小4道徳「けんかの原則」指導アイデア
執筆/山形県公立小学校校長・佐藤幸司
目次
けんかは必要だ しかし…
仲のよいクラスをつくりたい—。
これは、新年度、教師も子供たちも、ともに抱く共通した思いです。
けれども、けんかがまったくないクラスなどありえません。四年生ともなれば自分の考えをはっきりともつようになり、その結果、友達との意見の食い違いも出てきます。暴力やいじめと認められるような行為は論外ですが、子供たちが成長していく過程では、けんかは必要悪と言えます。
しかし、必要なことであっても、そこにはルールが存在します。すなわち、けんかのルールです。他人を殴ったり蹴ったりするのは、けんかではありません。暴力です。すぐにカッとなって暴力をふるうのは「個性」ではなく、ただの「野性」です。問題行動があれば、教師は、その場で毅然とした態度で指導しなければなりません。
けれども、問題が起きてから指導するのは、道徳授業ではありません(生徒指導上の問題です)。困った問題が起きないように事前に指導するのが、道徳授業の役目の一つです。
4月にこの教材を使って、けんかにもルールがあることを考えさせましょう。
解決のしかたを学ぶ
けんかの教育的な意義は、けんかをした者どうしが仲直りすることにあります。他人との感情的なトラブルは、大人になってからもあります。将来直面するであろう困難に対して、その心構え(それは、シミュレーション的な学習とも言えるのですが)を育てることも、道徳授業にできることの一つです。
本人どうしで仲直りができればそれに越したことはないのですが、互いに興奮してしまうとなかなかそれはできません。
そこで重要になるのが、周りの子の対応です。言葉でのけんかが、それだけでおさまらずに暴力をふるってのけんかになってしまったら、それはすぐにでもなんとかしなければなりません。
けんかにルールがあるのと同じく、「仲直りのしかた」「謝り方」にもルールがあります。その方法を具体的な行為として、「どう行動すべきか」考えさせます。実践化へと結びつく即効性が期待できる授業内容になっています。
教材(ワークシート)
実際の授業展開
タイトル
けんかのルール
指導目標
「けんかのルール」を理解し、感情を言葉で表現したり、友達どうしのけんかを適切な方法で止めたりする判断力と実践意欲を育てる。
内容項目
A 善悪の判断
準備する物
・教材(ワークシート)
・けんかや仲直りをテーマにした絵本(終末の読み聞かせ用)
指導の概略(板書計画例)
ここがアクティブ! 授業展開の補足説明
「けんか」は、漢字で「喧嘩」と書きます。「てへん」でも「あしへん」でもなく、「くちへん」なのです。授業では、まず漢字の組み立てに注目させて、けんかは口でやるものだ(暴力は許されない)ということを確認します。けんかの原則について、「喧嘩」という漢字に興味をもたせて、じっくりと考えさせてみましょう。「自分が伝えたいことは、口で言う」「暴力は、学校生活でも、社会においても許されない」
こうした基本的な考えを道徳授業だけではなく、日頃から子供たちに話しておきます。 けれども、どんなクラスでもけんかは起こります。口げんかから始まって、暴力的な行為に及ぶことも考えられます。そんなときに、どう解決すべきなのかを学ぶことも大切です。
この授業では、発問⑤(周りの人は、どうしたらよいのか)で、その方法を具体的に考えさせます。そして、子供たちから出された考えを、教師が3つの視点でまとめます。もし、ほかに大切な視点が出されたら、子供たちの考えを優先して、柔軟に対応してください。
発問が明記されたワークシートも併用します。これは、発問を明確にするためのユニバーサルデザインの授業を意識した教材づくりです。
授業をするうえでの注意点・ポイント解説
今回は、三年生「言葉で伝えよう」と同じく、年度はじめの学級づくりに直結する内容の授業を紹介しました。道徳科では、その成果をすぐに求めることはしません。しかしながら、内容によっては即効性が期待できるものもあります(教師は、学習したことはすぐに実践化へと結びつけてほしいという願いをもっているものです)。
それまで、すぐ手(パンチ)や足(キック)を出していた子が、この授業の後、自分の言葉で気持ちを表現できるようになったら(そう努力していたら)、その成長を認め、ほめてください。逆に、相変わらずの行為があったら「道徳で何を勉強したの!」と責めるのではなく、「あれ? 道徳で勉強したよね」と諭してください。
授業と日常(実践)をつなぎ合わせるのも、教師の大切な指導です。言葉で自分の感情をうまく表せない子供が増えています。だからこそ、道徳授業と日常の生徒指導とを結び付けた指導が必要であり、効果的なのです。
教科調査官からアドバイス
文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官・浅見哲也
「なんでも話せる雰囲気づくり」
道徳が特別の教科となって2年目を迎え、授業ではどのような変化が見られるでしょうか。「対話的な学び」や「多面的・多角的に考える」という言葉が注目され、授業ではペアやグループなどの話合いの場を設定することが多くなってきたように思います。道徳科では、これまで以上に物事を一面的に捉えるのではなく、さまざまな視点から物事を理解するために、互いに考えを伝え合う主体的な学びが求められているのは確かなことです。だからと言って、ペアやグループの場を設定すれば子供たちが話せるようになるかと言えば、そんなたやすいものではありません。大切なのは4月から始まった道徳科の授業で、誰にでも話せる雰囲気づくりをしていくことです。
授業の導入で簡単な発問をし、隣の子と伝え合わさせたり、身近な発問をして座席の一列全員に発表させたりするなどを意図的に行っていくと、だんだん雰囲気が和らいでいきます。また、友達の考えをしっかり聞くという指導も不可欠です。自分とは違う考えを否定せずに受け止める。教師も子供の発言を目を反らさずに聞く。道徳科の授業は発言がすべてではありませんが、一人の発言を、頷いたり「なるほど」とつぶやいたりしながら聞いてくれる教師や友達がいれば、自ずと子供たちは発言するようになります。そんな雰囲気づくりを心がけて、年度当初の道徳科の授業を行ってみてください。
イラスト/うえだ未知
『教育技術 小三小四』2019年4月号より