小1道徳「あいさつ」指導アイデア
執筆/鹿児島県公立小学校教諭・京田憲子
監修/鹿児島県公立小学校校長・橋口俊一、文部科学省教科調査官・浅見哲也
目次
授業を展開するにあたり
使用教材:「あいさつ」(日本文教出版)
中央発問で色や塗り方を指定しない
入学したての一年生のなかには、文字を読んだり書いたりすることが難しい子供がいます。そのため、これまでは、表情絵や心のお天気カード等を使って、中心発問における自分の感じ方や考え方を表現できるようにしていました。
また、感じ方や考え方を色で表現することがありました。例えば、ワークシートにあるハートを塗る際、「ピンクや水色」と色を指定したり、「右から塗る」等塗り方も指定したりしていました。しかし、もっと多様な感じ方や考え方を表現する方法があるのではないかと思いました。
子供の遊びを見てみると、お絵かきや塗り絵でいろいろな色を使っています。人間は、無意識のうちに、心を色で表現することがあると言われます。そのため、お絵かきや塗り絵などの遊びのなかで行っている色使いには、子供たちの非言語的なメッセージが含まれていると考えられます。
子供たちは、大人に比べて感情を色で表現する豊かさをもっていると考えられます。そこで、中心発問において自分の感じ方や考え方を色で表現する際、色や塗り方を指定しない方法を実践してみました。
また、子供たちは、学校だけではなく家庭や地域社会での日常生活においてもさまざまな体験を積み重ねながら、日々、道徳性の素地を育んでいます。しかし、一年生の子供たちは、自分の体験を振り返ることが少ないため、家庭や地域社会での体験を道徳科の学習内容と結び付けて考えることが難しいのです。
そこで、今までの自分を振り返る際、書く分量を調整できるワークシートを作成したり、板書を生かしたりすることにしました。
展開の概略
1 朝起きてから、寝るまでにしている挨拶を想起する。
2 めあてを立てる。
3 挿絵を見て、どのような場面でどのような挨拶をしているか考える。
4 挨拶をするとどのような気持ちになるか、考える。
①挨拶をしない役割演技をする。
②挨拶をする役割演技をする。
5 挨拶をすることの意義について考える。
6 挨拶ができた体験やそのときの気持ちをふり返る。
7 挨拶のよさを実感する手紙を聞く。
ワークシートを使って授業する上での注意点
▼中心発問におけるワークシート
▼今までの自分をふり返る際のワークシート
実際の授業展開
主題名
あいさつはいいきもち
教材名
あいさつ
ねらい
挨拶場面の役割演技を通して挨拶の大切さに気付き、進んで気持ちのいい挨拶をしようとする心情を育てる。
内容項目
B 礼儀
指導の概略(板書計画例)
導入1
①朝起きてから、寝るまでに、どんな挨拶をしているでしょう。
- 挨拶には、いろいろな言葉があることに気付かせる。
導入2
②挨拶は、大切ですか。挨拶は、なぜ大切なのでしょう。
- 挨拶は大切だと思いながらも挨拶の意義が分からずにしている実態から、めあてを立てる。
展開1
③どのような場面でしょう。また、どのような挨拶をしているでしょう。
- 挿絵を一つずつ掲示し、場面と挨拶を押さえる。また、その都度全員で声に出して挨拶をする。
展開2
④挨拶をすると、どのような気持ちになるでしょう。
- 挨拶をしない役割演技と挨拶をする役割演技を行うことで、挨拶をしたときの気持ちをより実感できるようにする。
展開3
⑤挨拶は、なぜ大切なのでしょう。
- 中心発問で考えた感じ方や考え方を基に、挨拶の意義について深める。
ここがアクティブ! 授業展開の補足説明
「挨拶をすると、どのような気持ちになるでしょう」と発問をしても、挨拶をしたときの気持ちを思い出せない子供もいます。そのため、挿絵の一つの場面に絞り、役割演技を行います。
また、挨拶をしたときの気持ちをより実感できるようにするため、挨拶をした場合としない場合を比較して考えさせます。まず、挨拶をしない役割演技を行います。子供たちには、「挨拶をしないで、教室を歩いてください」と指示するだけです。
子供たちは、1分間教室を歩きますが、ほとんどの子供が、下を向いたり、黙ったりしています。その後、挨拶をしないとどのような気持ちになったか発表させます。次に、挨拶をする役割演技を行います。
子供たちには、「『おはよう』と挨拶をしながら、教室を歩いてください」と指示します。子供たちはすぐに笑顔になり、元気よく「おはよう」と言いながら、歩きます。
その後、挨拶をするとどのような気持ちになったかワークシートに書き、発表させます。最後に、挨拶をしたときの気持ちは、した人だけではなく、された人も感じていることを押さえることで、挨拶の意義について深めることができます。
授業をするうえでの注意点 ・ ポイント解説
中心発問における感じ方や考え方を色で表現する場合、子供たちにただの色塗りではないということを伝える必要があります。例えば、普段の塗り絵では、色を塗った理由を聞かれることはありません。
でも、道徳科における色塗りは、その色を塗った背景にある感じ方や考え方が大切になってきます。色塗りは、感じ方や考え方を表出させる手立ての一つなのです。そのため、子供たちに、色を塗った理由を考えさせながら活動させることが重要です。
さらに、子供たちが色で表した後の教師の読み取り方が重要になってきます。暖色を暖かく感じたり、暗い色を重く感じたりする感覚的な色彩心理は、子供から大人まで共通の心理です。
しかし、色の好き嫌いや喜怒哀楽に関わる色彩心理は、体験によって変化していくと考えられます。つまり、二人の子供が「うれしい」と感じていても、同じ色を塗るとは限りません。
反対に、同じ色だからといって、同じ感じ方や考え方だとは言えません。教師はそこを念頭に置きながら、「どうして、その色を塗ったの」と、色を塗った背景の考え方を発問で拾い出し、さらに全体で深めていく必要があります。
教科調査官からアドバイス
文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・浅見哲也
道徳科の授業では、子供の学習状況を見取って評価することが求められています。多くは、子供が自己の生き方についての考えを深めるために、書く活動を取り入れ、その記録を資料として、継続的に見取って評価をすることが行われています。
しかし、小学校一年生の子供は、最初は文字を書いたりすることも困難です。だからこそ、子供の気持ちや考えをどのように見取るのかを工夫することはとても大切なことになります。
京田先生は、一人ひとりの思いを大切にしているからこそ、色で表現できるようにして、その理由を聞き取ったり、文字で書ける子供には書く欄を設けたりするなど、ワークシートを工夫されています。
また、役割演技を取り入れることも大変効果的で、子供が表現しやすい指導方法の一つです。こうした教師の配慮が、一人ひとりの子供が主体的に学ぶことができる授業をつくり出していると言えるでしょう。
イラスト/どいまき(ワークシート)
『教育技術 小一小二』2020年4/5月号より