときに「ぼく」はどんなことを思ったのでしょう。
- 人間関係を板書に整理することで状況を理解しやすくする。
展開2
③なぜ、「ぼく」は、ものさしをわたせたのだろうか。
- 葛藤しながらも、正しいと思ったことを行動に移せた「ぼく」にはどんな気持ちがあったのかを考えさせる。
展開3
④みんなが「ぼく」だったら、どうしますか。
- 「注意できる」気持ちと「注意できない」気持ちの、双方の気持ちを多面的・多角的に考えられるようにする。
- 「注意できる(赤)」 、「できない(白)」 の赤白帽子をかぶり意思表示をすることで、友達と自分の考えを比較しやすくする。
展開4
⑤「ぼく」にどんな言葉をかけてあげたいですか。
- 正しいことを判断できた「ぼく」に伝える具体的な言葉を考えることで、自己についての生き方を考える時間を十分に確保する。
ここがアクティブ! 授業展開の補足説明
横を向く授業
小学校低学年の授業においては、自分の考えを伝えることに終始しがちで、議論する場においては、友達の考えと子供自らの考えを比較しながら考えることが難しいことが多々あります。しかし、教師がそれを軽んじていては、主体的・対話的で深い学びが実現することは難しいと考えます。
「授業は、みんなでつくるもの」という合言葉のもと、日々実践を重ねています。本時での場合、自分の考えを伝えたり、友達の考えを取り入れたりするために、赤白帽子をかぶることで、誰が見てもどの立場かがはっきり分かる工夫をしました。
「自分だったら注意するか」「注意しないか」と赤白帽子で表現することで、誰が同じ意見か、違う意見かを意識しながら友達の発表を聞いている姿が見られました。
ともすると自分の考えをワークシートにひたすら書き続けるような「下ばかりを向いている授業」になりがちですが、赤白帽子をかぶることで、友達の様子を見ながら自分の考えに取り入れる「横を向く(友達と意見の交換を進める)授業」が広がっていました。
自己の生き方を見つめる
価値理解の発問をした後にこそ、考え、議論させるようにします。本時では、「『ぼく』にどんな言葉をかけてあげたいですか」と「ぼく」に自我関与をしたままで価値理解の発問をすることで、より一層深く考えることができました。
それらの中から一番大切だと思うことに焦点化し、これまでの自分をふり返るよう促します。このことが深い学びにつながると考えます。
このように自己理解の時間を確保することで、子供たちは自己を見つめ、自己の生き方についての考えを深めることができるでしょう。この指導過程は、道徳科における自我関与の一つのあり方ではないかと捉えています。
授業をするうえでの注意点 ・ ポイント解説
教材理解の短縮
教材を一度で理解するために、登場人物とあらすじの紹介をしてから範読をしました。また、範読にはCDを活用することで、範読中の子供の様子を確認し、その様子から指名計画を立てたり、場面図を板書に整理したりして、時間の短縮をしました。
それによって、範読後すぐに発問をすることができ、考える時間の確保につながりました。
教科調査官からアドバイス
文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・浅見哲也
道徳科の目標は道徳性を養うことであり、学校教育で行う道徳教育では、その道徳性を、道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度という様相で捉えています。これらの様相は互いに関わり合っており、単独で切り離すことは難しいのですが、それぞれに意味があり、いずれかに焦点を当てて授業をすることはとても大切なことです。
関根先生は、指導する内容項目に対して子供の実態をしっかり把握し、ねらいとする道徳的価値について、どのような課題があるのかを明らかにして授業を構想しています。今回はそれが「勇気」であり「道徳的判断力」となったわけです。
このように指導に明確な意図があると、発問や指導方法などにも生かされてきます。身近な体育帽子を使ったり、自分だったらどうするかを問うことで、子供たちは教材の世界に自分を置き、自分の心の弱さと強さを確かめながら真剣に考えたことでしょう。日常では一瞬の判断をじっくり考えられるのが道徳科の授業のよさとも言えます。
イラスト/どいまき
『教育技術 小一小二』2020年9月号より